アメリカ、メキシコ、カナダ。
史上初めての3カ国共同開催となった今年のサッカーワールドカップは、6月11日の開幕以来連日熱戦を繰り広げ、今日「無敵艦隊」スペインの二度目の優勝で幕を閉じた。
これまでの32チームから48チームに参加国を増やして開催された今大会だったが、終わってみれば実力通り、前回優勝のアルゼンチンのほか、スペイン、フランス、イングランドという世界ランキング1位から4位までの強豪国がベスト4に勝ち進み、最後の最後まで目が離せない見どころ満載の大会となった。
私もテレビの放送がない試合も見られるように、有料配信サイト「DAZN」に加入して、約40日間、毎日朝起きたらサッカーの試合を見るという日々を過ごしてきた。

私の推しは断然、前々回の優勝国フランスだった。
前大会得点王のエムバペをはじめ、デンベレ、オリーセといった強力で華麗な攻撃陣を揃えたフランスは、予選から圧倒的な強さを見せただけでなく、その鮮やかな得点シーンは何度見ていて思わず叫んでしまうほどの美しさである。
下馬評でもフランスを優勝候補の筆頭とみなす声は多かったが、準決勝で対戦したスペインは、そんなタレント揃いのフランスの攻撃を完璧に封じて見せた。
結果は2−0でスペインの完勝。
聞けば、ここ数年フランスはスペインにことごとく敗れていて、スペインは「無敵艦隊」と異名の通り、2024年3月以来、競合ひしめくヨーロッパにあって公式戦の無敗記録を伸ばし続けているという。

準々決勝のもう1試合は、メッシ擁するアルゼンチンとサッカーの母国イングランドの対戦。
イングランドが先制した1点を守って迎えた後半終了間際、アルゼンチンは立て続けに2ゴールを奪い、見事な逆転勝利を収めた。
いずれもメッシのアシストによる得点だった。
今大会のアルゼンチンはこんなハラハラする試合の連続で、もうダメだと誰もが思った瞬間から奇跡の逆転を決めて勝ち上がってきた。
やはり、世界の強豪国の決定力、集中力は凄まじい。

そして迎えた決勝戦。
フランスを完全に封じたスペインのパス回しを前に、さすがのアルゼンチンもシュートを打つことさえできない。
終始スペイン優勢で試合は進むが、アルゼンチンの守備も固く、ゴールが遠い。
両チーム無得点のまま延長線に突入し、アルゼンチンの選手が2枚目のイエローカードで退場、連覇を狙うアルゼンチンはいよいよ苦しい状況に追い込まれた。
それでも延長前半を凌ぎ、前大会同様PK戦による決着も見えてきた時、途中出場のフェラン・トーラスが鮮やかに決勝ゴールを決めそのままスペインが逃げ切った。

二度目の栄冠を手にしたスペインは様々な記録を塗り替えた。
2024年から続く無敗記録は、ワールドカップの8試合を加えて38に伸びた。
これは2018年から21年にかけてイタリアが記録した37試合を抜き、過去最長の無敗記録となった。
さらに、今大会8試合でわずか1失点というのも、長いワールドカップの歴史で初となる最少失点記録である。
メッシやエムバペのような突出したスーパースターが一人目立つのではなく、一人一人の高い技術力と一つの生き物のように柔軟に形を変えていく組織力、スペインの強さは玄人受けする職人技のようだった。

まさにサッカー漬けだったこの1ヶ月間。
大会が終わってしまったのが少し寂しい気もするが、心の底からサッカーの楽しさを堪能させてもらった。
かつて『サッカー不毛の地』と言われた主催国アメリカでも大いに盛り上がったらしく、ニューヨーク郊外で行われた決勝戦にはトランプ大統領自ら観戦に訪れた。
しかしトランプさんと言えば、このワールドカップでもまたとんでもない悪行をやらかした。

