妻の古いパソコンの調子が悪くなったというので、ヨドバシまで行ったついでに吉祥寺でランチを食べることになった。
時刻は11時を少し回ったところ、この時間だとまだ店を開けていないところが多い。
「ベトナムのフォーでも食べようか」と一旦話がまとまりかけたところで妻から新たな提案が・・・。
『「まざあ・ぐうす」はどう?』
「まざあ・ぐうす」は妻が学生時代にバイトをしていた思い出のお店で、もうかれこれ半世紀、吉祥寺で営業を続けている老舗の喫茶店である。
調べてみると、11時からオープンしているようなので、久しぶりに行ってみることにした。

「まざあ・ぐうす」がある『プチロード』へ。
ロフト前にあるこの小さな路地には、かつて「しもん」などの人気店が密集していた。
私が大学生だった半世紀前には、吉祥寺の中でも一番オシャレな場所で、多くの若者たちがこの路地に引き寄せられたものだ。

しかし今では、昔からある有名店も徐々に減り、再開発のためビルの取り壊しも進められている。
私が好きだった「モア」や「JOHN HENRY’S STUDY」といった個性的なお店も、もはや風前の灯のようだ。
時代の流れとともに街が変わっていくのは仕方がないこととはいえ、青春時代の思い出が消えていくのはやはり寂しいものである。

そんな「プチロード」に、今もひっそりと明かりを灯し続けている「まざあ・ぐうす」。
路地に突き出したお店のサインもかなりくたびれていて年季を感じさせる。
食べログには1982年開業と書かれているが、妻がアルバイトしていたのはそれより以前のことなので、おそらく82年にオーナーが代わったということなのだろう。

メニューが貼られた古びた掲示板を横目に階段を地下に降りる。
昔から、「まざあ・ぐうす」はこの雑居ビルの地下にあった。

階段の天井部分には、手作りらしき凝った木彫りの看板が。
おとぎ話の世界に引き込まれるようなデザイン。
古き良き時代を象徴しているような店のシンボルである。

こちらがお店の入り口。
今時のチェーン店にはない人間の温もりが感じられる。
私はなんでも昔を懐かしむ”昭和讃美者”ではないけれど、喫茶店だけはどうしてもレトロな方に惹かれてしまう。

店内もまるで時間が止まったような落ち着いた雰囲気。
木の床も、重厚な木製の家具も、壁にかけられた絵画も、そして棚に飾られた絵本や装飾品の数々も、統一感があり、居心地の良い空間を守り続けていた。
私たちが訪れたのは開店時刻の11時すぎだったので、まだ空いていたが、後から後からお客さんが入って
特徴的なのは、お客さん全員が女性だったこと。
結局この日は、店を出るまで男性客は私ひとりであった。

店の奥には、これまた年季の入ったカウンターキッチンがあり、大きなスピーカーが2台、壁に埋め込まれている。
その巨大スピーカーからは静かなクラシック音楽が常に流れていて、大声で会話するのがはばかられる雰囲気だが、かつて存在したクラシック喫茶のように「私語厳禁」といった堅苦しさはない。
久しぶりに訪れたが、改めて「いいお店だ」と感じた。

「まざあ・ぐうす」のランチメニューは、昔からパスタとピラフ、ドリアとグラタンである。
まさに客層に合わせたメニューというか、このメニューだから女性客が集まるということか、まあとにかく女性に愛されるお店なのだ。
その中から、私は「シーフードとモッツァレラチーズのスパゲッティ」(1150円)、妻はこの日の日替わりランチ「カボチャのドリア」(980円)を注文する。

ランチには、サラダとドリンクが付いている。
私はアイスコーヒーを選んだので、サラダと同時にすぐに運ばれてきた。
サラダはフレッシュで、ドレッシングも美味しい。

それ以上に美味しいと感じたのが、アイスコーヒーだ。
実はちょっと前、妻は一人でコーヒーだけ飲みにきたらしいのだが、その時飲んだコーヒーが美味しくて、この日私をこの店に誘ったのである。
私は特別コーヒーが好きな人間ではなく、スタバのような今風のカフェにはほとんど立ち入らない。
それでも「まざあ・ぐうす」で飲むアイスコーヒーはとても美味しく感じた。
クリームが今時珍しく、陶器の壺で提供されるのも何か関係しているのだろうか。

そうこうしているうちに、パスタも出来上がった。
「シーフードとモッツァレラチーズのスパゲッティ」
私は勝手にボンゴレビアンコ風の白いパスタを想像していたが、トマトソースのスパゲッティである。

喫茶店のシーフードパスタといえば、どこで作ったかわからないような冷凍のシーフードミックスを使ったものが多いが、このパスタは中央にムール貝がそびえていて、その脇にはカニの爪まであしらわれている。
そしてこのシーフードの周囲を溶けたモッツァレラチーズが覆っており、トマトソースとの相性もバッチリだ。

そしてスパゲッティと言いながら麺は細めで、イタリア風に厳密に定義すると通常のスパゲッティより細い「スパゲッティーニ」に分類されるのだろうか。
イタリアにはさらに細い「カッペリーニ」という麺があり、私は近頃こうした細めのパスタが好みになっている。
だから、「まざあ・ぐうす」のパスタはとても私好みで、期待以上の満足感を味わうことができた。

一方、妻が注文した日替わりランチ「カボチャのドリア」も悪くない。
私も一口分けてもらったが、カボチャが塊ではなく米と渾然一体と交わっていて、カボチャの甘みとチーズの塩気がマッチした美味しいドリアになっていた。
妻はもともとカボチャ好きだが、私はそれほどでもないのだけれど、この組み合わせはとてもいいと感じる。

妻は食後にホットコーヒーを選んだが、これまたスティックシュガーではなく、昔ながらの砂糖壺での提供で、もうこれだけで好感度が爆上がりだ。
店の雰囲気といい、コーヒーの味といい、久々に訪れた「まざあ・ぐうす」は私の心に大いに刺さった。
今度またランチタイムを外して、コーヒーだけ飲みにこよう。
まだまだ残っていてほしい素敵なお店だった。
食べログ評価3.43、私の評価は3.80。
「まざあ・ぐうす」
電話:050-5589-7185
営業時間:11:00 - 23:00
定休日:無休
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