<きちたび>瀬戸内島巡り〜岡山から日生諸島への半日船旅

親の介護と農地の管理を目的とした今回の岡山帰省。

最終日の午前中を利用して、日生諸島への船旅を楽しんだ。日生と書いて「ひなせ」と読む。群島に囲まれた穏やかな瀬戸内海で、牡蠣の養殖が盛んな穏やかな海だ。

岡山市内にある母親の自宅を朝5時40分ごろ出て、6時半前には日生港に着いた。

岡山では外出自粛の要請は解除されたとは言え、公共交通機関を利用するのはまだ抵抗があるが、レンタカーでの移動は人との接触が基本的にないのでこの時期には便利だ。

でも、不要不急の外出なので、なるべく人と接しない行動を心がけるのは当然だろう。

この日の日生は快晴で、海はとても青く静かだった。

まだ朝早いので港には人影がまったくなかった。

日生の街の沖合に浮かぶ日生諸島へは、地元の足となる定期船が一日 便運航している。一番早い船は朝6時15分出港。私が到着した時にはすでに出発していた。

次の船が出るのは7時30分だということで、1時間ほど時間を潰さなければならない。

まず行ったのは、ネットで見つけた展望台「みなとの見える丘公園」。

どこかで聞いたような名前だが、横浜のそれとは似ても似つかぬ寂れた駐車場があるだけ・・・。

でも、諦めず徒歩でさらに登っていくと・・・

横浜なんか目じゃない絶景が目の前に広がった。

奥に見える大きな島が小豆島。

その手前に点在する小さな島々が私の目指す日生諸島だ。

まだ時間があったので、日生から橋で渡れる鹿久居島と頭島まで車で行ってみた。

「うちわだの瀬戸」を渡って本土と鹿久居島を結ぶ橋には「備前♡日生大橋」というハートマークの入ったちょっと恥ずかしい名前がつけられているという。

でもこの橋の中央部分に車を停車できる路肩があって・・・

そこから「うちわだの瀬戸」の絶景を眺めることができる。

海峡を埋めるように設置されている牡蠣筏。

日生名物のB級グルメ「かきおこ」には、この海で育った牡蠣が使われるのだ。

そんなことをしている間に、あっという間に出発時間の7時30分になった。

ひなびたオンボロ船を予想していた私の前に、紅白に塗られた真新しい船が到着した。

2017年に就航したばかりの大生汽船の新型船「NORINAHALLE号」。

随分しゃれた名前を付けたなと思ったら、「乗りなはーれ」と呼ぶという。ただのダジャレだ。

しかしこの船、実に快適な船なのだ。

7時30分発の船の乗客は私一人だけ。

2階が小洒落たデッキ席となっていて、気持ちいい海風を感じながら360度瀬戸内の多島海を独占できる。

最初の寄港地・大多府島へは35分。

牡蠣筏の上で作業する姿も間近に見ることができる素敵な船旅だ。

でも、私の目的地はここではない。

大多府島で釣り人を一人乗せて、次の寄港地・頭島へ向かう。

実は、この日の私の目的地は、海が見える別荘が建ち並ぶ鴻島。

実は、日生から鴻島までは直行便があればわずか15分で行ける。しかしあいにく、午前中に鴻島へ行って昼までに岡山に戻ろうとすると、別の島を大回りしなければいけない時刻表になっているのだ。

そのため、私は日生から大多府島、頭島へ行き、頭島から再び大多府島を経由して鴻島に行くルートを取るしかなかったのだ。

料金もその分、高くなる。直行なら310円のところ、私のルートだと1270円かかった。でも、それだけ長時間、瀬戸の海を堪能できるわけで、大回りする価値は十分にあると思う。

