🔶「旅したい.com」から転載
<中国>天下の奇観!銭塘江の大逆流「海嘯」を見るため杭州からタクシーを走らせる
🇨🇳中国/海寧 2019年9月15日
「海嘯(かいしょう)」という現象をご存知でしょうか?
満潮の際に潮流の前面が垂直の壁となり、砕けながら川の上流へさかのぼる現象。つまり、川の流れが大規模に逆流する特異な自然現象です。
中でも、大規模な海嘯として世界的に有名なのが、アマゾン川の「ポロロッカ」と中国・銭塘江の「大海嘯」。この銭塘江の大逆流がちょうど私の杭州訪問中に起きていることを知り、見に行ってきました。
それは何万人もの中国人が全国から集まる中秋の一大風物詩でした。
中秋の風物詩「大海嘯」
私の旅は、いつも行き当たりばったりです。
今回、杭州を訪れた一番の理由は、全日空のマイルの一部が期限切れになりそうになったため、以前から一度行きたいと思っていた杭州便をマイルで予約したことでした。
杭州で一番興味があったのは、アリババの本拠地であること。11月の「独身の日」に1日で3.4兆円を売り上げる世界最大のネット通販企業に以前から興味を持っていました。
三連休を使って訪れた杭州。到着してすぐにアリババの巨大キャンパス周辺を歩いた後、ホテルでテレビを見ていた時のことです。
逆流する川がテレビ画面に映し出されました。
「この映像、見たことがある」
月の満ち欠けによって、大規模に川が逆流する現象が見られるということはテレビで見たことがありました。中国語なので詳しいことはわかりませんが、どうやらこの大逆流が今、中国で起きているようです。
私はすぐにスマホをいじってネット検索を始めました。
そして見つけたのが、銭塘江の大逆流。「大海嘯」ともいう現象のようです。
銭塘江はここ杭州の東側を流れる川。
「ひょっとすると、私もこの大逆流を見られるかもしれない」
とっさに、そう思いました。
さらに調べると、銭塘江の大逆流は旧暦の1日と15日に毎月発生すること、特に中秋と呼ばれる旧暦8月15日に一年で最も大きな海嘯が見られることがわかりました。
そしてこの時期、日本からも大逆流を見に行くツアーが出ていて、ツアー客が向かう場所が海寧という町にある「塩官観潮公園」だという情報を探り当てたのです。
翌朝、私は早速ホテルのフロントに行き、「塩官観潮公園」に行くバスはないかと聞いてみました。
英語が話せる男性がとても親切に対応してくれ、大逆流を見に行くツアーがあると言って、こんなチラシを持ってきてくれました。
何と、9月12日から20日までツアーがあります。しかも、日によって大逆流が起きる時間まで書かれています。
「いつ行きたいですか?」と担当者が聞くので、「今日」と答えます。
担当者は困った顔をして、「ツアーはもう間に合わない。鉄道で行く方法があるが、すでに全部満席です」とスマホで鉄道の状況も調べてくれました。
「タクシーならどう?」と私が食い下がると、「タクシーなら大丈夫です。片道1時間ぐらいで、200元ほどだと思います」と言います。
200元なら、日本円で3〜4000円ほどです。
「よし、これで行こう」私は即決し、10時ごろホテルを出発しました。
海寧の「観潮勝地公園」
ホテルでタクシーを呼んでもらい、フロントの男性を通訳にして、行き先をしっかり伝えてもらい、領収書も欲しいとお願いしました。
運転手さんは中国語しかできないようなので、後はこの運転手とスマホのナビゲーションに運命を託します。
高速料金がかかるので、目的地までは250元は必要だと運転手は言いました。
ここまで来たら、値切っても仕方がありません。
途中、雨が降ったり止んだりの天気の中、タクシーは高速道路を東へと進みます。
目的地は杭州市の東隣、海寧という町にあります。距離にして40〜50キロというところでしょうか。
ホテルを出てちょうど1時間ほどで高速を降りました。
すると、待っていたのは激しい渋滞。どの車も、大逆流を見に行く人たちのようです。
沿道には車の誘導に当たる警察官が大量に配備されています。ここに来て初めて、これは単なる自然現象ではなく、中国人にとって一大イベントなのだということを理解しました。
それでもタクシーは10分ほど渋滞を走っただけで、会場から少し離れた場所までたどり着きました。
スマホの地図でだいたいの位置は把握できているので、ここで大丈夫。
