<吉祥寺残日録>トイレの歳時記🌸七十二候「玄鳥至(つばめきたる)」、伯母の家にもツバメと医者がやってきた #210404

今日から二十四節気の「清明」。

文字通り、『天地万物の気が満ち、清く明らかになる』季節ということらしい。

そして「清明」の初候は、七十二候の「玄鳥至」。

シンプルに「つばめきたる」と読み、意味もズバリ『ツバメが飛来する頃』ということらしい。

子供の頃、ツバメはこの岡山の家の軒先に巣を作り、決まってそこで子育てをしていた。

スズメと並んで、幼かった私にとって身近な鳥といえばツバメだったかもしれない。

東京ではあまり見なくなったツバメだが、岡山に帰省すると当然のように遭遇する。

帰省初日、伯母の家を訪ねた時のことである。

玄関を開けっ放しにしていたら、1羽のツバメが家の中に飛び込んできた。

座敷の中を飛び回り、掛けてある額の上に止まった瞬間を写真に収めた。

こんな間近にツバメを見ることはなかなかできないので、これも歳時記を調べるようになったご褒美だろうか・・・。

子供の頃から身近にいたツバメではあるが、その生態について私はほとんど知らないため、この機会に少し調べてみることにした。

ツバメは冬になると南に移動する。

主な越冬地は、台湾、フィリピン、ボルネオ、マレー半島、ジャワ島などだが、日本で冬を越す「越冬ツバメ」というのもいるらしい。

ツバメは稲を食べずに害虫を食べてくれるものとして、古くから「益鳥」として大切にされてきた。

ツバメが民家の軒先に巣を作るのは、カラスなどの天敵から身を守ることが目的だが、それだけ人間様に大事にされてきた証拠でもある。

産卵期は4 – 7月ごろ。一腹卵数は3 – 7個で、主にメスが抱卵する。抱卵日数は13 – 17日、巣内での育雛日数は20 – 24日で、1回目の繁殖の巣立ち率はおおむね50%程度と推定される。

出典:ウィキペディア

いくら益鳥とはいえ、家の中に巣を作られてはこまってしまう。

89歳の伯母は奥からハタキを持ってきてツバメを外に出そうとする。

しかし、背が縮んでいるのでツバメの素早い動きに翻弄されるだけだ。

見かねて私が加勢する。

伯母からハタキを受け取り、ツバメを玄関の方へと誘導すると、ツバメの方もようやく出口が見つかったらしくサーっと玄関から外へと飛んで行った。

庭に出て、空を見上がると、ツバメ返しを繰り返しながら空を飛ぶツバメが見えた。

庭木のあたりからはスズメの鳴き声が聞こえる。

ここに来ると、子供時代の光景が寸分違わず保存されているように感じる。

そして、岡山への帰省3日目の昨日、伯母の家にもう1人の来訪者があった。

伯母の長年通っていたかかりつけ医の先生が初めて往診してくれたのだ。

実は、一人暮らしの伯母がこの半年、一度もお医者さんに行っていないことを心配して、妻が往診をお願いしたのだ。

伯母には事前にお医者さんが来ること伝えていたのだが、伯母は「突然来るからビックリするわ」と先生に言って、血圧が高いのもびっくりしたからだと主張した。

この日の伯母は包括支援センターの人が来た時よりも少し元気で、医師の問いかけにもにこやかに答え、日常生活はひとりでなんでもできていて困ったことは何もないと話していた。

先生の方も、そんな伯母の様子を見てとりあえずは大丈夫と判断したようで、介護申請をしても要支援になるかならないかだと思うという見立てであった。

私たちが一番心配していた転んだ時に顔を打った話みしたが、先生はすでに腫れがひいて目立った後遺症もないようなので脳の方のダメージは心配しなくていいだろうと言った。

とりあえずは、一安心である。

毎日、たくさんの年寄りを診ている先生からすれば、伯母はまだ元気な方だと映ったのだろう。

我々も認識を改め、「この程度はまだまだ序の口」と長期戦に備える心構えが必要なようだ。

お医者さんが帰った後、伯母とブドウ畑に行くと、伯母は腰を曲げながらもブドウ棚の下をスタスタ歩き、ブドウの木を触ったり、地面の草をむしったり、無意識のうちに体が動くようだ。

伯母は、何十年もの間、こうして毎年同じ作業を繰り返しながら生きてきたのだ。

それから母のマンションに戻り、田中邦衛さんの追悼番組としてフジテレビで放送された「北の国から ‘87 初恋」を母と2人で見た。

やはり何度見てもすごいドラマだと思う。

母もこのドラマが好きだったようで、懐かしそうに見て最後は涙を流していた。

「北の国から」のシリーズが始まったのは私が上京して大学に在学していた頃だ。

母はどんな気持ちでこのドラマを見ていたのだろう、そんなことを考える。

思春期の初々しさ、家族との関係の中で自分の将来について悩む中学生の純、少ないセリフの中でその心情が痛いほど伝わってくる。

そして田中邦衛さん演じる黒板五郎。

その姿は伯母そのもの、私にはそう見えた。

必死に働いても豊かにはなれず、人にばかにされないように肩肘張って生きている。

「情けない」という気持ちを押し隠しながら気丈に生きているようにも見える。

そうした演歌的な生活感が日本社会から失われ、日本のドラマはちょっと表層的になっているようにも感じる。

テレビは時代を映す鏡である。

黒板五郎や伯母のような人生に、ある種の郷愁のようなものを感じるのはそのせいだろうか・・・。

<ご当地グルメ>岡山「味司 野村」の「ドミグラスソースカツ丼」

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