<吉祥寺残日録>トイレの歳時記❄️七十二候「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」に紀ノ国屋で二番目に高い卵を買う #210130

朝、久しぶりに日の出前の空を見た。

1月最後の土曜日、日本海側では猛烈な吹雪のようだが東京は快晴だ。

今日1月30日からの5日間、季節を表す七十二候でいうと一年の最後の5日間となるらしい。

大寒の末候、「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」。

我が家のトイレの歳時記カレンダーには、「にわとりはじめてにゅうす」とルビがふられている。

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その意味は、「春の気配を感じた鶏が卵を産み始める頃」ということらしいのだが、考えてみるとすごく違和感がある。

鶏って、一年中、卵を産むんじゃないのか?

おかげで私たちは、毎日新鮮な卵を食べることができる。

いつでもスーパーには大量の卵が並んでいて、卵は「物価の優等生」とも呼ばれる。

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気になって調べてみると、野生の鶏は本来、春から初夏の時期、つまり2〜5月ごろに卵を産んでいたらしい。

元々は東南アジアが原産で、弥生時代ぐらいに中国経由で日本列島にもやってきたようだが、栄養価の高い卵をたくさん食べたいという人間の欲望が、長い歳月をかけて卵をよく産む鶏だけを交配させ、現在活躍している一年中卵を産む鶏を開発した。

かつて「女性は子供を産む機械」と発言して大問題になった政治家がいたが、鶏はまさに人間のために卵を産む機械に作り替えられた生き物だったのだ。

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排卵から24〜25時間かけて卵管内を通過する間に硬い殻に覆われた卵が出来上がるという。

一羽の鶏が産める卵の数は1個だけ、しかも夜は産まない。

ある意味、とても貴重ないただき物なのだ。

ちなみに、現代の鶏は卵用と肉用に分けて品種改良が行われ、卵を産むための鶏は「レイヤー」、鶏肉用の鶏は「ブロイラー」と呼ばれるらしい。

そんな事実を知ると、ちょっと鶏に申し訳ないような気になってくる。

さて今日は穏やかな天気、吉祥寺からも雪に覆われた富士山が綺麗に見える。

せめての鶏たちへの償いに、吉祥寺でいちばん高い卵を探して卵かけご飯を作ってみようと思い立った。

吉祥寺でいちばん高いといえば「紀ノ国屋」。

アトレの中にできたカジュアルな店ではなく、井の頭通り沿いに昔からある吉祥寺マダム御用達の高級スーパー「紀ノ国屋 吉祥寺店」に探しに行くことに決めた。

午前10時すぎの「紀ノ国屋 吉祥寺店」、井の頭通り沿いの入り口には2人の誘導係が立っている。

駐車場には、ベンツなど外国車がずらりと並んでいた。

街中からは少し離れるが、この裏手には吉祥寺随一の高級住宅街が広がる。

店の公式サイトには、それ歴史が記されていた。

「紀ノ国屋」は1910年、東京・青山の果物商として創業する。

今から110年前の話だ。

1953年、日本初のセルフサービス・スーパーマーケットに生まれ変わる。

対面販売をやめてレジやショッピングカートを導入、お洒落な紙製のショッピングバッグも画期的だった。

実は私はこの「紀ノ国屋」の近所で生まれた、1958年のことである。

当時私の両親は、南青山にあった4畳半のボロボロ官舎で暮らしていて、風呂もなかったので「紀ノ国屋」裏の銭湯に通っていた。

母が紀ノ国屋を利用していた記憶はないが、私にとって紀ノ国屋は幼い日のおぼろげな記憶なのである。

花が並ぶ入り口を通って、店内に入る。

今では珍しくもないスーパーの光景だが、並んでいる商品は気のせいかやはり高級感がある気がする。

卵売り場はこの程度。

今時の巨大スーパーに比べると、品揃えが多いとはいえない。

紀ノ国屋ブランドの卵は「富士山朝霧高原のたまご」。

白玉6個で255円、赤玉6個は割引で228円だった。

そんな中で、私が目をつけたのはこちら。

「黒富士農場 甲州山懐 放牧卵」(6個458円)である。

同じ農場の「リアルオーガニック卵」(758円)というのもあったが、私はオーガニックにこだわりがないので、二番目に高かった「放牧卵」を選んだ。

草地に放牧された鶏の写真がデカデカと貼られたパッケージ、そこには・・・

『蒼々たる黒富士の山懐で緑草や穀物などを啄ばみ燥々たる光の中を自由に遊ぶ鶏が産んだ卵』と書いてあった。

帰宅後に知ったのだが、「黒富士」とは富士山のことではなく、山梨県の奥秩父山地の南西部に位置する標高は1,635mの別の山だそうだ。

しかし、「黒富士農場」のサイトを見て、一気にファンになってしまった。

1950年から続く歴史ある農場なのだが、1989年から鶏の平飼い放牧を開始。

2002年には世界基準(IFOAM)をもとに日本で初めてのオーガニックの養鶏を開始したという意欲的な農業生産法人なのだ。

コロナが収まったら一度訪れてみたい農場である。

「甲州山懐 放牧卵」のケースを開けると、赤玉の卵が6個。

ちょっと色が濃いようだが、私には卵の良し悪しは、見ただけでは全くわからない。

割ってみる。

黄身だけでなく白身も少し黄色っぱいように見える。

醤油とごま油を少したらして・・・

かき混ぜて・・・

ご飯にかける。

卵白の部分がどろっと残り、卵黄はご飯の隙間を通過して行った。

卵かけご飯、久しぶりだなあ。

この卵が美味いのか、単純に卵かけご飯が美味いのか・・・。

どちらでもいいけど、やっぱり美味い。

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この冬は日本各地で鳥インフルエンザが発生し、鶏の大量処分が続いている。

人間の都合で卵産みマシーンに作り替えられた挙句、狭いゲージに押し込められ、最後は殺処分。

鶏たちの境遇に想いを馳せながら、感謝の気持ちを持って卵をありがたくいただきたいと思う。

「紀ノ国屋 吉祥寺店」
電話:0422-21-7779
営業時間:9:30~19:30
定休日:無休
https://www.e-kinokuniya.com/store/KINOKUNIYA/kichijoji/

「黒富士農場」
住所:山梨県甲斐市上芦沢1316
電話:0120-80-4105
http://www.kurofuji.com/