フィリピン旅行から戻った翌日、妻が親知らずを抜歯するのに付き合って御茶ノ水の「東京科学大学」に行った。

東京科学大学病院というのはあまり聞き慣れない名前だが、つい先日までは東京医科歯科大学病院と呼ばれていた歯医者さんの総本山である。
麻酔に弱い妻は、抜歯後一人で家に帰る自信がなく、私の同行を求めたのだ。
久しぶりに訪れた大病院。
日本にはこんなに年寄りがいるのかと改めて痛感させられつつ、ずらりと並んだ治療台で大勢の患者が歯の治療を受けている様子を眺めながら治療が終わるのを待った。
私は若い頃、地元の歯医者で普通に親知らずを抜いているので、すぐに終わるだろうとたかを括っていたところ、何度も麻酔をかけ歯茎を切開し、歯の根元を削りながら1時間以上かかってようやく妻の親知らずは抜けたらしい。
その間、口を開けて顎を抑えられ、強情な歯を左右に揺すられて、妻はかなり疲弊したようだ。
歳をとると、歯が骨に固着して若い頃のようには簡単に抜けてくれなくなるらしい。

そんなことで、1週間後の抜糸まで妻は家で安静にすることとなり、私も春爛漫の吉祥寺界隈を自転車で走り回ったり、本を読んだりゴルフをしながら、妻の静養に付き合うことになった。
今年の桜は開花が遅かった分、入学式シーズンになってもまだ咲いている。
普段の季節は全く気づかないけれど、日本には本当に桜の木が多いということに気付かされるのがこの季節だ。
井の頭公園の桜を目当てに外国人も多く訪れる吉祥寺だが、住宅街を走っていると、「ここにも」「あっ、ここにも」と桜の木が目にとまる。

そんな訳で、サイクリングのついでに一人ランチの店を探す。
普段あまり行かない吉祥寺北町を走っている時、1軒の蕎麦屋がなぜか気になった。
一度コロナ期にテイクアウトしたことのあるごく普通の街のお蕎麦屋さんだが、店内で食べたことがなかったため、ちょっと立ち寄ってみることにする。
この日は妙にそばの気分だったのだ。

店先のショーケースが店の歴史を感じさせる。
平成以降に開業したお店にはわざわざサンプルを飾るショーケースなどは作らないものだ。
調べてみると、創業は1974年。
やはり昭和から半世紀続くお蕎麦屋さんだった。

午後2時前ということで、店内には昼間から酒を飲むおじさんたちが数人。
地元の常連客らしく、近頃閉鎖した病院や同窓会の話などをしている。
蕎麦目当てというよりも居酒屋として利用しているらしい。

メニューは多彩。
そばやうどんの種類が豊富なうえ、丼類、定食類、さらにはおつまみに至るまで、とんでもない数のラインナップにまずは驚かされる。

さらには、そばと丼を合わせたセットメニューも充実している。
カツ丼、天丼、麻婆丼・・・男心をくすぐる定番料理がずらり。
値段は今のご時世にどれも1000円である。
しかも、物価高を受けてこの春値上げしたばかりだというから、吉祥寺には珍しい庶民的なお店という他はない。

そんな多彩なメニューの中から、私が選んだのはこちらの「塩カルビ丼セット」(1000円)。
丼は多少小ぶりではあるが、もりそばの方はかなりのボリュームだ。

まずは「塩カルビ丼」からいただく。
塩麹に漬け込んで焼いた豚肉は実に美味しく、何杯でもご飯が食べられそう。
肉の下に敷いてある千切りのキャベツが塩味を緩和してくれる。

一方、おそばの方は「更科」という店名の通り、白い更科そばだった。
若い頃は高級感のある「更科」は好みだったけれど、最近は少し物足りない感じがするようになった。
そういう意味では、この店のそばもいささか物足りない。
やはりおそばは、蕎麦の香りがする普通のやつがいい。
これも歳のせいだろうか。

食後にはサービスのコーヒーも出た。
蕎麦屋なのに、なんだか少し得した気分だ。

庶民的なお店の壁には大相撲の番付表が飾ってあった。
オヤジたちに愛される街の蕎麦屋。
料理の味以上に、その品揃えと雰囲気がおじさんたちをリラックスさせてくれる。
私もすっかり、この店の虜になってしまった。
食べログ評価3.20、私の評価は3.50。
「更科」
電話:0422-22-0691
営業時間:11:00 - 20:00
定休日:水曜日
https://www.facebook.com/soba.sarashina/