とにかく物価が高いアイスランド。
一番困るのは食事だろう。
私の場合、ホテルに素敵な朝食が付いていたので、そこでしっかりいただいて、昼と夜は軽くというスタンスで臨んだ。
アイスランドの地元料理にも興味があったが、極度の乾燥のせいか旅行初日から喉の調子が悪く、横になると咳が止まらなくなる。
時差ボケも重なって常に寝不足で動き回るため、不思議とお腹がちっとも空かないのだ。
そこで、ゴールデンサークルのツアーから戻った夜、偶然見つけたラーメン屋に行ってみることにした。
前夜のようにあれこれ食べるものを探して街をうろつく気になれなかったからだ。
「RAMEN MOMO」
ホテル近くの路地裏にひっそりたたずむ小さなお店だが、店の外側にはカタカナで「ラーメン」とわざわざ書いてあり、ひょっとして日本人がいるかもしれないと思ってのぞいてみた。
店内に入ると予想外に客で混み合っていた。
前夜に行った裏通りのベトナム料理店がガラガラだったため勝手に空いていると思い込んでいた。
店員さんは1人だけ。
ぱっと見、日本人ではなさそうだ。
メニューを見てみる。
主にラーメンと餃子、サイドとしてキムチとワカメと書かれていた。
店のオーナーは韓国人か?
ラーメンは6種類。
チャーシュー、トリ、タンタンメン、ビーガン向けタンタンメン、シロミソ、月替わりのラーメンの6種類である。
チャーシューとトリは味噌味と書いてあるのでちょっと惹かれたが、せっかくなので日本ではあまりお眼にかからないものにしようと思い「Vegan Tantanmen」を注文した。
値段はラーメンどれを頼んでも2890アイスランドクローナ、3000円ちょっとと高額である。
「何か他には?」と問われ、日本の調子で餃子も頼んでしまった。
「Pork Gyoza」、5個で1820クローナ。
日本円で約1900円ちょっとである。
結局ラーメンと合わせると5000の夕食となり、これならちゃんとしたアイスランド料理を一皿くらい食べられたなとちゃんと反省する。
餃子とくればビールが欲しくなるところだが、体調とお財布を考慮してやめておくことにした。
でもこの餃子、食べてみると案外不味くはなかった。
前夜食べたフォーといい、体調が万全でない時にはこういう食べなれたものがありがたい。
餃子を頬張りながら改めて店の中を見回すと、随所に日本愛が溢れていた。
日本で「ラーメン屋育成ジム」を卒業したことを証明する額も飾られていた。
名前から判断するとオーナーはモンゴルか中央アジア系の人のようだ。
そして壁には「アイスランド初の手作りラーメン店」と書いてある。
ラーメンが出来上がった。
これが、ビーガン向けの担々麺か。
スープの色は確かに担々麺のようだが、具材がちょっと不思議な感じだ。
メニューを見直すと、使われている食材は以下の通り。
ゴマのベース、豆腐、ワケギ、もやし、赤タマネギ、椎茸。
頭にはてなマークを浮かべながら、まずは食べてみることにした。
これはちょっと失敗した、と思った。
中でも、レバーのように見えるこの豆腐がいけない。
凍み豆腐のように少し硬い豆腐をチャーシューの代わりに使っているのだと思うが、何か変な甘い味付けがされていて、これが担々麺のスープを台無しにしている。
もやしも生っぽい青臭さが行列で、ラーメン全体がバラバラの方向に走っている。
手作りらしい麺も、ラーメンというよりも生蕎麦に違い印象だったがこれが一番マシだった。
麺とスープだけならさほど不満なく食べられると思うと、奇を衒ってビーガン向けの担々麺を選んでしまった自分が恨めしくなった。
店員さんの手が空いたところで「どこから来たの?」と聞いてみた。
どこか地名を言ったがどこの国だかわからない。
私よりずっと英語が堪能なお兄さんなので、こいつわかっていないなと思ったらしく「インドの北東」と言い添えた。
インドの北東というとネパールかブータンってこと?
それならそれで聞き取れそうなものだけど.
ひょっとすると中国国内の少数民族なのかもしれない。
こうしてラーメンの選択には失敗したが、お店自体には好印象が残った。
カウンターにはわざわざラーメンの正しい食べ方まで紹介してくれている。
本来ならば日本人が世界の国々に出て行ってやらねばならない仕事を、日本で修行した外国人の方が代わりになってくれているのである。
昨今訪日する外国人の間で、寿司や天ぷら以上にラーメンが人気なのも、遠い異国でラーメンの美味しさを伝道してくれている彼らの努力のおかげだと知った。
ということで、翌日も同じラーメン屋を再訪することにした。
やはりオーソドックスな味噌味のチャーシュー麺を食べなければ、この店のことを紹介できないと思ったからだ。
この日は夜8時からオーロラツアーを予約していて、ちゃちゃっと晩飯を済ませたかった事情もあった。
「また来たよ」って言って店に入ると、働いているお兄さんが別人に変わっていた。
「どこから来たの?」と聞くと、チベットだと言う。
チベット人が働くアイスランドのラーメン屋。
すごいお店である。
この日は一切の迷いなく注文した。
「Chashu」(2890クローナ=3040円)。
出てきたラーメン、実に美味そうである。
なんと言っても、このチャーシュー。
肉厚で、濃厚そう。
こちらでは日本のような極薄の肉は売っていないので、普通に作るとこういうボリューミーな感じになるのかもしれない。
食べると柔らかくて、前夜の豆腐のような変な味もついていない。
これなら日本でも客がつきそうである。
玉子もいい加減なトロトロ感で、上手に作られていた。
この写真だけをみたら、誰もアイスランドでチベットの人が作ってるとは思わないだろう。
そして麺は前夜と同じ自家製麺で、個人的にはもう少し改善の余地があると思う。
でも、海外でこれだけのクオリティーなら大満足である。
初日にこのチャーシュー麺を選んでいたら、満足して2日目は別の店を探したかもしれない。
そうすると、チベット人のお兄さんにも会えなかったわけで、海外のラーメン事情に興味を持つこともなかっただろう。
満足して店を後にすると、空が少し晴れてきた気がした。
果たしてオーロラは見えるだろうか?
空を見上げながらそんなことを考えていると、さっきまで働いていたチベットのお兄さんが私服に着替えて後から出てきた。
どうやら交代の時間らしく、今からラーメンを作るのは白人のお兄さんだったよ
アイスランドの地元の人かもしれない。
世界のラーメン事情は日本人が知らないうちにすごいことになっている。
それを体感できるアイスランド、レイキャビクの「RAMEN MOMO」。
レイキャビクで食事をするならオススメしたいお店である。
間違っても「Vegan Tantanmen」は注文しないように、「Chashu」なら間違いない。
「RAMEN MOMO」
住所 Tryggvagata 16, 101 Reykjavík, アイスランド
営業時間 平日11:30-21:00
週末12:00-21:30
ramenmomo.is