元日に起きた能登半島地震から今日で2週間。
岸田総理が昨日、地震後初めて能登半島の被災地入りした。

今回の地震は能登半島で“1000年に一度”という大きなものだったことも専門家の調査から明らかになり、海岸線は最大で4メートルも隆起して多くの漁港が使用できなくなり、日を追うごとに被害の大きさがわかってきた。
最大の問題は道路。
もともと少ない幹線道路の大半が土砂崩れで塞がれ、緊急車両の通行にも支障をきたす状態で、ボランティアや一般の人には「被災地に来ない」でと呼びかけるほど現場は混乱が続いた。
そのため、岸田総理も被災地入りのタイミングを見計らっていたのだ。

地震発生から2週間経って、ようやく支援の手が少しずつ届くようになった。
私がこのブログで必要性を指摘した「避難疎開」についても、「2次避難」の名の下にようやく本格化してきたようだ。
いまだに電気も水道も復旧せず、その目処さえ立たない地域から住民を一時的に安全な場所に避難させて、災害関連死を防ぐと同時に現場の負担を軽減することが狙いだ。
地元石川県の旅館やホテルが次々に協力を申し出ているだけでなく、全国の自治体からも空室となっている公営住宅を無償で提供するとの申し出が相次いでいる。
岸田総理も2次避難に度々言及して旗を振っているものの、誰をどこに送るかの調整に時間がかかり、実際に2次避難が実現したのはまだ一部にとどまっている。

石川県の馳浩知事はかなり早い段階から2次避難に言及していて、調整中の人たちが一時的に利用できる「1.5次避難所」も金沢市内に設置した。
しかし、行政というのはマニュアルがないとなかなかスムーズに事が運ばない。
公平であることを気にするあまり、高齢者や障害者を優先しようとしてなかなか移送する順番を決められないのだ。
対象となる高齢者も自分1人で知らない土地に行くのは嫌だと抵抗する。
都会の人に比べて、田舎で暮らす人たちは特に知らない土地に行くことが不安に感じるらしい。
災害が起きたら不便な体育館で耐えることが当たり前とされてきた日本。
行政も国民も、みんなが広域避難に慣れていないのが最大の原因なのだ。

ネックとなるのは法律の立て付けである。
災害対策基本法を読んでみると、住民の避難について主体的に判断するのは被災した市町村の長とされている。
広域避難に関する条文は次の通りだ。
第六十一条の四 市町村長は、当該市町村の地域に係る災害が発生するおそれがある場合において、予想される災害の事態に照らし、第六十条第一項に規定する避難のための立退きを指示した場合におけるその立退き先を当該市町村内の指定緊急避難場所その他の避難場所とすることが困難であり、かつ、居住者等の生命又は身体を災害から保護するため当該居住者等を一定期間他の市町村の区域に滞在させる必要があると認めるときは、当該居住者等の受入れについて、同一都道府県内の他の市町村の市町村長に協議することができる。
第六十一条の五 前条第一項に規定する場合において、市町村長は、要避難者を一定期間他の都道府県内の市町村の区域に滞在させる必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、当該他の都道府県の知事と当該要避難者の受入れについて協議することを求めることができる。
第六十一条の六 前条第一項に規定する場合において、市町村長は、事態に照らし緊急を要すると認めるときは、要避難者の受入れについて、他の都道府県内の市町村の市町村長に協議することができる。
第六十一条の七 都道府県知事は、市町村長から求められたときは、第六十一条の四第一項の規定による協議の相手方その他広域避難に関する事項について助言をしなければならない。
2 内閣総理大臣は、都道府県知事から求められたときは、第六十一条の五第二項の規定による協議の相手方その他都道府県外広域避難に関する事項又は広域避難に関する事項について助言をしなければならない。
引用:災害対策基本法
すなわち、広域避難が必要な今回のようなケースでも、それを求める主体は被災した市町村長であり、国はあくまで助言する立場と定められているのである。
これでは迅速な2次避難など実現するはずがない。
石川県はかなり早い段階から2次避難の計画を立てていたし、他の都道府県からも住宅の提供などの申し出があったにも関わらず2週間も被災者を寒い劣悪な環境にとどめているのは、法の不備という他はない。
被災自治体というのはそれでなくてもやることが多過ぎて、市町村長が主体ではこうした大きな災害の場合すべてが後手後手になってしまう。
東日本大震災を教訓に広域避難の重要性が議論されたが、今回の地震対応を見る限り、政府の動きは鈍いと言わざるを得ないだろう。
今後予想される南海トラフや首都直下地震を想定して、日本全体が一丸となった初期における広域避難のマニュアルと組織作り、それを支える法整備が急がれる。
当然、国が主導して被害がない自治体に被災者を割り振り、高齢者だけでなくその家族も一緒に希望する人をどんどん被災地から生活環境の整った場所に避難させる体制を整えなければならない。

今回の地震では、政府や自治体だけでなく、メディアの動きも鈍かった。
被災者は被災地の避難所で不自由な生活をするのが当たり前という昔ながらの思い込みが、取材するメディア側にもあるのではないか。
さらに言えば、被災者の間にも被災地の外へ避難するという発想が乏しく、すべての人が頭の中を切り替えて、大規模な地震があったら避難が可能な人は直ちに被災地を離れるという「新しい常識」を作り上げなければならないと私は思う。
そして、災害発生時に真っ先に現地に乗り込み被災自治体をサポートしつつ、専門性を活かして現場の指揮調整にあたる政府組織も必要だろう。
東日本大震災後にできた復興庁もそうした発災直後の対応を担う組織ではないし、強いて言えば防災は国土交通省の管轄ということになるのだろうが、実際には自衛隊や警察消防が要請を受けて活動するぐらいで基本的には被災自治体が慣れない作業に忙殺されることになる。
アメリカにおける「連邦緊急事態管理庁(FEMA)」のような組織が、地震大国日本に存在していないことこそ政治の怠慢という他はない。

被災者が数万人レベルの能登半島地震で実践できなければ、被災者が数千万人規模となる首都直下、南海トラフの超巨大地震にはとても対応できるものではない。
大規模な震災からの復興には長い年月が必要だ。
東日本大震災の例を見ても明らかなように、過疎地においてはどれだけ巨額の国家予算を投じても、被災地が元通りになることはない。
地震を機に住み慣れた土地を離れ、新たな場所で再起をかける人も出てくるだろう。
政府も安易に「復興」を口にするだけでなく、将来の人口減少を睨んだ被災地の再生、被災した人たちの生活再建をサポートして、多様な選択肢を提供してもらいたいと望む。
岸田総理には、被災者の声を聞いたふりではなく、今後起きるであろうさらに深刻な震災に備えて、全国民を巻き込んだ総力戦のマニュアルと、非常時に災害対応の指揮を執る専門組織の設立、それらがしっかりと機能するための法律整備を政府が中心となって行ってもらいたいと願うばかりだ。
<吉祥寺残日録>能登半島地震「届かぬ支援」!被災地から被災者を脱出させる「避難疎開」のマニュアル化を進めよう #240105