🇬🇱 デンマーク領グリーンランド/ヌーク 2023年12月5日~8日
食料を島の外に依存しているので、グリーンランドの食費はものすごく高いと聞いていた。
しかも私の宿泊したホテルはレストランが集まる街の中心部からは少し離れていたので、わざわざ食事のためだけに厚着をして外出するのも面倒だった。

そこで重宝したのが、日本から持参したフリーズドライの携行食だった。
セブンイレブンで購入した「梅がゆ」。

同じく「なめこ汁」。
部屋にあったポットでお湯を沸かし、こうしたもので1食すませたりした。
しつこい咳が続いていてそれほどお腹も空いていなかったので、地元のレストランでヘビーな食事をするよりも、この方がよほど体が喜んでいる。

実際、街中に出かけて食事をしようとしても、ハンバーガーやピザ、タイ料理などのお店がほどんどで、「これ食べたい」と思えるようなお店になかなか出くわさない。
探せばグリーンランドならではの料理もあるのだろうが、店の前に掲げられたメニューを眺めても、入りたいと思わずに3泊の滞在期間が過ぎてしまった。

こうしたグリーンランドで、私の胃袋を満たしてくれたのが、ホテルで食べられる無料の朝食だった。
ビュッフェといえば聞こえはいいが、「Hotel Soma Nuuk」の朝食は実に簡素で、4種類のハムと1種類のチーズのほか、ゆで卵、パン、シリアル、そしてコーヒーやジュースといった飲み物だけだった。
そして毎朝、その品揃えは変わらない。

私は3日間この朝食を食べた。
見た目は貧相だが、味は悪くない。
特に半熟の卵は絶妙の柔らかさで、毎朝2個いただいた。
だが、朝食を食べながらいつも思うことがあった。
それはこのレストランの雰囲気の暗さだった。

写真では実際よりもかなり明るく写っているのだが、朝8時ごろレストランに行ってもまだ外は真っ暗で、室内もなぜかとても薄暗かった。
食事をしている人は常連さんが大半で、入ってくる人がほとんど知り合いのようだった。
最初は私と同じようにこのホテルに泊まっている客かと思ったが、どうもみんなレジでお金を払っているように見える。
どうやら港で働いている人たちらしいと気づくのにそれほど時間はかからなかった。

食事をする人の大半は顔つきから判断して、先住民イヌイットの人たちのようだ。
中には父親に連れられた小学生ぐらいの男の子もいる。
彼らは毎朝このレストランにやってきて、黙って食事をして、厚着をして真っ暗な屋外に消えていく。
一緒にテーブルで食事しながら、盛んに議論しているグループもいる。
言葉はわからないが愚痴をぶつけ合っているような雰囲気だ。
こうして3日間、同じレストランで同じような人たちが同じように食事する光景に遭遇した。

グリーンランドについて事前に調べていた時、この島の自殺率が世界一高いということを知った。
福祉が充実したデンマークに属するグリーンランドでなぜ自殺する人が多いのか?
はっきりとした理由はわからないが、アルコール依存や日照不足によるうつ病、さらにはデンマーク人とイヌイットの格差などが指摘されている。
正直、ちゃんとした取材もしていない私にはなんとも言えないが、同じホテルのレストランで一度だけ夕食を食べた時、強い違和感を感じたことを書いておきたい。

それは私がグリーンランドを経つ前日の夜である。
最後ぐらいまともな食事をしようと、いつものホテルのレストランでディナーの予約をした。
朝食と同じ気楽な感じでレストランに入ると、朝とはガラッと雰囲気が変わっていたのである。
白いクロスがかけられたテーブルにはワイングラスが並べられ、フォークやナイフが綺麗にセットしてある。
同じレストランなのに、こんなに雰囲気が変わるものなのか。

