<きちたび>アイスランドの旅2023🇮🇸 ゴールデンサークル① 世界遺産「シンクヴェトリル国立公園」世界最古の議会は地球の裂け目で開かれた

🇮🇸 アイスランド/ゴールデンサークル 2023年12月3日

アイスランドは、文字通り「氷の国」である。

首都レイキャビクにいては今ひとつ実感が湧かないが、一歩郊外に足を運ぶとすぐにその意味を全身で感じることができるのだ。

レンタカーを借りて、自由に荒々しい大地を駆け回るのが最高ではあるが、手軽に誰でも体験できるのが、アイスランド観光の定番「ゴールデンサークル」へのバスツアーである。

3日の朝、私は午前9時15分にホテルを出た。

外はまだ真っ暗。

クリスマスイルミネーションは点灯したままになっていたけれど、日曜日の朝ということもあって、人の姿もほとんどない。

ピックアップのバスが来る市庁舎までは歩いて数分。

市庁舎前の池は完全に凍っている。

ツアーの参加者は事前にネットで申し込み、ホテル近くの集合場所を指定される。

すでに10人ほどの観光客がバスを待っていた。

みんな持っている服を全部着込み完全武装している。

私も、この旅行のために新調したカナダ製の防風防水のダウンコートの下に、持っている中で最強の下着であるアンダーアーマーの上下とユニクロのダウンベストを着て、靴下は2枚、レッグウォーマー、ネックウォーマー、毛糸の帽子、そしてやはり新調した防風防水の手袋で身を固めていた。

靴も非常に重要で、今回のために買った暖かく滑りにくいコールマンのスノーブーツを履いている。

基本的にはバスでの移動だが、目的地は全て大自然のど真ん中であり、天気もいつ変わるかもわからないので、大袈裟なほど用心した方が身のためだ。

約束の9時半よりも少し早く、「SMART BUS」と書かれた緑色のバスが止まった。

指示された通りである。

この時間になるとようやく東の空が少し明るくなってきた。

そのまま全員乗るのかと思ったら、運転手が降りてきて、名簿を見ながら名前を読み上げる。

私の名も呼ばれたが、乗車を許されたのは4人だけだった。

残りの多くの観光客たちが運転手に詰め寄り、困った運転手は無線で本部と連絡を取るが結局そのまま寒空の下に大勢を残してバスは出発した。

いろいろなツアーがあるようなので、きっと別のバスが彼かをピックアップするのだろう。

バスは途中いくつかのポイントで乗客を拾っていく。

寒さに耐えていた観光客たちは自分の名前が呼ばれると、ホッとした表情でバスに乗り込んでくる。

こうして、何台かのバスがツアー参加者たちを市内全域から拾い集め、ターミナルまで運ぶ。

バスターミナルには大型の観光バスが3台停まっていて、コースによって決められたバスに乗り換えることになる。

ここでも、ガイドさんが名簿をチェックしていて、そのリストに名前がなければバスには乗せてくれないルールのようだ。

私がバスに乗った時のはすでにほとんどの席が埋まっていて、後方に空席を見つけてようやく人心地がついた。

車内では、英語、フランス語、イタリア語、中国語が飛び交い世界中の観光客がこのツアーに参加していることがうかがえたが、この日は日本人らしき人は見かけなかった。

どこに行っても、日本人の存在感は低下している。

バスには女性のガイドさんが乗っていて、英語でゴールデンサークルやアイスランドのことを説明してくれる。

でも多言語に対応したタブレットもあるというので私も1台貸してもらうことにした。

追加料金はかからない。

日本語を選択すると、ゴールデンサークルの説明が表示された。

『我々レイキャヴィーク・サイトシーイング社は、皆さまをクラッシック•ゴールデンサークルツアーへご案内致します。ゴールデンサークルは、国内で最も人気のある大自然観光スポット•••』

