<吉祥寺残日録>443年ぶりの天体ショーに触発され録画していた「コズミックフロントΩ」を一気見する #221110

月が地球の影にすっぽり隠れる皆既日食と同時に、天王星が月に隠れる惑星食が同時に観測できるのは443年ぶりというので、我が家でもベランダから東の空を眺めた。

幸い8日夜の東京は快晴。

6時すぎから月が欠け始めるのがはっきりと見えた。

40倍ズームのついたコンパクトカメラを久しぶりに持ち出し、手ブレしないようにベランダの手すりに押しつけながらシャッターを切る。

まあ素人的にはこの程度だろう。

午後7時になると、月の大半が影に覆われて光量が落ち、私のカメラの性能だとうまくフォーカスが合わなくなってくる。

そして、午後7時16分ごろから完全に月は地球の影に入り、皆既月食が始まった。

もうこうなると、暗すぎて古いカメラのオートフォーカスが邪魔をして何枚撮ってもピンボケ写真ばかり、辛うじて皆既月食の月が映ったのはこのピントの甘い1枚だけだった。

もちろん、こんなカメラでは天王星を確認することなど到底無理である。

自力での観測を諦め、テレビの中継画面を見守る。

テレビだけではなく新聞社もYouTubeでも、プロカメラマンだけでなく多くの天体ファンが全国でその瞬間を狙っていた。

皆既月食は1時間半続き、午後8時40分ごろから天王星食が始まったようだ。

天王星の明るさは6等星程度で肉眼で捉えることは難しかったようだが、40分間月の影に隠れて9時20分すぎに再び姿を現したという。

前回、皆既月食と惑星食が同時に見られたのは1580年、安土城が完成した翌年で織田信長の天下統一が目の前まで迫っていた。

本能寺の変が起こる2年前のことである。

久しぶりにのんびり夜空を見上げていたら、宇宙に関する番組をいろいろ録画するだけで見ないまま溜まっていることを思い出した。

こういう時に見なければ絶対見ないだろうと思い、阿部寛さんがナビゲーターを務めるEテレの「コズミックフロントΩ」のシリーズを見始めた。

最新の研究成果を踏まえ、宇宙や地球の成り立ちから物質を作る素粒子の話まで私の知らない科学知識がいっぱい詰まった大変ためになる番組である。

以前にも少し書いたが第1回のテーマは「宇宙誕生」。

ビッグバンが起きる前はどんな状態だったのかという深い謎が語られる。

宇宙が誕生する前、そこは何もないまさに無の世界でした。物質はおろかエネルギーもありません。でも時間を超スローモーションにしてみると、別のものが見えてきます。実はものすごい速さで小さなエネルギーが生まれては消えることが繰り返されていたのではないか。あまりにも短い時間の出来事のため、一見何もないように見えているだけだというのです。ワインバーグさんはこのエネルギーを「バキューム(真空のエネルギー)」と名づけました。

誕生の瞬間、そこにあるのは小さな小さな宇宙のタネ。その内部には真空のエネルギーだけが存在していました。このとき不思議なことが起こります。そのエネルギーのバランスが崩れる瞬間があるというのです。その時、空間が信じられないほど超急膨張を開始、これがビッグバンにつながります。

温度は1兆度のそのまた1兆倍以上。ビッグバンの中では真空のエネルギーが一気に物質に変化。物質同士が複雑に相互作用を始め、陽子、中性子、電子などが次々に生まれていきます。

超急膨張からここまでにかかった時間はなんとわずか1秒。その後宇宙はどんどん大きくなりながら成長を続けます。やがて星や銀河が誕生したのです。

引用:コズミックフロントΩ

では、宇宙はいつ誕生したのか?

