<きちたび>グリーンランドの旅2023🇬🇱 絶景に次ぐ絶景!クジラにも遭遇した「ヌーク・フィヨルド」珠玉のボートツアー

グリーンランドに行くにあたり、やはり氷山が見たいと思った。

そうなると、世界遺産にも登録されている氷山の町イルリサットが最適地だと思われた。

しかし、調べてみるとアイスランドからの直行便があるヌークからイルリサットまでの国内線は、片道10万円以上の航空運賃がかかることがわかった。

せっかくグリーンランドまで行くのだから、往復20万円払ってでもイルリサットに行くべきではないか・・・。

私は旅行を始めた後も、迷い続け、結論を出せないままにグリーンランドに入った。

ヌークのホテルにチェックインし、すぐ近くにある港周辺を散歩していた時だ。

1枚のポスターを見つけた。

『Nuuk Water Taxi』

ポスターから判断するに、ボートツアーを催行している会社らしい。

グリーンランドには町をつなぐ道路というものがない。

だから氷山を見たいと思えば、イルリサットに行くしかないと考えていたが、ボートに乗ればヌーク周辺でも氷山が見られるのではないかと考えた。

その日、ヌークの街をひと回りしたが、想像していた以上に雪や氷が少なくて、湾の反対側にわずかに氷山を浮かんでいるのを確認できただけだった。

でも、わずかであっても氷山が海まで流れ着いているということは、フィヨルドの奥まで行けば氷の世界があるに違いない、そう思った。

ヌークの街は、世界最大規模の「ヌーク・フィヨルド」の入り口に作られた街なのである。

その日の夜、私はまだイルリサットに飛ぶべきかやめるべきか迷いながらスマホを片手に情報収集をしていた。

ヌークでは決まった予定はないので、イルリサットまで1泊2日で往復することは可能。

まだチケットも買えそうだ。

しかし、やはり20万円という航空代金がネックで決めかねていた。

そんな時ふと思い出したのがボートツアーの会社だった。

「Nuuk Water Taxi」のサイトを開いてみると、いきなり「ICEFIELD CRUISE」と書かれた氷山の写真が出てきた。

私はハッとしてすぐに料金を調べてみると、1995デンマーククローネ、日本円で4万2000円ほどだった。

高いがイルリサットに行くことを考えれば、全然リーズナブルだ。

「よしこれを申し込もう」と思い、申し込みフォームを開くと、ツアーは週2回だけで、翌日のツアーはすでに売り切れとなっていた。

次のツアーは私がグリーンランドを発つ8日で、物理的に飛行機に間に合わない。

ああ、もっと早くこのツアーのことを知っていれば・・・。

激しい失望感で私はホテルの部屋で叫び出しそうな衝動を覚えた。

気を取り直して、「ICEFIELD CRUISE」以外のツアーがないかダメもとで探してみる。

すると、6日に「Kapisillit Day Tour」というボートツアーがあり、まだ残席があることのを見つけた。

ツアー内容はよくわからないが、どうもフィヨルドの奥にある小さな村を訪ねるボートツアーのようだ。

料金は1895クローネ、およそ3万9600円ほど。

ヌークの街をぶらぶらしてもグリーンランドらしい光景には遭遇できそうもない。

とにかくボートに乗ってフィヨルドに行ってみよう。

そう思って、ネットで申し込んだのはツアー当日の午前1時のことだった。

夜中にいろいろ考えて頭が興奮した上に咳が止まらず、ほとんど眠れないまま朝を迎えた。

ツアーの出発時刻は午前10時。

集合場所はホテルのすぐ裏手にある桟橋だった。

出発の15分ほど前に集合場所に到着すると、すでに数人が乗船を待っていた。

この黄色い船が私が乗る「カピシリット村日帰りツアー」のボート。

奥の青いのが「アイスフィールド・クルーズ」のボートである。

私が到着するとほぼ同時に、乗船が始まった。

スマホでチケットを提示して名前を告げると、中年の船長と若い女性ガイドが笑顔で迎え入れてくれた。

ボートは小さなもので、2人がけのシートが5つと1人がけが3つ。

