太平洋艦隊本部
この軍艦が停泊しているあたりがロシア太平洋艦隊の本部になっている。
ちょっと、そちらの方へ行ってみることにした。
港の客船ターミナルから金角湾に沿って東へ向かうと、湾を見晴らすように建つ白いビルが見える。これが太平洋艦隊の本部ビルだ。
本部前の海岸からは一段と間近に軍艦が見える。
艦艇の周辺で作業している人影は現役のロシア兵たちだ。
冷戦期には日本の最大の仮想敵だったロシア軍(当時はソ連軍)に緊迫した様子はまったく見られない。それは日本人にとって何よりも好ましい光景である。
太平洋艦隊でもソ連崩壊後、多くの艦船がスクラップにされたという。現在、本部前に係留されている艦艇は10隻も確認できない。
ミサイル巡洋艦が主力で、核戦略の中核を担う原子力潜水艦はカムチャッカ半島に拠点を置いており、そちらは今でも外国人の立ち入りは禁止されているようだ。
クラースヌィ・ヴィムベル軍艦
そして太平洋艦隊本部前の岸壁に一隻の古い軍艦が係留されている。
「クラースヌィ・ヴィムベル軍艦」と呼ばれ、ソ連太平洋艦隊初の軍艦として第二次大戦などで活動した船だという。私が生まれた1958年に現役を引退し、その後半世紀以上博物館として使われているそうだ。
入場料は50ルーブル。しかし博物館としての価値はほぼゼロだ。
唯一入場料を払う価値を認めるとすると、太平洋艦隊の現役艦船を一番近くから見られるという点だろう。
現在のロシア艦隊がすぐ目の前にある。これは軍事オタクにはたまらないかもしれない。
逆に、この位置にわざわざ古い軍艦を浮かべているロシア海軍の狙いは何なのだろう。船を見世物にして小銭を稼ぐ、それ以外の目的が考えられないのだ。
ソルジェニーツィン像
古い軍艦の船上で繰り広げられる、あまりに平和でのどかな光景。
もうここに来て、私が日本で抱いていたウラジオのイメージは木っ端微塵に砕け散ってしまった。
色褪せ、ほころび始めているロシア海軍の旗。かつて世界に覇を競った超大国の威厳はまったくない。
一方で、海軍の地位低下ということも考えた。もはや現代の戦場では、空母と原潜以外の艦艇は意味をなさないということで、隠す意味もないということなのかもしれない。
そして、古い軍艦のすぐ近くには、ノーベル賞作家ソルジェニーツィン氏の銅像が唐突に立っている。「収容所列島」などの作品でソ連の体制を批判し国外に亡命していた氏が、ソ連崩壊後始めて祖国の地を踏んだのがウラジオストクだった。
それを記念してここに銅像が立てられたというのだが、なぜ太平洋艦隊を望む海岸に立てられたのかは不明だ。今のロシア政府がソ連時代と距離を置いていることをこの像は示しているのかもしれない。
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