🇬🇩 グレナダ/セント・ジョージズ 2024年2月10日~12日
グレナダといえば、1983年のグレナダ侵攻を思い出す。
当時グレナダなどという国が存在することさえ知らず、ベトナム戦争の傷に苦しんでいたアメリカがカリブの島国に軍事侵攻したというのでとても驚いたことを覚えている。
だから、今回グレナダを訪れるにあたり、アメリカ軍がどこを標的にしたのかなどを調べたりしていた。
しかし、101カ国目の訪問国となるグレナダの旅は私の想定とは全然違うものとなったのだ。

セントビンセントからグレナダに向かう飛行機はまた遅れた。
カリブ海の島々を飛ぶ便は同じ飛行機が到着したら次の目的地に飛ぶという運航なので、夜の便になると少しずつ遅れが積み上がりどうしても定時運航が難しいのかもしれない。
午後7時半に出発する予定だった私のフライトは、チェックインの際に8時出発に変更になったと告げられ、最終的に飛び立ったのは午後9時を回ってからだった。

グレナダの玄関口「モーリス・ビショップ国際空港」に到着したのは午後9時40分だった。
モーリス・ビショップはマルクス主義者で、1979年のクーデターで首相に就任した人物だ。
80年代に入りレーガン政権が誕生すると、アメリカはグレナダへの軍事介入の準備を始める。
アメリカの裏庭であるカリブ海にキューバのような社会主義国が増えることが許せなかったことに加えて、ベトナム戦争で自信を失ったアメリカに再び勝利をもたらすことを狙ったと言われる。
しかし、ビショップ首相は仲間割れで射殺され、アメリカはこの混乱を口実にグレナダに9000人の兵士を送り込むのである。
そのアメリカの敵と見做されながらグレナダ侵攻の口実を作ったビショップ首相の名前が今も国際空港に冠されているのは面白い。

今回予約した宿は普通のホテルではないらしく、Googleマップでうまく探せなかったため空港まで迎えを依頼していたのだが、入国手続きを終えて外に出てみると、私を待つ運転手はもういなかった。
さすがに約束の時間から2時間も経っているのだから日本人でもなければ待っていてくれはしないだろう。
困ってタクシーの運転手と話しても、誰も連れて行くというドライバーがいないのだ。
そんな時、一人の運転手がこの車に乗れと私に言った。
このまま何もない空港にいても埒があかないので、とにかく彼の車に運命を託す決断をする。

彼の車にはすでに夫婦と見られる外国人観光客が乗っていて、まずは2人の泊まる高級ホテルまで行った後、私の宿に向かう。
夫婦のホテルはグラナダでも一番と言われる「Grand Anse Beach」に面していて、周囲にはたくさん飲食店などが並んでいたが、私の宿は全然違う方向で、走るに従ってどんどん道が暗くなっていった。

主要道路から外れ右に曲がったり左に曲がったり、坂を登ったり降ったり、まるで迷路のような道を進んでいく。
あたりは街灯もなく真っ暗でもちろんお店なども全くない。
何? どこ行くの?
どんどん不安な気持ちになってきて、写真を撮ることをすっかり忘れてしまった。
それでもこのドライバーは私が予約した宿を知っていて、無事に送り届けてくれたのだ。
やはり夜便での入国は鬼門である。

宿に到着した頃にはもう午後10時半を回っていた。
「リーフ ビュー パビリオン ヴィラズ アンド コンドス」
女主人のシャロンさんが心配して待っていてくれ、この宿の仕組みを説明してくれた。
私がその時いたのは共用部分であり、キッチンや洗濯機、生活に必要なものは揃っているという。
その時も共用部分には3人の客がいて、みんなソファーに寝っ転がったりして思い思いに過ごしているようだった。
なんとなくシェアハウスのような宿だなと思った。

それよりも何よりも驚いたのはこの建物の作り。
手作りしたのか、漆喰塗りの壁はどこにも直線的なところがなく、まるでガウディのようだ。
台所もまるで繭の中に入ったみたいな感じがする。

シャロンさんが案内してくれた私の部屋は、これまたユニークで、壁は同じく白い漆喰、小さなテーブルやソファーがあらかじめ作り付けられている。
窓の外は道路なのだが、カーテンはあくまで飾りで外から丸見えの状態である。

それでもトイレやシャワーは共用ではなく、ちゃっと部屋に付いていた。
こちらも白と青の漆喰で塗り分けられ、オーナーのこだわりが随所に見られる。

シャロンさんからは、いつでも好きな時に料理をしてもいいし、プールで泳いでもいいと言われたけれど、ここぞとばかりに日本から持参したフリーズドライの「かにぞうすい」を食べて寝た。

朝起きるとまず、この個性的な宿の全貌を知ろうと施設の見回りを始めた。
まずは私が泊まっている部屋のすぐ前にとても素敵なプールがあった。
2つの建物の間に作られていて、青いタイル張り、オレンジ色の塗り壁とすごくマッチした見えた。
プールの中に何本かの木が植えられていて、木の裏側を泳いでも回ることもできる。

椅子やテーブルもう青とオレンジの組み合わせが基本で、全てのものに手作り感と強烈な美意識が感じられる。
このセンス、嫌いじゃない。

屋上に上がれる螺旋階段があったので上ってみると、これまた素敵は場所が待っていた。
屋上を貫く細長いプール。
細くて浅いが、わざわざ階段がつけてあるのでこれは間違いなく水槽ではなくプールだろう。

