<吉祥寺残日録>「文化の日」は明治天皇の誕生日 、神の森はこうして作られた #211103

今日は「文化の日」。

晴れの特異日として知られる11月3日だが、今日も東京はとても良い天気で暖かかった。

私もどこかサイクリングでも行こうかと思い、図書館で借りてきた東京の歴史の本などをパラパラめくって過ごしているうちに、行きたい場所が見つかる前に眠たくなり、うとうとしている間に日が傾いてしまった。

そんなわけで、結局どこにも外出せず家でダラダラ過ごした1日だったが、皇居では素晴らしい晴天の下、文化勲章の親授式が行われた。

今年の目玉は何と言っても、ミスタープロ野球・長嶋茂雄さんである。

野球界では初めての文化勲章受賞。

いつも知らない学者さんが選ばれることが多いので、長嶋さんのような人気者が受賞すると文化勲章が少し近しいものに感じられる。

そもそもこの文化勲章が創設されたのは戦前の昭和12年。

当時の総理大臣・広田弘毅の発案だったそうだ。

「科学技術や芸術などの文化の発展や向上にめざましい功績を挙げた者」というが、「文化」に何が含まれるのかはやはり時代によって変わってくると思われる。

ちなみに、受賞者に直接天皇が勲章を手渡すようになったのは平成からで、それまでは天皇臨席のもとで総理大臣が渡す形式が取られていた。

それだけ、天皇というのは崇高な存在だったのである。

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「文化の日」と聞くと、とても平和な印象だが、戦前には明治天皇の誕生日「天長節」「明治節」と呼ばれた。

「天長節」は、明治元年の9月に国民の祝日として定められる。

まだ旧幕府軍と新政府軍の戦いが続いている最中のことであり、明治天皇は大久保利通や岩倉具視の働きかけによって京都を出て東京行幸に向かう途上で祝賀儀式が行われた。

江戸幕府が崩壊し、天皇中心の新しい時代が来たことを国民に印象づけることが目的だったのだろう。

これ以来、新政府の権威を高めるために明治天皇の神格化が意識的に進められる。

そして明治天皇の死後、国家事業として作られたのが明治神宮であり神宮外苑だった。

今日は特に書きたいこともないので、以前興味深く見た一本のテレビ番組のことを書いておきたい。

NHKスペシャル「明治神宮 不思議の森 〜100年の大実験〜」

2015年に制作された番組の再放送である。

毎年日本一多くの初詣客を集める明治神宮だが、創建は大正9年、日本各地に残る古刹に比べてその歴史は浅い。

それでも境内に足を踏み入れると、とても神聖な気持ちになるのはなぜだろう?

これが、番組のテーマである。

明治神宮の森は、大都会の真ん中に巨大な人工林を作る世界でも類を見ない壮大な実験だったのである。

明治神宮がある場所は、江戸時代には熊本藩加藤家、その後彦根藩井伊家の下屋敷があり、明治維新後は皇室の御料地となっていたそうだ。

100年前の写真を見ると、そこは木がほとんど生えていない荒地のような場所だった。

この場所に明治天皇とその后を祀る神社を作るにあたり、「明治神宮御境内林苑計画」という計画書が作られた。

そこには「永久に荘厳神聖なる林相」と理想とする森について書かれていた。

里山のように人の手で管理するのではなく、人が手をかけなくても永遠に続く原生林を目指したのだ。

中心となったのは、日本初の林学博士本多静六とその弟子の本郷高徳と上原敬二の3人。

針葉樹や広葉樹の性格を踏まえ150年後の状態まで考えて計画的に木の植え、あとは放置して自然の手に委ねたのである。

全国から10万本の樹木が献上された。

大きな針葉樹の間に小さな広葉樹を植えていき、1920年11月1日、明治神宮鎮座の日を迎える。

本多たちは、成長の早い広葉樹に押されて針葉樹が消えていき、150年で常緑広葉樹の森ができるだろうと予想した。

こうして明治神宮の森は「神域」として人間が立ち入ることが許されず、自然のままに100年が経過した。

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100年が経った森はどうなっているのか?

今回初めて植物や動物など様々な分野の専門家が調査に入った。

タヌキがいる、オオタカもいる、カブトムシもたくさんいる。

たくさんの種類のキノコ、たくさんの粘菌も見つかった。

そして関東にもともとあった固有種がそこでは守られていた。

東京ではすでに駆逐されほとんど姿を見なくなったメダカやカントウタンポポなども見つかった。

100年間人間が入らなかった森は固有種たちの「タイムカプセル」となっていたのだ。

本多たちの計画通り、当初多かった針葉樹は1割以下に減り、常緑広葉樹が3分の2をしめるようになった。

幹の直径が1メートルを超えた木も250本確認され、森の世代交代も進んでいたのである。

もしこの世から人間が消えても、自然は何事もなかったかのように緑の森に帰っていくのだろう。

それはそれで、面白いではないか。

<吉祥寺残日録>2月11日=「建国記念の日」は、こうして決められた #210211

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