東京ビッグサイトで開催されている「コンテンツ東京」2日目。
この日も展示会の帰りに居酒屋に向かう。
前日に引き続き、「東京三大煮込み」をいただくのが目的だ。
都営バスから大江戸線に乗り換えて、降り立ったのは「森下」。
これまで一度も降りたことのない駅である。
交差点の四隅には江戸時代の火消しが使った纏のオブジェが置かれていた。
森下界隈はかつて深川の中心として賑わったところだという。
お目当ての居酒屋は森下の交差点のすぐ近くにある。
「山利喜 本館」
関東大震災直後の大正14年創業の老舗なのだが、その建物は2009年に建て替えられて5階建てのビルになっていた。
行列がすごいという書き込みがあったので、少し早めに展示場を出たため開店の40分前にお店に着いてしまった。
予想に反し、店の前に人影はなかった。
ちょっと早すぎたので、近所をひと回りしてみようかとも思ったが、その間に行列ができては後悔すると思いただ一人店の前に立って開店時間の午後5時を待った。
私の後から次々に店員さんがやってくるがお客は一向に来ない。
結局開店前に並んだのは私の他に老年の3人組のみ。
ようやく5分前になってお店の提灯と暖簾が掛けられるという始末だった。
結果的には5時以降に来ても待たずに入れたわけである。
入り口を入り階段を上った2階がメインのお店である。
厨房を眺められるカウンター席と若干のテーブル席。
地下にも席があるようだが3階より上は住居スペースなんだそうだ。
カウンター席に座って厨房を除くと名物の煮込みが入った大鍋が2つ。
この店の煮込みはちょっと変わっていて、隠し味として赤ワインとフランス料理でよく使われるハーブの束「ブーケガルニ」が入っている。
大鍋の端から垂れたヒモの先にはこのブーケガルニがぶら下がっているのだろう。
壁にもいろいろと料理名が並ぶが、まずは席に置かれたメニューを眺める。
やきとん、煮込みというこの店の看板メニューと並んで、「ニース風サラダ」「フランス産セミハードチーズ コンテ」「豚肉と鶏レバーのテリーヌ」といったフランスの料理が目を引く。
聞くところによれば、3代目の店主がフランス料理の道に進もうとしていたため、店を継いだ後に独自のフレンチ風メニューを次々に投入していったそうだ。
昨日の東京は最高気温が33度を超え、暑い一日だった。
まずは、お決まりの「生ビール」(660円)から。
お通しは切り干し大根の酢漬け、これがなかなか美味である。
そしてお目当ての煮込みを注文する。
「煮込み」(715円)と「煮込み玉子入り」(770円)があり、私はボリュームを求めて玉子入りをお願いした。
大衆酒場にしては煮込みの値段が高いが、さすが「東京三大煮込み」と呼ばれるだけあって、とてもクオリティーの高いこだわりの煮込みである。
この店では、煮込みに野菜は使わない。
材料は牛のシロ(小腸)とギアラ(第四胃)のみで、毎日6時間以上じっくりと煮込むのだそうだ。
モツの臭みは一切なく、上質な脂がとろっとろで実に美味い。
普通の居酒屋の煮込みとは一味違い、やはりフレンチの煮込み料理のような深みを感じる。
玉子は中までしっかりと味が染みているという感じではないが、モツの脂を適度に中和してくれるのでやはり玉子入りにして正解だった。
そして晩ごはんとして食べに来ている身としては、しっかりとお腹にたまるのもありがたい。
そして、「山利喜」の煮込みには「ガーリックトースト」(330円)がよく合う。
メニューにわざわざ『煮込みにどうぞ』と書いてあるほどそのマッチングに自信があるということだろう。
ガーリックトースト単体でもすごく美味しいのだが、煮込みと一緒に食べても全く違和感がない。
モツを食べた後に残る汁をトーストに吸わせて最後まで味わる。
これが「山利喜」流なんだと思う。
「やきとん」も昔からのこの店の名物である。
どれも2串で330円。
目の前でじっくりと焼いてくれる。
私は「軟骨たたき」をタレで注文した。
これは「軟骨を赤身の肉とともに細かく砕き団子状にしたもの」で一日20本前後の限定品だと書いてある。
そのため、注文できるのは1人1人前のみ。
食べてみると、軟骨のコリコリとした食感と甘だれの濃厚な旨味が感じられる最高の一品であった。
この串を食べるためだけに、早く店に来る価値は十分にある。
それほど美味しかった。
ここでやめておこうかとも思ったのだが、生ビールをもう1杯頼むことにした。
それは私の好物であるテリーヌを食べてみたかったからだ。
「豚肉と鶏レバーのテリーヌ」(990円)。
これは本場フランスのテリーヌと比べても遜色のない本当に見事なテリーヌであった。
濃厚な味わいといい、脂の入り具合といい日本では滅多にお目にかかれないレベルの美味しさだ。
付け合わせのピクルスはすごく味が染み込んでいて、これだけでビールがぐいぐい進んでしまう。
煮込みの旨い老舗居酒屋というイメージがこのテリーヌで完全に覆されてしまった。
店を出ると、ビルの正面は暖簾と提灯がいい感じに装飾されていた。
煮込みも軟骨たたきも、そしてテリーヌもどれも完璧と言っていい。
大衆酒場というよりも、肉の旨味を味わい尽くせる和洋折衷の美食の店。
それが初めて訪れた「山利喜」の印象であった。
食べログ3.55、私の評価は4.50。
「山利喜 本館」 電話:03-3633-1638 営業時間:17:00~22:00 定休日:日曜・祝日 http://www.yamariki.com/