<きちたび>香川県の旅2024🇯🇵 外国人で溢れかえるフェリーに乗って瀬戸内海に浮かぶ現代アートの島「直島」へ

🇯🇵 香川県/直島町 2024年5月14日~15日

鳥取、津山の旅を終えて一旦岡山の家に戻ると、古民家の古い土壁が剥がされ工事は本格的に始まっていた。

家の中を点検し、畑の水やりなど必要な用事をささっと済ませると、私は再び車で旅に出た。

今度の目的地は瀬戸内海に浮かぶ世界的なアートの島「直島」である。

直島は岡山県玉野市の沖合わずか3キロに浮かぶ島だが、行政区分では香川県に属する。

当然、高松からも船が出ているけれど、岡山から行く場合は宇野港からフェリーに乗るのが一般的だ。

瀬戸大橋ができる前は、宇野港を発着する宇高連絡船が本州と四国を結ぶ大動脈だったが、橋の開通後、宇野港の重要性は著しく低下して玉野の街も少し活気を失っているように見えた。

しかし、そんな私のネガティブな先入観は一瞬にして打ち破られてしまう。

我が家から車で1時間弱。

宇野港から直島の宮浦港行きのフェリーに飛び乗ると、展望デッキには日本とは思えない光景が広がっていた。

そこにいた乗客の半数以上が外国人観光客であり、彼らの多くが直島を主要な目的地として日本にやってきていることを知ったのだ。

午前11時、宇野港を出港するとすぐに船の左舷に島が現れた。

これが直島だ。

この日は雲ひとつない快晴で、船旅には最高のお天気である。

島の北側でショベルカーが何やら作業しているのが見えた。

今でこそアートの島として有名になった直島だが、大正から昭和にかけては銅の精錬を行う三菱金属鉱山の企業城下町だった。

今でも直島の北半分は三菱が所有し、産業廃棄物から金や銀を取り出すリサイクル事業の拠点となっているそうだ。

船の右舷、西の方向には瀬戸大橋が見える。

青い海と空、そして橋と船。

世界有数の多島海である瀬戸内海の魅力は、日本人が思う以上に外国人を惹きつけてやまないようだ。

宇野港を出港してわずか20分。

フェリーは宮浦港に到着した。

私の子供の頃には工業廃水でヘドロの海だった瀬戸内海もずいぶん水質が改善されて直島周辺の海は美しく澄んでいた。

港の一角には、直島のシンボルとなっている草間彌生さんの「赤かぼちゃ」があった。

草間さんのかぼちゃはいろんなところで目にするため、今では特別珍しくもないが、このオブジェが作られた2006年当時はまだ貴重で、直島のイメージを拡散するのに大いに貢献した。

