いよいよキッチンのリフォームが具体化し、昨日はお願いする業者との契約の日だった。
どういうわけか、私も妻も約束の時間を間違えて午前10時に事務所を訪れてしまい、慌てて出てきた担当者から「午後のお約束のはずでしたが」と言われて自らの誤りに気づく始末。
私は昔からこういう勘違いをよくする人間だったが、細かい妻が同じような間違いをするというのはやはり老化のサインということだろう。
リフォーム業者のオフィスは自宅から徒歩で20分ほどの距離なので、5000歩ほど無駄な散歩をしたことになる。
この日の東京は6月下旬並みの暑さということで、まだ体がこの暑さに順応しない。
こういう季節に俄然食べたくなるのがお蕎麦である。
私は妻を誘って老舗の蕎麦処「中清(なかせい)」で昼食を食べてから再度リフォーム業者に赴くことにした。
吉祥寺の街中からは少し外れた五日市街道沿いにあるこの店を最後に訪れたのは、おそらくコロナ禍の前のことだと思う。
お店に入ると、「祝100周年」という札が目に飛び込んできた。
「中清」が創業したのは関東大震災があった1923年のこと。
つまり去年100周年を迎えたことになる。
関東大震災で都心を焼け出された人たちが被害が少なかった武蔵野に大挙してやってきたことが、吉祥寺の街が発展するきっかけになったのだ。
私たちがお店に入ったのは正午前だったので、すんなりとテーブルを確保することができた。
店の壁には日本全国から取り寄せた銘酒の名がずらりと並んでいる。
日本酒とくれば、酒の肴も肝要。
この店はもちろん蕎麦が売りなのだが、同じくらい美味しそうなおつまみも用意されていて、日本酒愛好家たちの支持も集めているのだ。
豊富なメニューの中から、この日私が注文したのは「おまかせおつまみ盛り合わせ」(1050円)。
いかにも日本酒に合いそうな7種類のおつまみがお皿の上に並んでいる。
おつまみは日によって微妙に変わるらしい。
中央の冷奴を挟んで右側には、奥から玉子焼き、その手前のハムのようなものは島根浜田名物の「赤てん」。
そして手前にあるのはマグロの大和煮だろうか、美味しい魚のつまみで思わずお酒が欲しくなる。
一方、冷奴の左側に並ぶのは、奥から豆腐の味噌漬け、梅クラゲ、そして一番手前が沖縄の「豆腐よう」のようだ。
どれも文句なしの旨さで、お酒を注文したい欲望をグッと抑えるのに苦労した。
ところが、そんなランチ中に妻の電話が鳴り、リフォーム会社の担当者からの電話だった。
急に気分が悪くなり吐き気がするため午後の打ち合わせを延期してほしいとのこと。
子育て中の彼女はどうやら子供から病気をうつされたようで、1歳の子供も熱を出したらしい。
ということで、その日の契約はなくなりお酒を控える理由もなくなってしまったのだが、もうすでにつまみはほとんど食べたタイミングだったため、日本酒を注文することはせず、いずれまたこの盛り合わせを肴に一杯やる日を楽しみに、そばを食べて家に帰ることにした。
さて、そのそばだが、この店では「せいろ」にもいろいろ種類があるのである。
私たちが注文したのは「あずまそば」(800円)。
こちらはいわゆる更科系の二八そばで、色の白い上品なお蕎麦である。
このほか、いわゆる田舎系の二八そば「さとそば」(800円)や「生粉打ちそば」(1000円)、「粗挽きそば」(1100円)など、好みに応じてさまざまなせいろを食べることができる。
さて、この日いただいた「あずまそば」は、まさに更科系の白いそばで、そばの実の芯の部分だけを使った爽やかな喉ごしが特徴だ。
ただあまりに雑味がないため、まるで水を飲んでいるようで、そばを食べている実感に欠ける気がした。
「ちょっとあっさりしすぎているね」
妻も同じように感じたらしく、今度からは別のおそばを頼むことになるだろう。
とはいえ、いつ来ても新たな発見がある奥深い蕎麦屋である。
お店の入れ替わりの激しい吉祥寺で、見事創業100周年を達成した「中清」。
これからも末長くこの場所にあり続けてくれることを願う。
食べログ評価3.65、私の評価は3.60。
「中清 吉祥寺」
電話:0422-21-2891
営業時間:平日11:30 - 15:00/17:00 - 22:00
土日11:30 - 22:00
定休日:水曜