🇯🇵 岡山県/英田郡西粟倉村 2024年5月11日
左官工事で家を空けるために始めた無計画なドライブ旅。
最初の夜は兵庫県の赤穂温泉に泊まることを決めていたが、その後の予定は風まかせ、いや天気任せで決めていった。
旅行を始めた今月10日は最高の天気だったので瀬戸内海がめちゃくちゃ綺麗だったが、その後天気は下り坂、12日には終日雨が降る予報である。
本当はこのまま瀬戸内海を旅したかったのだが、雨だとちょっと冴えないと思い、山陰の温泉に旅行先を変更した。
12日の夜、以前から行きたかった鳥取県の三朝温泉に泊まることを決め、地図を睨みながらドライブルートを検討する。

田舎の農家民宿やちょっとユニークなゲストハウスなど、いろんなオプションを比較検討する中で、最終的に選んだのは鳥取県の県庁所在地・鳥取市のビジネスホテルだった。
中学の旅行で鳥取砂丘には行った気がするが、それとてほとんど消えてしまった記憶でしかない。
お隣の県だというのに、鳥取は私にとって未知の県なのである。
そして、田舎の面白そうな宿に比べて地方都市にあるビジネスホテルの方が総じて安いことも鳥取市を理由だった。

ということで、いざ鳥取へ。
しかも高速道路はなるべく使わずに一般道でのんびり北上するルートを選んだ。
道は千種川に沿ってうねりながら伸びている。
信号はほとんどなく、土曜日だというのにそれほど混んではいなかった。
前日に比べると雲が出てきたが、それでもまだ晴れのうちに入るであろうお天気で、新緑の山々も美しい。
なんだか、田舎のドライブって気持ちがいい。

カーナビの案内通りに走っていると、途中から「鳥取自動車道」に誘導されてしまう。
おいおい。
と思ったが、兵庫県の佐用町から岡山県を通過して鳥取市まで60キロあまりの高速道路は全線無料で通行できるらしい。
「新直轄方式」と呼ばれ、民間の高速道路事業者に代わって国と自治体が費用を負担して作った高速道路なのである。
交通量が少なくビジネスとして成立しないけれど道路を整備したいという場合にこうしたやり方が採られるのだそうだ。
そんな鳥取自動車道だが、川沿いをうねうね走る一般道と違い、山をトンネルでぶち抜いているため片側一車線といえどもかなりの時間短縮となる。
そのまま鳥取まで行ってしまっても良かったのだが、私は途中、岡山県の西粟倉ICで降りることにした。

宿探しの過程で、人口わずか1400人ほどの小さな村、岡山県のはずれに位置する西粟倉村が“奇跡の村”と呼ばれていることを知り、興味を持ったからだ。
インターチェンジを降りてすぐの場所にある道の駅「あわくらんど」に立ち寄ると、「上質な田舎へ」「百年の森林構想」というどこか都会的なセンスを感じさせるポスターが目に止まった。
そう、「上質な田舎へ」というのがこの村のコンセプトであり、そのベースとなっている取り組みが「百年の森林構想」なのである。
村の面積の93%を山林が占める西粟倉村。
2008年、先人が子や孫のために植えた人工林を守り有効利用することを目的にして村をあげてこのプロジェクトに乗り出した。

