今日2月14日はバレンタインデー。
そして、10年目の今日、吉祥寺に引っ越した記念日でもある。

この週末は全国的に気温があがって、東京も桜が咲く時期の気温になるという。
実際、井の頭公園では梅とともに早咲きの桜もちらほら咲き始めている。
そんな陽気に誘われたのか、珍しく妻の方からどこか外でランチを食べようかと誘ってきた。
「それなら、都心に行かない?」
私は妻にそう答えた。
実は私には、ちょっと前に思い立ったある計画があって、引っ越し10年の記念日にその計画を実行に移そうと考えたのだ。
その新たな計画とは、東京の銭湯をめぐること。
それを主目的として、私にとって馴染みのない東京の街をぶらぶら散策し、知らない店で何か美味しいものを探すのだ。
隠居の身にはふさわしい日帰りの小旅行、そして丸10年となるこのブログの新たなコンテンツにもなると考えた。

錦糸町、赤羽、武蔵小山、下高井戸・・・。
ネットで銭湯を検索して私が興味のあるいくつかの候補を挙げてみたが、妻は「遠すぎる」との理由で全てを拒否し、最終的に中央線の中野駅周辺をぶらぶらすることで話がまとまった。
私にとって中野は、現役時代、毎日のように電車で通過してはいたものの、この街を目的に降り立ったことは数回しかない。
しかし妻は高校時代の夏、中野に住んでいた伯父のマンションに居候していたことがあるらしく、ちょっとした思い出のある街なのである。

中野と言えば、「まんだらけ」をはじめとするマニアックな店が集まる「中野ブロードウェイ」が有名なディープな街である。
5年ぶりに訪れたブロードウェイは相変わらず国籍不明な異空間として存在していた。
漫画、アニメ、フィギュアからコイン、切手といった昭和のコレクションまで、マニアのための店が古い雑居ビルの中にこれでもかというほどひしめいている。
日本人のマニアに混じって、目を輝かせて店から店へと渡り歩く外国の若者たちの姿もたくさんある。

私たちは、ブロードウェイの東側に広がる飲み屋街を端から端まで歩いて、ランチを食べる店を探した。
中野駅の北口には昔から多くの飲み屋が集まる界隈があったけれど、しばらく来ないうちにそのエリアが拡大し飲食店の数や種類が格段に増えた気がする。
レトロな洋食屋から台湾料理、ベトナム料理など実の多くの選択肢があるが、その中から妻のお眼鏡にかなったのは、やはり魚料理だった。

中野の老舗居酒屋「陸蒸気」の並びにある「さかな酒場 魚星」という居酒屋に入る。
入り口に水槽が置かれていて、店内はかなり広い。
全国各地に展開する居酒屋チェーンのようで、ここは中野駅北口店ということらしい。

妻が選んだのは、「鮮魚の西京焼きランチ」(1155円)。
さすがチェーン店だけあって、この物価高の中、値段の割にボリュームがある。
揚げ物を食べない妻は、セットの魚のフライは私にくれた。

私は「海鮮ばらちらし」(990円)を注文した。
年とともに、ばら寿司がどんどん好きになる。

居酒屋のランチなので、正直全く期待していなかったけれど、これがどうして値段の割に魚もたっぷり、味も悪くない。
なかなかコスパのいいランチだった。
食べログ評価3.34、私の評価は3.40。

食事を終え、再開発が進む中野駅の北口を散策する。
中央線からは時々中野の変貌ぶりは眺めていたものの、実際にこのエリアを歩くのは20年ぶりくらいだろうか。
すっかり変貌していて、もともと何があった場所なのかさっぱり思い出すこともできない。

そんな中、中野のシンボルである「中野サンプラザ」の建物は昔のまま残っていた。
昭和の時代には最先端のスポットだったこの建物もすっかり老朽化して、高層ビルに建て替えられることになっていた。
ところが、建築費の高騰により計画が頓挫、建物は使われることなく人が立ち入らぬよう囲いが施された姿で放置されている。
地元の人たちは、どこにでもあるような高層ビルにするよりも、この特徴的な三角ビルを改修して欲しいと反対運動も根強いそうだ。

そんなサンプラザの目の前では、中野駅の移設工事が今も行われていた。
中央線、総武線、東西線が乗り入れ、始発駅でもある中野駅は古い駅舎の西側に新しい駅を建設中で、すでにアトレが入居する新しい駅ビルも姿を現している。
年内に新しい駅舎と南北通路が開業し、来年以降駅ビルもオープンする予定で、数年がかりの大工事もようやく完了するのだそうだ。

さらに西に歩いていくと、ちょっと予想していなかった光景に目を奪われた。
広々とした芝生の公園が広がっていたのだ。
周囲には再開発によって建てられた今風のビルが建ち並び、その光景はもはや私が知る中野ではない。
この辺りはもともと警察大学校があったエリアだそうで、中野区とURが協力して駅前の区画整理を進めてきたという。

