<きちたび>岡山県の旅🇯🇵 帰省で泊まる宿② 宿場町の風情を味わう「矢掛屋 INN&SUITES」

🇯🇵 岡山県/矢掛町 2020年11月5日

「GO TO トラベル」を利用すると、往復の航空券に1泊の宿をセットで予約した方がお得になる。

そこで今回の帰省では、岡山市を離れてこれまで一度も行ったことのない矢掛町という町に宿を取った。

矢掛町は「倉敷の奥座敷」とも呼ばれ、江戸時代には旧山陽道に面した宿場町として栄えた。

今も、当時の本陣が2つも残り、街道に沿って古い町屋が軒を連ねるちょっと面白い町なのだ。

倉敷のように観光化されておらず、今も昔ながらの生活が残る。

それでいて、倉敷の美観地区のように白壁の家がたくさん残っていて、特別な見所があるわけではないが、カメラ片手に散策するだけでも楽しい。

街道沿いは間口が狭く、奥に長い町屋造りの家々。

その間に、狭い石畳の路地が走っている。

そんな矢掛町に私が宿を予約したのは、写真の魅力に惹かれたからだ。

今回、私が泊まった「矢掛屋 INN&SUITES」は、矢掛町の街道沿いに何軒かの宿泊施設を運営している。

電話番号を頼りに「矢掛屋 本館」にたどり着くと、私が予約した部屋は別棟の「あかつきの蔵」でチェックインをするように言われた。

昔ながらの町屋をベースにモダンに改装された室内は、矢掛町の物産を展示販売するスペースになっているようだ。

こちらでチェックインをすませると、スタッフがわざわざ私の部屋まで案内してくれた。

実はもともとネットで予約していたのは、こちらの「蔵INN」というシングルユースの宿舎だった。

ところが、この日は団体さんがここに宿泊するのでうるさいだろうからと言って、広めの部屋に替えてくれるという。

「せっかくなので予約していたシングルの部屋も見てみますか?」と問われ、「ぜひ」と答えると・・・

案内されたのは文字通り古い蔵を全面リフォームした建物。

階段を上がると、真新しい廊下に沿ってシングルルームが並んでいる。

部屋はコンパクトだが落ち着いた雰囲気、各部屋にトイレとシャワーが付いている。

リニューアルしたばかりなのでまだ新しく、泊まるだけなら何の支障もない。

そして次に案内されたのが、路地を隔てて「蔵INN」の隣にある「蔵INN KAMON」という板塀に囲まれた立派な建物だった。

石畳の素敵な路地に大きなエントランスが設けられている。

玄関には絨毯が敷かれ、落ち着いた調度品が置かれていた。

入り口で靴を下駄箱に入れ、階段を上がると・・・

「SIMADZU」というのがこの日私が泊まる部屋だった。

宿の名前である「KAMON」とは「家紋」という意味で、参勤交代のために矢掛の街道を通った殿様たちの家紋が、部屋名として使われているらしい。

部屋は、先ほど見たシングルルームよりも広いツインルームで、やはりシャワーとトイレが付いていた。

カーテンを開けると、2方向から光が差し込む明るいお部屋だ。

窓からは対面にある町屋を眺めるようになっているが、残念ながら今は前の家が改修工事中。

それが終わればきっと落ち着いた部屋になるだろう。

テレビやエアコン、冷蔵庫など必要な物はすべて揃っている。

豪華さはないが、新しく清潔だ。

今回の宿泊は「GO TO トラベル」を利用したので、チェックインの際に5000円分の地域共通クーポンがもらえた。

それに加えて、矢掛町独自に発行している「矢掛まちなか周遊応援クーポン」というのももらえるという。

矢掛町の登録店だけで利用できるというクーポンが3000円分。

せっかくなので、これを使おうと街中の散策に出かけた。

玄関には草履が置かれていて、自由に使うことができる。

私ももちろん草履ばきで街に出た。

日が西に傾いた矢掛のメインストリート、旧山陽道を歩く。

現在、電柱をなくして地中化する工事が行われていて、それが完成するともっとすっきりした昔の風情が蘇るという。

こんなポスターを見つけた。

「矢掛の宿場まつり」でおこなわれた大名行列のポスターのようで去年のものだ。

今年で45回目となるこのイベントは、コロナの影響で中止が決まっている。

歴史地区の東の外れにあるのが、重要文化財「矢掛脇本陣 高草家住宅」。

『高草家の祖は因幡国(鳥取県)の守護山名氏と伝えられており、戦国時代に同国高草郡鹿野城から戦乱を逃れて矢掛の七日市に住したのがはじまりとされている。屋号を東平田屋といい、宝暦8年(1758年)に現在地に居を構え、代々金融業を営んで財をなした。』