料金は高速代込みで260元(約4000円)でした。
人々の後について、茂みのようなところに入っていきます。
みんなピクニック気分で楽しそうです。
また激しく雨が降ってきました。
傘を持っていない人たちが、木陰や建物の下に逃げ込みます。
橋から北を望むと、安国寺の大きな建物が見えました。
この辺りはかつて「塩官鎮 」と呼ばれ、国家事業だった塩業を監督する役所が置かれました。そして古来から、銭塘江の大逆流を見る最高の鑑賞地として栄えたエリアなのです。
案内板には、このエリアに整備された歴史的なスポットが並び、一番上に書かれている「観潮勝地公園」というのが、大逆流を見物するために整備された公園のようです。
立派な壁に金文字で「千年古城 観潮勝地」。
中国の人たちは古来からこの地で、「天下の奇観」を眺めたのでしょう。
国際銭塘江海寧観潮節
観潮公園の入り口には、見取り図とともに大逆流が起きる時間が表示されていました。
お昼ごろだけではなく、真夜中にも・・・。
一日2回、大逆流は起きるようです。つまり満潮時ということでしょう。
駐車場はびっしりと観光バスで埋め尽くされています。
ツアー客たちはいい場所を確保するために、かなり早めに公園にやってくるようです。
中国の通信会社の5G中継車も止まっていました。
銭塘江の大逆流を次世代通信規格5Gを使って中継する試みも行われるようです。日本でも今秋から始まる5Gサービスが中国では一足早く始まっています。
駐車場を抜けると、こちらが公園の正面入り口。
中秋のこの時期、この公園では、「国際銭塘江海寧観潮節」というお祭りが催されていました。
日本の桜祭りならぬ、大逆流祭りです。
広場には、中華人民共和国建国70周年を祝う看板が目立ちます。
中国の国旗である五星紅旗の前では、子供たちが決まって敬礼をし、それを親たちが記念撮影するという光景が繰り広げられます。五星紅旗があれば子供たちは敬礼する、これがこの国のスタンダードなのだと強く感じます。
入場料90元(約1370円)を払ってゲートから入ります。
チケットには、押し寄せる波のイラストが描かれていました。
門をくぐると、柳並木が美しい水路を渡ります。
江南と呼ばれる杭州周辺の地方は水に恵まれ、美しい水路が縦横無尽に整備されています。
この公園はまだ新しく整備されたばかりのようですが、そうした江南の風情を活かした場所になっていました。
ゲートをまっすぐ進むと、「白石台」という建物にぶつかります。
制服姿の警察官が警備に当たっていました。
ここで左右に分かれますが、大半の人は右に進んでいるので、私もついて行きました。
銭塘江沿いの河岸は東西1360mに渡って、大逆流を見るための観覧席が整備されているそうです。
入り口に近い堤はすでに先客で満員。後から来た人は、どんどん西へと追いやられます。
「占鳌塔」と呼ばれる塔は、明代の有名な塔を真似て銭塘江のほとりに建てられたそうです。
この公園が今のように整備されたのは、上海万博前のごく最近ですが、逆流見物の歴史は唐の時代にまで遡ります。
中国の偉人たちも逆流見物に訪れたようで、この楼閣は「毛沢東観潮詩碑亭」 と呼ばれ、毛沢東の漢詩を彫り込んだ石碑が置かれているそうです。
孫文の詠んだ歌も公園のどこかにある石碑に刻まれていると言います。
ようやく堤防に上がることができました。
もう斜面は人でいっぱい。堤防の上も人で埋め尽くされていて、歩くのもままならないほどです。
堤防の上で目立っている樹木は、清の乾隆帝が植えたものと伝わっています。
この堤防が築かれたのはおよそ300年前。
まさに清の時代だったようです。
ところどころに有料のスペースが設けられていて、お金を払った人たちはテーブルで飲食をしながら逆流が起きる時間を待っています。
堤防の西のはずれあたりまで来ると、少しスペースが残っていました。
私はここで大逆流を待つことにします。
ちなみに私がスペースを確保した場所には、「第一観潮楼」という有料の建物がありました。
参考までに使用料を見てみると、一階席が一人80元、二階のテーブルは6人使用で一卓800〜1500元という強気な値段設定だそうです。
お金さえあれば、ここの2階席は最高のビューポイントなのでしょう。
それにしても、一体どれだけの人がこの川岸に集まっているのでしょうか?
