<吉祥寺残日録>帰省前夜に突然、アリの大群が部屋の中に現れた #210813

今日は13日の金曜日。

朝から雨が降っている。

認知症が進行した伯母に入院を説得するため、私は再び岡山に帰省した。

13日の金曜日だけあって、日本列島は広い範囲で大雨となっていて、私が乗る予定の岡山行きの全日空機も条件付きの運航となってしまった。

『岡山空港に着陸出来ない場合は東京/羽田空港に引き返すか大阪/伊丹空港に向かう可能性もございます。あらかじめご了承ください』

雨雲レーダーを確認すると、フライトの時間、強い雨雲が中国地方にかかっている。

予報が正確ならば山陰の方が激しくて岡山は大丈夫ではないかと思えたが、前線の位置が少しずれると引き返すという可能性もマジでありそうなお天気だった。

今回の規制の目的は、とにかく人に世話されることが大嫌いな伯母が全く望まない入院を説得するという、考えただけで憂鬱になるようなミッションである。

私がもし伯母の立場でも、同じように「放っておいてくれ」と言うだろうと思うのに、伯母のことは放っておかないのだから根本的に矛盾そのものの行動なのだ。

そんなモヤモヤした心の中が具現化したのか、昨夜思わぬ事態が発生した。

太平洋戦争の復員兵を描いた巨匠ウィリアム・ワイラー監督の名作「我等の生涯の最良の年」の録画を見終わって、ふと私のデスクの上に目をやると、何やらうごめくものを発見した。

何だ?

しばらく何が起きているのかまったく理解できなかった。

起き上がってデスクの表面に目を凝らすと、小さなアリの大群がデスクいっぱいに這いまわっているではないか。

うわー、なんじゃこれ!

たじろぎながら視線をダイニングテーブルに移すと、こちらにもアリたちが群がっていた。

私は慌ててすでに眠りについていた妻を起こし、「大変だ!アリが部屋中にいる」と告げた。

そこからが大騒ぎ、妻がガーデニング用に買っていたアリ退治のスプレーを部屋中に散布して、ティッシュでアリの死骸をつまみ取る。

時間はもう夜中の12時になろうとしていた。

アリという生き物は、蟻酸を出しながら仲間たちにエサがある場所までのルートを教え誘導すると昔聞いたことがある。

しかし、エサになりそうな蜂蜜や氷砂糖は無事だった。

こいつら一体何を目当てに、どこからやって来たんだろう?

床に置かれた物を一つ一つどけながら、アリたちの行列の元を探す。

アリたちの列はどうやらベランダの方から伸びているようだが、そうやってこんなマンションの上階まで上がってきて、しかもなぜそれが今だったのか、真の原因はまったく分からなかった。

でもとにかく、二人で力を合わせてなんとか部屋の中にいたアリは駆除することができた。

それを確認して私はすぐに寝てしまったが、心配性の妻は結局一晩中アリの夢にうなされほとんど眠れなかったと言う。

フライトは、羽田を飛び立って岡山に到着するまで、ずっと雲しか見えなかった。

予報の通り、東日本から西はすっぽり雨雲に覆われている。

それでも、無事に飛行機は岡山空港に降り立った。

空港でレンタカーを借りると、その足で岡山市内で一人暮らしをしている実母のマンションを訪ねた。

今日13日はお盆の初日、いわゆる「迎え盆」に当たり、母も盆提灯を取り出して仏壇の脇に飾っていた。

私の父が死んだ14年前から、母は13日に父の墓参りをすることを習慣としている。

だから、伯母の家に行く前にまず、母をピックアップしたのである。

途中、お花やお供え、さらには伯母と一緒に食べるお寿司などを買い込み、家に着いた時には伯母はやはり眠っていた。

伯母を起こさないように静かに家に上がり、食糧を冷蔵庫に入れる。

1週間前、私が東京に戻る際に買い置きしていた食料は伯母がほとんど食べ尽くしたようだ。

自分の食べ物を入手することができなくなっている伯母だが、ヘルパーに頼ろうとはしないので、1週間以上の一人暮らしは無理と判断せざるを得ない。

噛み合わない会話をしながら、母と伯母と私で昼食をとり、3時ごろ母をマンションまで送り届けた。

今日のところは入院の話はしない。

明日どのように切り出すか、いくら考えてもいいアイデアが浮かばない。

<吉祥寺残日録>岡山帰省4日目、伯母を車に乗せて海辺の故郷に連れて行った #210707

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