アメリカ代表のエースストライカーであるバログン選手がレッドカードを受けて次戦への出場ができなくなった時、懇意にしているFIFAのインファンティーノ会長に電話をかけ再考を促したのだ。
すると、なんとバログンの出場停止が1年間延期され次戦への出場が可能になるという異常な裁定がFIFAから発表されたのである。
あまりにもあからさまな政治介入。
物議を醸した試合でアメリカがベルギーに敗れたから問題はそれ以上大きくはならなかったが、「トランプに不可能はない」とでもいうような暴君の振る舞い、スポーツマンシップを一顧だにしないトランプとFIFAの対応に、楽しい気分が台無しにされるような不愉快極まりない最悪のニュースだった。

その一方で、小さな島国の大活躍が清涼感と共に記憶に残る。
アフリカ沖の大西洋に浮かぶ人口わずか55万人の島国カーボベルデだ。
一次リーグではスペインやウルグアイと同じ組になりながら、3試合全て引き分けで決勝トーナメントに勝ち上がり、1回戦で対戦したアルゼンチンに2−3で惜しくも敗れるも、脅威の粘りで二度も同点に追いついてあわやPK戦というところまで前回優勝国を追い詰めたのだ。
中でも再三の好守でゴールを守った守護神のヴォジーニャはなんと40歳。
スーパーセービング連発で無得点に抑えたスペインが優勝したことで、その評価は一段と高まるばかりだ。
さらにアフリカ勢では、オランダを下したモロッコ、アルゼンチンを瀬戸際まで追い詰めたエジプトなど北アフリカ勢の強さも印象に残った。

個人では、メッシ、エムバペ、ケインなどビッグネームのストライカーたちが期待通りの活躍を見せ、得点王争いもかつてないほどのハイレベルな戦いとなった。
最終的にはフランスのエムバペがワールドカップ史上56年ぶりとなる10得点をマーク、メッシらを振り切って2大会連続の得点王となった。
私のお気に入りのエムバペ選手の活躍は期待通りで嬉しかったけれど、もう一人今大会で印象が強かったのがサッカーではあまり実績のないノルウェーの「怪物」ハーランド選手である。
プレミアリーグの得点王という実績通り、今大会でも大活躍、ブラジルを撃破する立役者となった。
ゴール前での存在感は独特のものがあり、敵のゴール前に立ちクロスが上がると巨体を巧みに操っていとも簡単にヘディングでゴールを決めるその姿は、メッシやロナウド、エムバペとは全く異なる新たなストライカー像である。
高身長の選手が揃うノルウェーがひょっとすると優勝するのでは、と思ってしまうほど異次元な強さがとても印象に残った。

そんな見どころの多かった今大会で、前半の注目といえば、やはり何といっても我が日本代表の戦いだった。
大胆にもワールドカップ優勝を目標に掲げた森保監督率いる日本代表。
アジア予選を順調に勝ち抜け、世界最速でワールドカップの切符を手にした今の「森保ジャパン」は、『歴代最強』と評される一方で、大会前には攻撃の中心選手である三笘薫やキャプテンの遠藤航が相次いで怪我で離脱。
万全とは言えない不安な状態で、欧州の強豪オランダやスウェーデンと同じF組で一次リーグに臨んだ。

今大会、日本の初戦は日本時間6月15日の早朝5時、相手は準優勝3回を誇る格上のオランダだった。
前半は一進一退の攻防が続き0−0で折り返すが、後半開始5分、相手に与えたフリーキックから先制点を奪われる。
しかし日本は57分、左サイドバック中村敬斗の鮮やかなゴールが決まり同点に追いつく。
64分にはオランダに再びリードを許すものの、終了間際の88分、コーナーキックに途中交代のフォワード小川航基が頭で合わせ、その球が鎌田大地の頭をかすめてオランダゴールに吸い込まれた。

試合はそのまま2−2の引き分け。
予選リーグ最強の敵と引き分けで勝ち点1を獲得したことは、日本にとって大きな希望となった。
それにしても、相手に2度リードされてその都度追いついた試合展開は、かつての日本代表にはなかった力強さを感じさせる。
今の日本代表は、ほぼ全員がヨーロッパでプレーする海外組で、この試合でゴールを決めた中村はフランス、小川はオランダ、鎌田はイギリスで世界の一流選手と渡り合っている。
だから、三苫や遠藤の離脱で私のような素人は戦力ダウンを心配したけれど、この試合を見ながら、日本も選手層が厚くなったことを思い知らされたのだ。

