さなざまなドラマを残して北京オリンピックが閉幕した。
開会式同様、チャン・イーモウ監督による演出は、簡潔で洗練されていて、とても美しい光のショーだった。
無駄な要素はなく、オリンピックに欠かせないセレモニー的要素をきちんと織り込みながらも、全体としては興行的にも価値のある壮大なショーにまとめ上げていた。
次回開催都市であるイタリアのミラノとコルティナ・ダンベッツォが行なったショート比較しても、中国の演出の方が優っていたように感じた。
「なぜだろう?」と、その理由を考えながら私は閉会式を見ていた。
もちろん国際的に活躍しているチャン・イーモウという演出家の才能に負うところも大きいのだろう。
でも、それだけではない。
ある考えが私の頭に浮かんだ。
こうしたセレモニーは、「プロパガンダ」に慣れた国家ほど得意なのではないか?
中国では去年も中国共産党創設100周年を盛大に祝ったばかりであり、一昨年武漢で新型コロナが出現し世界初の都市封鎖が行われた時も、優秀なディレクターやカメラマンを武漢に送り込んで感動のストーリーを意図的に創り出した国なのだ。
ナチスドイツがベルリンオリンピックで初めて「聖火リレー」を始め、壮大なセレモニーと圧巻の記録映画によって世界の度肝を抜いたように、独裁国家はこうした大イベントを国民の洗脳に利用してきた。
それは、独裁国家の特技と言ってもいい。

観客席には無数の赤いランタンが備え付けられて、グランドの演出に合わせてコンピューター制御でそれが光り、スタジアム全体が赤を基調にした光で染め上げられる。
決して嫌らしくなく形で中国共産党を讃える配慮もうかがえる。
私が感心したのは、途中で短く挟み込まれるVTRの完成度だ。
例えば、老若男女さまざまな北京市民が別れの表情を浮かべる映像。
とてもさりげなくて、みんないい表情をしているのだが、この動画を見ると「中国の人たちはみんな幸せそうで、みんなとても優しそうだ」と誰もが感じる。
だが実際に中国を旅行すると、中国の人はもう少し人当たりがきつくて、大声でまくし立てる。
私が知る中国人の実像とはだいぶ印象の違う映像なのだ。
もちろん中国人の中にも「いい人」はたくさんいるのは事実だが、巧妙な「プロパガンダ」を私は強く感じた。
「プロパガンダ」はセレモニーだけではない。
大会当初、大きな国際問題となったショートトラックでの露骨な中国贔屓の判定。
最初に行われた混合団体リレーと男子1000メートルで、中国が疑惑にまみれた金メダルを獲得し、世界は怒ったが中国人は熱狂した。
これによって北京オリンピックの「成功」は約束されたと言っていい。
中国によるメダル量産作戦は周到に準備されていた。
アメリカで生まれ育ったアイリーン・グー、中国名谷愛凌は、中国代表としてオリンピックに参加し、金メダル2個と銀メダル1個を中国にもたらした。
大会後は再びアメリカに戻る彼女を中国の人たちは何の抵抗もなく讃え、今や中国のウィンタースポーツを象徴するスーパースターとなった。
北京オリンピックで結局、中国は史上最多15個のメダルを獲得した。
特に金メダルは9個でアメリカを上回り、全体の3位に躍進したことになる。
9個の金メダルのうち、2個はショートトラックの疑惑の判定によるもの、2個はアメリカ人の谷愛凌が獲得したものであり、フィギュアスケートペアで優勝した隋文静・韓聡組の金メダルも「転倒したのにおかしい」とロシアから抗議を受けている。
私も見ていたが、あの金メダルはやはりおかしいと思った。
報道によると、中国人の審判がロシアペアよりも5点も高い点を中国ペアに入れたことが原因だったという。
それでも、中国国内でそうした批判的な報道がなされることは当然ない。
ちなみに、前回の平昌五輪では中国が獲得したメダルは9個、金メダルは1個だった。
ソチ五輪でも9個(金3)だったので、中国の人たちは素直に今回のオリンピックを楽しんだのだと思う。
いつのオリンピックでも地元に有利な判定は付き物だが、海外からの批判が国内に届かないように完全にシャットアウトしてしまう情報管理社会の不気味さは、今回の北京五輪によって国際社会により一層広く認識されたことだろう。
今回の北京オリンピックは、今後の世界を象徴するイベントでもあった。
アメリカを中心に西側諸国が外交的ボイコットを行う中で、ロシアなど非民主国家が中国を中心に連帯していく兆しが見られた。
アメリカの影響力が相対的に弱まっていく世界では、力で国民を支配していこうというリーダーが増えていく。
そうした指導者にとって、中国流のハイテクを駆使した監視システムはとても魅力的であり、中国も国際社会での影響力を高めるためにそうした西側が見捨てた国家を支援している。

ロシアとベラルーシは、西側のメディアに軍事演習の様子を取材させることによって、ウクライナとNATO諸国に一段とプレッシャーをかけようとしている。
20日に演習を終えて本国に戻すと言っていたロシア軍部隊も当面ベラルーシに残すという。

ロシアのプーチン大統領は、ベラルーシのルカシェンコ大統領と共に、モニター越しに演習の模様を見ていた。
その時の映像をわざわざ公開することによって、両国の関係が緊密であることをアピールしているのだ。
ルカシェンコ大統領はここ1〜2年、民主化を求める国内の運動に手を焼き、一時は政権の座が危うくなっていたが、ロシアの介入により今も独裁体制を守っている。
もはやプーチンさんの言うことには逆らうことはできないのだ。
そしてベラルーシからウクライナの首都キエフまではわずかに90キロしか離れていない。
もしバイデン大統領が明言した通り、プーチンさんが軍事侵攻を決断したのであれば、キエフはそう遠くない将来、ロシア軍によって占領されるだろう。
ウクライナ東部でロシア系住民が虐待されているという口実で、ウクライナの内政に介入し、ロシアに近い政権を作り、ベラルーシと同じような衛星国家にするのが目的なのだろう。
北京オリンピックの閉会式では、スタジアムの上空に花火で「ONE WORLD」の文字が浮かび上がった。
このオリンピックで、中国はこうした平和的なメッセージを意図的に流し続けた。
自らに批判的な国々に対しても融和を訴え「世界のリーダー」として度量の広さを見せた格好だ。
中国人選手の活躍と壮大な舞台装置によって、中国人の愛国心がより一層高まったのだと思うが、過度な愛国心は周辺国を見下す態度となって現れやすい。
「ONE WORLD」が「一つの中国」、すなわち台湾侵攻という意味でないことを願うばかりだ。