4月の新年度入りと同時に、「トランプショック」が世界を覆っている。

きっかけは今月2日、トランプ大統領が発表した「相互関税」だった。
事前に予告はされていたものの、日本やEUなどの同盟国も対象となり、税率も予想を遥かに上回る高いものだったため、各国政府も企業もそしてマーケットにも衝撃が走った。

日本が24%、韓国が25%、台湾が32%、そしてEUが20%。
世界の工場として輸出で経済成長を続けてきた東南アジア諸国にも厳しい関税が課せられた。
中国から多くの日本企業が生産拠点を移しているベトナムには46%、カンボジアは49%だ。
そして、アメリカ最大のライバルであり、今回も対抗措置を真っ先に打ち出した中国に対しては、当初発表した34%から9日の発行日には84%に税率が引き上げられ、さらに今日までに145%だと修正された。

国別に異なるこの税率がどのように決められたのか?
そう問われ、USTR(アメリカ通商代表部)が出してきたのがこの数式だ。
私のような素人にはさっぱりわからないけれど、数学や経済の専門家からは酷評されている。
「関税の計算式は間違いに基づいていて経済的に意味をなさない」
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ポール・クルーグマン氏は、「問題がありすぎて、どこから始めれば良いか分からない」とした上で、計算式に関するUSTRの説明については、「課題図書を読んでない学生が試験を乗り切ろうとして書いた、たわごとのようだ」と表現したと報じられている。
さらに、クリントン政権下の財務長官や、ハーバード大学の学長も務めた経済学者のローレンス・サマーズ氏はXで、「トランプ政権が関税のデータを使わずに相互関税を計算していたことは明白だ。これは経済学にとって、生物学に対する創造論、天文学に対する占星術、ワクチン科学に対するRFK思想に相当する」と批判、 「もし私が所属していた政権が、真剣な分析に全く基づかない、もしくは危険で有害な経済政策を行っていたら、私は抗議して辞任しただろう」と投稿したという。

もはや、トランプ大統領の気分次第で、税率を瞬時に変更することが可能。
こんなことが民主主義国家で実際に起きるとは驚きというほかはない。
とはいえ、トランプさんが大統領になった時点でこのような信じがたい異常事態が起きることはある程度予想できたことであり、私は特に驚かない。
彼は選挙期間中から何度も関税導入を予告していて、それを実行したに過ぎない。
1期目と違い、2期目のトランプ政権にはイエスマンしかおらず、誰も無知なトランプを止められないのだ。

しかし、マーケット関係者たちはこの関税話は単なるディールの材料であり、実際には株価に悪影響を与えるようなことはしないだろうと楽観視していたらしい。
そのため実際にトランプ氏が相互関税を発表すると、市場にパニックが広がった。
トランプ氏が「アメリカ解放の日」と呼び、アメリカ経済の黄金期の到来を予言する一方で、高騰を続けていた巨大IT株にも売りが殺到して、中国にiPhoneの生産拠点を構えるアップルはわずか4日間で時価総額7700億ドル、約113兆円を消失したとされる。
トランプ関税のインパクトは本人も驚くほどの破壊力だった。

相互関税発表直後から始まった株安の流れは世界に波及した。
中でも悲観主義者の多い日本ではパニック売りが広がり、週を跨いだ7日月曜日には日経平均株価が一時3万1000円を割るところまで値を下げた。
今年の初値が3万9000円台だったことを考えれば、すでに2割以上値下がりしたことになる。

こうして連日トランプ氏の一挙一動に世界が右往左往して迎えた9日水曜日。
予告通り、相互関税が発効した。
ところが、そのわずか半日後、トランプさんは突然マーケットを喜ばせる発表をする。
中国以外の国に対する上乗せ関税を90日間停止すると唐突に宣言したのだ。
これを受けてアメリカ市場は史上最大の上げ幅となり、日経平均も過去2番目の大幅な上昇となる。
トランプ政権1期目の「コロナショック」以来の乱高下。
ただし、前回は目に見えないウイルスが原因だったけれど、今回はドラルド・トランプという史上稀に見るポピュリストの仕業だ。

トランプさんが突然方針を変更した背景には、債権市場でアメリカ国債が大量に売られたことがあるとされる。
ビジネスマンであるトランプ大統領は、初当選以来マーケットの動きには敏感だった。
今回も株安に対しては「今は辛抱の時」と気にしない素振りを見せていたけれど、株安ドル安に加え債券も売られて金利が上昇するトリプル安という事態を見て、このまま放置するのは危険だと判断したのだろう。
アメリカ国債を大量に保有する国の1位は友好国の日本だが、2位は中国。
関税戦争を仕掛けるアメリカに対し、保有する大量のアメリカ国債に売りを浴びせて中国が反撃しているのだという観測もマーケットには流れている。