しかしこの試合、残念なニュースもあった。
日本攻撃陣の要となってきた久保建英が試合途中で膝を怪我して戦線離脱を余儀なくされたのだ。
三笘や日本代表の常連だった南野拓実に続き、久保まで失ったことは日本の攻撃力に大きな影響を与えるに違いない。
そんな不安がまたぞろ心をよぎった。

それでも、そんな不安を完全に吹き飛ばしてくれたのが次のチュニジア戦である。
日本時間の21日午後1時から始まった試合は終始日本が支配し、安心して見ていられる試合だった。
久保が抜けた前線に鎌田を上げ、ボランチには田中碧、ディフェンスに新キャプテンの板倉滉と冨安健洋を起用した森保一監督の狙いがハマり、チュニジアにほとんどチャンスを与えなかった。
そしてこの試合で一際輝いたのが、エースストライカーの上田綺世。
今季オランダリーグの得点王に輝いた実績通り、鮮やかに2ゴールを決めてみせた。

途中出場の伊東純也も持ち味である俊足を生かしたゴールを決めて、4−0の完勝。
久保が抜けても全く動じない日本代表の強さを世界に示す試合となった。
森保監督は大会前のインタビューで、相手に応じて自在に戦術を変えられる「カメレオンのようなチーム」を目指すと語っていた通り、個人の力に頼るのではなく、変幻自在に組織として戦えるクレバーなチーム、これまでにない日本代表に成長していることを証明してくれた。
私は今の日本代表をとても頼もしく感じ、ひょっとすると私の想像以上の奇跡を起こしてくれるのではないかと期待した。

そして迎えた一次リーグ最終戦となる26日のスウェーデン戦。
第2戦までで勝ち点4を獲得した日本は、この試合で引き分け以上なら予選突破が決まるが、1位通過を目指すなら首位のオランダを得失点差で上回る必要がある。
すでに決勝トーナメントの相手は決まっていて、1位通過なら前大会ベスト4のモロッコ、そして2位通過ならばサッカー大国ブラジルとの対戦となる。
過去最多の48チームが参加する今大会では、予選3位になっても決勝トーナメントに進出する可能性があり、勝ち点4をすでに獲得している日本は、たとえスウェーデンに敗れても決勝進出は確定しているためか、森保監督はあえてこれまで出場機会がなかった選手たちをピッチに送った。
そのせいか、前の2試合に比べて日本代表の動きにキレがなく、全体にストレスの溜まる試合展開が続いた。
しかしそんな嫌な空気を変えてくれたのが、後半56分、フォワード前田大然の先制ゴールだ。

しかしその直後、スウェーデンに豪快な同点ゴールを決められ、最後は防戦一方、ヒリヒリするような敵の猛攻を凌いでなんとか1−1で引き分けに持ち込んだ。
攻守とも、前の2試合とは違う危うさを感じた一戦だった。
この結果、日本は予選リーグ1勝2分でオランダに次ぐ2位。
無事に最低目標である予選突破は果たしたものの、スペインやドイツを破った4年前のカタール大会のような「ジャイアントキリング」は起こせなかった。
そして、日本にとって「超えられない壁」となっている決勝トーナメント初戦の相手は、ワールドカップ優勝5回を誇る難敵ブラジルに決まったのである。

昔だったら、ブラジルが相手と決まった瞬間「もうダメだ」と諦めただろうが、今の日本代表は去年行われた親善試合でブラジルに逆転勝利を収めた実績もある。
日本国内でも海外でも「日本は不利ではあるが勝つチャンスは十分にある」との受け止めが広がった。
それこそが、日本代表の成長の証であり、どんどん内向きになりつつある昨今の日本で、競うように海外に活動の場を求める若きサッカー選手たちが先輩たちとは別次元の実力を身につけていることの証明である。
日本サッカーの成長を見守りながら、若者たちを「井の中の蛙」にせずどんどん海外経験を積ませることの大切さを私は改めて強く感じたのだ。