近くに行って初めて知ったが、かぼちゃの中は空洞になっていて、中に入って窓から瀬戸内海が眺められる構造になっているのだ。

何事も百聞は一見にしかず。

旅の面白みはこうしたちょっとした“発見”にあるのだ。

フェリーを降りた外国人たちは一斉にレンタサイクルのお店に殺到する。

公共交通機関が乏しい直島では自転車が必需品という情報が観光客の間で広く知られているらしい。

坂が多い島なのでアシスト付き自転車が人気で、それ自体が多くの外国人にとっては初体験なのだろう。

でも、車で来ている私は交通手段を気にすることなく、気の向くままに島内を好きなように回ることができる。

手始めに、港近くの駐車場に車を停めて、宮浦の細い路地を歩くことにした。

事前にどこに何があるのか全く予備知識を仕入れることなく直島を訪れているので、ちょっとした探検気分。

路地の先に何が待っているのかわからないのが、妙に楽しい。

ところどころにアートを感じさせる建物がある。

ただ、営業していないところが多く、歩いている人も多くない。

私と同じフェリーでやってきた外国人たちは、どうやら宮浦を素通りしているようだ。

ちょうどお昼時だったので、何か食べたいと思ったが、宮浦地区には思ったほど飲食店がない。

あれこれ迷う余地もないままに、営業していたこちらのお店でランチを食べることに。

「直島横丁」

どうやら去年オープンしたばかりの新しい居酒屋らしい。

店内は内装が白で統一されていて、天井からいろとりどりの提灯がぶら下がっている。

ちょっとおしゃれな海の家といった雰囲気だ。

働いているのは若い女性が2人。

客は、私以外全員、外国人だった。

私が注文したのは「いりこのお出汁のさぬきうどん」(820円)。

高校の食堂で食べたうどんを思い出すほどシンプルなうどんで、特別美味しいわけでもないけれど、値段はそこそこ。

やはり、観光地である直島の物価は高い。

食事を済ませて私が向かったのは、こちらの奇抜な建物。

その名も、直島銭湯『I♡ 湯』。

「入浴できる美術施設」なんだとか。

路地を散策する中で偶然見つけたのだが、その時にはまだ営業しておらず、午後1時からの営業開始に合わせてタオルを持って一番乗りした。

入り口の水槽には大きな金魚。

中央にはペンギンの像が立っている。

なんともシュールなこの建物全体が、アーティストの大竹伸朗さんによるアート作品なのである。

脱衣所で服を脱いで浴場に入ると、想像もしない空間が待っていた。

男湯と女湯を分ける仕切りの上には大きな象がいる。

天井から降り注ぐ赤や緑の光が浴室に貼られた白いタイルを染めて、文字通り現代アートの世界だ。

瞬間的に、私の好みだと思った。

湯船に浸かりながらゆっくり周囲を見回すと、壁画や浴槽の床に描かれているのがどれもエロチックな絵だということに気づく。

私の後からお風呂に入ってきたのはフランス人だったが、後で聞くとここを訪れる客の半分以上は外国人だということだった。

お風呂を満喫した後、車に乗って島の南岸に行ってみる。

直島の面積は14平方キロほどで、島を一周してもわずか16キロほどの小さな島だ。

おまけに島の北半分は三菱マテリアルが占有しているため、観光客が訪れる場所は限られている。

直島の南の海岸沿いには、ベネッセが開発した美術館やホテルが点在する。

岡山に拠点を置くベネッセが直島で文化的な取り組みを始めたのはバブル時代の1980年代後半。

直島町長からの要請に応える形でこの一帯の土地を購入し「直島文化村プロジェクト」をスタートさせる。

1992年に宿泊施設と美術館を兼ねたベネッセハウス本館「ミュージアム」を建てたのを手始めに、「オーバル」「パーク」「ビーチ」「テラス」と宿泊棟やレストラン棟を増やしていった。

どれも建築家・安藤忠雄が設計したもので、建物自体がアート作品となっている。

直島を訪れる外国人観光客のお目当ても、ここに泊まりながら、美しい瀬戸内海の景色とアートを楽しむことなのである。

ビーチに面した一帯には車で立ち入ることが許されず、とりあえず敷地外に設けられた駐車場に車を停め歩いて「ミュージアム」に向かう。

海岸線に沿って坂道を登っていくのだが、その途中にも屋外の美術作品が置かれていたり、海や四国の景色を楽しんだりできるので、さほど遠いとは感じない。

「自然・建築・アートの共生」をコンセプトにした『ベネッセハウス・ミュージアム」の入場料は1300円。

事前の予約は必要ない。

安藤忠雄の建築は、瀬戸内海の景色をまるで絵画のように取り込む。

展示される国内外のアート作品も、直島の自然をテーマにこの美術館のために作られたものが多い。

とはいえ、日本人にはまだまだ馴染みが薄い現代アートの世界。

この島を訪れる観光客が圧倒的に外国人で占められている理由が少し理解できた気がした。

広い敷地内を徒歩で回るのは大変だ。

次に私が向かったのは『地中美術館』。

事前にスマホから予約すると、人気のようで夕方しか空きがない。

駐車場から歩くと1時間以上かかりそうなので、無料のシャトルバスを利用して訪れることにした。

シャトルバスを降りると待合室のような建物があり、予約した時間になるまでそこで待機する。

そして時間になると、徒歩で地中美術館へと向かうように言われた。

入場料は2100円。

エントランスでスマホで購入したチケットをチェックされ、ゲートを抜けるとコンクリートで囲まれた薄暗い通路が続いていた。

通路を抜けると、コンクリートの壁で囲まれた広場のような場所に出る。

地中美術館の建物も安藤忠雄さんの作品。

撮影が許されるのはここまでである。

『地中美術館』は、「自然と人間との関係を考える場所」として、2004年に設立されされた。

公式サイトに掲載された写真を見ると、その名の通り、三角や四角いコンクリートの構造物が地中に埋め込まれ、それをつなぎ合わせるように展示スペースが広がっている。

なんとも不思議な美術館である。

なんの予備知識も持たずに訪れた私は、この迷路のような美術館の中で迷い、同じ場所を何度もぐるぐる回ってしまった。

この美術館に展示されているのは、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアという3人の選りすぐりの作品のみ。

地下でありながら天井から降り注ぐ自然光の下で作品を鑑賞できるようになっている。

つまり、季節や時刻によって見え方が変わるのだ。

中でも私が最も衝撃を受けたのは、ジェームズ・タレルの作品「オープンスカイ」。

天井に開かれた四角い窓から空が見えるだけなのだが、すごく厳かで神秘的な気分を味わえる。

私が訪れた日は雲ひとつない快晴だったため、四角い窓の中は鮮やかなブルー一色で、白い天井と青い空のコントラストが目に焼き付いてしばしその場から動くことができなかった。

