北京パラリンピックが閉幕した。
習近平体制の盤石ぶりを世界に見せつける場となるはずだったが、ロシアのウクライナ侵攻によって日本を含め世界の多くの国ではすっかり影の薄い大会となっただろう。
冬季のパラリンピックはとにかく選手層が薄い。
スポーツとして楽しむには、やはり選手層が薄すぎるのだ。
しかもハンディキャップの種類によって競技が分かれているため、中には参加者の約半数がメダルを獲得できるという種目もある。
障害者スポーツの意義は理解するし、トップアスリートの妙技は確かにすごいと感じるものもあるが、参加国の少なさと同じ選手がいくつものメダルを獲得する様子を見ていると、果たして大金を投じてオリンピック並みに大々的にやる意味があるのか疑問に感じてしまう。
しかし、そんなパラリンピックの選手層の薄さに目をつけたのが中国である。
人民日報の日本語版サイト「人民網」の今日のトップニュースは、パラリンピックで獲得した中国のメダル数だった。
『金18銀20銅23!北京冬季パラリンピックのメダル獲得数で中国がトップに』
今大会のメダルランキングを見ると、確かに中国がダントツである。
- 中国 金18・銀20・銅23 計61
- ウクライナ 金11・銀10・銅 8 計29
- カナダ 金 8 ・銀 6・銅11 計25
- フランス 金 7・銀 3・銅 2 計12
- アメリカ 金 6・銀 11・銅 3 計20
この後に、オーストリア、ドイツ、ノルウェーという冬季五輪の強豪国が並び、日本は第9位だった。
中国はソルトレイク大会以来、冬季パラリンピックに参加しているが、これまでに獲得した金メダルは前回平昌大会の1個だけだった。
ところが今大会はいきなり18個もの金メダルを獲得してメダルランキングの圧倒的トップとなった。
中国国内での報道ぶりはよく知らないが、少なくとも日本語の中国メディアを見る限りウクライナ危機のニュースよりもパラリンピック関連の記事が目を惹く印象を受ける。
まさに北京パラリンピックを国威発揚と習近平3選のための舞台装置として利用するために、国を挙げた選手育成が図られたことが容易に想像される。
中国のニュースサイト「SIXTH TONE」はパラリンピック関係者の話として、招致決定後の17年から夏季競技の有力選手を冬季競技に転向させ、中国東北部に設けた「虎の穴」で1年間は敷地から出ずに練習を積んでいたと報じている。
引用:毎日新聞
障害者スポーツの競技人口が少なさを中国は国威発揚に利用した。
計画的に選手を発掘し徹底した育成を施せば、オリンピックよりもずっと短期間でパラリンピック強国になれることを証明したわけだ。
そんな北京パラリンピックで日本チームは、金メダル4、銀1、銅2の合計7個のメダルを獲得した。
しかし、このうちアルペン女子のエース村岡桃佳が金メダル3つと銀メダル1つを1人で獲得、今大会が6回目の出場となるアルペン男子のベテラン森井大輝が銅メダルを2つ獲った。
つまり、メダルは7個だがメダリストは3人しかいないというわけだ。
やはり選手層の薄さはこれを見ても明白だ。
外国選手も同じような感じで、同じ選手が何個ものメダルを獲得するのが当たり前、同じ種目に出場しても障害の程度にはかなりの開きがあり、いくら得点を調整してもどうしても有利な選手が出てきてしまう。
純粋にスポーツとして楽しむには冬季パラリンピックはどこか無理があるように感じる。
そんな盛り上がらない北京パラリンピックで唯一注目を集めたのが、攻撃にさらされているウクライナ選手たちの活躍だ。
ウクライナ侵攻への国際的な非難を受けて、IPCはロシアとベラルーシの参加を認めない決定を下す一方、戦火を逃れ陸路ポーランドに出国して北京までたどり着いた選手たちは母国のために実力以上のパフォーマンスを発揮した。
バイアスロン男子6キロ視覚障害のクラスと同じくバイアスロン女子立位のクラスでは、共にウクライナ選手が表彰台を独占。
大会を通じて、過去最高となる29個のメダルを獲得し、メダルランキングでは中国に次ぐ第2位に躍進した。
大会を通じてウクライナの選手たちは積極的に平和を訴え、10日にはパラリンピックに参加したウクライナ選手団が揃ってロシア軍の侵攻に抗議する集会を開いた。
政治を持ち込まないパラリンピックでは異例の抗議活動である。
ウクライナ・パラリンピック委員会のスシケビッチ会長は、「皆さん、私の国で起こっているひどい戦争に目を向けてほしい。多数の犠牲者が出ている。子どもや女性が生き延びるために、(国際社会の)団結が必要だ」と訴えた。
パラリンピックが終わって、ウクライナ選手たちはとりあえず隣国のポーランドに向かうという。
ロシア軍により首都キエフへの総攻撃が秒読み段階となり、これまで平穏だった西部の軍事施設もロシアのミサイル攻撃を受けるようになった。
もう国中のどこも安全とは言えない状況だ。
選手たちは母国の状況をポーランドで見極めてその後の行動を決めるそうだ。
バイアスロンでメダルを獲得した選手たちの多くは第2の都市ハリコフの出身、街はすでにロシア軍に包囲されている。
ただ家族を残してきている選手は「国に帰らないという選択肢はない」と述べている。
北京パラリンピックの閉会式は、わずか1時間弱のとても簡素なものだった。
無駄なところにはお金は使わない。
そんな中国の合理性が現れたようなセレモニーで、東京大会よりずっとセンスの良さが光った。
10日間にわたるパラリンピックでの平和な戦いが終わり、世界トップクラスの射撃の腕を持つウクライナの選手たちが戦場と化した母国に帰っていく。
北京パラリンピックが歴史に残ることがあるとすれば、中国の獲得したメダル数ではなく、ロシアの軍事侵攻に抗議したウクライナ選手たちの物語として語り継がれるであろう。
