<吉祥寺残日録>きちシネ#22「グッド・ウィル・ハンティング / 旅立ち」(1997年/アメリカ映画)

今日から師走。

寒冷前線の通過により吉祥寺でも早朝に雷鳴が轟いた。

寝ている間に激しい雨と風が吹き荒れたようで、ベランダのサンダルもずぶ濡れになっていた。

夜明けに降っていた雨はすぐに止み、モヤがかかったような暖かな朝だった。

井の頭池の水面には大量の落ち葉が浮いている。

紅葉のピークを過ぎた井の頭公園でも、かなり葉を落とした樹々が目立つようになった。

先日受けた健康診断の結果を聞くために、妻と一緒に近くのクリニックに出かけた。

夫婦揃って悪玉コレステロールが高いと指摘されたが、それ以外は特段問題はなかったようだ。

ただ妻は心臓に少し気になるところがあり、要観察と指摘された。

妻の母親も狭心症の持病を持っていて、明らかに妻はその遺伝的な要因を受け継いでいる。

それでも、すでに3人の子供を育て上げ、みんな家庭を持って立派にやってくれているので、大きな仕事を成し遂げた妻には自分の体と相談しながら、ゆっくりと暮らしてもらいたいと思っている。

さて、今日12月1日は「映画の日」、多くの映画館で入場料が1000円とされる日だ。

「映画の日」というのは「映画の父」と呼ばれるリュミエール兄弟にちなんだものだと勝手に思っていたが、改めて調べてみると日本独自で制定した記念日だということがわかった。

1896年(明治29年)11月25~12月1、エジソンが発明したキネトスコープが、初めて神戸で輸入上映され、この年から数えて60年目にあたる1956年(昭和31年)より、“12月1は「映画の日」”と制定し、日本における映画産業発祥(日本で初めての有料公開)を記念するとしました。

引用:映画産業団体連合会

要するに日本の映画団体が定めた記念日ということで、ちょっとありがたさが薄れてしまった。

それでもせっかくなので、何か映画を見ようと思い、最近テレビで放送され録画していた中からこの映画を選んだ。

マット・デイモンとロビン・ウィリアムズ主演の名作「グッド・ウィル・ハンティング / 旅立ち」。

ずっと気になっていながら、見ないまま20年以上が経った作品である。

天才的な頭脳を持ちながらも幼い頃に負ったトラウマから逃れられない一人の青年と、最愛の妻に先立たれて失意に喘ぐ心理学者との心の交流を描いたヒューマンドラマ。

青年は、頭がいいだけに大人の弱点を見抜いてあえて嫌がる言葉を吐いて怒らせることによって自分を守ってきた。

成長期の環境を子供たちは選ぶことはできない。

青年もいつも地元の仲間とつるんで、自らの才能を生かそうとせず、工事現場や清掃の仕事をしながら酒や喧嘩に明け暮れる。

決して本心を語ろうとしない青年の心を開かせたのは、同じような境遇で育った心理学者との対話だった。

心に傷を負った天才青年ウィルを演じる主役のマット・デイモンがいい。

実はこの素敵な物語は、マット・デイモン自身が生み出したものなのだという。

俳優として当時まだ無名であったマット・デイモンがハーバード大学在学中の1992年、シナリオ製作の授業のために執筆した40ページの戯曲を親友であるベン・アフレックに見せたことから映画化に向けた脚本を共同で執筆した。

2年を経て完成した第一稿を映画プロデューサーのクリス・ムーアが絶賛したことから、キャッスル・ロック・エンターテインメントが映画化権を取得した。一向に映画化が実現せず歳月は流れたが、アフレックが自身の出演した映画『チェイシング・エイミー』の監督であるケヴィン・スミスとプロデューサーのスコット・モスィエに脚本を見せたところ、スミスとモスィエも好感を抱く。知人を介して脚本に目を通したハーヴェイ・ワインスタインとジョナサン・ゴードンは映画化を即決し、作品は製作に至った。

出典:ウィキペディア

有名な話かもしれないが、なんとマット・デイモンはこの映画でアカデミー賞の脚本賞を受賞しているというのには驚いた。

私はマット・デイモンにこれまで興味を持ったことがないので、彼がハーバード大学の出身だということも知らなかった。

心理学者役のロビン・ウィリアムズはこの映画で助演男優賞を受賞した。

しかし、青年の心を開かせたのはこの心理学者との対話以上に、いつも一緒につるんでいた親友チャッキーからの一言だったように感じる。

「もしお前が20年後も工事現場でなんか働いてやがったら、俺がぶっ殺してやる。」

ウィルの才能を誰よりも知る親友からの一言。

実は、この親友チャッキー役を演じた役者こそ、マット・デイモン本人の親友でこの脚本を共同執筆したベン・アフレックだったのだ。

無名の若手俳優2人が練り上げたシナリオが実際に映画となり、アカデミー脚本賞の栄冠に輝いたのである。

この映画そのものも素晴らしいが、この映画が生まれた経緯を初めて知り、それこそがまさに映画だと大いに驚かされたのだった。

「映画の日」に偶然選んだ映画には、素晴らしい物語が隠されていた。

ついでながら、今日見たドキュメンタリー番組についても一言。

BS世界のドキュメンタリー「マンホールの少年 6年の記録」。

ルーマニアの首都ブカレスト北駅の駅前にあるマンホールで暮らしていた一人の孤児を追ったドキュメンタリーである。

ルーマニアでは1989年の共産主義体制崩壊後、多くの孤児院が閉鎖されストリートチルドレンが激増した。

主人公のニコもその一人。

駅前で路上生活をしている時、ブルース・リーと名乗る「地下の帝王」と出会い、マンホール生活を始めた。

駅前の地下にはブルースをパパと呼んで慕う多くのストリートチルドレンが暮らしていた。

ここは麻薬や窃盗の拠点ともなっていたが、ブルースをリーダーとする不思議なコミュニティーが存在し、ニコにとっては生まれて初めて感じる家族のような温もりを感じる環境であった。

ニコは仲間から勧められるままに、金属塗料の一種である「オーロラック」を吸引するようになる。

こうしたマンホール生活を数年続けた後、人権団体が彼を病院に連れて行った時には、ニコの体はHIVと結核に冒されていた。

こうした環境で育った子供たちは、どんな人生を送ることになるのだろう?

偶然、映画「グッド・ウィル・ハンティング」と同じ日に見たので、ニコのその後がとても気になった。

以前、モンゴルのマンホールチルドレンを追ったドキュメンタリーを見たことがある。

「ボルトとダシャ マンホールチルドレン20年の軌跡」

少年時代、マンホールで共に暮らしたボルトとダシャは、大人になって自動車工などとして働いていた。

2人の友情は続いていたが、教育を受けていない彼らにとって金を稼ぐことは簡単ではなく、生まれた時から背負ったハンディキャップの大きさが切ないほど伝わってきた。

日本でも貧困家庭が増えていて、貧困の固定化が進んでいるという。

生まれる環境は選べないとしても、せめて全ての子供たちが這い上がるためのチャンスを得られる社会でありたい。

2021年の「映画の日」に、そんなことを感じた。

<きちシネ>#19「パラサイト 半地下の家族」(2019年/韓国映画)

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