<吉祥寺残日録>トイレの歳時記🌾七十二候「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」、井の頭公園にもヒグラシが鳴く #210812

「銀行の用事があるから付き合って」と妻に言われ、朝9時に街に出た。

この時間だとほとんどのお店が開店する前なので、人出もまばらである。

銀行の用事とは、西武信金の口座からお金を下ろし、郵貯と三菱の口座に預け替えをするというもの。

要するに私は用心棒を頼まれたのだ。

今日からしばらくは日本列島に前線が停滞し、梅雨末期のような天気が続くという。

今年もお盆の帰省を含めて外出を極力控えるよう呼びかけられているので、全国的に天気が悪いことで少しは人出が減ることも期待される。

デルタ株の猛威は猛威は依然とどまるところを知らず、在宅の患者がとんでもない数に上り、その結果として重症者の数もとうとう過去最高レベルに達した。

以前のような65歳以上の高齢者ではなく、40代、50代の働き盛りが重症化していて、120以上の病院から入院を断られたというケースも報道されている。

しかし、その大半は飲食など感染リスクの高い行動をしていた人たちのようで、どんなに政府や専門家が注意を呼びかけても、聞く耳を持たない人たちは一定数いるのが現実だ。

結局のところ、自分の身は自分で守るしかないというのがこの1年半の間に得た教訓ということであろう。

さて、今日から暦の上では「立秋」の次侯「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」、文字通り「ヒグラシが鳴き始める頃」という意味である。

「ヒグラシ」というセミの名はよく聞くものの、実際に私は「ヒグラシ」を見たことがなかった。

視界には入っていたかもしれないが、実際に「これがヒグラシだ」という風に認識したことがなかったのだ。

それは子供の頃の体験が影響しているかもしれない。

私が遊んでいた岡山では、セミといえば「ニイニイゼミ」が大半で、それに「アブラゼミ」や「ツクツクボウシ」が混じり、まれに「クマゼミ」を見つけると嬉しくなった。

しかし、「ヒグラシ」などというセミは子供の遊びの対象とはなったことがなく、そのあたりに生息していたのかどうかすら定かではない。

ところが、である。

7月の末、私が井の頭公園の御殿山にある雑木林を歩いていると、しきりに虫の音のような声が聞こえた。

すでに蝉時雨も盛んになっていて、果たしてこの音は虫なのかセミなのかと考えながら歩いていると、ヒノキの林から一際大きな鳴き声が聞こえてきた。

私は立ち止まり、その音の発生源を探し出そうと耳を最大限に研ぎ澄ませてヒノキの幹を舐めるように見つめた。

「見つけた!」

地面からわずか1メートルほどのところに、1匹のセミが止まっているではないか。

あの虫のような鳴き声の主は間違いなくコイツである。

私はスマホを取り出して静かに写真を撮る。

セミは逃げなかった。

もう少しゆっくりと接近し、もう1枚撮影する。

ところどころ緑色を帯びた透明感の強いセミだった。

私が子供の頃に遊んでいたセミではない。

その瞬間、「ヒグラシ」という名前が脳裏をよぎる。

家に戻るとすぐに「ヒグラシ」を検索してみると、紛れもなくそのセミが「ヒグラシ」であることがわかった。

知らなかったことを知ることは、どんなことでも楽しい経験である。

妻に話したところで共感してもらえないことは明らかなので、私は一人でほくそ笑むだけで満足した。

ちなみに、七十二候の「寒蝉鳴(ひぐらしなく)」の頃に「ヒグラシ」が鳴き始めるわけではないらしい。

俳句では秋の季語とされ、晩夏に鳴くセミのイメージがあるが、実際には(地域にもよるが)成虫は梅雨の最中の6月下旬頃から7月にかけて発生し、ニイニイゼミと同じく、他のセミより早く鳴き始める。以後は9月中旬頃までほぼ連日鳴き声を聞くことができる。鳴く時間帯は、基本的に朝夕である。

出典:ウィキペディア

ネット上には、癒しの自然音として「ヒグラシ」の鳴き声を動画でアップしている人もいる。

昔の人は、その音色を「カナカナカナ」と聞き取り、「カナカナ蝉」とも呼ばれた。

耳障りな他のセミたちとは一味違う「ヒグラシ」のものうげな鳴き声。

風流な日本人の好みに合ったのも理解できる気がした。

「ヒグラシ」についてネットの記事を見ていると、時事ドットコムに「神のごときヒグラシ」という文章を見つけた。

 日本で最も捕獲困難と言われる、セミ界のスーパースター。明け方、夕方の涼しい時間帯にしか姿を現さないことから、「幻のセミ」「神のセミ」とも呼ばれる。体長は4センチほどで、シャープな形態。「カナ、カナ、カナ」と鳴く。
 飛行能力に優れており、元気のいいオスは地上30メートルより下には降りてこないとされている。さらに、ひとしきり鳴き終えると、すぐに別の木へ移動する「ヒット&アウェイ」作戦をとるため、人間の手で捕まえるのは非常に難しい。時々、弱って地上付近に降りてきた個体を捕まえることはできるが、それは真のヒグラシとは呼べない。「捕まえるよりも、死骸(しがい)を拾うことの方が多い」とはベテランの昆虫ファン。この言葉からも、ヒグラシの神秘性をうかがい知ることができる。

引用:時事ドットコム

なるほど・・・「ヒグラシ」は捕獲困難なセミなのだ。

ということは、私が偶然見つけた「ヒグラシ」はもうかなり弱っていて命が果てる間際だったのだろう。

私は明日、伯母の介護のために再び岡山へ飛ぶ。

なんとか伯母を説得して、17日には専門病院に入院してもらう手筈になっているのだ。

何事にも人の手を借りることを嫌がる伯母を入院させることは、「ミッション・インポシブル」とも思えるが、もはや一人で食事を調達することができない伯母には他の選択肢はない。

伯母の説得は私に課された最重要のミッションであるが、誠心誠意、粘り強く説得してみる以外に私には策が思い当たらないのだ。

先行きを予感させるように、西日本にも連日大雨が降る予報が出されている。

今日8月12日は、御巣鷹山での日航機事故の命日でもある。

若かりし日に私自身が取材した忘れえぬ現場を思い返しながら、私の旅の安全と「ミッション・インポシブル」の達成を祈願したいと思う。

コロナが落ち着いたら、一度御巣鷹山にも登ってみたいものだ。

<吉祥寺残日録>カマラ・ハリスはバイデンを大統領にできるか? #200812

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