乗客は、デンマーク人が5人、フランス人とスロベニア人が1人、そして私の計8人だった。

とにかく寒いので、最大限の暖かい服装を持ってくるように書いてあったため、私はいつものダウンコートの下にダウンジャケット、ダウンベストまで着込んできた。

暖房が効いた船内ではとても暑くて着ていられないので、空いたシートを物置がわりに使って長旅に備えた。

10時5分前、予定より少し早くボートは出航した。

港には捕鯨船が停まっていた。

グリーンランドは伝統的に捕鯨が盛んで、欧米列強もかつては鯨を求めてこの島にやってきた。

港の入江を出ると、ボートはスピードを上げる。

ヌークの街にはまだ明かりが灯り、乗客たちは次々にデッキに出て写真を撮り始める。

私は彼らに従わず、船内にとどまった。

どうせ先は長い、本当にいい場面になったら、船長がスピードを落とすはずだ。

それは長年の取材で蓄積した体力温存のコツである。

それでなくても寝不足で体調も万全でないのに、早くからデッキに出て体を冷やしたのでは風邪が悪化するだけだ。

30分ほど走ると、船は細い入江に入っていった。

いよいよヌーク・フィヨルドに入ったようだ。

切り立った岩山が左右に聳える。

なかなかの絶景である。

入江に入り、波が穏やかになると同時に船長は全速力でフィヨルドを疾走した。

時折、Googleマップを開いて、現在位置を確認する。

岬の先端にあるヌークを出たボートは、ようやくフィヨルドの入り口に到達したことがわかる。

目的地の村はこの巨大なフィヨルドの一番奥、まだまだ先は長い。

ここで私も初めてダウンコートを着てデッキに出てみる。

思いのほか、寒くはない。

この日の気温は0度前後、グリーンランドとしてはかなり暖かい日である。

風に直接当たると体感温度が下がるが、後部デッキにいると船室が風を遮ってくれるので気持ちがいい。

写真で見るとそうでもないが、肉眼にうつる山々はもっと近く感じ、大迫力の絶景がこれでもかというほどに続いている。

時折、氷山がフィヨルドに浮かんでいる。

そもそもフィヨルドというものは大昔氷河によって削られて出来上がったものだ。

今でもフィヨルドの奥には氷河が残っていて、そこから切り離された氷山が少しずつ溶けながら海へとゆっくり流れていくのゆっくり流れていくのである。

フィヨルドを奥に進むほどに、次から次へと現れる切り立った山々。

グリーンランド観光のピークである夏だと、雪はないだろうし、2月ごろならもっと真っ白になっているかもしれない。

白と黒が入り混じった12月のフィヨルドは、案外一年のうちで最も見応えがあるのではないかと勝手に考えた。

出発から1時間半。

ボートはフィヨルドのかなり奥までやってきた。

私はボートの前方デッキに出て、その絶景を楽しんだ。

ダウンコートをしっかり着込めば、風もさほど冷たくは感じない。

ずっと船内にいたら眠くなってくるので、時々こうして屋外で目を覚ますのも悪くない。

Googleマップを起動すると、目的地である「Kapisillit」の村が地図に現れた。

もうすぐ到着するようだ。

それにしても、複雑に入り組んだフィヨルドである。

太古の昔、ここにいかに巨大な氷河があったかがうかがわれる。

ヌーク出発から2時間、目的地であるカピシリット村が見えてきた。

岩山が崩れてできたようななだらかな斜面にカラフルな家が張り付くように立っている。

ヌークを出てから人の気配を感じたのはこの場所が初めてだった。

この村は比較的新しく、計画的に建設された村だそうだ。

ボートはゆっくりと桟橋に着岸。

私たちは女性ガイドの案内で、村を散策する。

この村には、現在50人ほどが生活している。

この女性は村に1軒あるスーパーに買い出しに行った帰りだ。

どこに行くにも急な坂道を昇り降りしなければならない。

アイスバーンのようになった道で、一緒に観光していたデンマーク人が転んだ。

こちらは幼稚園。

50人の村には、5人の幼稚園児と3人の小学生がいる。

中学生になるとヌークの寮に入ることになるという。

村の一番上には小さな教会があった。

