今日から立春の次候、七十二候の「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」となる。

我が家のトイレの歳時記カレンダーには、「こうおうけんかんす」とよくわからないルビがふってあるが、一般的にはシンプルに「うぐいすなく」と読むらしい。
文字通り『ウグイスの初音が聞こえてくる頃』ということらしい。
ウグイスは、オオルリ、コマドリと並んで「日本三鳴鳥」に数えられる。
先日、樹木の名前を覚えようと上を向いて井の頭公園をぶらぶらしていた時、偶然ウグイスを見かけたが、写真は撮れなかった。
ウグイスは警戒心の強い鳥で、藪の中など見えにくい場所で鳴くことが多いため、英語では「Bush Warbler」と呼ばれるらしい。
昨日もウグイスを探してみたのだが、やはり見つからなかった。

その代わりと言っては何だが、こんな鳥を撮影した。
鮮やかな黄緑色の羽根に覆われ、赤い嘴を持っている。
インコだ。
正確にいうと、インド南部やスリランカを原産とする外来種の『ワカケホンセイインコ』である。

なぜ、外来種のインコが井の頭公園にいるのかというと、ペットとして輸入された後、誰かが捨てて野生化したのだ。
実は私は、テレビ局に入社した直後、報道カメラマンをしていた時期があるのだが、その時「野生のインコ」を撮影しようと記者と一緒に走り回ったことがある。
もう40年ほど前の話だ。
当時はニュースになるほど野生化したインコは珍しかったが、彼らはすっかり環境に順応して東京に定住してしまった。

ワカケホンセイインコは、体長30〜40cmで、ウグイスよりもずっと大きい。
しかも群れで飛び、「キーキー」鳴き声もうるさいので、カラスたちも一目置かざるを得ない存在のようだ。
日本鳥類保護連盟によると、東京や神奈川を中心に約1300羽が生息しているとみられ、この30年でその数は2倍近くに増えたらしい。
連盟の公式サイトには、「野生化しているインコの仲間」としてこんなことが書いてある。
ワカケホンセイインコの他、オオホンセイインコ、ダルマインコ、アオボウシインコ、ムジボウシインコ、セキセイインコなど、1970年代前後のペットブームに合わせて多くの種の観察例がありますが、近年東工大のねぐらで生息が確認されているのはワカケホンセイインコとダルマインコ、ムジボウシインコで、繁殖が確認されているのはワカケホンセイインコとダルマインコです。

日本古来からの「黄鶯睍睆(うぐいすなく)」がいつの間にか「インコなく」に変わってしまったわけだが、やはり春を告げるのはインコよりもウグイスの方がありがたい。
とはいえ、遠い異国に定住し野生化した「ワカケホンセイインコ」たちの適応力やしぶとさは、コロナ禍に苦しむ人間も少しは見習った方がいいかもしれない。
さてそのコロナだが、東京を含む10都府県では今日から緊急事態宣言が1ヶ月延長となった。
栃木県だけが解除された格好だが、このところ順調に新規感染者数が減少していて、12日にも新たな解除地域が発表されそうだ。

東京が解除されるのはどうせ最後なので、ここは焦らずこれまで自粛生活をみんなで続けるべきと思うのだが、世の中の人たちは、私のようにのんびりはしていられないようだ。
この週末、吉祥寺の街も井の頭公園も多くに人で賑わっていて、公園内の店舗には結構な行列ができていた。
どうやら自粛自粛でストレスが溜まった人が多いらしい。
ただじっとしていればいいのだから、さほど難しいことではない気がするのだが・・・。

最近何かといえば「メンタルをやられる」だとか、「心のケアが必要」だとかすぐにメディアが騒ぎ立てるものだから、日本人のメンタルが著しく弱くなっている気がする。
確かに自由に行動できないのは不愉快だが、とにかく家にいてできることをすればいいだけのことだ。
電気もガスも電話も普通に使えるし、テレビもインターネットもネットフリックスだって楽しめる。
図書館も開いているので、せっかくなら生き方をペースダウンして、ゆっくり時間をかけて何かを勉強してみるのもいいだろう。
変に「義務」とか「責任」と考えずに、通常味わいたくても味わえない「おうち時間」を、せいぜい楽しまなければもったいない。
マスクをして公園を歩くのは問題なさそうなので、ウグイスを探して井の頭公園をぶらぶらしてみるのもいいかもしれない。
ちなみに、「ホーホケキョ」と鳴くのはオスだけだそうだ。
そんな「ウグイスの初鳴き」を気象庁は毎年観測してきたが、今年から観測をやめることになった。

ウグイスのほか、「つばめの初見」「ひばりの初鳴き」「ツクツクボウシの初鳴き」など、全国58地点で植物34種目、動物23種目を対象に行ってきた『生物季節観測』を、今年から6種目に大幅削減することを気象庁が発表したのだ。
その理由は?
『近年は気象台・測候所周辺の生物の生態環境が変化しており、植物季節観測においては適切な場所に標本木を確保することが難しくなってきています。また、動物季節観測においては対象を見つけることが困難となってきています。』
機械ではなく人間の目や耳で観測してきた「生物季節観測」は、予算不足と都市化の中で維持できなくなったということのようだ。
今後も継続するのは、6つだけ。
- うめの開花
- さくらの開花・満開
- あじさいの開花
- かえでの紅葉・落葉
- いちょうの黄葉・落葉
- すすきの開花
これでは、ずいぶんあっさりとしてしまう。
まるで幼稚園レベルだ。

そこで私からの一つ提案がある。
気象台の職員が足りないのであれば、SNSを使って全国から写真や動画を送ってもらうことはできないだろうか?
全国民に呼びかけて、新たな形での「生物季節観測」を再構築するのだ。
私のような暇な年寄りが張り切って、季節を変化を探して公園を歩き回り、スマホで撮影した開花や初鳴き情報をきっと発信してくれるはずだ。
私も今年、歳時記の面白さに目覚めたばかりだが、先祖が大切に守ってきた日本独自の季節感、ちょっとした変化に気づく感性と心のゆとりを大事にしたいと思っている。
それこそが、日本人を日本人らしくしているアイデンティティだと確信しているから・・・。
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