こんなあり得ないような問いの答えも最先端の科学は解き明かしつつある。

宇宙に浮かぶ数多くの銀河はほぼ同時に生まれたと考えられています。つまり遠くの銀河も近くの銀河も実は年齢は同じ。これにより望遠鏡が過去の宇宙を覗き見るタイムマシンの役割を果たします。どういうことかというと、私たちが見ている遠くの景色は光のスピードで伝わってきたもの。光が届くまでの間も遠くの風景は変わり続けます。ということは、100億光年離れた銀河は100億年前の姿を見ているということ。10億光年の距離にある銀河は10億年前、1億光年なら1億年前の姿です。そのため最も遠い銀河を探すことで宇宙はいつ誕生したのかに迫れるのです。

イリングワースさんたちが星までの距離を調べるのに用いるのは星が出す光の波長。あのハッブルも利用した遠い銀河ほど波長が長く赤く見えるという現象です。それをもとに計算することで銀河までの距離、つまり年齢を知ることができます。

例えば1990年時点で観測できた最も遠い銀河がこちら。距離は78億光年、宇宙は少なくとも78億歳以上であることがわかります。

2003年イリングワースさんたちがハッブル宇宙望遠鏡でこれまでにないほど遠くの宇宙の観測に挑みました。狙ったのは南の空にある「炉座」の一角。270時間にわたって一点を観測、そして得られたのがこちら。1万にのぼる大小さまざまな銀河。100億光年以上も離れた銀河も数多く見つかりました。宇宙の年齢が100億歳以上であることは確実です。

さらに遠くを見通せないか。考え出したのは画像を重ね合わせるという手法です。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された2062枚の画像。重ね合わせると当時最も暗い天体まで映し出した1枚の画像が完成しました。イリングワースさんがこの画像の中の天体1つ1つの距離を割り出していきます。そしてかすかに光る赤い天体を見つけ出したのです。その距離は134億光年だといいます。

ハッブル宇宙望遠鏡は宇宙が134億年前には誕生したことを明らかにしたのです。

引用:コズミックフロントΩ

我々が住むこの宇宙は134億年前に生まれた。

すごいことがわかるものだとただただ感心する。

宇宙が134億年前に生まれたとすると、地球はいつどのように生まれたのか?

こうした問いにも、「コズミックフロントΩ 地球誕生」がしっかりと答えてくれる。

地球が生まれたきっかけは46億年前、太陽の誕生です。宇宙に漂う水素やヘリウムなどのガスが集まり太陽ができました。そのまわりにはガスの残りと塵が漂っています。宇宙に漂う塵は大きさが0.001ミリ、空中を舞う埃のようなものです。宇宙にある物質の99%はガスのため塵はわずか1%しかありません。

2014年、アルマ望遠鏡がこの小さな塵から実際に惑星が作り上げられていく貴重な現場をとらえました。おうし座の方向にある巨大なガスと塵の塊の中にその天体はあります。中心にあるのは生まれたばかりの太陽のような星「おうし座HL星」です。このオレンジに見える円盤こそ惑星を作り出す塵やガスです。この円盤よく見ると黒い溝が何本もあります。実はこれが惑星が誕生している証拠と考えられています。惑星の元となる小さな塊。それが中心の星のまわりを何度も何度も回り続けながら辺りの塵を集めるためその通り道が黒い溝のように見えるのです。

こうして細かな塵が合体していくことで徐々に惑星はできていきます。地球のほか、金星、水星、火星は塵が集まってできた「岩石惑星」と呼ばれます。木星や土星も中心部はこうして塵が集まった岩石と考えられています。でも地球より大きく成長したため、強い重力で周囲のガスなども引き込み巨大化していきました。さらに太陽から遠く離れたところには天王星や海王星が生まれました。

もともと全ての惑星は小さな小さな塵から成長を始めました。この塵が集まり、直径数キロになります。いわば惑星の赤ちゃんのようなもの。それがさらに合体していくことで立派な惑星になっていきます。しかし、太陽の強力な重力に逆らって塵が大きくなり続けるには特別な何かが必要だというのです。

研究から宇宙空間でダイナミックな現象が起きている可能性が浮かび上がってきました。マックス・プランク天文学研究所の天体物理学者ヒューバート・クラーさんです。クラーさんはシミュレーションによって生まれたばかりの太陽のまわりではガスや塵がまるで嵐のように激しく乱れていることを突き止めました。「乱流」と呼ばれます。塵は円盤の中で均一に散らばっているのではなくどこかで塊になっていきます。乱流により塵はさまざまな場所に集まっていたのです。小さな小さな塵の状態から激しい乱流によって一気に塊へと成長したことを意味しています。

こうして1億年ぐらいかかってお互いに衝突しあって最終的に地球サイズの惑星ができあがるのです。シミュレーションの結果、地球は10個ぐらいの成長した惑星の赤ちゃんが合体して誕生したことがわかりました。

引用:コズミックフロントΩ

ただ塵から生まれた地球はまだ今のような水の惑星ではなかった。

これまでの人類の観測では、地球のような表面に水を湛えた惑星は他に見つかっていないという。

では地球の7割を覆う海はどうやってできたのだろう?

