7日の出来事を書いておこうと思う。
この日は、南海なんば駅近くの宿「グリッズプレミアムホテルなんば」で朝ごはんを食べることから始まった。
ビュッフェスタイルの朝食は、ビジネスホテルよりはワンランク充実度が上で、少しずつ食べるのが楽しい和食中心の朝ごはんだった。
ちょこちょこっといろいろ食べるのも楽しいのだが、この朝食で一番印象に残ったのが、こちらである。
ちょっと甘口に味付けされた牛丼。
隣にはカレーも用意されていたが、カレーは他のホテルでもよく見かけるので、迷わず牛丼を選択した。
自分でごはんにかけるので、当然の如く汁だくとなる。
サラダやフルーツももちろん用意されているのだが、私的にはこの牛丼だけでこのホテルの評価がぐんと上がった次第だ。
朝食を済ませると、ホテルから徒歩2分の南海なんば駅に向かう。
平日の朝8時すぎ、到着する電車からは多くの通勤客が吐き出される。
私は午前8時40分発の特急「こうや1号」に乗り込む。
通勤ラッシュの混雑が嘘のように、車内はガラガラだった。
私の目的地は高野山。
去年3月に亡くなった伯母の1周忌に合わせて、永代供養をお願いしているお寺さんにお参りに行くためである。
世俗の塊のような難波から聖域である高野山にはわずか2時間足らず。
人間で溢れかえる俗世を徐々に離れ、次第に電車は深い山に入っていく。
私はこのアプローチが好きだ。
亡くなった人にわざわざ会いにいくという風情がこの路線にはある。
そして午後10時9分、高野山の麓にある「極楽寺駅」に到着した。
ここからケーブルカーに乗り換えて、一気に聖地・高野山に入る。
今にも滑り落ちそうな急斜面を登るこのケーブルカーは、地上と天上を繋ぐ近代的な使者のようなものだ。
山頂の高野山駅で今度はバスに乗り換え、2つ目の停留所「一心口」で降りる。
ほとんど歩く人もいない静かな通り。
さっきまで喧騒の難波にいたことが嘘のようである。
道沿いに植えられた杉の木が真っ赤に色づいていた。
花粉症の私としては、まさに恐怖の光景である。
伯母の永代供養をお願いしている「別格本山 西室院」はバス停のすぐ目の前にある。
この寺を訪れるのは、昨年妻と二人で伯母の供養をお願いに来た時以来だ。
あの時には、ひどい雨が降ったが、この日は雨は降らないものの冷え込みが厳しく、真冬用のダウンコートを着たまま本堂にあがらせてもらった。
私一人のために若いお坊さんが祈祷を行ってくれた。
鳥取の一般家庭出身というこのお坊さんは、若さに似合わない朗々とした声でお経を歌い上げる。
跡を継ぐべきお寺もないので、もうしばらくは高野山でいくつものお寺をまわり修行を続けたいと祈祷の終了後私に話してくれた。
その法話はまだ師匠の受け売りで重みに欠けたが、とても誠実で私はとても好印象を抱いた。
やはり高野山で永代供養してもらってよかった。
きっと高野山贔屓だった伯母も喜んでくれているだろうと思った。
お寺の玄関脇には、3月の雛祭りに合わせて雛人形が飾られていた。
質素なお寺に似つかわしくない雛飾りだったが、妙にそこだけ華やいでいて、それはそれで印象に残った。
「親族が集まって団体で来ることはないけれど、それぞれが故人に会いたいと思った時に、忌日にとらわれることなく思い思いに来させていただきたい」とお坊さんにお話しした。
「それはよろしゅうございます」と若いお坊さんは答えてくれた。
私も今度は別の季節にまた高野山を訪れたい、そんなことを思いながらお寺を後にした。
表に出ると、いつの間にか青空が広がっていた。
静けさに包まれた高野山は、故人の供養だけではなく、参拝する人の心に非日常を与えてくれる。
何かで迷った時、自分の心と向き合うために訪れるにはうってつけの場所だと思う。
お寺を出た後、バスに乗り、高野山駅からケーブルカーと南海電車を乗り継いで、また喧騒の大阪に戻った。
南海なんば駅の改札を出る手前に、蓬莱の豚まんで有名な「551 HORAI」の支店があって並んでいる人もいなかったので、「これはシメた!」とばかり、岡山へのお土産を購入した。
賞味期限は3日しかないため、自宅用と近所に配る分を買う。
駅の出店とはいえ、その場で蒸しあげていて、濛々と蒸気が上がるセイロがガラス越しに見える。
手にした豚まんはまだ熱々の状態だった。
それを手に、戎橋筋を歩いていると、「551 HORAI 戎橋本店」の前にはいつものように大行列ができていた。
並ばずに買えたのも、高野山のおかげかもしれない。
私が戎橋筋商店街を歩いていたのは、このお店に行くのが目的だった。
大阪名物というか、正確に言うと南河内の名物料理「かすうどん」の人気店『KASUYA 法善寺店』。
お店の正面には『元祖かすうどんの店』と書かれた看板が掲げられている。
「かすうどん」とは、牛の腸を揚げてカリカリにしたもの=「あぶらかす」または「かす」をトッピングしたうどんのことだ。
もともと南河内の畜産業の家庭料理として食べられていたローカルフードだったが、これを大阪を代表するB級グルメとして広めたのが1995年に南河内の藤井寺で創業したこの「加寿屋KASUYA」だという。
店内はコンテナほどの大きさの狭さ。
カウンター席が一直線に並び、2つの入り口から出入りする。
私が訪れた午後3時には、先客は全員外国人だった。
今やかすうどんの人気はグローバルで、実に様々な国籍の客が訪れている。
一口に「かすうどん」と言っても、実に様々な種類があるらしい。
とはいえ、私にはまだ「かすうどん」が何であるか正直わかっていないため、ここはベーシックな「かすうどんプレーン」(800円)を頼むしかないと最初から決めていた。
果たして、どんなうどんが出てくるのか?
お店を切り盛りするのはご主人一人。
それでも待つこと6−7分で、私の「かすうどん」がカウンターに置かれた。
何やら表面に油の膜があるのか、全体が光っている。
丼の中に散らばっている初めて見る具材。
どうやらこれが「あぶらかす」らしい。
「あぶらかす」というと天かすのようなものを想像するが、全く異なる具材で、噛むとじわっと旨味が口の中に広がる。
この「あぶらかす」から溶け出した脂と旨味が甘口のうどん出汁に深みを与え、とても美味しいうどんに仕上がっている。
これは確かに人気になるのも無理はない。
やっぱりうどんは関西、とても美味しい。
聖地・高野山で身を清めた後は、南河内の庶民の味「かすうどん」で精進落とし。
やはり、大阪難波と高野山の対極の組み合わせはとてもいい。
今度高野山に参った後に何を食べようか、そんなことを考えながら私は岡山へと向かった。
<きちたび>大阪難波の旅2024🇯🇵 初めての「なんばグランド花月」を立ち見席で楽しんでから串かつ発祥の店「串かつだるま」へ