<吉祥寺残日録>ウクライナ危機🇺🇦 ロシアの軍事侵攻から1年!世界は激変し、グローバリゼーションの時代は終わった #230224

今日は2月24日。

あの忌まわしいロシアによるウクライナ侵攻から1年が経つ。

状況は何も改善しておらず、出口は全く見えてこない。

侵攻1年に合わせてロシア軍が大規模攻撃を仕掛けてくる可能性があるとして、ウクライナでは24日、在宅勤務やオンライン授業が奨励され、なるべく外出を控えるようにして節目の1日を過ごすという。

すっかり戦時下での生活が日常となり、度重なるインフラ施設への攻撃に対してもパニックに陥ることはない。

どんなに過酷な現実でも、人間にはその状況を受け入れ「慣れる」という能力が備わっている。

この1年間に、何人のウクライナ人が死亡したのか、正確な数字は一切明らかにされていない。

ウクライナでは今も戒厳令が敷かれ、戦時下の情報統制が続いている。

死者数も重要な国家機密なのだ。

過去の戦争の歴史を少し勉強してみればわかることだが、一度こう着状態に陥ると、戦争というものは何年も何十年も続くものである。

実際のところ、ウクライナとロシアの戦争は2014年に始まっていて、その意味ではすでに8年以上戦いが続いているということになる。

唯一、この戦争を終わらせることができるプーチン大統領は、23日「祖国防衛者の日」を祝うモスクワでの大規模集会に出席した。

スタジアムを埋め尽くした群衆は手に手にロシアの国旗を掲げ、熱狂的にプーチンさんを迎える。

その日行ったテレビ演説で、プーチン大統領は核戦力のさらなる増強を発表した。

「今年はICBM『サルマト』が実戦配備される。(空中発射型の)極超音速ミサイル『キンジャール』の製造を継続するほか、(海上発射型の)極超音速ミサイル『ツィルコン』の大量供給を始める」

NATOの軍事支援により、ウクライナで思い通りの戦果が得られない苛立ちは、核戦力の強化という形で西側諸国との対決という構図を際立たせる方向に向かっている。

その手法はもはや北朝鮮と何ら変わらない。

注目されるのは中国の動きである。

侵攻1年に合わせモスクワを訪問した中国の外交トップ王毅政治局員と会談したプーチン大統領は、両国関係が新たな節目を迎えつつあると述べた。

これに対して王毅氏はこんなことを話したという。

「両国は危機や混乱に度々直面するが、危機には常にチャンスが潜んでおり、危機はチャンスに転じる可能性がある。だがチャンスに変えるには、今以上に自発的に変化を見極め、両国の包括的な戦略的提携を一層強化するためにさらに積極的に変化に対応する必要がある」

いかにも中国人らしい、わかったようなわからないような表現である。

しかし、中国は近くウクライナ戦争の和平案を発表するとみられ、その内容および反応が注目される。

西側諸国が完全にウクライナに肩入れしている状況では、ロシア・ウクライナの仲介を行える国は限られている。

中国やトルコ、インドなどがその候補となるだろう。

中でも中国は一貫してロシア寄りのスタンスを崩さず、表立った軍事支援は控えているものの売り手を失ったロシア産の原油や天然ガスを大量購入して経済的にロシアを支えてきた。

その一方で、話し合いによる解決を唱えて、必要ならば仲介役を引き受けるとして漁夫の利を狙ってきた。

まだ機が熟しているとは思えないが、今後ウクライナが軍事的に窮地に陥った時、中国が仲介役としてクローズアップされる可能性がある。

いずれにせよ、ロシアも西側諸国も今回の戦争によって多くの武器弾薬を消費し余力がなくなりつつある中で、中国から見れば米ロの両軍事大国に追いつくまたとないチャンスだと映っていることだろう。