案内板には、そう書かれている。

内部の公開は週末だけのようだが、外観からだけでもかつての繁栄ぶりがうかがえる。

この脇本陣をスタートして旧山陽道をぶらりぶらりと西に進む。

「旧山陽道 矢掛宿」と書かれた標識が立っている。

案内板によれば、「矢掛」という宿場が現れるのは室町時代だが、本格的にはやはり江戸時代の参勤交代がきっかけだそうだ。

元禄の時代には、東西800mに200軒ほどの屋敷が建っていたという。

そして歴史地区の西の方にあるのが、重要文化財「旧矢掛本陣 石井家住宅」。

『石井家は江戸時代初期(1620年頃)、この地に居を構え、中期以後は代々大庄屋を務めるかたわら、本陣を兼ねた旧家で、元禄頃からは酒造業を営んで繁栄したという。屋敷地は旧山陽道に面し、間口がおよそ20間(36m)、約千坪ある。街道に沿って東から主屋、座敷、御成門を配し、これらの背後には米倉、酒倉、絞り場、麹室の酒造関係施設と内倉、西倉、中門、隠居所、番所等が建ち並び、南の敷地境には裏門座敷長屋がある。これらの建物は、一部安永・天保頃のものもあるが、幕末から明治時代にかけて現在の姿に整ったものと考えられる。』