車内はまだ暗かったので、現地に着く頃に見ようと思い、タブレットをシートの物入れにしまったのだが、目的地について見ようと思ったら、なぜか電源が入らず、結局全く役には立たなかった。

でも、アイスランドの大自然はそんな能書など無用なほどの大迫力で、私たちを夢中にさせるのである。

バスは午前10時ちょうどにターミナルを出発した。

10分も走ると車窓から白く雪をかぶった猛々しい山々が見えてくる。

多くの観光客が私と同じようにスマホで写真を撮り始める。

30分後、あたり一面、雪景色に変わっていた。

沿岸部では平地に雪はなかったけれど、内陸に入れば文字通りのアイスランドとなる。

車を止めて写真を撮りたいと思うが、バスではそうもいかない。

やはりアイスランドを本気で楽しむなら、レンタカーの旅が最高だ。

出発から40分、大きな湖が見えてきた。

アイスランド最大の湖「シンクヴァトラヴァトン湖」だ。

最初の目的地「シンクヴェトリル国立公園」はこの湖のほとりに広がる世界遺産である。

バスは国立公園内に設けられたビジターセンターに止まった。

ここでの滞在時間は50分と告げられる。

ツアー客は全員バスを降り、人の流れる方向へ思い思いに歩いていく。

私は混雑する前にビジターセンターのトイレで用を足してから、おもむろに人の流れに加わる。

見学コースの最初はこちらの展望台だ。

私たちのバスだけでなく、多くのツアーバスが続々やってくるため、展望台は混み合っている。

ここからは先ほど車窓から見たシンクヴァトラヴァトン湖が一望できる。

確かに美しい景色だが、シンクヴェトリル国立公園は単なる絶景スポットではない。

ここからは、アイスランド最大の観光サイト「Guide to Iceland」からちゃんとした情報を引用しながら書き進めていく。

シンクヴェトリル国立公園(Þingvellir、または英Thingvellir)はアイスランドに3か所ある国立公園のひとつであり、ユネスコの世界遺産にも登録されています。

一つ目の特徴は、地表に現れた大西洋中央海嶺の割れ目です。この割れ目の大部分は大西洋の海の下にあり、目にすることはできません。しかしアイスランドではその割れ目が地表に現れており、特にシンクヴェトリル国立公園では、その大陸プレートの境目の様子をはっきりと見ることができます。

ギャオ(Gjá)又はアルマンナギャオ(Almannagjá)と呼ばれるこの割れ目は、この中央海嶺・割れ目の部分は地下変動により、毎年2.5㎝づつ、広がっています。盛んな地熱活動、火山活動もこのためです。シンクヴェトリル国立公園の西側が北米大陸プレート、東側にユーラシア大陸プレートとなります。

つまり、湖に流れ込むこの谷は、二つのプレートの境界面なのである。

私がいる場所は北米大陸プレートで、谷の向こう側はユーラシア大陸プレートというわけだ。

シンクヴェトリル国立公園を象徴する景観は、展望台を降りた先に待っている。

そそり立つ溶岩の壁だ。

遊歩道に従ってスロープを降りていく。

溶岩の壁が眼前に迫ってくる。

滑り止めのため砂が撒いてあるが、道路は凍っているため中には転んでいる人もいる。

滑りにくい靴を買ってきて正解だ。

高さはどれくらいあるだらうか。

いかめしい岩肌が、地球の割れ目を実感させる。

シンクヴェトリル国立公園周辺ではギャオの他にも、溶岩の跡などが見られますが、このエリアでは2000年以上も火山の噴火がなく、木立や苔で覆われた緑豊かな場所となりました。