ここからの景色はまさに絶景。

高級リゾートホテルが立っていてもおかしくないほどの美しい景色が360度広がっている。

外洋の荒波もフィヨルドの奥までは届かず、目の前に広がる穏やかな海はサケ漁にとっては最高の漁場なのだという。

教会を見学している時、フィヨルドに1隻の船が現れた。

ガイドさんによると、2週に1度、村に食料品などを運ぶ船だという。

この村には外界と繋ぐ自動車道はない。

船が唯一の輸送手段なのだ。

村で唯一のスーパーをのぞく。

食料品だけでなく衣服や雑貨など小さな村にしてはいろんな商品が置いてあったが、やはり生鮮食品は少なくて、日持ちのする食料品が目につく。

魚は目の前の海でいくらでも獲れるので、冷蔵庫の中は肉で溢れていた。

でも、完全に孤立した村と言っても、これだけのスーパーがあれば生活に支障はないだろう。

グリーンランドはやはり先進国デンマークの一部なのだと、この店を見て実感した。

村を歩いていると、冬支度をしている村人がいた。

目の前の海で獲った魚を乾燥させ保存食を作っている。

家の前には真新しいスノーモービルが置かれていたが、海が凍らなければ使い物にはならないだろう。

例年に比べて今年の冬は遅い。

近年は冬になっても氷が張らず、アザラシ猟にも出られないと嘆く人たちも多いと聞く。

村に1時間ほど滞在した後、ボートは再び出航。

今度目指すのはアイスフィールドだという。

やった、もともとアイスフィールドに行きたくてボートツアーを探し始めたのだ。

猛スピードでフィヨルドを駆けていたボートが急に速度を落としてUターンする。

何事かと思ったら、海上に浮かぶ大きなビニールシートを船長が発見したのだ。

そのまま放置していては船の安全に影響するからと、ゴミを発見したらすぐに回収する。

世界的な課題となっている海洋ゴミの問題は、極地グリーンランドでも例外ではない。

ゴミを回収して再び走り出したと思ったら、ボートが再び停止した。

船長がある方向を指差しながら何かを叫んでいる。

どうやらクジラを見つけたようだ。

みんなデッキに出て、船長が指差した方向に目を凝らす。

遠くの方で、潮を吹くのが見えた。

船はゆっくりとそちらの方向に向かう。

海面に黒い影が現れる。

私はiPhoneのカメラを最大倍率にしてとにかくシャッターを切りまくる。

背中の一部が写った。

しかし次の瞬間、クジラは海中に姿を消し、しばらくどこに行ったか行方不明となる。

みんな、息を殺して周囲の海を警戒する。

すると、全く違う方向でクジラがひょっこり姿を見せる。

私が気づいてカメラを向けた時には、すでに海中に潜る寸前で、辛うじて尻尾だけを望遠で捉えることができた。

こうしたイタチごっこを繰り返すこと30分。

結局、クジラを間近で捉えることはできず、この日私が撮影した写真の中で一番まともなのは次の2枚だった。

海中に潜る直前の背中を丸めた瞬間を捉えた一枚。

そして、海中に消える寸前、会場に残った尾を辛うじて捉えた一枚。

それでも、他の乗客よりはうまく撮れていたらしく、フランス人の女性からせがまれてこの写真をシェアすることになった。

プロが撮影した写真とは比べるべくもないが、スマホで頑張って撮影した執念の写真ではある。

こうしてクジラに弄ばれて時間を費やしてしまったので、日没前にアイスフィールドに着くべくボートは再び猛スピードで西に向かう。

時刻はすでに午後2時半、日没まではあと1時間半ほどしかない。

アイスフィールドに近づくにつれ、流れ出した氷山が増えてきた。

氷山の海上に出ている部分は全体の10%と言われる。

私はかつてアルゼンチンのモレノ氷河やカナダのコロンビア大氷原など、世界各地で氷河を見たことはあるが、グリーンランドの氷河はそのスケールが桁外れだ。

なんと言っても、島の8割以上が分厚い氷床に覆われて、その端っこの方が氷河となってゆっくりとフィヨルドに流れ込み氷山を作り出しているのである。

青く光る氷山が船のすぐ脇を通り抜けていく。

青く見えるのは氷山の中に空気が少ないもので、気泡が多いほど氷山は白く見えるそうだ。