その答えも番組の中で説明されていた。

地球に海ができた謎を解いたのが惑星理論の第一人者、千葉工業大学学長の松井孝典さんです。1986年、海は地球ができた時に水蒸気を大量に含む大気から誕生したという説を発表しました。当時、松井さんが考えた海誕生のシナリオです。

今からおよそ46億年前、原始の地球に宇宙の塵から生まれた小惑星が大量に降り注いでいました。海の元となったのはこの小惑星に含まれる水。その水が蒸発してやがて雨となって降り注ぎ海になったのではないかと松井さんは考えたのです。

惑星を作り出す塵について研究をおこなっている桐蔭横浜大学教授の中野秀之さん。塵がある条件に置かれた時にできる変化に着目しました。塵に含まれる成分を混ぜ合わせたものを400度100気圧で5時間放置します。小惑星が地球にぶつかる際の内部の様子を模した条件です。できたのは含まれた炭素などが変化した石油と透明な液体でした。水ができていたのです。

塵には炭素などに加え、水素や酸素などの物質も含まれています。条件次第でその物質から水ができることがわかったのです。塵が集まると小惑星になります。特に地球周辺でできた小惑星はその後、地球にぶつかる可能性が高くなります。初期の地球に降り注いだ小惑星によって大量の水がもたらされた可能性が明らかになったのです。実際の隕石でも確かめられています。調べたのはメキシコに落ちた隕石。火星と木星の間からやってきたと推測されています。分析したところ、水を多く含んでいることがわかったのです。

初期の地球ではもう一つ大きな事件が起きます。初期の地球に火星ほどの大きさがある惑星の赤ちゃんが大衝突したのです。「ジャイアント・インパクト」と呼ばれています。衝突した惑星の赤ちゃんの大半と初期の地球の一部が宇宙空間に飛び散ります。飛び散ったかけらが集まって誕生したのが月です。その衝撃は激しく、当時海ができていたとしても丸ごと消滅させるものだったと多くの研究者は考えてきました。しかし最新シミュレーションでそれを確かめると、秒速3キロだった「ジャイアント・インパクト」ではほとんど影響を受けないことがわかったのです。

こうして研究の積み重ねから海ができる過程が見えてきました。

46億年前、初期の地球に降り注ぐ大量の小惑星。そこに含まれた水が水蒸気となって大気中に放出されます。水蒸気を多く含む原始の大気の誕生です。上空では雨が降り続いていますが、地上に落ちることはありません。地上は高温のため途中で蒸発してしまうからです。やがて小惑星の落下が収まると地表の温度は低下、上空の雨が地表にまで達するようになり海ができ始めます。しかしその海をジャイアント・インパクトが襲います。でも大丈夫。海のほとんどは水蒸気として地球にとどまります。そして再び雨となって、一気に大量の雨を降らせました。その豪雨は1000年ほども続きます。そして地表の7割をも覆う現在の海のもととなりました。その海には小惑星や雨によってさまざまな物質がもたらされていました。海に溶け込んだミネラルやアミノ酸、それは生命を作り出す材料となるもの。こうした物質が海の中で出会うことで、複雑なタンパク質や遺伝子ができていく。そうした繰り返しによってやがて海の中で豊かな生態系が育まれていきました。そして海から陸上に生物が進出。現在地球上には870万種もの生き物がいると推測されています。地球に海ができたこと。それが豊かな生命を育む地球のすべての出発点となったのです。

引用:コズミックフロントΩ

惑星が海を持つためには、太陽からの距離と惑星の大きさも重要な要素だ。

太陽に近すぎると水は蒸発し、遠すぎると凍ってしまう。

また惑星が小さすぎると重力が足りずに水を引きつけておくことができない。

こうして考えていくと、地球がまさに「奇跡の星」であることがわかる。

もう一つ、宇宙から生まれたすべての物質を構成するミクロの世界も興味深い。

「コズミックフロントΩ」の中から「素粒子のヒミツ」を見てみよう。

138億年前、宇宙は何もない無から生まれました。その直後、今宇宙にあるすべての物質を構成する材料が揃ったといいます。その材料とは、素粒子です。星も銀河もそして私たちも物質はすべて小さな粒々、素粒子からできています。

