コロナの感染急拡大により、県境を跨いだ移動自粛が呼びかけられる中、私と妻は岡山に帰省している。
認知症が進んだ伯母に2度目のワクチン接種を受けてもらうためだ。

予想通り、伯母は抵抗した。
それはそれは激しく抵抗したのだ。
実は2度目のワクチン接種に行くことは直前まで伯母には内緒にしていた。
1度目のワクチンを打った後、数日間腕が痛かったようで、「もう私は絶対にワクチンは打たんことに決めた」と私にも他の人たちにも繰り返し言っていたからである。
もちろんワクチンは本人の自由意思であり、私たちも当初は「打ちたくなければ打たなくていいよ」と言っていたのだが、事情が変わった。
かかりつけのお医者さんから「もう一人暮らしは無理なので、どこかの施設を考えた方がいい」と強く勧められ、まずは認知症の専門病院への入院がいいだろうということになったのだが、入院のための絶対条件が「2度のコロナワクチンを終了して10日間経っていること」だったのだ。
妻は、「あれだけワクチンを嫌がっている以上、別の理由をつけてかかりつけ医に連れいていくしかない」と主張した。
私は「ワクチンを2回打つことの必要を本人に伝え説得する」と主張したが、当然のことながら伯母の抵抗が予想され、それを突破する自信もなかったのでまずは妻に任せてみることにした。

ところが、伯母の抵抗は想像以上だった。
「私は絶対行かない」「私は頑固だからいかないと言ったら絶対に行かない」
そう繰り返す伯母を最初はなだめすかして連れ出そうとしていた妻だが、最後はあまりの頑なさに怒り、泣き出してしまった。
気まずい時間が流れ、予約の時間はどんどん迫ってくる。
私は必死で説得し、お願いし、助けてくれと頼んだが、伯母は頑として言うことを聞いてくれない。
ついに妻は「あなたが無理やりにでもおばちゃんを抱っこして車に連れてきて」と言い出す。
「そんなこと、できるわけないじゃない」
頑として動こうとしない伯母と怒り狂う妻の間に挟まれて、私はオロオロするばかり。
まさに修羅場となった。
妻は先に車の方に行ってしまい、一人取り残された私は一生懸命伯母の背中をさすりながら、ワクチンの話を切り出した。
私はとにかく思いつくままに伯母を説得し、とにかくワクチンだけは打ってくれと懇願し続けた。
背中をさすりながら・・・やさしく・・・口から出まかせに・・・。
すると、奇跡的に伯母の態度が少し変わった。
妻の厳しい言葉と私の甘い言葉が伯母の心の中で化学変化を起こし、仕方ないから私たちの言うことを聞いてやろうと思ってくれたのかもしれない。
伯母はゆっくりと準備をし、私に促されながら車に乗った。

車に乗った段階で、伯母は覚悟を決めたらしく、医者についてからは大人しくスタッフの指示に従い診察室に入った。
ところが、予期せぬ事態が起きた。
伯母の体温が38度もあったのだ。
コロナワクチンは、体温が37.5度以上の人には打ってはいけないという決まりがあるとお医者さんが困った表情で説明してくれた。
しかし、診断の結果、風邪などをひいてはいないことが確認され、とりあえず水分を取って少し休んでから再び体温を測ってみましょうという判断となった。
「そんなに簡単に体温が下がるのだろうか?」
そう思いながら、私が伯母に付き添い、診察室の隅っこで伯母と待機する。
看護師さんが水を持ってきてくれる。
「この水は温くて美味しくない」と伯母が言う。
私は伯母が好きな「カルピスウォーター」を取り出すと、看護師さんはそれを紙コップに移して伯母に飲ませた。
するとどうだろう、伯母の体温が37.2度に下がったのだ。
「お年寄りは水分を摂りだがらないので脱水症状になりやすいんです」と看護師さんは言った。
よくあることらしい。
ただ、伯母の体温が上がった理由は、むしろ家を出る時の修羅場だったんだろうと私は心の中で思っていた。
いずれにせよ、伯母の2度目のワクチン接種はなんとか無事に終了した。

そんなこんなで、自宅にいる時のようにオリンピック中継も見られないが、昨夜放送された侍ジャパンのアメリカ戦は見た。
野球のトーナメントは不思議な方式となっていて、予選を首位で通過した日本とアメリカが準々決勝で直接対決し、勝った方は準決勝、負ければ敗者復活トーナメントに回ることになる。
まさに勝負所のこの試合、日本の先発は田中将大だった。
長年ヤンキースで活躍したマー君が日本球界に復帰した大きな理由はこの東京オリンピックに参加することだったと言う。
しかし、4回途中3失点で逆転を許し、無念の降板となった。

その後の試合展開は日本が追いつくとアメリカが突き放す展開で、5−6の1点ビハインドで9回の裏を迎える。
鈴木誠也のフォアボール、浅村のヒットで1、3塁のチャンスを作り、柳田の内野ゴロの間に同点に追いついた。
試合は延長タイブレークへ。
10回表、リリーフの栗林が無得点に抑える。
そして10回裏、まず代打の栗林がバントで走者を2、3塁に送り、続く甲斐がフェンス直撃のヒットを放ち、侍ジャパンが劇的なサヨナラ勝ちを収めた。

初戦のドミニカ戦に続くサヨナラ勝ち。
イヤが上にも盛り上がる。
次の韓国との準決勝に勝つと、決勝進出だ。
野球がオリンピックの公式種目となってから日本はまだ金メダルを取ったことがない。
悲願の金メダルへ、韓国との準決勝は必見である。

しかし白状すると、私は侍ジャパンの試合以上に同時間に裏で放送されていた卓球女子団体に興味があった。
相手は台湾、かなり手強い相手である。
私の贔屓である平野美宇は、石川とのダブルスに続き、シングルスでも台湾選手を破った。
その表情を見ていると、念願のオリンピックで試合ができる幸福感が顔に表れている。
エースの伊藤美誠も台湾のエースを破り、日本は3−0のストレート勝ちで準決勝に進んだ。
相手は香港。
そして最終的な目標は、中国を破っての金メダルである。

同じ時間、レスリング男子グレコローマン60キロ級決勝も行われた。
世界ランク1位の文田健一郎は惜しくも敗れ銀メダル、悔し涙に沈んだ。
柔道と同じくメダルを取って当たり前のレスリング。
しかし、入賞するだけでも快挙とされるスポーツもある。

今大会、私が大注目している陸上3000メートル障害の三浦龍司。
この種目日本人が決勝に進出するのは49年ぶり2人目で、レース最初から積極的にトップグループにくらいついた三浦は、日本人初の7位入賞を果たした。

男子走り幅跳びの橋岡優輝もこの種目37年ぶりの決勝進出。
見事6位入賞を果たすが、期待されたメダル獲得とはならなかった。

体操女子では、エースの村上茉愛が種目別ゆかで銅メダルを獲得した。
男子がずっと活躍してきたのでちょっと意外だが、日本女子の体操競技でのメダル獲得は実に57年ぶりだという。

そして今日も・・・。
ボクシング女子フェザー級の入江聖奈が金メダルを獲得した。
ボクシングで日本女子のオリンピック出場は今回は初めて、初出場で手にした初のメダルが金メダルだった。
コロナ禍の逆風の中、みんな、それぞれの持ち場で頑張っているのだ。
私も、今私がやるべきことを一生懸命やるだけ。
きっと、苦悩の先には私なりのメダルが待っていることを信じたい。