本陣は酒屋、脇本陣は質屋が経営していたというのも江戸時代の経済を知る上で興味深い。

街道沿いには、他にも古い白壁の町屋がたくさん残っていて、その多くがお店として今も使われている。

こちらは、和菓子屋の「清邦庵」。

こちらは割烹旅館の「魚藤」。

さらには、私が子供の頃にあったような今時珍しい雰囲気のお店も残っている。

例えばこちらの「石井醤油店」。

明治42年創業という年季の入った店の中を覗いてみると・・・

土間と小上がりという京都や奈良にしか残っていないようなお店だった。

扱っている商品は、こちらのお醤油。

保存料無添加の「赤井」という醤油だ。

1000mlで730円と手ごろなのでクーポンで買おうかとも思ったが、持って帰るのが大変そうなのでやめた。

それにしても、土間にお醤油の樽が置いてある本当に昔ながらのお店。

タイムスリップ感が半端ない。

そろそろ真面目にクーポンを使える店を探そうと、入ってみたのがこちら、手焼き煎餅のお店「ぼっこう堂」。

正面にでーんと置かれた大きな帳場が老舗感を漂わせるが、創業は昭和35年、この町ではまだまだ新参者なのかもしれない。

この店で、お煎餅の詰め合わせを買って、「矢掛クーポン」を1枚使った。

次に入ったのは、「矢掛名産ゆべし」の看板が気になった「佐藤玉雲堂」。

天保元年創業の超老舗である。

天保と言われてもピンとこないが、今年で創業190年なのだ。

もともと「ゆべし」から始まったお店だが、今の一番人気は「柚子羊羹」だというので、「ゆべし」と「柚子羊羹」を一つずつ買ってクーポン2枚で支払った。

これでめでたく「矢掛クーポン」は3枚すべて地元に還元したことになる。

そうしてぶらぶらしていると、街道の先から強烈な夕日が差し込んできた。

その夕日に惹きつけられるように西に向かって歩いていくと・・・

そこにあったのは、美しい川だった。

高梁川の支流「小田川」。

ちょうど山陰に夕日が沈む時間、こんなに綺麗なのにこの夕日を眺めている暇人は私一人だった。

地元では観光客を呼び込もうと頑張っているようだが、まだ道半ば。

でもそんな静けさが、矢掛の魅力でもある。

夕日を堪能して街に戻ると、「やかげ郷土美術館」の櫓にちょうど灯が灯った。

どこかで晩ご飯を食べないといけないのだが、生憎この日は平日のため閉まっている店が多い。

営業しているお店には「満席」の札がぶら下がっていた。

「どうしよう」と思っていた時、美術館の前に「ホルモン焼きうどん」のノボリが立っていた。

大衆食堂「松月」。

営業中の札が出ていたので、ここに入ってみることにした。

店内に入ると、誰もいない。

「すいません」と何度か声をかけるが、反応がない。

カウンターと小上がりだけの小さなお店。

私の子供の頃、近所にこんなお店があって夜には必ずナイター中継が流れていた。

さらに声をかけると、厨房から40歳ぐらいの男性がのっそりと現れた。

「やってます?」と聞くと、「やってますよ」とはいうものの若干焦っているように見える。

どうやらこの店をやっている女性の息子だったらしく、後からおばちゃんが出てきた。

もう60年、ここで店をやっているという。

ということは、このおばちゃんの年齢は80歳前後だと推察される。

地元の常連さんに支えられている店らしく、値段は安い。

玉子うどんは400円、中華そばが500円、かつ丼も600円と手ごろだ。

私は「ホルモンうどん」(550円)と熱燗を注文した。

メニューには「酒」としか書いていないので銘柄もわからないが、かなり甘口の日本酒だった。

値段は400円だという。

コップで出された熱燗というのも、久しぶりに味わった。

東京ではなかなか味わえないしみじみとした感じが悪くない。

カウンターに上皇夫妻の写真が置かれているので話を聞くと、おばちゃんは「天皇が来たんよ、矢掛に」と言った。

調べてみると、2000年に当時の天皇皇后がここ矢掛町に来て、小学校でパソコン学習の様子をご覧になったらしい。

この写真は、その時の様子を知り合いが撮影したものだという。

おばちゃんは長年お店をやっているだけあって、おしゃべり好きだった。

そうしているうちに、「ホルモンうどん」が出来上がった。

焼うどんの上にはお約束の紅生姜と青のりである。

プリプリしたホルモンが結構入っていて、甘辛い味付けも昔懐かしい。

熱燗を舐めながら、ホルモンうどんを食べていると、息子が「サービス」と言って刺身を持ってきた。

今日瀬戸内海で釣ってきたばかりの「カワハギ」だという。

醤油には肝が入っていて、当然のことながら美味い。

たった950円で、高級魚カワハギの刺身までいただいて、得したようなちょっと申し訳ないような気分でお店を出た。

「大衆食堂 松月」
電話:0866-82-0316
営業時間:11:00~22:00
定休日:日曜
https://tabelog.com/okayama/A3302/A330205/33007175/

早めの晩ご飯を済ませて外に出ると、もうすっかり日が暮れていた。

人通りも絶えた通りを歩いていると、「矢掛屋 温浴別館」という提灯が目にとまった。

そういえば、グループが運営する温浴施設「湯の華温泉」では宿泊者割引があると言葉を思い出し、ついでに立ち寄ってみることにした。

本当はタオルを部屋から持ってこないといけないらしいが、「忘れた」と言うと、番台のおばさんが仕方なさそうにタオルを貸してくれた。

料金は通常500円のところ、宿泊者割引で400円だった。

こじんまりとした新しい温泉施設だが、嬉しいことに庭に露天風呂も作ってあった。

二人も入ればいっぱいになる大きさだが、幸い誰も入っていなかったので一人でゆっくりと露天風呂を満喫した。

人気のない暗い夜道を歩いて帰るのも、東京を離れたことを強く実感させてくれる。

今時の街並みよりも、江戸時代の方が日本は美しかったのだろうか?

実際にはもっと暗かったはずだ。

怖くもあり、人恋しくもあり・・・

そんな昔の日本を想像しながら、部屋に戻ると、まだ午後の7時だった。

朝食は、最初にチェックインした「あかつきの蔵」で提供された。

パーティー会場のような広々とした会場にテーブルがゆったりと配置されている。

サッシ扉の向こうには落ち着いた中庭が見える。

用意された朝食は、特に豪華というわけではないが品数は多かった。

スタッフが火をつけたので鍋物かと思ったら、自分で卵を焼くハムエッグだった。

飲み物はジュースと食後のコーヒー。

私にはちょうど良い量の朝ごはんだった。

何の予備知識もなく予約した矢掛町の宿だったが、岡山市内のビジネスホテルよりも安い料金で、ちょっと素敵な体験ができた。

岡山市内から電車でもレンタカーで1時間ほど。

ちょっと足を伸ばしてみるのも楽しいだろう。

楽天トラベル評価4.35、私の評価は4.10。

「矢掛屋 INN&SUITES」
電話:0866-82-0111
http://www.yakage-ya.co.jp/

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