広大な再開発エリアは「中野四季の都市」と名付けられ、オフィスビルだけではなく、明治大学や早稲田大学、帝京大学なども進出している。
広い通路に沿ってカフェなど飲食店も入居して、ブロードウェイ界隈とは似ても似つかない新たな中野が出現したと言える。
今、東京では渋谷をはじめ各地で大規模な再開発が行われているが、中野の再開発はある意味手本となる成功例かもしれない。
新しくおしゃれな一方で無機的な区画と古くてわい雑だが人間味を感じる区画が道一本隔てて共存する街、それってある意味人間が最も暮らしやすい都市の形ではないかと私は感じた。

妻がかつて居候した伯父のマンションは、まだ残っていた。
もうすでに伯父夫婦は他界し、ここには住んでいないけれど、かなり老朽化したその建物はまだ昭和の面影を今日に伝えていた。
再開発エリアに隣接するこのマンションも遠くない将来、取り壊されることになるのだろう。

そろそろ歩き疲れたと見え、妻は「コーヒーを飲んでから帰りたい」と言った。
私はスマホで中野にある老舗の喫茶店を調べ、その案内を頼りに再び人間臭い街に戻った。
やっぱり、こういう街の方が落ち着くのは、私が昭和の人間だからだろうか?

どうやらお目当ての喫茶店は中野ブロードウェイの2階にあるらしい。
地図アプリを頼りにエスカレーターに乗り、迷路のようなビルの中を彷徨うが、その店はなかなか見つからない。
どうやらそのエスカレーターは2階ではなく、3階に直行するエスカレーターだったようだ。
このビル、やはり只者ではない。

こうしてビルの中を彷徨うこと10分、ようやくその喫茶店を発見した。
店の名は「さかこし珈琲店」。
周囲のマニアックな店とは一線を画す端正な店構え。
それもそのはず創業は1971年というから半世紀以上の歴史を刻む老舗のコーヒーショップなのである。

店内も落ち着いた雰囲気。
狭い店内の壁沿いに置かれたソファー席はすでにいっぱいで、唯一空いていたカウンター席に座ることができた。

入り口にはケーキが・・・

壁に作り付けられた棚には各種コーヒー豆が並んでいる。
この店の人気は圧倒的に「ケーキセット」(1250円)のようで、ほぼ全員がケーキを食べていた。
ただ私たちはもうお腹がいっぱいだったため、コーヒーだけ注文することにした。

私が選んだのは「深煎りブレンド」(730円)。
妻は「やわらかいブレンド」(700円)を選んだ。
決して安くはないが、コーヒー豆高騰の折、チェーン店でなければこの値段も致し方ないだろう。
ロイヤルコペンハーゲンの器に、今時珍しいブラウンシュガー。
昭和生まれの人間としては、やはりスティックシュガーではなく砂糖壺がある喫茶店がいい。
食べログ評価3.37、私の評価は3.50。

コーヒーを飲み終わったところで帰宅する妻と別れ、一人線路沿いの道を歩いて銭湯に向かった。
駅を東に進んでいくと、先ほどまでの人混みが嘘のように人通りが減って、住宅街に入っていく。
落書きを防ぐためか、線路沿いの壁には絵が描かれていたが、夜この通りを歩くのは少々薄気味悪いかもしれない。

目指す銭湯は、そんな住宅街の中にポツンとあった。
「中野温泉 天神湯」
戦前から続く銭湯を2023年にリニューアルオープンし、去年から今の名前に変えて営業しているという。
ということで、入り口の「唐破風屋根」は昔のまま残され、外壁は白く、瓦も立派な、いかにも銭湯らしい「宮造り建築」である。

営業時間は午後3時から11時半まで。
木曜日が定休日だそうだ。
入り口で入浴料550円を支払う。
銭湯を訪れるのもおそらく数十年ぶりだと思うけれど、日帰り温泉に比べると思ったほど入浴料は高くなく、これでは経営もなかなか大変だろうと要らぬ心配をした。

脱衣所の外には小さな庭があり、涼むための椅子も置かれている。
スーパー銭湯のように広くはないけれど、昔ながらの銭湯の風情がある。
ここから先は写真撮影は遠慮して、ネットの写真を拝借する。

浴室の正面にはお約束の富士山。
天井の高さがとても印象的だ。
リニューアルオープンからまだ日が浅いということで、決して広くはない浴室内は清潔に保たれている。
写真左側に映る浴槽は高温風呂で、夏には低温風呂になるという。
営業時間が始まったばかりの銭湯には、次から次へと客が入ってきてなかなかの繁盛ぶりだ。
銭湯といえば私のようなシニアが多いのかと思いきや、土地柄なのか若者のグループが多い。