数万人・・・ひょっとすると10万人以上いるかもしれません。
大逆流を待つ時間
この日の大逆流の予定は、12時30分。
観潮勝地公園の外れにある川岸の場所に陣取ったのは12時前のことでした。
最前列はすでにびっしりと埋まっているので、比較的背の低い女性たちの後ろを確保しました。
川面がよく見えそうな場所には、すでに人だかりができています。
私たちの後ろにあった階段にも人が並んでいます。
位置関係から考えると、この階段から川面がよく見えるかどうかは微妙ですが・・・。
観客の前を、赤旗を掲げた兵士たちが行進します。
暇を持て余していた観客たちは、兵士たちに興味津々。
隊列の中にはダイバーたちの姿も・・・。
過去には予想以上の大波が来て、観客が飲み込まれたこともあるそうで、万一の備えということなのでしょう。
それでも、日本のように「危ないから下がってください」といったアナウンスはなく、どこで見るかは各自の責任という雰囲気です。
テレビのクレーンカメラが、スタンバイを始めました。
いよいよ始まるという緊張感が会場に広がって行きます。
ドローンもやってきました。
観客たちは、ドローンに向かって大騒ぎで手を振ります。このあたり、日本人に比べて無邪気な印象で、かつて「ザ・ベストテン」の中継で群衆がカメラの前に群がっていた時代を思い出します。
銭塘江の大海嘯を撮る
会場がにわかに騒がしくなったのは、予定の時刻を少し過ぎた12時40分ごろでした。
どこからともなく、「来たぞ」というような中国語が聞こえ、座って待っていた人たちが岸辺に集まって来たのです。
肉眼でははっきりわかりませんが、河口付近に白い線が見え隠れしているようです。
私のコンパクトカメラは40倍までの望遠撮影が可能。それで撮影したのが上の写真です。
しかし、白い線はなかなか近づいてきません。
1枚目の写真から10分後でもまだこのくらい・・・。
波の真上をヘリコプターが飛んでいるのが見えます。監視しているのでしょう。
さらに2分後。
ついに波が、監視塔まで到達しました。
肉眼でもはっきりと大逆流の帯が見えます。
観客たちが一斉に身を乗り出して、スマホを構えます。
でもスマホの広角レンズでは、まだほとんど波は写らないでしょう。
上空に監視用のヘリがやってきました。
すると、スマホを持った人たちが一斉に上空にカメラを向け、手を振ります。
遠くの波より、近くのヘリ。
なんだか妙な光景です。
中国人は無類の写真好き。どんな時でも、何にでもカメラを向けて、その瞬間瞬間を楽しんでいるように見えます。
ヘリが行ってしまうと、再びカメラは波の方に向きます。
私も、とにかく写真に集中します。
時刻は12時58分。
白波は、広大な銭塘江の川幅いっぱいに広がって、ゆっくりと迫ってきます。
このあたりの川幅は2キロ以上はあるでしょう。
ただ、波の高さは想像したよりも低く、なかなか迫力のある写真は撮れません。
過去には、9mの大波が来たこともあるそうですが、この日は到底そんな大波にはなりそうもありません。
12時59分。
いよいよ白波が私たちの近くまでやってきました。
ここからは、動画に切り替えます。
高波が岸辺に打ち付ける光景を思い描いてやってきたので、ちょっと拍子抜けでしたが、滅多に見られない銭塘江の大海嘯をこの目でしっかりと見ることができました。
通り過ぎた白波の後を追います。
白波は、両サイドが速く、真ん中が遅い、V字型で川上へと進んでいきます。
個人的な印象では、近づいてきている時よりも、遠ざかっている時の方が迫力を感じます。
不謹慎ではありますが、東日本大震災の津波を思い出してしまいました。
13時2分には、もう何ごともなかったかのように波は見えなくなりました。
それはわずか数分のエンターテインメントでした。
奇跡的に脱出成功
イベントが終わると、大群衆が一斉に出口へと向かい始めました。
「これは大変なことになるな」。
急いでも仕方がないので、私は人の流れが少し落ち着くのを待つことにしました。
問題は、どうやって杭州に帰るかということです。
大方の人は、観光バスかマイカーで来ているでしょう。
私は、バスかタクシーをどこかで捕まえなければいけません。
