🇨🇳中国/深圳 2019年6月28日
1999年に杭州で創業したアリババは、時価総額で中国最大、世界でも7位の大企業に成長しました。
電子商取引の「淘宝網 (Taobao.com)」や電子決済サービスの「支付宝 (Alipay)」など幅広いビジネスを展開し、毎年11月11日に行われる「独身の日」のセールでは1日に5兆円以上を売り上げ、世界中を驚かせています。
アマゾンとアリババが世界のEC市場を支配している状況ですが、そのアリババが今、インターネットの世界からリアル市場に進出しようとしています。
その拠点となるのが、「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」という名のスーパーマーケット。
深圳のど真ん中にできた「盒馬鮮生」をのぞいてきました。
盒馬鮮生
アリババの新型スーパー「盒馬鮮生」があるのは、地下鉄1号線と4号線が交差する「会展中心駅」。
まずは地下鉄の駅の「C」出口から直結のショッピングモール「皇庭広場 Wongtee Plaza」に入ります。
ちょうどお昼時だったので、飲食店はどこも盛況でした。
オレンジのスライダーが目立つこんなフルーツパーラーもあります。
飲食店を抜けたところに下りのエスカレーターがあり、盒馬鮮生の看板が出ていました。
エスカレーターを降りると、すぐ目の前に盒馬鮮生の入り口がありました。
この店のキャラクターはカバ。「盒馬」の発音が中国語のカバと同じだからそうです。
「BETTER LIFE RIGHT HERE」
アリババが「より良い生活」を提案するという心意気が感じられます。
生け簀とフードコート
店の仕組みもわからないまま、とにかく店の中に入ってみます。
まず目についたのがフードコート。昼時なので、多くの人が食べていましたが、スーパーの中と考えるとちょっと不思議な光景です。
その先に進むと、驚きの光景が待っていました。
大きな生け簀にいる生きた海の幸を網ですくうお客さんたち。このまま買って帰ることも、その場で調理してもらって食べることも可能なのです。
大きなロブスターや・・・
カニも生きたまま売られています。
貝類も種類が豊富で、さすが食の大国中国です。
もちろん魚も泳いでいますし・・・
ザリガニもこの通り、山盛りの取り放題。
でも日本の奥様方に受けるかどうか、ちょっと微妙です。
自分で生け簀からすくった食材を調理してもらいます。海産物に限らず、店内で売られている全ての食材が調理の対象となり、店内で食べられるのです。
調理代金は15元(約250円)。
それが面倒なら、あらかじめ調理された料理も並んでいます。
もちろん海産物以外にも肉料理も麺類も屋台が並びます。
でもあえて海産物を中心に据えているのは、新鮮さをアピールする狙いがあるのでしょう。
動画で情報提供
オンラインショップの弱点とされていた生鮮食品が、アリババがリアル店舗に乗り出した一番の理由なのです。
さらに店の先に進むと、新鮮なフルーツが並びます。
スイカもカットしたもの、半分に切ったもの、丸のままとお好み次第です。
野菜も色とりどりでとても新鮮そうです。
逆にこれまでネットでも購入できたお菓子や日用品などはあまり置かれていない印象を受けました。とにかく、生鮮食品で勝負ということが伝わってくる店づくりです。
お客さんへの情報提供にも力を入れています。
店内のあちらこちらにモニターが置かれていて、商品の紹介や調理の仕方などを独自の情報番組の形で放送していました。
アプリを利用すると、生鮮品の産地から店舗に届くまでの全履歴が確認できるなど安全性にも配慮、アプリでも動画のレシピが見られ、必要な素材や調味料なども一括で購入できるといいます。
まさにネットとリアルの融合。
お客さんが求める情報を提供するという強いこだわりも、ネット通販で培われたノウハウが生かされているように感じました。
セルフレジ
野菜売り場を抜けると、反対側にも出入り口がありました。
どうやらこちらが正面入り口のようです。
その正面入り口から入ったすぐのところに、このお店の最大の特徴がありました。
セルフレジです。
それに気づいてもう一度よく見ると、スーパーでは入り口に必ずあるレジのカウンターがありません。