そして、こちらがメインの浴槽。
仕切りの左側が中温風呂で、右側が水風呂である。
中温風呂の中に2つのマッサージ風呂と1つの電気風呂があった。
一通り試してみたが、マッサージ風呂は背中からジェット噴射が出るものと左右から出るものの2種類があり、とても気持ちいい。
続いて電気風呂に身を沈めてみると、その名の通り腹部にビリビリと電流が流れ、思わず飛び出してしまった。
これは使い方によっては疲労回復や患部の治療に効果がありそうだが、迂闊に入ると体がおかしくなりそうで、長居は無用とすぐに水風呂に入って熱くなった体を冷ました。

あっちに浸かり、こっちに浸かりして、なんだかんだ1時間近く風呂に入っていた。
湯から上がり、坪庭の椅子でほてった体を冷やす。
私のロッカーの下を使っていた若い男性が床に座り込んで何かしていると思い観察していると、その男性はおもむろに化粧水が染み込んだパックを取り出し女性のように顔に貼り付けた。
今時の若い男性は化粧をすると聞いてはいたが、実際にパックする男性を見たのは初めてだったので、なかなか新鮮な光景であった。
いつもと違い行動をすれば、いつもとは違う光景に出会えるということか。

そんなことで、東京銭湯めぐりの第一弾となった中野の「天神湯」。
安価で気持ちのいいお風呂であった。
久しぶりの銭湯体験は、また別の銭湯ものぞいてみたいという衝動を私の中に呼び起こした。

銭湯を出て街に戻ると午後4時半を回り、ぼちぼち店の看板にも明かりが灯り始めている。
「風呂上がりにビール1杯飲んでから帰る」と妻には伝えてあるので、中野の広大な飲み屋街を彷徨い、店を物色した。

「中野新仲見世商店街」という看板が掲げられた一角に入ると、何やら行列が出来ている店があった。
私もその列に加わると、ほどなく「立ち飲みならすぐに案内できます」と言われる。
長居する気はないので立ち飲みでも構わない。
促されるままに店の裏手に回る。

そこは厨房の目の前で、狭いカウンターに3組の客が入るようになっている。
これはなかなか雰囲気のある店だ。
そう思い、店名を調べると「酒パチパチ」という変わった名前の店で、2023年開業というから見た目によらずさほど古い店ではないらしい。

とりあえず、生ビールを注文すると、「お通しです」と言ってぶりしゃぶが運ばれてきた。
新鮮なぶりとワカメをお湯にくぐらせ、ペットボトルに入ったポン酢でいただく。
これがなかなか絶品で、ぶりはもちろん、茎ワカメもお湯に通すと鮮やかな緑色に変わりとても美味しい。

店員さんはほとんどが外国人らしく、「ご注文はこちらのQRコードからお願いします」と言う。
私の目の前にある大鍋が気になる。
もつ煮込みは刺身と並ぶこの店の名物のようなので、スマホでそれを注文した。

お椀に入ったもつ煮込み。
玉子と豆腐が目立つが、中にもつもしっかりと入っていた。
美味い!
しっかり味噌味が染み込んだもつ煮込み、これはもう文句なしである。
生ビールともつ煮込みを注文して、ぶりしゃぶのお通しが付いて1890円。
「せんべろ」とはいかないものの、まあ満足の風呂上がりの1杯であった。
食べログ評価3.48、私の評価は3.60。

午後5時、ちょうど店を出たところにある開店したばかりの店の前に行列ができている。
店名を見ると「中野 川二郎」とある。
気になって調べると、鰻串焼きを売りにする老舗の居酒屋だった。
「吉田類の酒場放浪記」でも紹介されたことのある中野の有名店らしい。

駅に向かって歩いていると、あちこちの路地裏にテーブルが並べられ、いい感じの酔っ払い天国が出来上がっていた。
久しぶりに訪れた中野。
こんな魅力的な街だったとは、不覚にも知らなかった。
銭湯&グルメを探索する東京の旅は、今年の、いやこれからずっと私の旅のテーマに加わりそうである。
「中野温泉 天神湯」
住所:中野区中野5-10-10
営業時間:15:00-23:30
定休日:木曜
http://tenjin-yu.tokyo/JN/
「さかな酒場 魚星 中野北口店」
電話:050-5589-5216
営業時間:11:30 - 23:00
定休日:無休
https://sakana-uosei.com/nakanokitaguchi/#carousel2
「さかこし珈琲店」
電話:03-3388-3449(予約不可)
営業時間:11:00 - 18:30
定休日:水曜、木曜
「酒パチパチ」
電話:03-5942-8333
営業時間:16:00 - 23:00
(土曜のみ 14:00 - 23:00)
定休日:無休
https://www.instagram.com/sakepachipachi_nakano/