ウクライナでの戦争は、さまざまな意味で、世界を大きく変えつつある。

文字通り、歴史の大きなターニングポイントなのだ。

本来は最も積極的に仲介役を担わなければならない国連は、またもや機能不全と実力不足をさらけ出している。

国連安保理はロシアによる拒否権によって何一つ有効な決議を打ち出すことができず、議長国である日本は「法による支配」という漠然としたテーマで何とか安保理での議論を保とうと苦心した。

ロシアの国際法違反を暗に糾弾することに日本の狙いはあったが、「法の支配」という大きなテーマを掲げるとアフリカ諸国からは植民地時代の欧米列強の悪行にまで話が及び、G7が掲げる「正義」のインチキぶりが炙り出される結果となった。

結局、安保理ではなく多数決で決める国連総会で緊急特別会合を開き、ロシア軍の即時撤退と公正かつ永続的な平和の実現、そしてロシアの戦争犯罪に対する調査と訴追の必要性を明記した決議を採択し、何とか国連としての体面を取り繕った。

しかし、軍事侵攻後これが6回目の国連決議だったが、賛成、反対、棄権の比率は1年前からほとんど変わっておらず、分断の固定化を印象づけただけに見える。

先週の日本経済新聞にこんな世界地図が載っていて、ちょっと面白いと思った。

これは英誌エコノミストの調査部門「EIU」がまとめたもので、西側寄りの国が青系、ロシア寄りの国が赤系、中立の国がグレーで色分けされている。

普段日本でニュースを見ていると、どうしてもG7的な見方に偏ってしまうのだが、こうして世界を見回してみるとロシア寄りのスタンスを取る国が多いことがわかる。

この記事はアフリカ諸国の中にロシア寄りの国が多いことを指摘するものなのでラテンアメリカの状況が地図で示されていないが、南米でも左翼政権が勢いを増していてブラジルをはじめ中立的な立場を取る国が多い。

食糧やエネルギーをロシアに頼っている国が多いという側面もあるが、こうした途上国の多くには今も植民地時代の苦い思い出があり、旧宗主国だった欧米が掲げる「正義」が「偽善」と受け取られる土壌が存在し続けている。

さらに政治的に民主主義とはかけ離れた国も多く、内政に干渉する欧米諸国よりも、中国やロシアの方が付き合いやすいというリーダーたちも多いのが実態だろう。

こうした「グローバルサウス」と呼ばれる国々の声にも、私たちももっと敏感にならなければならない。

かつて東西冷戦の時代、反帝国主義、半植民地を掲げた「非同盟運動」が勢いを増した時期があった。

「第三世界」とも呼ばれ、インドやインドネシア、ユーゴスラビアなどと共に中国もその中心メンバーだった。

世界第2位の経済大国になった今も、中国は途上国のリーダーという立ち位置を手放そうとせず、地球温暖化問題などでは自らの排出量には目をつぶり、途上国を束ねてそのリーダーとして先進国側に更なる負担を求めている。

ロシアによるウクライナ侵攻は、間違いなく世界を変えた。

最も大きな変化は、対ロシアで結束した西側の人々の心の変化だ。

自分たちの平穏な生活を破壊する者が現実に存在することを目の当たりにし、敵と味方をはっきりと意識するようになった。

冷戦終結後の大きな潮流だった「グローバリゼーション」の終焉、この戦争を契機に世界は確実にブロック化へと転換するだろう。

民主国家 vs 専制国家。

自由資本主義 vs 国家資本主義。

「経済安全保障」の名の下に、サプライチェーンの再構築が進められている。

ここでも問題となるのが中国だ。

世界中の企業が依存してきた「世界の工場」であり、人口14億人の巨大市場から本当に西側の企業が足抜けできるのか、それはまだ予断を許さない。

これまで中国に寛容だったEU諸国で反中国の政治的機運が高まっているのは間違いないが、中国の生産力と巨大市場の持つ吸引力は突出していて、政府の掛け声とは裏腹に時間が経過すればするほど、再び中国に引き寄せられていく可能性も高いのではないかと私は見ている。

