<吉祥寺残日録>「ヒトラーユーゲント」のドキュメンタリーを観ながら、中国の子供たちを想う #210603

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5年前に「一人っ子政策」を転換したばかりの中国が、3人目の子供をもうけることを認める決定をした。

それほど高齢化の進展が急速だということだろうが、それと同時に習近平体制の下で進む思想教育も気になっている。

6月1日の「国際こどもの日」のニュースを伝える国営テレビ「中国中央電視台」では、中国共産党を礼賛する子供たちが次々に登場しちょっと気持ちが悪かった。

来月には「共産党創設100周年」を迎える中国では、子供たちに対する思想教育が強化されているという。

ブルームバーグでこんなニュースを見た。

中国の小中学校、「習思想」教育強化へ-創立100年控え共産党が指針

今年2月の記事だが、気になる内容なので引用させていただく。

中国共産党の創立100年を7月に控え、中国の小中学校で習近平総書記(国家主席)の教えを学ぶ体制が強化されようとしている。

党中央委員会は3日、中国少年先鋒隊(少先隊)でイデオロギー教育を促進する新たな指針を発表。小学校および中学1、2年生の児童・生徒は全員、週1回は少先隊の活動を実践する授業を受けるべきだとし、その中核となる教材は「習思想」でなければならないと指摘した。少先隊は習総書記の教えを「しっかりと心に留め」、習総書記が「指示したことをする」よう教育される必要があるという。

指針文書はまた「われわれの社会主義体制の優位性」と「党の正しいリーダーシップが究極的に今日の幸せな生活をもたらしている」と教えることも促している。 

1949年から続く少先隊は、中国にいる6-14歳の子どもほぼ全員を対象とし、指針によれば、子どもたちの世代を党の指示に従うように導く上で「かけがえのない役割」を果たしている。現在の隊員総数は不明だが、2007年のデータは約1億3000万人としている。

引用:ブルームバーグ

「中国少年先鋒隊(少先隊)」は共産党の青少年組織で、「主に課外活動を通じて共産主義を学ばせ、将来の共青団員、共産党員を育成している」(ウィキペディア)という。

参加しているのは7歳から14歳の小中学生で、参加は自由意思だが各学校に設けられている支部に編入される。

共産党のエリート青年組織「中国共産主義青年団(共青団)」の下部組織で、「少先隊」から「共青団」そして「中国共産党員」というのが中国の一つのエリートコースだ。

「中国共産主義青年団」の団員は8900万人と言われ、胡耀邦、胡錦濤という歴代総書記をはじめ、現在の李克強首相も共青団の出身だ。

習近平さんは、高級幹部の子弟である「太子党」の系譜に属するため、習近平派と共青団派の権力闘争もたびたび指摘されているが、「少先隊」のサイトを見てみるとトップニュースは国際こどもの日に向けた習近平総書記のメッセージだった。

こうした中国の青少年組織について調べていると、先日テレビで見た海外ドキュメンタリー「ヒトラーユーゲント ナチス青少年団の全貌」という番組を思い出してしまう。

「ヒトラーユーゲント」はナチスの青少年組織として設立され、ナチス政権の下、1936年には法律によって10歳から18歳の青少年全員の加入が義務付けられた。

「ヒトラーユーゲント」では徹底的にアーリア民族の優越性が教え込まれ、遊びを通して不屈の軍人を育成する教育が行われた。

新興勢力だったナチスに不信感を抱く大人たちではなく、純粋な子供たちにターゲットを絞り、楽しい集団行動を通してナチスへの忠誠とヒトラーに対する個人崇拝を植え付けていく。

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フランスの制作会社「ZED」が2017年に作った「ヒトラーユーゲント ナチス青少年団の全貌」の中から、記憶に残った部分を書き残しておきたい。

「ヒトラーユーゲント」が設立されたのは1926年、まだナチスが政権を握るかなり前の時期だ。

ナチスは早い時期から少年たちを選挙活動に利用していた。

初期の「ヒトラーユーゲント」はイギリスのボーイスカウトを参考に、青少年にレクレーションの機会を与え、人気のイベントで若者たちを集めていた。

第一次大戦の敗戦によって貧しかった労働者層の若者にとって他に娯楽はなく、夢のような時間だった。

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1933年政権を握ったヒトラーは、共産党など対立する組織の青少年組織を解体し「ヒトラーユーゲント」に一本化した。

さらに若者たちが一年の最も楽しみにしていたサマーキャンプを「ヒトラーユーゲント」が独占したのだ。

子供たちを親から引き離すことができるサマーキャンプでは、徹底したイデオロギー教育が行われた。

ユーゲントのメンバーは1年で10万人から200万人以上に膨れ上がった。

男の子には本格的な戦争ゲームが用意された。

偽装して敵の陣地に忍び寄り、戦闘になると相手の腕章をはぎ取る、そんなアドベンチャーゲームに少年たちは熱狂した。

「ヒトラーユーゲント」の宣伝映画も作られ新たな少年たちを組織に引き入れていく。

メッセージは「ドイツの若き男たちよ今一度野獣となれ!」。

強いものだけが優遇され、弱いものは落伍者として扱われるイデオロギーが何年にもわたって若者たちに浸透していく。

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1937年までに「ヒトラーユーゲント」への加入は法律で義務付けられ、子供たちは幼い頃から名誉あるメンバーとして街頭でのパレードに参加するようになる。

