<吉祥寺残日録>日本初の月面着陸に“成功”した「SLIM」が見据える未来!愚かな人類は「宇宙大航海時代」に協力できるのか? #240202

昨日は2月1日、ミャンマーで軍によるクーデターが起きてから3年が経った。

国軍と少数民族の軍隊との戦闘が各地で続き、出口の見えない混乱が今も続く。

そんな中、収監中のスーチー氏からの手紙がイギリス在住の次男の元に届いたというニュースを見た。

スーチー氏からの手紙はクーデター後初めてで、苦戦が伝えられる国軍が国際世論を意識して少し態度を軟化させている兆候かもしれない。

手紙の中でスーチー氏は、「元気だ」と書いてはいるそうだが自身が今どういう状況に置かれているのか、詳細については一切触れられていないという。

ウクライナでの戦争も今月で丸2年を迎えるが、状況は引き続き芳しくない。

ウクライナ海軍は1日、クリミア半島西部でロシア黒海艦隊のミサイル艇イワノベツを撃沈したと発表したものの、全体としてはロシア軍の優勢が伝えられ、ロシアが近々さらに大規模な軍事作戦を準備しているとも報じられている。

最大の支援国であるアメリカからの軍事支援が野党共和党の反対でストップしていることがウクライナにとっては打撃だ。

今秋予定される大統領選でトランプ氏が勝利することになれば、ウクライナは厳しい決断を迫られることになるかもしれない。

そんな中、ハンガリーの反対でウクライナ支援が滞っていたEUは、1日に臨時首脳会議を開き、500億ドル(約8兆円)のウクライナ支援を決定した。

3月にはロシアで大統領選挙が行われプーチン大統領の5選が確実視されているが、果たしてロシアに何らかの変化が見られるのか、今年は重要な一年になりそうである。

一方、イスラエルによる軍事作戦が進行中のガザでは、人質の解放と引き換えに一定期間の戦闘休止が実現するかが注目されている。

ハマスはすでにアメリカとイスラエル、カタールなどが取りまとめた案を受け取っていて、現在執行部が検討しているという。

ただ戦闘休止の期間は6週間で、ハマスの壊滅を目指すイスラエルは完全な停戦に応じるつもりはない。

アメリカのバイデン大統領が、ヨルダン川西岸のユダヤ人入植者がパレスチナ人を不当に弾圧しているとして制裁対象とするとしたが、ガザで大量殺戮を続けるイスラエルに批判的な世論がアメリカ国内の一部に広がっていることの表れだろう。

本来なら仲介役を果たすべき国連も、ガザで人道支援に当たっていた国連職員がハマスの攻撃に手を貸したという疑惑が浮上して、アメリカや日本などが拠出金を凍結、問題をさらに複雑化させている。

ガザの人々に平和が戻ることは当分期待できないだろう。

こうした中、また新たな紛争のタネが生まれたようだ。

場所は「アフリカの角」と呼ばれるソマリア。

対岸では、ハマスとの連帯を訴えるイエメンのフーシ派が、紅海を航行する船舶への攻撃を続け緊張が高まっている海域だ。

アデン湾に面したソマリア北部では、1991年に「ソマリランド」が一方的に独立を宣言してソマリア政府と対立している。

ソマリランドは国際社会から承認されていないグレーな「国」なのだが、今年1月1日に、ソマリランドのビヒ大統領と隣国エチオピアのアビー首相が覚書を交わしたことで、ソマリアが激しく反発しているというのだ。

その覚書の内容は明らかになっていないものの、ソマリランドのベルベラ港を50年間エチオピア海軍にリースする代わりに、エチオピアがソマリランドを国家として承認するというものらしい。

アフリカの大国であるエチオピアは沿岸部のエリトリアが独立して以来、海を持たない内陸国となっており、港へのアクセスはどうしても欲しいものだという。

こうしてソマリランドを舞台に新たな戦争が起きれば、アデン湾はますます航行が難しくなり、スエズ運河に頼ってきたヨーロッパ経済には大きな打撃となるだろう。

人間の世界というのは、どうしてこんなにも対立と紛争が絶えないのか?