一方、当事者であるロシアの方は、戦争の勝敗に関わらず先行きは暗い。

今回の戦争のもたらしたダメージは目先の経済活動に限らず、優秀な人材の流出というボディーブローが長期的にこの国を襲うだろう。

その意味で、先日放送されたBS1スペシャル「ロシアの頭脳が流出する〜世界のIT産業は変わるのか〜」は大変興味深かった。

ロシアでは今もプーチン政権を支持する世論が根強いとされるが、インターネットに普段から接している若いIT技術者の多くがロシアの将来を見限って国外に脱出しているという。

ロシアのIT技術は世界でもトップクラスで、プログラミングの世界大会では優勝の常連、国内に90万人のIT技術者を抱えると言われる。

欧米のIT企業からもアウトソーシング先として仕事を請け負い、年間受注額は3000億円を超えている。

しかし今、ロシアの若者たちはいつ自分が徴兵されるかわからないという恐怖を抱え、ロシアが誇る世界トップクラスのIT人材がリスクを避けるため世界中に流出しているという。

番組ではアルメニアに脱出したロシア人夫婦に密着すると共に、優秀なIT技術者獲得にしのぎを削る各国の動きを取材する。

その中にはシリコンバレーのスタートアップもあれば、イスラエルの人材紹介会社もある。

特に興味深かったのは中央アジア・ウズベキスタンの動き。

首都タシケントに総額200億円を投入して「IT PARK」を設立、国をあげてロシアのIT人材獲得に乗り出しているというのだ。

すでに1000人のロシア人スペシャリストの招聘に成功し、世界の大企業から仕事を請け負うIT立国を目指している。

去年10月には山間の村に最新の設備を備えた「ITビレッジ」を立ち上げ、ここを拠点にロシア人プログラマーを講師に子どもたちの英才教育も始める計画だ。

ロシアから企業ごとウズベキスタンに引っ越してくるケースも出始めていて、同じロシア語が通じる環境を活かして今後さらに人材を呼び込もうとしているのだ。

超一流のIT人材を獲得することは通常では極めて難しい中、ロシア人IT技術者の大量流出は世界のIT地図を塗り替える可能性があり途上国にとってはまたとないチャンスなのだ。

しかしロシアの側から見れば、これはとてつもなく大きなマイナスであり、時が経つほどこの戦争がもたらした大きな損失にロシア国民は気づくことになるだろう。

国際通貨基金(IMF)の推計によると、昨年のロシアのGDP成長率は2.2%のマイナス、それに対してウクライナの方は30%もの大きな落ち込みだったと見られる。

西側の経済制裁にも関わらず、世界的なエネルギーや食糧価格の高騰により、ロシアの経済的ダメージは予測よりも小さくなった。

しかし戦争が長引けば長引くほど、欧米から切り離されたロシア経済は失速していくだろう。

さらに優秀な若者ほど国を去り、終わりたくても終われない消耗戦に国力を搾り取られていく。

誰も得をしない今回の戦争が終わった時、世界はどんな姿になっているのだろうと思う。

今の段階では全く予想もつかないが、世界の防衛予算がどんどん膨らむ先に幸せな未来は待っていない気がする。

限られた予算を防衛費につぎ込めばつぎ込むほど、人々の生活改善に回るべき予算は削られていく。

でも、戦争はすぐには終わらない。

その現実を受け止めたうえで、ウクライナ戦争1年にあたり私たちにできることは、これまで当たり前だと思っていたグローバルな世界を前提とした暮らしや生き方を見直し、地産地消など身の回りにあるものを大切にした新しい暮らし方に切り替えていくことなのかもしれない。

ウクライナ侵攻から1年、私は今、そんなことを考えている。

<吉祥寺残日録>地球のために今するべきことは、経済成長ではなく生活のダウンサイジング #211110

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