出口に殺到する大群衆を見ながら、途方に暮れてしまいます。
どこからどんな交通機関が出ているのか、この時点で私にはなんの情報もなかったのです。
出口付近には、李鵬元首相の石碑が立っていて、例によって中国人たちが記念撮影をしています。
李鵬さんと言えば、天安門事件の弾圧を指示した当時の首相で、今年7月に亡くなったばかりです。
「中国では普通に人気があるんだなあ」
そんなことを思ったりしながら、人混みに揉まれながら広場をなんとか抜け出しました。
私が出たのは「迎賓門」という西から二番目の門だったようで、出たところには立派な「鎮海楼」という要塞のような建物がありました。
そして、鎮海楼脇の駐車場でこんな看板を見つけたのです。
中国語なので正確なことはわかりませんが、「海寧行きのバスが10元」と理解しました。
海寧は最寄りの町で、そこまで行けば杭州に行く手段はきっと見つかるはずです。
ちょうど駐車場の中から一台のバスが出てきて、乗客が乗り込み始めたので、私も一か八かこのバスに乗ることにしました。
私の見当違いなら、降りればいいだけです。
座席がすべて埋まると、女性車掌が回ってきて、何も言わずに10元札を手渡すとこの切符をくれました。
どうやら私の勘は当たっていたようです。
バスは見物客の波をかき分けるように、ゆっくりと走り出しました。
このエリアにはマイカーは入れず、このバスは特別扱いのようです。
時刻は、13時27分。
大逆流を見終わってから、まだ20分しかたっていません。
バスの窓からは、塩官鎮の中心部「塩官景区」の入口「宣徳門」が見えます。
この門が築かれたのは、なんと617年、隋の時代だそうです。
もしこのバスに乗れなければ、このあたりでうろうろしていたのだろうなと思いながら、奇跡の脱出成功に安堵したのでした。
バスは途中停車することなく、50分ほど走って海寧の町にたどり着きました。
皮革製品の展示場など、ファッション関係が盛んな町のようです。
そして、バスが止まったのは、海寧の駅でした。
海寧からはバスで杭州に行こうと思っていたのですが、到着したのが駅ならば、鉄道で帰ることを考えた方が良さそうです。
鉄道で海寧から杭州へ
海寧駅はちょっとレトロな駅でした。
切符売り場の行列もそこそこ。
中国の駅としては驚くほどではありません。
ちょうど30分後に出発する杭州行きの列車があります。
Google翻訳を使い、「一番早い杭州行き」と駅員さんに伝えます。
切符を買ったら、待合室へ。
行き先別に分かれていました。
こちらが杭州行きの切符。
二等席で18元(約280円)でした。安い。
置き忘れなのか、駅員か警察官らしき男性が大声で「これ誰のだ?」的な呼びかけをします。
すると一人の女性がすぐに反応し、受け取ろうとしますが、ここから予想外の事態が起きます。男性がその女性を罵倒し始めたのです。
何が問題だったのかはわかりません。女性も必死で抗弁しますが、男性は延々と怒鳴り続けるのです。静かだった待合室が一瞬騒然としますが、みんな一瞥をくれるとあっという間に関心を失って見向きもしなくなります。
こうした怒鳴り合いは、中国ではよく目にします。みんな慣れっこで関わり合いになりたくないのでしょう。
出発時刻の10分前に改札が始まりました。
待合室の中に改札があるので、私のような外国人にはむしろわかりやすいかもしれません。
行き先の下に書かれているのが座席番号。
私の席は、4号車の3Aです。
緑色の新幹線のような車両がほぼ定刻にホームに入ってきました。
中国の鉄道もかなり正確です。
車内もきれいです。
ただ日本と違って座席が回転しないので、半分の乗客は進行方向後ろ向きに座ることになります。私もそうでした。
非常時に窓ガラスを割る道具が備え付けられているのは、日本でも見習うべきかもしれません。
中国のホテルの部屋には、火災の際に煙から身を守るためのガスマスクのようなものまで常備されていますが、むしろ安全神話に頼る日本よりも現実的な対応だと感じます。
列車は40分ほどで杭州駅に到着。
予想外にスムーズに、帰ってこられました。
大逆流は予想したほどではなかったけれど、思いつきで旅する楽しさはやはり捨てがたいスリルがあります。
記憶に残る日帰り旅となりそうです。