たとえば私たちの体を拡大し続けると、細胞、そして窒素、リン、酸素、炭素、水素などの原子が見えてきます。原子は電子と原子核からできていますが、原子核はもっと細かくなります。それは陽子と中性子。さらにその先に見えてくるのが、物質の最小単位、素粒子です。

今のところ、素粒子は17種類あることがわかっています。それぞれどんな役割を果たしているのか解明が進められています。その中で物質を形作るものがどれかもわかってきました。実はたったの3種類。3種類の素粒子からこの世にあるすべての物質ができるなんて一体?

東京大学カブリIPMUの物理学者、村山斉さんが教えてくれます。

たとえばこれが酸素原子の原子核だとすると、開けると16個のもっと小さな玉が入っています。陽子を金色、中性子を銀色で表していますが、それぞれ8個ずつあります。ヘリウムの原子核なら陽子と中性子は2個ずつ、炭素なら6個ずつ、金だと陽子が79で中性子が118個入っています。つまり原子によって陽子と中性子の数に違いがあります。

この世界にある原子は100種類以上。その違いは陽子と中性子の数の違いだったのです。

陽子と中性子は何でできているか?

陽子も中性子も2種類の素粒子でできています。アップクォークとダウンクォーク。陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個からできています。これにもう一つの素粒子、電子がまわりを回ることでさまざまな原子ができているのです。

宇宙の始まりでできた素粒子。莫大なエネルギーの中でさまざまな反応が起こり、水素とヘリウムが生まれました。その後、それらを原料として生まれた星の中で、さらに反応は進みます。酸素や炭素、さらに鉄までが作られていきました。一部の星はその一生を終える時、華々しく爆発しできた物質が宇宙にばら撒かれます。これを「超新星爆発」と言いますが、今度はそれらが原料となってまた新たな星が生まれ内部で次々と物質が作られていきます。またとても重い星が合体する「中性子星合体」が起きる時にも新たに物質が作られます。金やプラチナ、レアアースなどです。

星が生まれ、銀河が生まれ、また宇宙へと帰っていく。この繰り返しの中で多様な物質がこの世界に生まれました。その大元は138億年前、宇宙の始まりで作られた素粒子。以来ずっと宇宙を巡りながら、この世界を形作っているのです。

引用:コズミックフロントΩ

素粒子という言葉はよく聞くが、正直その正体について知ることもなくこの歳まで生きてきた。

原子や原子核については学校でも習った記憶があるが、すべての物質がたった3つの素粒子でできているなんて話は聞いたことがなかった。

私たちが目にする多種多様な生き物や工業製品、自然を構成するありとあらゆるものが、突き詰めればわずか3つの素粒子の組み合わせだというのは本当に驚きである。

さらに、素粒子はあまりに小さいので、そのスケールから世界を見ると隙間だらけであり、宇宙全体の素粒子を隙間なく並べるとわずかりんご1個分ほどの大きさになるというのだ。

さらにさらに、宇宙の始まりには素粒子と同じ数の反素粒子が生まれ、素粒子と反素粒子がぶつかると消えてなくなるのだそうだ。

それならばなぜこの宇宙に素粒子が消えずに残っているのかを解明したのがロシアの理論物理学者アンドレイ・サハロフ氏で、彼は素粒子と反素粒子の間にわずかな対称性のズレが存在するという仮説を立てた。

その後の研究により、この対称性のズレが証明され、宇宙の始まりで生まれた素粒子のうち10億分の1の確率で素粒子が生き残ったと考えられるようになったのだそうだ。

こんな話を聞くと、身の回りの風景が全く違って見えてくるから面白い。

純粋文系の私のような人間でも、宇宙はいろんな刺激を与えてくれる。

宇宙を知ることは私たちの住む世界の本質を知ることなのだ。

目先の政治的な利害やちっぽけな経済的な利益などを忘れて、たまには星空を見上げることも大切なことなのだと感じさせられた。

<吉祥寺残日録>私が生きた時代👀 人類が初めて地球外に飛び出し宇宙の始まりを解き明かした #220820

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