今回の相互関税に対しては、政権内でも挙げしい意見の対立があると伝えられる。
トランプ氏が重用してきたイーロン・マスク氏は一貫して関税に反対。
彼が率いるテスラの事業にも当然悪影響が及ぶからビジネスマンとしては黙っていられなかったのだろう。
関税政策を進言しているナバロ大統領上級顧問がテレビのインタビューでマスク氏を「自動車組み立て業者」と呼ぶと、マスク氏もすかさず自身のXで「本当にバカ」と反撃するなど、場外乱闘も続いている。

こうした混乱の中で、トランプさんのタチの悪さがまた明らかになる。
関税の一時停止の発表をする4時間前、わざわざ「今が絶好の買い時だ」と自身のXに投稿したのだ。
政策を決定する国のトップによるこの投稿、これは株価操作以外の何物でもないだろう。
1期目の時からそうだったけれど、トランプさんは普通の政治家とは違い、口にしたことは必ず実行しようとする。
だから、彼の言動を忠実にウォッチしてその指示に従う者には利益をもたらす、それがトランプ流なのである。

こんなやりたい放題のトランプ氏を信奉する者は日本にも確実に増えつつある。
連日メディアを賑わせ、意のままに世界を動かす現代の王様だ。
彼の前では、習近平もプーチンも影が薄くなるほどの専制君主と言ってもいい。
そんな人間が民主主義陣営のリーダーとされたアメリカに現れるとは、大きな時代の変化を感じざるを得ない。

中国は徹底抗戦の構えだ。
トランプ関税が発表されるとすぐさま、敢然と対抗して同率の関税をアメリカ製品に課すと宣言した。
中国の毛寧報道局長は、かつて毛沢東が朝鮮戦争で米国に「完全勝利するまで戦う」と演説した動画をXにアップし、「私たちは中国人だ。挑発を恐れない。引き下がらない」と書き込んだ。

これだけ見ると、米中の経済戦争が一段と激化すると見られるが、世界はそう単純ではない。
アメリカには大量の中国製品が流れ込んでいて、自動車やIT機器に使用される部品の多くも中国製だ。
表面的には中国叩きを演出しても、裏では双方面目が立つところで妥協する可能性が高い。
高い関税をかけて自国産業を守ろうとしても、アメリカ人にはもはや中国製品を代替するだけの技術力はないからだ。

さて、こうして世界的な混乱をもたらしているトランプ減税に対し、石破総理はとても冷静な対応を見せている。
野党やネットからは、いち早くトランプタワーに駆けつけた安倍元総理を引き合いに出し、「こんなところにいなくてさっさとアメリカに行け」などと国会で批判されていたが、私は石破さんの対応を評価している。
トランプさんのような気まぐれな人を相手にまともな交渉などは出来はしない。
むしろ慈悲を乞うような外交は日本の信用を落とすだけであり、こういう時こそ石破さん流の「正論」で堂々と話し合った方がいいと私は思う。
そして、トランプ氏との電話会談を行った石破さんは、双方担当大臣を指名して実務的な交渉をしようということで話をつけた。
結果がどう転ぶか誰にもわからないけれど、ここまでの対応は真っ当であり、もう少し日本国内で評価されてもいいのではないかと思うのだが、悲しいかな今の石破総理は四面楚歌である。

石破さんが交渉担当者に指名したのは、自身の唯一とも言える最側近、赤沢亮正経済財政・再生担当大臣だった。
東大法学部卒でアメリカ留学経験もある元運輸官僚だが、国民的にはほぼ無名で、その頼りない風貌から早速各方面から異論が噴出している。
とはいえ、まずはお手並み拝見だ。
自らの最側近を指名したということは、誰かに責任を丸投げするのではなく、石破総理自らトランプさんを説得しようという覚悟の表れだと私は見る。

赤沢氏の交渉相手となるベッセント財務長官は、ウォール街の大物であり、アベノミクス政策下の円ドル相場で大儲けした人物だと伝えられている。
月に一度は訪日していた日本通で、タフな交渉相手となるだろう。
単に関税の話だけではなく、トランプさんが後ろ向きな日米安保の問題や日本国内に残る古い非関税障壁の問題、さらにはアベノミクスがもたらした人為的な円安誘導の問題にも光が当たることになるだろう。
私は100%トランプ不支持の人間ではあるが、この交渉は日本のこれからを決める重要な交渉であり、日本人にとってもこれまでの思い込みを考え直す契機になるのではと多少期待するところもある。

トランプ大統領の登場は、グローバリズムの時代の終わり、または変化を意味しており、ある意味では歴史の必然だと考えるからだ。
冷戦終結後の世界を象徴するグローバリズムの流れは新興国にも富をもたらし、世界経済は飛躍的に拡大した。
しかし一方でそれぞれの国が持っていた個性や特技が薄らいできて、世界がつまらなくなった。
トランプさんが守ろうとしているラストベルトの白人労働者もグローバル化についていけなかった人たちなのである。
世界中で強まっている自国第一主義のうねりは、過度に行き過ぎたグローバリズムに対する反動なのだ。
この際、私たち日本人もただ自由貿易を主張するだけでなく、アメリカ依存を脱して自らどんな国を目指すのか、自分の頭でしっかり考える時を迎えていると、連日伝えられるトランプショックのニュースを見ながら私は考えている。