そんな地上の醜い争いを一瞬忘れさせてくれたのが、JAXAの探査機「SLIM」による日本初の月面着陸である。

去年5月には民間初の月面着陸に挑んだ日本のベンチャー企業「ispace」が惜しくも着陸に失敗。

日本の技術力に疑問符が付いていただけに今回のミッションには期待して、着陸予定の20日午前0時ごろからYouTubeのライブ配信を見守っていた。

当然、「SLIM」から送られてくる映像で着陸の瞬間が見られるのだろうと思っていたが、YouTubeで流れるのはこんな映像で、右側のグラフのような予定の軌道を着陸船がゆっくりと降りているのが見られるだけだった。

予算の掛け方が他国とは違う。

この時、ものすごくそれを感じた。

「SLIM」の予算を調べてみると、開発予算は年間数十億円、総額でも180億円となっていた。

アメリカのアルテミス計画は推定13兆円、中国の宇宙関連予算は非公開だが2006年段階ですでに120億元(約2500億円)とされていて、いずれにしても桁が違うのだ。

着陸したと見られる時刻になってもJAXAからははっきりとした発表がなく、待ちきれなくて寝てしまったのだが、後日「SLIM」が逆立ちして着陸している写真が公開された。

どうしてこんなことになってしまったのか?

朝日新聞が運営する「withnews」というサイトにわかりやすい例えが出ていたので引用させてもらう。

これまでに地球以外の天体に着陸した探査機はいくつもありますが、金星や火星、土星の衛星タイタンにはいずれも大気があり、パラシュートを使ってゆっくり降りることができました。 また、大気がない天体でも、小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」が着陸したイトカワやリュウグウのような重力がほとんどない小惑星なら、なにもしなくても探査機はゆーーーっくり降下することができます。 ところが、月は地球の6分の1、火星の半分という結構な重力があります。 2023年4月に上空5kmで燃料が尽きてしまった日本の民間月探査計画「HAKUTO―R」の探査機は、月面に時速360kmで激突したことがわかっています。 大気がないのに重力が大きい天体では、エンジンを細かく正確に制御して重力に逆らいながら降下しないといけません。しかも、着陸するほんの20分前まで、探査機は月の周りを高速で飛んでいます。 SLIMがしようとした着陸は、言うなれば「札幌上空をマッハ6で通過した直後にフルブレーキをかけ、地上を撮影しながら自分の位置を確かめつつ、自動で兵庫県の甲子園球場に降り立つ」ぐらいの離れ業。 大成功と言えるピンポイント着陸でした。

その後の調査で明らかになった状況を、前述の比喩で説明すると、SLIMは甲子園の上空まで正確に飛んできていました。 SLIMはここで、目標にしていたマウンド付近が思ったより平らでないことに気づきます。 そこで、着陸目標をずらし、センターの守備位置付近に降りることにしました。 二つあるメインエンジンを噴きながらゆっくり降下しつつ、補助エンジンで機体をずらしていきます。そして、上空50mまで降りてきた時でした。 なんということでしょう。メインエンジンの一つがすっぽ抜けてしまったのです。 SLIMが撮影していた画像には、落下していくエンジンノズルがまんまと写っていました。 片側のエンジンは出力が半減し、SLIMはバランスを崩してしまいます。 おっとっとっと。 なんとか補助エンジンで姿勢を保とうとしますが、たぶん、着陸したときに変な手の付き方になっちゃったんでしょうね。頭から前のめりにごろんとひっくり返ってしまいました。とはいえ、センターの守備位置から数mの場所に着陸することはできました。 そんな着陸だったので、坂井真一郎プロジェクトマネージャが25日の会見で「飛行機がエンジンを一つ失った状態でなんとか着陸したようなもの。ピンポイント着陸は100点満点。機長のSLIM君には審査員特別賞をあげたい」と語ったのは本心だったと思います。

引用:withnews

なんと、大事な場面でメインエンジンの一つがすっぽ抜けるアクシデントが起きたというのだ。

それでも、目標としていたピンポイント着陸には成功し、日本は旧ソ連、アメリカ、中国、インドに次ぐ世界5番目の月面着陸に成功した国になったのだ。

逆立ちしたことにより太陽光パネルが太陽の方向を向かず、時々しか観測はできないらしく、再びSLIMは休眠状態に入ってしまったらしい。

それでも、太陽光がパネルに当たるようになれば、備え付けのカメラで撮影した月面の写真を地球に送り届けることができる。

今回SLIMが撮影した写真に映る岩石には、「プードル」や「あきたいぬ」など犬の名前が付けられた。

アメリカや中国に比べると、あっというようなオペレーションではないけれど、限られた予算と人員で頑張る日本の研究者たちの姿には頭が下がる思いであり、今後手負いのSLIMを使ってどのような成果が得られるのか、期待しながら見守りたいと思う。

