<きちたび>グリーンランドの旅2023🇬🇱 COP28が「化石燃料からの脱却」で合意する中、世界が注視するグリーンランドの氷床を上空から見る

「およそ10年間で化石燃料から脱却を進める」

13日までUAEで開かれていた第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は、石炭だけでなく石油や天然ガスも含めた「化石燃料からの脱却」で初めて合意した。

先進国や島嶼国が求めた「段階的廃止」という文言は産油国の反対による「脱却」というやや曖昧な言葉に置き換えられたものの、パリ協定以来の歴史的合意だと評価する声は高い。

背景には、今年2023年、世界中で「史上最も暑い夏」を経験したことが大きかった。

今や誰の目にも、地球温暖化による異常気象が顕著になっている。

国連のグテーレス事務総長は今年7月、「地球沸騰化」という言葉を使い、次のように世界のリーダーたちに危機感の共有を訴えた。

北米、アジア、アフリカ、ヨーロッパの広大な地域で、残酷な夏となっています。地球全体にとって、この夏は災害です。そして科学者にとっては、その責任が人間にあることは明白です。

こういったことは、これまで予測され、繰り返し警告されてきました。驚くのは、気候変動のスピードです。気候変動はすでに起こっています。恐ろしいことです。そして、現在の気候変動はほんの始まりにすぎません。

地球温暖化の時代は終わりました。地球沸騰化の時代が到来しました。もはや空気は呼吸するのに適していません。暑さは耐えがたいものです。そして、化石燃料で利益をあげて気候変動への無策は容認できないものです。

リーダーたちは先頭に立たなければなりません。もう躊躇する必要はありません。言い訳は無用です。誰かが動くのを待つ必要はもうありません。もはやそのような時間はありません。

グテーレス事務総長が言う通り、私たちの地球は今や温暖化を通り越して「沸騰化」の時代を迎えているのだ。

そんな強い危機感を背景に、各国代表がCOP28で活発な議論を展開していた8日、私はグリーンランドのヌークからアイスランド行きのフライトに乗るべく空港に向かった。

時間は午前9時半、まだ街は夜の闇の中にあった。

タクシーの運転手さんは氷山の町として世界遺産にも登録されているイルリサットの出身だった。

「ここ数年、本当におかしい。冬になってもちっとも海が凍らないのでみんな困っている」

ドライバーさんはそう嘆いた。

「漁師さんは大変だろうけど、街の人は観光客も増えて暖かくなるのもいいんじゃないの」と私が聞くと、来年秋には新しい空港ができるので観光客が増えることを期待していると言った。

ヌークの今の空港は実に小さい。

あくまで国内線中心のバスターミナルくらいの規模で、チェックインのカウンターにも誰もおらず、ブザーを押すと別室からスタッフが現れるというなんとも素朴な空港だ。

でも、同じ空港の敷地内に現在新しい国際線ターミナルの建設が進められていた。

来年秋に完成すれば、より多くの外国の都市とグリーンランドが結ばれることになるだろう。

手付かずの大自然が残るグリーンランドは、地球温暖化の影響でメディアで取り上げられることも増えているだけに、交通網が整備されれば今よりもずっと多くの人が訪れるに違いない。