旗を先頭に太鼓やラッパの演奏に合わせて街中を隊列を組んで行進する姿を親たちが見守る。

子供たちは誇らしさを感じたという。

「ヒトラーユーゲント」の大規模イベントにはヒトラー自身が顔を出した。

「一つの民族、一人の総統、一つの国家」、この3つの標語を絶えず叩き込まれ、少年たちにとってヒトラーは「神」となる。

そしてヒトラーも、「君たちこそ国の将来だ」と若者を褒め称えた。

思想教育はさらにエスカレートし、1日に何度も「ハイル・ヒトラー」を叫びナチス式敬礼をするよう求められる一方、授業でもユダヤ人や共産主義者を憎むような教育が行われるようになる。

「ユダヤ人を全員追い出せ! 我々の国から奴らを追い出せ! 奴らの頭と足を切り落とせ! さもなければこの国に戻ってくるから」

子供たちは何の疑問も抱かずに、こんな歌を歌わされていた。

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1938年、近隣の国の併合を始めたヒトラーは、青少年に本格的な軍事訓練を始める。

「ヒトラーユーゲント」で育った若者たちが成長しドイツの優秀な軍人になっていった。

水上訓練やグライダーを使った飛行訓練も行われ、真剣な戦争ごっこを楽しんだのだ。

こうして開戦時には「ヒトラーユーゲント」の団員は800万人に達していた。

この組織が誕生して10年、初戦で華々しい戦果をあげたドイツ精鋭軍は若者たちの組織的な洗脳によって作られたと言っても過言ではない。

ナチスがらみでもう一本、興味深いドキュメンタリー番組を見た。

BS世界のドキュメンタリーで放送された「ヒトラーの子どもたち」というフランスの制作会社「Gedeon」の作品だ。

これはナチ親衛隊が作ったドイツ民族の人口増加と「純血性」の確保を目的とした出産育児施設「レーベンスボルン」を扱ったもの。

ナチスは、ユダヤ人絶滅計画を進める一方で、純血のアーリア人を増やすため、ヨーロッパ各地のアーリア人の未婚女性たちにナチ親衛隊員と子供を産ませる活動を行っていた。

その拠点となったのが、各地に設けられた「レーベンスボルン(生命の泉)」だった。

計画を主導したのは親衛隊長のヒムラー。

ドイツ国内に10カ所作られた「レーベンスボルン」は表向き、貧困女性を支援するための施設を装ったが、極秘の調査ファイルには「将来ドイツ軍の先頭に立って世界を支配するアーリア人を作ることがこの施設の目的だった」と書かれていた。

「国家社会主義」を標榜したナチスの行った徹底した人種政策。

それは、漢民族による他民族同化政策を進める「国家資本主義」とも呼ばれる今の中国とどこか通じるところがあるように感じてならない。

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ただし習近平さんには若者たちを心から熱狂させるヒトラーのようなカリスマはなく、個人主義を強める中国の若者たちの心を掴むのは容易ではなさそうだ。

「出産政策をさらに最適化し、夫婦1組につき3人の子までの出産を認める政策及び関連する支援措置を実施することは、我が国の人口構成を改善し、高齢化に積極的に対処する国家戦略を実行に移し、我が国の人的資源による優位性を保つことに寄与する」

「三人っ子政策」に転換した中国指導部の思惑が果たして若者たちにどのように受け止められるのか?

「人民網日本語版」には、「ますます多くの若者が一人暮らしを選ぶのはなぜ?」という記事が掲載されていた。

ますます多くの若者が一人暮らしを選ぶのはなぜだろうか。

自由を愛する、独立した空間がほしいなどは、一人暮らしを選ぶ積極的な理由で、主体的な一人暮らしと言えるだろう。一方、受け身の一人暮らしをする人の圧倒的多数は「社交恐怖」が原因だと言える。

社会環境の変化が若者の一人暮らしの選択にも影響を与えている。

これまで、中国人は家族で集まって生活するのを好み、「大家族」をよしとする伝統的な観念が根強かった。しかし社会の発展に伴って、「大家族」の観念はその土台が徐々に失われた。靳氏は、「計画出産政策により中国の家族構成は『3人家族』が現れ、都市化のプロセスで建設された各戸が独立したスタイルのマンションが、『大家族』がそのよりどころとしてきた空間的基礎を消滅させた。また現代の若者は『共働き家庭』で育ち、家庭での活動時間はかつてより少ない。空間と時間と2つの要因により、『大家族』の生活シーンはますます過去のものになり、一人暮らしが若者の期待するライフスタイルになった」と分析した。

生活の圧力と仕事の圧力が増大し、若者はますます一人暮らしを選択するようになった。取材でわかったのは、回答者が申し合わせたように、仕事と生活のプレッシャーが増大したので、低欲望の特徴がみられるようになった、と答えたことだ。日本の経営コンサルタントの大前研一氏は著書「低欲望社会『大志なき時代』の新・国富論」の中で次のような情景を描いた。社会の競争圧力がますます大きくなると、ますます多くの若者がこのために向上したい、人とつながりたい、恋愛して結婚したいという欲望を失い、自分の小さな部屋に閉じこもって気ままな生活を送りたいと願うようになる」。

靳氏は、「大都市では結婚・出産にコストがかかり、『原子化』(砕片化)された仕事の形態、今や普通になってしまった『966』(毎日朝9時から夕方6時まで週6日間働く)の勤務体系が、若者から人とつながる時間を奪い、若者たちはますます異性と知り合い、異性を理解する機会が減り、晩婚や高齢出産がごく当たり前になり、客観的には若者の一人暮らし現象を突出させている」と述べた。

引用:人民網日本語版

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「偉大なる中国」の復活を掲げ中国共産党創設100周年を祝う習近平さんだが、盤石な党内基盤は築いたとしても、デジタル化した若者たちを一つにまとめ上げるのは、毛沢東やヒトラーの時代よりもはるかに難しくなっているのかもしれない。

<吉祥寺残日録>高齢化する世界!中国の国際養子縁組と韓国の老人宅配便の恐怖 #210513

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