アイスランド観光が一番盛んな夏場であれば、岩場に繁殖した植物たちの姿も見られるのだろうが、今は冬、ただ荒々しい光景が広がっている。

溶岩の切り通しを抜けると、再び雄大な景色が広がっていた。

大陸プレートの割れ目を体験するあるアトラクションもシンクヴェトリル国立公園では人気なのだという。

プレートの境目には氷河の溶け水が流れ、シルフラの泉(Silfra)を作り出しています。ラングヨークトル氷河から溶け出した水は、溶岩の地下層を流れると同時に濾過され、やがてシルフラの泉に湧き出します。水中の視界は100mにもなり、吸い込まれてしまいそうな美しい青色の世界はシュノーケリングやダイビングの人気スポットとなっています。

防寒対策を施したスーツを着て氷河から流れ出した水に潜るというのである。

私はちょっと遠慮するが、若ければきっとトライしてみたいと思ったに違いない。

しかし、シンクヴェトリル国立公園が世界遺産となった理由はそれだけではない。

アイスランドの国旗が掲げられたこの場所は、観光客たちにはあまり人気はないが、我々が重要視している民主主義にとって、ここは極めて重要な場所なのである。

シンクヴェトリル国立公園は、アイスランドの歴史においても重要な役割を担う場所です。9世紀、ノルウェーの王に従うことを拒否した人々は国を捨て、アイスランドという島に移住を始めました。これがアイスランドの歴史の始まりです。しかし定住開始時にはアイスランド全体をまとめるリーダーという人や、王様のような人はいませんでした。しかし、各地域を超える争いの解決や、アイスランドの島全体での意思決定のために何らかの形で会議を持つ必要がでてきました。そこで930年、アルシング(Althing)と呼ばれる民主議会が設立され、30以上ある各地のグループがそれぞれ代表者を決定、その代表者がシンクヴェトリルで議会を開くということになりました。シンクヴェトリルという地名も、アイスランド語の「議会の場所」という言葉が地名となったものです。

私が歩いた溶岩の割れ目に人々は集まり、テントを張って泊り込みながら、共同生活に必要なルールを決めていった。

その当時の様子が、案内板に描かれている。

それ以来、アルシングは毎年開催され、1262年にノルウェー1380年にデンマークの支配下となったときも、アルシングの伝統は継続されました。1799年から1844年までアルシングは中断されましたが、その後議会はレイキャヴィークに移され今のアルシングとなりました。

930年に設立されたアルシングという議会は、世界で最も古く、尚且つ今に継続している議会となりました。ヨーロッパ大陸では領主制、王政が敷かれたのとは対照的に、アイスランドでは代表民主制が国の根底に築かれることとなったのです。

アルシング設立の1000年経った1930年にシンクヴェトリルは国立公園に制定され、2004年にユネスコ文化遺産に登録されました。

アイスランドは世界で最も男女平等が徹底した国と言われ、独自の軍隊を持たず平和度指数でも常に世界一、民主主義のランキングでも常に世界のトップクラスにある。

ある意味、日本が学ぶべき大人の国だが、その背景には1000年にわたって受け継がれてきた民主主義の伝統があるのだ。

アイスランドの国旗を通り過ぎてさらに進むと、小さな滝が現れた。

「アルシング」では、北欧神話の神々を捨ててキリスト教に改宗することなど島の重要な政策決定が行われると同時に、犯罪者の裁きやいわゆる魔女狩りも行われた。

この滝は、そうした罪人を処刑する場所としても使われたそうだ。

民主主義とは、みんなで決める仕組みにすぎず、参加する人が正しい決定をすることを保証するものではない。

そのことは、現代の世界でも嫌というほど感じさせられることではあるが、世界最古の民主議会アルシングも例外ではなかったということだ。

しかし、そんな民主主義の欠点も理解したうえで、権力者がすべてを勝手に決める独裁主義や専制主義に比べると民主主義の方がましなのである。

そんなことを考えながら、地球の裂け目を歩いていると、あっという間に集合時間が迫ってきた。

引き返さなければ、他のツアー客に迷惑をかけてしまう。

そう思って来た道を引き返すと、崖の上に今にも落ちそうな岩があるのが目に止まった。

それは簡単に失われてしまう民主主義の危うさを象徴しているように見えた。

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