入り口には警備員さんが1人立っているだけです。
レジがないことで、とてもオープンな印象を与えます。
お客さんは買った商品についているQRコードをこの端末で読み取らせ、自分のスマホで決済します。
使用できるのは、アリババが運営する中国最大の決済アプリ「アリペイ」だけです。
現金もクレジットカードも、ライバル会社の電子決済も使えません。
セルフレジの上には、アプリの使い方が大きく表示されています。
使い方がわからない人には、係員が説明している様子もありました。
さらに裏口には、従来のスーパーのように店員が対応する普通のレジが1つだけ用意されていて、ここを利用するお客さんも結構いました。
次世代型スーパーはまだ試行錯誤の段階のようです。
ネット注文と無料宅配
もう一つ、目についたのが天井を走るレール。そこを時折、バッグが流れていきます。
盒馬鮮生の最大の特徴は、お店から3km以内であれば、30分以内に配達するサービスです。
お店の一角に大量のバッグが置かれた場所がありました。
1人の店員さんがバッグを持ってやってきました。
そのバッグを機械に引っ掛けます。
するとバッグはスルスルと上に上がり、天井のレールを走ってバックヤードへと運ばれていきます。
店員さんは荷物を送り終わるとスマホを見ながら新しいバッグを持って店内に消えていきます。
そう、彼らはネットで入ってくる注文の品をこのバッグに入れてバックヤードの配送担当者に送るのです。
こうしてリアル店舗と組み合わせることで、ネット通販の弱点だった生鮮食品の宅配を実現しているのです。
商品は1個から宅配してくれ、送料も無料だといいます。
トライ&エラー
次々に色とりどりのバッグが頭上を走っていくのは、ある種のエンターテインメントでもあります。
そして商品はタグで管理されているので、この店には在庫スペースがありません。店全体がネット通販の倉庫でもあるのです。
こんな新たな仕組みによって、盒馬鮮生は従来のスーパーに比べ4倍もの効率化を実現しているといいます。
アリババは今年3月、大型店舗の盒馬鮮生に続いて「盒馬菜市」「盒馬F2」「盒馬mini」「盒馬小站」という4種類の新しい店舗の出店を発表しました。
高級スーパーである盒馬鮮生はすでに中国各地に150店舗以上展開していますが、新たな客層や新たな形態での店舗を作ることで、ネットと融合した次世代型店舗の形を模索しているのでしょう。
その一方で、食品衛生上の問題もいろいろ指摘されているようで、閉店する店舗も出てきています。
しかしトライ&エラーを繰り返しながら「ニューリテール」の最先端を爆走するアリババ。
中国発の次世代型店舗が世界を席巻する日がやってきそうな予感がしました。
Wongtee Plaza
盒馬鮮生を堪能した後、ショッピングモール「皇庭広場 Wongtee Plaza」を少しブラブラしました。
モール内を歩くのは若者ばかり。
やはり深圳は若者の街です。
目についたのは、マッサージチェアの多さ。
どのマシーンも若者たちに占領され、みんなマッサージしながらスマホをいじっています。
このマッサージチェアもスマホで決済するようです。
同じモール内には、1台50万円以上もするマッサージチェアが売られていました。
若者の街でのマッサージチェアの人気ぶりは驚きの組み合わせです。
もう一つ、私の目を引いたのが、ド派手なデコレーションケーキ。
レゴで作ったような、どこか幼児趣味を感じます。
全国から集まった頭脳優秀な若者たちが作り上げた夢の街。
うるさくて頭が固い大人がいなくなると、子供の頃に夢見たような童話の中の世界が出現するのがということを深圳の街を歩いていると感じます。
変な常識が出来上がる前に地位も財産も手に入れて、無理して大人にならなくても生きていける世界。それが幸せなのかどうか、私にはわかりませんが、日本に暮らしていて出来上がってしまった既成概念がぶち壊されるというのが、深圳の魅力でしょう。
そろそろ香港に出発する時間。
すると突然、激しいスコールが降り始めました。
この季節の深圳の気候はものすごく蒸し暑く、東南アジアと同じ感じです。
とても、スーツなんか着ていられません。
日本の常識が重く感じたら、深圳に来て頭の中をぶち壊してみるのもいいかもと強く思いました。