プールサイドには赤い花が咲いていて、奥にはオレンジ色をした小屋がある。
まさにオシャレな住宅雑誌に出てきそうな憧れの家である。

青とオレンジ色って、こんなに相性が良かったんだ。
私にとっては新たな発見だった。

屋上の一画には日差しを遮る屋根がついた屋外リビングがあった。
こんなリビング、マジで好きだ。
ゴロリと寝っ転がれるキングベットサイズのソファー。
横になるとふわふわで、気持ちの良い朝の風がスーッと流れていく。

この屋上からは海も見える。
ちょうど海が見える位置に人が1人足を伸ばして座れるくらいのスペースが作ってある。
私はまんまと設計者の術中にハマる形で、そこに座って朝の海を見た。
他の客たちはまだ寝ているのか、誰も屋上に上がってくる者はいない。
これって、最高でしょ。
昨夜の不安な気持ちはもう完全に吹っ飛んでいた。

Googleマップで自分の居場所を確かめると、海の方向に伸びる小道がありそうだった。
前夜は何も見えなかったので、少し近所を散歩してみよう。
そう思ってスマホを頼りに歩いていくと小さな砂浜に出た。

誰もいないビーチに朝陽が昇るのを見届けて、宿に戻る。
このあたりは海からかなりの急角度で斜面が立ち上がった場所で、大きな邸宅が海を見下ろすように斜面にポツポツと立っているような豪邸街らしい。

宿に戻ったのは朝の8時半ごろ。
そろそろ朝ごはんの用意をしよう。
宿の方で部屋の冷蔵庫に若干の食さんを用意してくれていた。
食パンと卵とオレンジジュース。
それにバターとジャムもある。

どこに何があるかわからない台所なので、とりあえず簡単にできるゆで卵を作ることにする。
トースターでパンを焼き、ポットでお湯を沸かして紅茶をいれる。

バターとジャムを冷蔵庫から出し、これにオレンジジュースと共用部にあるバナナを足すと、それなりの朝ごはんの完成である。
なんかいい感じじゃない。

食べ終わって食器を洗おうとした時、台所で調理をするトリニダード・トバゴから来た夫婦に出会った。
私もグレナダの後トリニダード・トバゴに行くと伝えると、カーニバルのことなど親切に教えてくれた。
問題の空港から市内に行く方法について「TTRS」という配車アプリを教えてくれた。
試しにアプリをダウンロードして、使えるように設定しようと思ったが、どうも向こうからのコード番号がうまく届かず断念せざるを得なかった。

朝食の後は、洗濯をして屋上で干す。
直射日光がバッチリ当たるので、数時間でカラカラだ。

洗濯物が乾くまでの間、私は誰もいない屋上でプールに浸かり…

日陰でのんびり風に吹かれながら、翌朝のタクシーの手配をしたり、アメリカのグレナダ侵攻について調べたりして、この日グレナダでどう過ごすかを考える。
ここに来る前には、セントビンセントでやったようにミニバスにでも乗って首都のセントジョージズにでも行って、グレナダ侵攻の現場を訪ねようと思っていたが、実際に来てみると、このあたりにはミニバスはおろか車もほとんど通っていない半島のどん詰まりだ。
歩いて車が多い通りまで出ることは可能だろうけど、そこまでして見たい場所があるわけでもない。

それよりは、このユニークな宿での〜んびりとくつろいだ方が面白そうだ、そういう結論に至った。
どっちみち、限られた旅行のスケジュールの中でその国のことを知るには限界がある。
あれもこれもと欲張っても疲れるだけなのだ。

昼ごはんは散歩がてら外に食べに行って、熱った体をまたプールで冷まし、冷房の効いた部屋でゴロゴロ。
長い旅行中にはこんな日も必要だ。
でもカリブ海という土地柄、どこもリゾートだらけで、ゴロゴロしてばかりだが、そんな旅もまた悪くない。

気がつけば、もう夕方。
慌てて屋上に上がるとすでに太陽は西の丘に沈んでいた。
不思議な空の色。
スマホではどうしてもあのなんとも言えない色が写せないのが残念だ。
涼しくなるこの時間になると、それまでどこにいたのか、2組の白人の夫婦が屋上にいた。
そして、蚊も増えてだいぶ刺された。

カリブ海では蚊が媒介するマラリアやジカ熱、黄熱病など怖い病気もまだあるので、一旦部屋に戻り虫除けスプレーをしてから再び屋上に上がった。
キングベッドサイズのソファーで星空が広がるまで夜風に吹かれた。
裏にあるオーナーの家ではパーティーをしているのか、大勢の賑やかな声と音楽が聞こえる。
カリブの人たちはみんな人生を楽しんでいるように見えた。

宿が不便なところにあると、否応なくのんびりできる。
グレナダの宿はまさにそんな宿であった。
翌朝、早起きして朝ごはんを作り、迎えのタクシーを待つ。
フロントもないので、電気を消して鍵を部屋に残しておくだけでいい。
頼んだタクシーがもし来なかったら歩いて空港まで行く覚悟で、少し早めに来てもらうよう頼んだが、予約時間の15分前には迎えに来てくれたので空港で時間が余ってしまった。

不便なところにある宿に泊まると、旅人は自然に、否応なく、のんびりとするものらしい。
グレナダの宿は、そんなユニークで素敵なところだった。
ちなみに、2泊で3万5千円とカリブとしてはリーズナブルな方で、向き不向きはあるけれどこの宿を選んでよかったと私は思っている。