目的地の鴻島に着いたのは、8時50分。

日生を出発してから、1時間20分船に乗っていたことになる。

テレビでは見たことがあったが、初めて見る鴻島はやはり異様だった。

国立公園である瀬戸内海では、開発が規制されているが、なぜかこの島だけ秩序なく別荘が立ち並んでいる。

海辺の家からは磯に降りる階段も伸びていて、静かな瀬戸内海を文字通りプライベートビーチにすることができるようだ。

こんな島、他にはないだろう。

鴻島で降りた客は私だけ、代わりに数人が船に乗り込み日生に向かった。

船着場から山に上がる急斜面を登っていくと、海を見下ろすようにいくつもの別荘が立っていた。

家の下には鉄骨やコンクリートで頑丈な骨組みが作られている。この島には平地がないため、どの家もすごい急斜面に無理やり建てられているのだ。

でも、そうした無理をしたくなるのも理解できるほど、各戸からの眺めは素晴らしい。

私がこの島に目をつけたのは、その眺めはもちろんだが、別荘の値段の安さに惹かれたからだ。

床面積が170平米もある立派な別荘が1000万円ちょっと、小さい別荘なら100万円台から売られている。

「死ぬまでに一度海が見える場所で暮らしたい」と思い続けてきた私にとって、退職後の秘密基地としてとても魅力的なロケーションと価格なのだ。

私の懸念は、価格が暴落したリゾート地にありがちな荒廃ぶりだった。

道路やライフラインなど、住める状況なのかどうか、それを自分の目で確かめてみたかったのだ。

結論から言えば、予想していたよりずっと良さそうに見えた。

島には店もないし、人もほとんど歩いていない。しかし、廃屋が放置されているような荒んだ印象は全く感じなかった。

「いい物件が出れば、真面目に検討したい」と思った。

でも同時に、「妻が絶対に反対するだろうな・・・」とも思いながら、50分の滞在時間はあっという間に過ぎ、私は帰りの船に乗った。

私のように長時間船に乗っている客がいないため、船長さんがいろいろ気を使ってくれて、帰りは大多府島で一旦降りると料金が安くなるとアドバイスしてくれた。

「行きもそうすれば安くなったのに、悪かったね」と船長さんの方が恐縮してくれた。本当に親切ないい船長さんだ。

大多府島は、開港300年を超える古くから人が暮らす島だったようだ。

鴻島とはまったく印象が違う。

住民の多くは漁師で、牡蠣の養殖を主な生活の糧としているようだ。

「こんな生活感のある島もいいな」と感じる。

船長に教えてもらって、集落の細い路地を抜けて島の反対側に出ると、小豆島を望む断崖の上に石のベンチがポツンとあった。

船でしか行けない離島のベンチ。

訪れる人も多くはないが、そこには雄大な瀬戸の海が広がっていた。

岸辺には、牡蠣の養殖に使う貝殻が山積みになっていた。

漁業とはいえ、どちらかといえば農業に近い。

穏やかな海で営まれる人々の暮らしは、海に負けないぐらい穏やかに見えた。

大多府島から日生に向かう定期船には、2人のおばあさんが乗り込んだ。

買い物にでも行くのだろうか?

この船は、文字通り生活の足。

コロナの状況下では、観光客もまったく来ないので乗客の大半は地元の人たちだ。

日生港に到着したのは、午前11時前。

母親へのお土産を買うために、観光名所にもなっている日生漁協が運営する魚市場「五味の市」に行ってみた。

普段は活気がある魚市場は、コロナの影響でガランとしていた。

わずかに営業していたお店で、「牡蠣の佃煮」というものを買って帰った。

船会社も漁業者も、コロナのせいで大きな打撃を受けている。

まだ観光するには早いとは思いながら、船に乗ってお土産を買うことで、少しでも応援できればと思った。

これから介護のため岡山に行くことも増えると思うが、瀬戸内海の島巡りという新たな楽しみが見つかった。

素晴らしい自然に恵まれているのに、あまり注目されていないこうした島々を船で訪れて、このブログでも紹介していければと思っている。

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