そして迎えたブラジル戦は、6月30日の午前2時キックオフだった。
私は録画して、朝起きてからゆっくり見るつもりだったのだが、結局夜中に目が覚めてしまい、寝ぼけ眼のままテレビの生中継を見守ることになった。
森保監督は、足の速い伊東純也と前田大然を共にシャドーに起用、トップの上田、両ウイングの堂安、中村を加えて、これまでに見たことのない攻撃陣を先発させた。
従来攻撃の核となってきた久保や三苫を欠く中で、試合序盤からスピードと運動量でブラジルに対抗しようという狙いだったのだろう。

その狙いは効果を発揮した。
コンパクトな守りでブラジルの攻撃を阻止しつつ、ボールを奪うと素早いカウンターを仕掛ける日本らしい形で試合に入ることができた。
そして前半29分、中盤で相手のパスをカットしたボランチの佐野海舟がドリブルでブラジルのゴールに迫り、自ら右足を振り抜いてシュート。
地を這うようなボールは、そのままブラジルゴールに突き刺さった。
日本、先制!!!!!
この瞬間、まだ寝ぼけていた私は思わず声を上げて起き上がる。
その後もブラジルの攻撃を巧みに凌ぎ、前半を1−0のリードで折り返した。
今大会のブラジルチームには、かつてのような絶対的なスーパースターがおらず、ひょっとするとこのまま勝てるのではないか、そんなことを思わせる前半の闘いぶりだった。

しかし後半に入ると、ブラジルは戦術を変更し、サイドからロングボールをゴール前に蹴り込んでくるようになる。
スウェーデン戦で日本が苦戦した攻撃法だ。
そして56分、マンチェスターユナイテッドでプレイするMFのカゼミーロが左からのクロスを頭で合わせ同点。
日本は時間と共に守勢に回り、攻撃に出られなくなる。
ブラジルの猛攻に対して森保監督は守りを固める選手交代を行うが、これが裏目に出て、自陣ゴール前でブラジルに一方的に攻められる時間が続くことになる。

それでも守護神の鈴木彩艶を中心に、粘り強くゴールを守り、残り1分で延長戦突入と思われた後半アディショナルタイム。
ボランチの田中碧が奪ったボールをすぐに奪い返されて、それがブラジルのFWマルチネリの決勝ゴールに繋がった。
がっくりと肩を落とす田中。
しかし、彼だけのせいじゃない。
もはやこの時点で、日本チームには奪ったボールを前に運ぶ余力は残っていなかったのだ。

結果は、1−2。
過去何度も跳ね返されてきた決勝トーナメント1回戦の壁を今回も超えられなかった。
ただ、前回ワールドカップでブラジルと対戦した時には、1−4で大敗している。
それに比べると日本と世界の差は間違いなく縮まっているのだろう。
それでも、ロングボールを多用する攻撃に対する脆さ、運動量が落ちてくる後半の戦い方など多くの課題が露呈した試合でもあった。

今回の日本代表。
確かに選手層は厚くなったし、個々のレベルも上がっている。
かつてワールドカップの切符を掴むのにも四苦八苦していたアジアでは、今や頭ひとつ抜ける存在になって「目標はワールドカップ優勝」と森保監督は極めて高い目標を掲げてみたが、世界のトップとの差はまだまだ大きい。
それをはっきりと思い知らされた敗戦でもあった。
日本を破ったブラジルは2回戦で怪物ハーランドを要するノルウェーに敗れ、そのノルウェーも準々決勝でイングランドに敗れ、そのイングランドはアルゼンチンに敗れ、最後はアルゼンチンがスペインに負けた。
ワールドカップ優勝は、まだ遠い遠い夢である。

しかし、その高い目標に向かって今後も日本の若者たちが海外で武者修行を続けていくならば、いつかそれに近づき手が届く日が来るかもしれない。
日本には今後楽しみな若手がどんどん育っている。
森保監督がワールドカップで指揮をとるのは今回が最後となる可能性が高いが、常に選手と向き合い日本の強みを探し続けたこの8年間に拍手を送りたいと思う。
これからの日本代表はどこまで進化するのか?
ベスト4を戦った強豪国の強さを再確認しながらも、スペイン・ポルトガル・モロッコの共同開催となる4年後のワールドカップが今からもう楽しみになっている。