今年の立春は例年より1日早い2月3日。
旧暦ではこの日を一応「春」の始まりとし、新しい一年が始まるそうだ。

とはいえ、今朝の気温は1度台。
まだまだ寒いが遠く都心の方向を眺めると、東京タワーがぼんやりと霞んで見えた。
このあたり少しずつ春の湿度が訪れているということなのだろうか?
七十二候も今日から一年の新しいスタートとなり、立春の初候は「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」と呼ばれる。

我が家のカレンダーには「とうふうこおりをとく」とルビがふられ、「春風に氷が解け始める頃」という意味が添えられていた。
「東風解凍」にはいろんな読み方があるらしく、ウィキペディアには「こちこおりをとく」、他にも「とうふうかいとう」と読んでいる例もあるようだが、一般的なのはやはり「はるかぜこおりをとく」という読み方のようだ。
意味はそのまま「東風が厚い氷を解かし始める頃」ということなので、井の頭公園をブラブラしながら私も春を探すことにした。

井の頭池の北のはずれにある藤棚のベンチ。
珍しく今日は誰も座っていない。
ベンチに座ってぼんやりするには、朝はまだ少し寒いが昼ごろになれば、日差しが暖かくて気持ちの良い場所になり、いつも誰かがまどろんでいる。

太陽が水面に反射して、2つに見える。
緊急事態宣言の1ヶ月延長も決まり、昼間も不要不急の外出を控えるよう改めて呼びかけがあったので、多少公園を歩く人の数も少ないのかもしれない。

ガマだろうか?
穂から飛び出した綿毛が、逆光で白く光っている。

すっかり枯れてしまったガマの周囲で水鳥が餌を探している。
全身黒づくめの姿は「バン」の仲間だろうか?
気のせいか水も少し温かそうに見え、何とものどかな午前の時間だ。

池の端の吹き溜りのような場所には、真っ白な鳥。
「コサギ」だ。
何の警戒心もなく、私の足元で必死で餌を探す。

樹木の名前を覚えたいと、名札を探しながら公園内を歩いているうちに、散髪屋の予約時間になった。
床屋に行くのも2ヶ月ぶり。
外出自粛をしていても髪の毛は伸びてくるので、客足はあまり変わらないとのことだった。

30分ほどで散髪を済ませ、家で昼ごはんを食べてから再び公園に出かけた。
樹木の名前を探して歩いていると、チェーンソーの音が聞こえ、音のする方へ歩いていくと作業する人たちの姿があった。
3人1組になって、高いケヤキの木の先端部分を切っているらしい。

見上げると、作業員の人が一人ケヤキの幹にしがみつき、チェーンソーで太い枝を切っている。
間違って切った丸太が落ちないよう、ロープを隣の木に絡め、下からも別の作業員が別のロープを引っ張って固定しながら慎重に切っていく。
不安定な足場で大変な作業だ。

太い枝の周囲をぐるりと切り終わると、作業員は手の力でわずかにつながっている部分を無理やり押し倒す。

すると、切った枝はロープに誘導されて静かに地面に下ろされた。
見事なチームワーク。
多少チェーンソーを使ったことがある私から見ると、憧れてしまう仕事っぷりである。

今日は、冬でも緑を保つ常緑針葉樹を中心に見て回った。
そろそろ花粉の季節を迎える。
花粉症では、スギとヒノキの違いは知っていても、どれがスギで、どれがヒノキなのか、お恥ずかしながら今日初めて見分けることができるようになった。

この季節、今にも大量の花粉を放出しようとしているのがスギ。

丸い茶色の球果をつけているのがヒノキだ。
どちらもまっすぐ天に伸びるような背の高い樹木だが、よく見ると葉っぱの形も樹皮の様子もまったく違う。
こんなことを知ることができただけでも、コロナの自宅待機も有意義な時間だと思える。

夜、妻がいなり寿司を作った。
なぜかといえば、私が朝、トイレの歳時記カレンダーに「初午」の文字を見つけたからだ。
「初午」は「はつうま」と読み、2月最初の「うまの日」を意味し、稲荷神のお祭りが行われる日だという。
「お稲荷様」というのは子供の頃から知っている名前だし、全国各地に稲荷神社があるのも知っているが、「稲荷神」の何たるかを気にかけたこともなかった。

「稲荷神」は稲作を象徴する神様だそうで、キツネは稲を食い荒らすネズミを捕食して豊作をもたらす益獣として崇められたという。
もとを辿ると、大陸からの渡来民・秦氏や賀茂氏が稲荷信仰を日本に持ち込んだとされる。
秦氏は、現在の京都周辺を開拓した有力な一族で、関東では久我山周辺を拠点として井の頭池から用水を引くなど東京西部の開発にも貢献したそうだ。
幡ヶ谷とか八幡山という地名も、実は秦氏に由来するというから面白い。

調べれば調べるほど、世の中知らないことだらけ。
秦氏が、原野だった武蔵野に進出した時代のことをあれこれ想像すると、いつもの井の頭公園も違って見えてくるのだ。
トイレにぶら下げた歳時記カレンダーは知識の宝庫、いろんなことを私に教えてくれる。
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