具体的には、役場が森林所有者から森林を預かり、森林の間伐、作業道整備を行い、10年間を一区切りとして長期に管理していく。
さらに、森の再生を通じた地域経済の活性化を目的として、地域の資源を「価値」に変えていく企業を設立、木材の加工、流通を事業として展開し、「林業の6次産業化」を目指したのだ。
小さな村の取り組みなので、ほとんど全国的には知られることもなく、私も今回初めて知ったのだが、SDGsが注目される昨今、こうしたコンセプトに共感してこのど田舎の村に移住する人も出てきて、いつの間にか西粟倉村は“奇跡の村”と呼ばれるようになった。
たとえば、三井不動産とネットメディア「NewsPicks」が共同で運営するサイトにも『人口1400人の奇跡の村、なぜ西粟倉村は“田舎の最先端”を目指し続けるのか』という記事が掲載されている。
岡山県の北東部、中国山脈の谷あいにある人口約1400人の西粟倉村。この小さな山里の村が“奇跡の村”として行政・企業の関係者から注目を集めている。
村の面積の93%が山林であるこの地の人口の約15%は移住者が占める。そして、これまでに50社を超えるスタートアップが誕生しているという。
多くの地域で過疎化が問題視されているなかで、この2つの数字だけを見ても西粟倉村が異質であることが伝わるだろう。
引用:ポットラック ヤエス

こうした村の取り組みは徐々に広まり、ヒノキのプロダクトで海外からも高い評価を得た「ようび」の家具職人・大島正幸氏のように、県外から参画する事業者も現れた。
2015年、西粟倉村で起業する人材を発掘・育成する支援プログラム「西粟倉ローカルベンチャースクール」を開始すると、初年度で18件の応募があり、5年間で50社以上のベンチャー企業がこのど田舎の村に誕生したのだ。
これこそが西粟倉村が”奇跡の村”と呼ばれる由縁であり、今も移住してきた若者たちが、都会から遠く離れたこの村を拠点に全国に通用する商品の開発を続けているのだ。

道の駅にも西粟倉村で生まれた新商品が並べられていた。
「森を食べるプロジェクト」
ヒノキを使ったかりんとうやお酒が売られていたが、全くどんな商品なのか見当もつかない。
全国区の大きなビジネスになるにはまだハードルがありそうに私には見えたが、それでも都会では得られない何かを求めて若者たちがこの山奥に集まってくる現象はやはり面白い。

西粟倉村を少し車で走ってみる。
中国山地から流れ出る清流が村を貫き、山に囲まれた狭い平地に田んぼが作られていた。
日本中にあるチェーン店やコンビニも全く目につかない。
限りなく日本の原風景がそのまま冷凍保存されたような山村である。
開発至上主義だった昭和の時代には見向きもされなかったようなこの村に若者たちが注目するようになったのは、ある意味、日本人が進化した証拠だと思いたい。

実は、私が西粟倉村に立ち寄ったのにはもう一つ理由がある。
この村にある日帰り入浴施設「湯〜とぴあ 黄金泉」で温泉休憩することである。
赤穂から鳥取まではおよそ110キロあまり、一気に走れる距離ではあるが、ゆっくりと休みながら行くのもシニアらしくていい。
そうした思いから立ち寄り先を探していたところ、西粟倉村に温泉があることを知ったのだ。

山間にある素朴な温泉施設で、もともとは村営の公社が運営していた温泉らしい。
入湯料は800円。
塩谷川の清流に面した露天風呂のほか、サウナや薬湯など7つのお風呂が楽しめる。
私は主に露天風呂で時間を費やしたが、なぜかタヌキの置物がいくつも置かれていた。
どうやら昔タヌキが傷を癒しにくるのを見かけた狩人がこの温泉を発見したとか。

ちなみにこちらは、かわいらしいタヌキに抱かれて浸かる水風呂だ。
なんとなく間の抜けた田舎の温泉ではあるが、鳥取の名湯・三朝温泉にも劣らぬ日本有数のラジウム温泉なんだとか。
この温泉目当てに西粟倉村に来て、“奇跡の村”について知るのも悪くない。
毎月、岡山に来ていても、訪れたことのない場所は無限にある。
知らない土地を訪れると、何かしら新たな発見があるものだ。
そんなことを、この小さな村が改めて思い出させてくれた西粟倉村の立ち寄り温泉旅であった。
「湯~とぴあ黄金泉」
住所:岡山県英田郡西粟倉村影石2072−6
電話:0868-79-2334
https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_11843.html