ホテルなどのインフラ整備の問題はあるが、今後10年の間にこの島は大きく変貌するだろうと私は予想している。

午前10時。

X線の機械がある小部屋で手荷物の検査とパスポートチェックが行われ、歩いて飛行機に乗り込む。

この赤い機体は島の“ナショナルフラッグ”であるグリーンランド航空。

島内の国内線を独占する一方、デンマークやアイスランドへの国際線も運航しているという。

そしてこちらが、私が搭乗するアイスランド航空のプロペラ機である。

岩を削って無理やり造られたヌーク空港は滑走路がわずか950メートルしかなく、ジェット機の離発着はできない。

そのため、ヌークの北300キロにあるカンゲルルススアーク空港が今もグリーンランドの表玄関となっていて、利便性という点ではまだまだ改善の余地がある。

グリーンランド政府は、ヌークやイルリサットの空港を拡張する計画で、アメリカからの直行便乗り入れも視野に入っているという。

午前10時半、定刻に離陸したアイスランド航空機は、ボートツアーで訪れたヌーク・フィヨルドの上を通過し南東方向に進路をとる。

こうして上空から見ても、氷河によって形作られたグリーンランド沿岸部の複雑な地形はとても雄大で美しい。

10分ほど飛ぶと、フィヨルドの水が凍っているのが見えてくる。

ボートツアーで訪れたいわゆる「アイスフィールド」と呼ばれるエリアだ。

船からはよく見えなかったが、上空から見ると凍ったフィヨルドの奥は氷河につながり、氷河の奥にはどこまでも続く真っ白な氷床があることがよくわかる。

それはまるで、大海に注ぎ込む河川のようにも見えるが、水の流れで言うと全く逆で、白く見える氷床の周辺部が熱で溶けて氷河となり、海の方に向かって少しずつ流れ出しているのだ。

グリーンランドの内陸部では1年に数十センチから数メートルの降雪があり、この雪が氷となり蓄積する一方で、標高が低い沿岸地域では氷が溶けて氷河となる。

ゆっくりとした氷の流れは岩肌を削り、長い年月をかけてフィヨルドを形成する。

暖かい海水が氷河の末端まで流れ込んでくることによって、氷河からの氷の流出量は近年著しく増加しているのだ。

専門家によれば、グリーンランドの氷床は現在1秒間に1万トンのペースで失われているという。

驚くべき数字である。

やがて、窓から見える景色は白一色に変わった。

これは雲ではない。

日本の国土面積の4.5倍にも及ぶグリーンランドの氷床である。

氷の厚さは平均1700メートル、全体積290万立方キロメートルというとてつもない量の氷の層なのだ。

この氷が全て溶けると、地球上の海面水位が7メートル上がると言われている。

よく見ると、氷床のところどころに水溜りのようなものが見える。

グリーンランドの氷床が減少する原因には2つあって、暖かい海水によって氷河の流出が早まっていることに加え、内陸部でも気温の上昇と氷床の表面が黒く汚れることによって太陽の熱を吸収して溶解が進むという事態も進行しているという。

研究によれば、黒い氷の正体は藻類やバクテリアなどの微生物などに由来する「クリオコナイト」といわれる直径1~2ミリの物質だそうで、近年グリーンランドでは年間703平方キロの速さで拡大していて、すでに氷床の6%にまで広がっているのだそうだ。

私が上空から見ている水溜りのようなものが、その表れなのかどうかはわからないが、地球上でも非常に貴重なグリーンランドの氷床がさまざまな攻撃にさらされ猛烈な勢いで減少していることはリアルに感じることができた。

ヌークを離陸してから1時間あまりが経った頃、飛行機はようやく氷床を抜け、再び海が見えてきた。

グリーンランドの東海岸のようだ。

グリーンランドの人口は、海流の関係で比較的温暖な西海岸に集中しており、東海岸には街らしい街はほとんど存在しない。

上空から見ても、海岸線まで白い雪が積もり、西海岸とは全く様相を異にしている。

海岸線まで迫り出した氷の層が海水に触れることで削り取られ、無数の氷山が渦を巻くように海上に流れ出している様子が見える。

実に荒々しい大自然の営みだ。

険しい山々が見えてきた。

グリーンランドの東海岸には、世界最大のフィヨルド「スコアビー・サウンド」も存在する。

よく見ると、海岸線から沖合数キロにわたって海が凍っているようにも見える。

イヌイットの人たちが伝統的に活動の場としてきた「凍った海」が、東海岸には今も存在しているのかもしれない。

ずっと人間の活動を拒絶してきたグリーンランドの大自然は、今後どのように変化していくのだろう?

私たちが今の暮らしを続ける限り、温暖化はますます加速して、高緯度圏に行くほど気候が急激に変化していく。

もはや後戻りはできないのか?

自らの蒔いたタネにより、人類は伝統的な生活を営むことができなくなり、否応なく異常気象が日常化した世界を生きていくほかはない。

10年後、もう一度グリーンランドを訪れてみたい。

その時、どんな光景が私を待っているのだろう?

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