ウクライナの港湾都市オデーサ、世界遺産に登録されている大聖堂がロシア軍のミサイル攻撃により破壊された。

ウクライナによる反転攻勢は続いているものの、ロシアの鉄壁の防衛ラインを越えることは容易ではなく、ロシア軍はウクライナの穀物輸出施設などを攻撃しているという。
戦争になれば、歴史的な建造物も容赦なく破壊される。
世界遺産を管轄するユネスコはロシアによる攻撃を強く非難した上で、「意図的な文化遺産の破壊は戦争犯罪に当たる可能性がある」と文化財への攻撃を止めるように求めた。
しかし、第一次、第二次世界大戦によってヨーロッパの文化遺産がどれだけ犠牲になったことか。
それはもちろんヨーロッパに限った話ではなく、アジアを侵略した日本もかつて中国や朝鮮の歴史的な遺産を多数破壊した。
さらにいえば、戦争に限らず、天災や都市の近代化によっても歴史的建造物が破壊され私たちの前から消えてなくなってしまう。
そんな中、今から半世紀前の1972年、ユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」によってスタートしたのが世界遺産の取り組みである。
人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ文化遺産、自然遺産をリストに登録し、その保護は国際世界全体の任務とされた。
古いものを保護することは手間もお金もかかるが、一度破壊したものは二度と元には戻らない。
どんなに美しく再生したとしても、これは長い歴史を刻んできた建造物には及ばないのである。

先週、ゴルフに行った際、一緒にラウンドした私より少し年輩な方からこんな話を聞いた。
60歳で会社を辞め、それ以来は毎日が日曜日で、趣味は旅行、中でも世界中の世界遺産を回っているのだという。
なるほど、シニアの旅行先として世界遺産めぐりという話はよく聞くが、私はこれまでそうした目的で旅行をしたことがない。
とはいえ、これまでに90カ国以上を旅行していて、その中には多くの世界遺産も含まれていたことに思い当たった。
私はこれまでに幾つの世界遺産に行ったのだろうか?
素朴な疑問が浮上して、家に帰ってから世界遺産の一覧をチェックして、その数を数えてみた。
まずは、日本から。
日本には現在、20件の文化遺産と5件の自然遺産、合わせて25件が登録されている。
そのうち、私が訪れたことがあるのは、富士山、平泉、法隆寺、琉球王国、厳島神社、原爆ドーム、白川郷、日光、奈良、京都、姫路城、知床、小笠原諸島、西洋美術館、長崎キリシタン、奄美沖縄北部西表、そして明治日本の産業遺産という17件だった。
当然、世界遺産を目当てに旅していないので、登録遺産を一つ一つ見て回ったということではない。
とりあえず、そのうちの少なくとも1箇所は訪ねたことがあるということでカウントした。
日本と同数、17件の世界遺産を訪ねていたのはフランス。
これはフランスに世界遺産が多いことに加え、パリ支局滞在中に取材や家族旅行で国内を回っていたことが原因している。
パリ、モン・サン・ミシェル、カルカッソンヌ、ヴェルサイユ、ストラスブール、シャルトル、フォンテーヌブロー、アルル、アミアン、リヨン、アヴィニョン、ロワール渓谷、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ニース、そして南太平洋の仏領ニューカレドニアだ。
世界遺産の登録には国ごとに方針があるようで、フランスの場合、都市の歴史地区が世界遺産に登録されていることが多い。
これに対して北欧などは、街単位というよりも施設単位、より厳格に歴史的価値を見極めてリストに登録しているようで、思いのほか世界遺産の数が少ないのである。
日本やフランスのように世界遺産をインバウンドに利用しようという邪な考えがあまりないように見え、いかにも大人な北欧らしいと思った。
3番目に多かった国は、中国で10件。
万里の長城、北京の皇宮、頤和園、蘇州、杭州西湖、福建土楼、マカオ、大運河、明・清の皇帝墓、アモイの鼓浪嶼。
中国もさすがに世界遺産の宝庫だが、自分が意図せずに多くの世界遺産を巡っていたことに驚いた。
4番目はイタリア。
ローマやヴェネチア、フィレンツェ、ナポリ、アマルフィ海岸、マテーラ洞窟住居、そしてパレルモの7件だ。
5位は自分でも意外な2カ国がランクイン。
一つは学生時代に貧乏旅行をしていた南米ペルーで、マチュピチュのほか、ナスカの地上絵、クスコ、リマの歴史地区という4箇所の世界遺産を回っていた。
もう一つは20代の頃、取材で訪れたアフリカのタンザニア。
キリマンジャロ、ンゴロンゴロとセレンゲティの二つの国立公園、そしてかつて奴隷貿易の基地だったザンジバル島が世界遺産だったのだ。
以下、3つの世界遺産に行ったことがあるのは、アウシュヴィッツ強制収容所のあるポーランド、イグアスの滝があるブラジル、ピラミッドで有名なエジプト、ウィーンやザルツブルクがあるオーストリア、ウエストミンスターや湖水地方のイギリスの5カ国。
2つの世界遺産を訪れていたのは、タイ、インドネシア、ロシア、ウクライナ、チェコ、ドイツ、ベルギー、スペイン、エクアドル、オーストラリアの10カ国。
そして1つだけ世界遺産を訪れていたのは、韓国、カンボジア、ラオス、マレーシア、ネパール、インド、スリランカ、サウジアラビア、トルコ、ヨルダン、エストニア、リトアニア、ギリシャ、ハンガリー、スイス、オランダ、ルクセンブルク、バチカン、サンマリノ、マルタ、ポルトガル、チュニス、モロッコ、ケニア、カナダ、アメリカ、メキシコ、アルゼンチンの28カ国という結果になった。
こうしてリストを改めて見てみると、世界遺産に対する考え方が国によって異なることを感じる。
日本のように世界遺産をインバウンドの材料と考えて、1年に1つずつ登録している国もあれば、中国のように国威発揚の一環として自国の歴史をアピールしている国もある。
一方で北欧やドイツなどは、教会など厳格な歴史的な意味のある施設だけを登録していて、各地に点在する美しい街並みはほとんど世界遺産になっていない。
戦争で破壊されたという側面もあるのだろうが、私は国民性の違いという印象を強く受けた。
このようにして集計した結果、これまでの人生で私が訪れた世界遺産の総数はちょうど100件だということがわかった。
あまりにもキリの良い数字で驚いた。
ちなみに今年1月現在、ユネスコに登録された世界遺産の数は1157件だそうである。
世界遺産を詳しく知ろうと思えば、その国や地域の歴史を学ぶことにもなる。
闇雲に世界遺産ばかりをめぐるのも違うと思うのだが、これからは私も世界遺産を多少意識して旅行の計画を立ててみたいと思っている。