グリーンランドの氷床は何百年、何千年もかけて形成されたもので、その重みで空気が抜けて氷山も青くなる。

しばらく進むと、ボートが急に速度を落とした。

よく見ると、ここから先、フィヨルドが氷で覆われているのがわかる。

どうやら、ここが目的地のアイスフィールドのようだ。

私は氷山がゴロゴロしている海を想像していたので、ちょっと拍子抜けしてしまった。

この凍結した入江の先に氷河があって、そこから流れ出る氷や冷たい水によりフィヨルドが凍っているということのようだ。

しかしよく考えれば、これが本来のグリーンランドの冬の海なのかもしれない。

イヌイットの人たちは昔から、冬は凍った氷の上を犬ぞりで走り回りながら狩りをしてきた。

平地のないグリーンランドでは、冬になると目の前の海が氷に閉ざされ彼らの行動範囲を広げてくれるのである。

近年、島の西海岸では昔のように海が凍らなくなり、伝統的な生活に支障をきたしていると聞いた。

船長は薄い氷を割りながらボートをゆっくりと進める。

しかし、無理はしない。

ここから先には砕氷船でなければ進めないのだ。

残念だがヌークでは、氷河の直近までボートで行くことは不可能なようである。

その代わりというわけではないが、船長がいきなり服を脱いで氷の海に入った。

これがアイスフィールドの人気のアトラクションのようで、女性ガイドも水着に着替えて海に入り、若い観光客の有志もそれに続いた。

どうやら氷の海で泳ぐことを目的にこのツアーに参加した客もいるようだ。

私はそんなことは全く知らず、ただ呆然としてその信じられない光景を見ていた。

みんなせいぜい10秒か20秒ほど水の中にいて、すぐに凍えながら上がってくるのだが、泳いだ後はとても晴れ晴れとした表情になり、なんとも言えぬ満足感に包まれている。

人間というのは面白いもので、寒いなら突き抜けるほど寒い方が楽しくなるものらしい。

私も海水に触れてみたが、冷たいものの、水上の気温と比べると大差はないので勇気を出せば私でも泳げないことはないかなと思った。

でもわざわざ風邪をひいている時にやることでもあるまい。

水から上がった船長は、今度は氷山のかけらを拾い上げ、それをアイスピックで割り始めた。

どうやら氷山の氷で、ウイスキーを飲もうという趣向らしい。

氷の海をバックに、氷の入った紙コップにウイスキーを注ぎ、各自に振る舞う。

まるでバブル時代にでも戻ったような演出である。

私もいただいた。

この氷は何百年前に降った雪だろう?

ただのウイスキーなのに、やはり格別の味がした。

そんなことをしている間に、時計は午後4時を回った。

いつの間にか波が消え、海面が鏡のようになっている。

静寂が私たちを包む。

青い闇が静かに迫ってきた。

まるで時間が止まったような奇跡の時間。

でも、そろそろ帰路につかなければ、午後6時までにヌークにたどり着けない。

フィヨルドの途中にはところどころ氷山が浮かんでいるので、完全に暗くなってからでは危険が伴う。

船長の指示で私たちは船室に戻り、ボートは全速力で氷の海から離れていった。

帰りのボートの中で、自分の現在位置を確認する。

アイスフィールドがあったのは、カピシリット村から北西に30キロほど離れた入江だったようだ。

ここからヌークまではまだ50キロ以上の距離がある。

真っ暗な海を全速力で走り、ようやくヌークの街の灯が見えた時にはすでに午後6時を回っていた。

さすが世界最大級、ヌーク・フィヨルドは巨大な迷路である。

でも、想像以上に楽しいツアーだった。

4万円払っても、ヌークに来たならぜひ参加すべき船旅だと思う。

そして、どうしても巨大な氷山を観たければ、やはりイルリサットに行った方がいいようである。

私もいつか、イルリサットにも行ってみたいと改めて思った。

ヌークでのボートツアーは
「Nuuk Water Taxi」
https://watertaxi.gl/en/

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