<吉祥寺残日録>日々是勉強💡「コンテンツ東京」で今流行りの“生成AI”の革命性を少し理解した #230629

今回東京に戻った理由の一つは、展示会を見学することだった。

東京ビッグサイトで3日間開催される「コンテンツ東京」。

テレビマンとして毎年通っていたイベントである。

今更コンテンツといっても今の生活には関係ないのだが、最先端の映像表現がどのように進化しているのかはやはり気になる。

十年一日なテレビを見ていてもそうしたことを感じることはできず、年に一度のこの展示会に通うようになったのは7年ほど前のことだろうか?

あの頃は4K8Kがもてはやされテレビ局も時代の最先端にいた。

ところがその後の動画市場の注目は、YouTubeやTikTok、インフルエンサーへと移っていき、VRやMRといった仮想現実技術が登場し、最近ではAIやブロックチェーン、メタバースといった私がさっぱり理解できない世界が主流となった。

今年のコンテンツ東京でもメインとなるのはXRやメタバース、そして今流行りの生成AIである。

会場を少し歩くと、やはり目につくのは有名なキャラクターたち。

メディアの形が変わっても、人々に愛されるキャラクターたちの重要性は変わらない。

むしろ強いキャラクターがより多くの人を呼び寄せる傾向が強まり、コンテンツの完成度よりも好きなキャラクターがいることの方が重要になっているとも言える。

日本の有名キャラクターは国境を超えて世界的な知名度を持つだけに、ライセンスビジネスのエリアでは外国人バイヤーの姿も目立っていた。

でもメタバースやXRといった最先端分野では日本企業の存在感は俄然薄くなる。

目立つのは外国企業のブースばかり、中でも中国企業の製品に人だかりができていた。

日本人はやはりデジタルに弱いのか?

それとも起業家精神の欠如なんだろうか?

そんな今年のイベントでも特に注目を集めていたのが「ChatGPT」をはじめとする生成AIである。

私はまだ触ったことがないので今年にわかに大ブームとなっているこの生成AIの何たるかを知らない。

どんな質問にも適切な答えを返してくれ、画像まで自動で作ってくれるAIということは理解しているが、それがどんな仕組みで人類の未来に何をもたらすのかについて今ひとつピンときていなかったのだ。

そこで関連するいくつかのセミナーを聞いてみることにした。

すると、あるパネラーがこんな説明をしていたのだ。

生成AIとは、ネット上にある膨大なテキスト情報をただひたすらに学習させていった結果、あるフレーズを入力するとその後に続く可能性が最も高いフレーズをAIが予測して並べてくれるようになったのだという。

その仕組みはいたってシンプル、つながる確率が高い言葉をただ並べているだけ。

「大規模言語モデル」と呼ばれる由縁だ。

そうするとあたかもAIが自ら考えて答えを返してくれているような錯覚が生じる。

つまりそれだけ人間の思考には法則性があるということなのだろう。

その上でパネラーは生成AIの登場がもたらす革命的な変化を3点挙げた。

  • 人間の言葉で命令できる
  • 色々なことが1つのモデルでできる
  • コンテンツを作成できる

この中でも革命的なのが、プログラム技術がなくてもAIを操ることが可能になるということだ。

今はプログラマーという職業が時代の最先端で、コンピューターを使いこなそうと思ったらプログラミングコードが書かなければならなかった。

しかし生成AIの登場で近い将来、ネットで検索するように誰でもAIと相談しながら仕事をする時代になるというのだ。

そういう時代になれば、機械の操作や作曲なども「もっと上に」とか「もっと明るい印象に」など言語によってAIに指示ができるようになる。

細かな数式や設定は必要なく、漠然とした言葉をAIが読み取ってイメージに近いコンテンツを生み出してくれるのだ。

確かにこれは革命的で、私のようなITレベルの低い人間にもAIを使って画像を作ったり音楽を作ることができるようになるかもしれない。

その破壊力は想像するだけで凄まじもので、20世紀以降に生まれたあらゆる職種で働き方に大きな変化が起きるだろう。

私が働いてきたテレビの世界も多くの人間が関わる労働集約的な職場だったが、資料を集めて原稿を書いたり映像を加工したりという手間のかかる作業がAIに置き換えられていくのだろう。

その時、人間は何をすればいいのだろうか?

コンテンツ東京には多くのクリエイターが個人として出展していて個人的にはこのエリアが好きだったのだが、生成AIが当たり前になると彼らの仕事はどうなるのだろう?

電通でAIビジネスの統括を行っているパネラーはこんな分析を行っていた。

AIが一般人にも普及する時代、誰でもクリエイターになれる気もするが、コンテンツはいつの時代も相対的なもので他のコンテンツより面白いものが生き残る。

だからクリエイターという職業はなくならないだろうというのだ。

ただ将棋の世界でプロ棋士がAIを使うのが当たり前になったように未来のクリエイターはさまざまなAIを駆使することが前提となり、その上で他のクリエイターよりも優れたコンテンツが作れる人がビジネスとして成功すると見るのだ。

素人でもそこそこのコンテンツが作れる時代、プロのクリエイターにはより高いハードルが待ち受けているというわけである。

ソフトウェア開発の分野と並んでマーケティングの仕事もあらゆる作業がAIでまかなえるようになるため、プロに求められる能力はAIが提示するオプションの中からターゲットに訴求するコンテンツを選ぶ能力になると予測する。

さらにみんなが同じAIを利用できるようになると、自分流のAIを育て他者と差別化することも重要になるという。

未来のクリエイターはポケモントレーナーのように相対的に強いAIを育てる能力で競うことになるというのだ。

こうしたコンテンツ制作の世界にかつてない激変が予想される中、既存のクリエイターたちも新たな取り組みを始めていた。

ドラマや映画でヒット作を世に放ってきた監督たちはDAOというデジタルの仕組みを使った新たな制作体制にチャレンジしている。

「SPEC」シリーズの堤幸彦監督、「踊る大捜査線」シリーズの本広克幸監督らが参加する「SUPER SAPIENSS」というプロジェクトがスタートしたのは去年の1月。

その背景にはクリエイターとして本当に自分が作りたいものが作れていないという葛藤があった。

テレビでは視聴率、映画なら興行収入が求められる。

コンテンツ制作にはお金がかかるため製作委員会方式が取られるケースも多く、クリエイターはさまざまな制約の中で仕事をしているのだ。

新たなプロジェクトでは、クラウドファンディングのように広く「共犯者」と呼ばれる支援者からお金を集め、彼らの意見も聞きながらクリエイターが作りたいコンテンツを制作していくという。

共犯者たちの出資は単なる募金ではなく売買可能なトークンという形なので、出資した作品が大ヒットしたら共犯者たちにも利益が還元される仕組みである。

まだ知名度は低く集まったお金は1000万円程度だというので映画はおろか通常のテレビ番組予算にも及ばないが、こうした流れが広まってくればテレビ局や映画会社が独占してきた業界に風穴が開くかもしれない。

有名監督も無名のクリエイターも同じ土俵で競い合い時代が来る。

すでにテレビ局を離れ隠居生活に入った私にもチャンスがあるということだ。

これからのコンテンツ制作に求められるのは、小手先のテクニックではなく、作品のクオリティと時代を見抜く目利き力ということになりそうである。

ワクワクする一方で既存のクリエイターには厳しい時代になりそうである。

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