この美術館で何を感じるかは人それぞれだとは思うけれど、一度は訪れる価値のある不思議な美術館だった。

一夜が明け、直島のアート体験2日目。

私は昔ながらの漁港が残る本村地区に行ってみた。

直島町役場も置かれている島の中心ではあるが、少し歩けばひと回りできてしまうほどの小さな集落である。

この本村地区を舞台に展開されているのが「家プロジェクト」。

空き家や神社などを活用してアーティストが個性的な作品を作っているのだ。

まず最初に、スタート地点となる「本村ラウンジ&アーカイブ」を訪れて、チケットを購入しなければならない。

1997年にスタートした「角屋」を皮切りに、現在7軒のアート拠点が作られているが、このうち6軒の共通チケットが1050円で販売されている。

チケットを購入する際、6つのうち最初に訪れることを勧められたのが「南寺」だ。

寺の内部は真っ暗で、完全入れ替え制になっているため、朝イチで訪れた方が待ち時間が少なくて効率的に回れるというのがその理由だった。

「南寺」はジェームズ・タレルの作品に合わせて安藤忠雄さんが新築したもの。

かつてこの界隈にあった寺社仏閣の記憶を現代的なテイストで甦らせる試みだという。

お寺の前にはすでに行列ができていて、英語を話す日本人ボランティアがこの作品を鑑賞するための注意点を説明してくれる。

建物の内部は一寸先も見えない暗闇なので何かを落としても探すことができないため、余計なものは持ち込まないのがここでのルールだ。

一度に中に入れるのは8〜10人程度。

私以外は全員外国人だった。

フランス人を筆頭にヨーロッパの人が目立つが、インドネシアから来たという若いカップルもいた。

こちらは「家プロジェクト」の最初の作品となった「角屋」。

築200年の古民家に入ると、中がプールのようになっていてさまざまな色の数字が輝いていた。

アーティスト宮島達男さんの作品だ。

こちらは『護王神社』。

江戸時代から祀られている護王神社の改築にあわせ建築家の杉本博司さんが設計したもの。

一見伝統的に見える建物だが、よく見ると本殿の階段がガラスで作られていて、それが地下の石室にまで繋がっているというアート作品でもある。

こちらの建物は『碁会所』。

昔、碁を打つ場所として島の人々が集まっていたことに由来し、造形作家の須田悦弘さんが建物だけでなく石庭に設けられた井戸や椿までトータルでアート作品に仕上げた。

そして、直島銭湯を作ったアーティストの大竹伸朗さんが手がけた「はいしゃ」も面白い。

古い歯医者の建物を利用したこの作品では、派手派手しい二階家の中に突如「自由の女神」が出現する。

こうした個性的な「家プロジェクト」の作品の中で、私が一番気に入ったのは、こちらの「石橋」。

集落の外れにあるため訪れる人も少なめで、ちょっとした穴場かもしれない。

ここはもともと製塩業で栄えた石橋家の住宅、それを日本画家の千住博さんが5年の歳月をかけて手を入れた。

土間を上ると広い板張りの部屋があり、開け放たれた縁側の先に芝生の庭が広がる。

古い家をなるべく自然な形で再生させつつ、庭の真ん中に大きな石を置くことによりアート作品に昇華させているのだ。

この庭を眺めていると涼しい風が吹いてきて、とにかく気持ちいい。

そして奥の蔵には、千住博さんの代表作である「滝」が2つの壁を埋め尽くすように広がっていた。

部屋に照明はなく、わずかに差し込む自然光により暗闇に白い滝が浮かび上がる。

なんと心の落ち着く空間だろう。

できればずっとこの家に座っていたいと思う居心地の良さだが、運悪くちょうど午前の公開時間が終わるタイミングになってしまった。

こうした「家プロジェクト」の作品以外にも、本村地区を歩いていると、路地の至る所にアートが潜んでいる。

できることなら私のように、事前の下調べをせずに直島を訪れることをお勧めしたい。

現代アートとはそれをどう見るかは人それぞれ。

自分の目と足で探して思いがけない作品に巡り合うことで、自分の中の何かが反応するのを楽しむのが醍醐味だ。

特別、美術が好きというわけではない私にとって、直島は期待以上に刺激的な場所であった。

昭和の高度成長から取り残され衰退していた島を、アートの力で蘇らせたベネッセの前進である福武書店の2代目社長・福武總一郎さんの先見性には脱帽だ。

明治から昭和にかけて、瀬戸内海は各地で埋め立てられて工業地帯に変貌、ヘドロの海になってしまった。

しかし今、直島を筆頭に瀬戸内海にはアートの島が点在し、それを目当てに世界中から観光客がやってくるようになったのである。

それに伴って、瀬戸内海も昔の美しさを取り戻しつつある。

子供の頃の汚かった瀬戸内海を知る者として、この変化は驚きであり、日本人が進化した証だと信じたい。

<きちたび>瀬戸内島巡り〜岡山から日生諸島への半日船旅

コメントを残す