人類の月探査の歴史をまとめた年表が日本経済新聞に出ていたので拝借した。

米ソ冷戦時代に国威発揚を目的と軍事技術の開発を目的に多額の予算が投入し、アポロ計画によってアメリカが有人の月面着陸に成功してからはや半世紀が経った。

しかし冷戦が終わると宇宙開発に投じる予算は目に見えて減る。

所詮、宇宙開発は軍事予算と一体だったのだ。

ところが今世紀に入り「宇宙強国」を目指す中国が着実に実力を伸ばし、アメリカもうかうかしていられなくなった。

2013年に嫦娥3号が月面着陸に成功したのに続き、2019年には嫦娥4号が人類初となる月の裏側への着陸にも成功した。

そして去年、水や資源の存在が注目されている月の南極に、インドが無人機を着陸させたのである。

各国がこれまでに着陸に成功したポイントを示した地図を見つけた。

それによると、アメリカが探査した地点は地球から見える月の表側だけ、より技術的に難しい月の裏側や氷が存在すると考えられている南極部分にはまだ足を踏み入れていないのだ。

そして、日本の「SLIMは?」とその着陸地点を見てみると、なんと表側のど真ん中、技術的には比較的簡単な場所だったことがわかった。

とはいえ、他国がまだ試みたことのないピンポイント着陸に成功した意味はおおきく、今後アメリカのアルテミス計画に日本が参加する上で、必要な資材を目的地に正確に送り届けるためには必要とされる技術だと思う。

月をめぐる先陣争いは、冷戦時代とは全く異なるフェーズに入っている。

それはまるで大航海時代のように、新しい土地を見つけ資源を手に入れる競争なのだ。

NHKの番組「フロンティア」で先日、米中の月をめぐる争いについて特集していたが、中国が嫦娥5号で持ち帰った月の岩石からアポロ時代とは異なる月の歴史が見えてきたという。

そして月の表面にはレアアースの「ランタン」や白金の存在が確認されていて、チタンやアルミニウムも存在する可能性がある。

さらに月面で見つかった100種類ほどの鉱物のうち6種類は地球には存在しないもので、新たな資源が発見される可能性もあるという。

NASAが探査を予定している小惑星「プシケ」は、直径200キロだが、全体が極めて純度の高い鉄とニッケルでできていて、仮に小惑星全体を利用することができれば、資源価値は1000京ドル、アメリカのGDPの10万年分に相当するという途方もないものなのだ。

月はこの小惑星の17倍も大きい。

新大陸の発見がヨーロッパに莫大な利益をもたらしたように、宇宙から得られる利益は現在の常識では計り得ない途方もない規模となると予想されている。

まさに今、「宇宙大航海時代」が始まろうとしているのだ。

そのためにも今、何よりも重要とされているのが、人間の命を支える水の確保である。

アメリカは年内にも、インドが着陸した月の南極での探査を計画していて、中国も次の嫦娥6号で月の南極に着陸し水の分布調査を計画している。

月の水をめぐる激しい戦いはすでに始まっているのだ。

この番組の中で私が特に興味深かったのは、中国の嫦娥計画にフランスがパートナーとして深くコミットしていることだった。

フランスの「天体物理学・惑星学研究所」で開発されたラドンを検知する装置が搭載される。

ラドンを手がかりに月の表面での水蒸気の循環を調べるのが目的だ。

嫦娥6号にはフランスだけでなく欧州宇宙機関(ESA)が開発した機器も搭載されるという。

中国は続く嫦娥7号、8号で月の南極に研究施設を建てる計画を持っていて、ヨーロッパの研究者にとっても中国との協力にはメリットがあるというわけだ。

月で人が暮らすための技術開発も進められている。

フランスが開発中の「バイオポッド」は月の宇宙ステーションの中に作られる環境制御型のドームで、水を節約しながらさまざまな気候条件を再現できどんなタイプの植物でも栽培できる設備だという。

そして植物は宇宙ステーション内で人間が出す二酸化炭素を吸収して成長し、代わりに酸素を作り出すという完全循環型の居住システムなのだ。

中国は火星探査でもアメリカを猛追していて、フランスは両天秤をかける形で独自の立ち位置を確保したいと考えているのだろう。

数年のうちには再び人類が月に立つ日がやってくるだろう。

しかしアメリカや中国といえども、月面開発にかかる巨額の費用を単独で賄うことは難しい。

アルテミス計画には現在29カ国が参加し、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」はヨーロッパが主体となって開発が進められている。

米中が手を取り合って共に宇宙を目指す日が来るのか?

それとも宇宙を巡る覇権争いが激化するのか?

したたかに両天秤をかけるヨーロッパに対し、日本はどのように立ち位置を作っていくのだろう?

地球上の問題解決のために、各国が協力して宇宙に乗り出していく未来。

そんな夢のような時代が訪れればいいのだが、人間の本性がそれを果たして許すのか、今の国際情勢を見ていると絶望的な気分になってくる。

未来の人類が賢く進化することを願うしかないだろう。

月の裏側

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