テーブルにつくと、すぐにメニューが運ばれてきた。
なかなか立派な英語のメニューで、「Tasting a piece of Greenland」というグリーンランド料理のコースが用意されていた。
前菜からデザートまでフルコースで頼むと795デンマーククローネ(約1万6500円)と立派な値段だ。

客層も、朝とは全く異なっていた。
ほとんどは白人で、イヌイットの人も何人かいたが、白人男性の連れだったり、裕福そうな成功者といった人たちだった。
このレストランには、朝と夜で別の顔がある。
そう感じながら、私は前菜とメインの2品、そしてグリーンランド産のビールを注文した。

まずは、グリンランドのビール「Aqisseq」。
グリーンランドの言葉で「雷鳥」を意味するらしく、ラベルにも雷鳥がデザインされている。
飲むと実にスッキリとした喉越しで、文句なしに美味い。
値段は59クローネ、およそ1200円ちょっとだ。

パンの籠が置かれた。
パンも朝食のものとは全く違う。
香辛料が加えられたバターが実に美味で、料理が来る前にパンを全部食べてしまいたくなる。

そして、前菜がきた。
3種類の中から選ぶようになっていて、私が選んだのは「Soya marinated scallops – Dabberlocks – Sesame mayo – Sesame seeds」という名の前菜。
醤油でマリネしたホタテとダバロックス(西洋ワカメ)という海藻に、ゴマとゴママヨネーズを足したものということらしい。
グリーンランドで食べるなら、新鮮な海産物と決めていた。

そして、それは大正解だった。
ダバロックスという海藻は、まさに茎わかめ。
ものすごくフレッシュで、醤油味でひんやりした食感が弱った胃に最高の一品である。
ホタテはどうみてもマグロにしか見えなかったが、美味しかったので文句は言うまい。
想像を遥かに超えたクオリティーの高い料理に、正直嬉しい驚きであった。

それに比べて、メインディッシュはちょっと残念だった。
こちらも3種類の中から唯一の海産物である地魚を選んだ。
「Butter steamed local fish – Peas a la Francaize – Sauce hollandaise」
地魚のバター蒸しに、フランス風の豆とオランデーズソース、果たしてどんなものが出てくるのかと思っていた。

タラと思われる魚は柔らかく骨もなく食べやすいのだが、とにかくめちゃくちゃ塩辛い。
豆もソースはもっと塩辛くて、これはさすがに食えたものではない。
とりあえず、ソースをつけずに白身の魚だけつまみ、ビールのおかわりを頼んだ。

グリーンランドのビールなら何でもいいのでさっきのとは別のをと頼むと、今度は白熊がデザインされたビールが出てきた。
「IPA」という名のエールビール。
先ほどの「Aqisseq」同様、グリーンランドにあるカジャック醸造所で作られているビールのようだ。
こちらも値段は59クローネ。
グリーンランドの美味しいビールで白身魚を喉に流し込み、豆は残してこの日の夕食を終えた。
コースは前菜とメインの2皿で349クローネ、日本円で7250円。
2本のビールと税金を加えると1万円を超える豪華なディナーとなった。

翌朝、ホテルをチェックアウトする前に再びレストランに行くと、いつものようにワンパターンのビュッフェと沈鬱な空気が待っていた。
とても昨夜と同じレストランとは思えない。
また、あの男の子が父親と食事をして凍てつく仕事場へと出かけていった。

社会に貧富の格差があるのは、何もグリーンランドに限った話ではない。
しかし、この島にはまだ植民地の匂いが残っていて、それがグリーンランドの自殺率を高めると同時に、人々を独立に向かわせる原動力になっているのではないか、そう感じた。
オーストラリアの先住民アボリジニの人たちに比べると、街中で酔い潰れているイヌイットの人たちを見かけることはなく、人口が少ない分、自殺する少数の人の存在が過大に数字に表れてしまうだけかもしれない。
朝食の席で見かけたあの少年が大人になる時、グリーンランドの自殺率が改善していることを願うばかりだ。