<吉祥寺残日録>「まん防」34都道府県に拡大!国産ワクチンの現状と軽井沢の「UWCISAK Japan」に感じたかすかな希望 #220125

年明けの経済界から聞かれた景気のいい話は、半月もしない間にすっかり萎んでしまったようだ。

急拡大を続けるオミクロン株感染のため、政府はさらに18道府県に「まん延防止等重点措置」を適用することを決め、これで全国の7割を越す地域が規制の対象となることになった。

おそらく今週はまた一段とすごい感染者数が出てくるのだろう。

東京も岡山も「まん防」の対象エリアになったため、2月の帰省は余程のことがなければ控えるつもりだ。

さらに国際情勢もにわかに緊迫し、国境付近に展開するロシア軍がいつウクライナに侵攻するのかが大きな関心事となっている。

アメリカ政府は緊急事態に備えて、ウクライナに暮らすアメリカ人に出国を促し、日本政府もウクライナへの渡航中止勧告を出し、在留邦人に対し退避を呼びかけることも検討しているという。

年末から続くロシア軍の動きは、NATOへの加盟を求めるウクライナ政府と西側諸国を牽制する狙いがある。

もしウクライナがNATOに加盟すれば、西側諸国とロシアとの間の緩衝地帯がなくなり、ロシアにとっては安全保障上の脅威となるのだ。

「強いロシア」を体現することで国内の支持基盤を保ってきたプーチン大統領にとっては看過できない事態なのだろう。

中国と台湾の問題と同じく、ウクライナ国内にもロシア系住民がいて、彼らを守るという大義を掲げてロシアが侵攻するというシナリオは確かにありうるが、支持率が低迷するバイデン政権がこの状況を利用して危機感を煽っている側面もある気がしてならない。

そんなモヤモヤした情勢の中で、私は撮り溜めたテレビ番組を見続けている。

その中から、コロナに関連する番組について書いておこうと思う。

まず最初は、テレビ東京「ガイアの夜明け」で昨年末に放送された「ワクチンの真実3〜独占取材!“国産開発”の全貌~」。

一向に実用化されない国産コロナワクチンの現状を取材した番組である。

独占!国産ワクチン 本当の実力は? 大手、有力ベンチャー・・・全て取材した!

明治HD傘下の製薬会社、KMバイオロジクス。インフルエンザワクチンでは国内トップシェアを誇るワクチンメーカーだ。開発する新型コロナ向けのワクチンは「不活化ワクチン」だ。インフルエンザワクチンなどで広く普及している手法を採用している。今年3月から始まった治験を独占取材。夏に示された治験結果は・・・ワクチン開発を大きく前進させるものだった!さらに塩野義、第一三共、など大手製薬メーカーも急ピッチでワクチン開発を進める中、ベンチャー企業にも動きが。わずか127グラムで日本国民にワクチンを行き渡らせる次世代ワクチン「レプリコンワクチン」が治験に入る。手がけるのは、アメリカで日本人研究者らにより設立された製薬ベンチャー「VLPセラピューティクス」だ。3回目接種が検討され米ファイザー、モデルナが引き続き主力を占める中、国産ワクチンはどのような使われ方をされるのか?その実力と共に探る。

引用:テレビ東京「ガイアの夜明け」

現在、KMバイオロジクスと塩野義製薬が第3段階の最終治験に進むところまで来ていて、早ければ今春の承認申請を目指しているという。

この番組で私が一番興味を持ったのは、田辺三菱製薬の子会社「メディカゴ」が開発した植物由来のワクチン。

すでに去年3月からカナダで最終段階の治験に入っていて、変異株への効果を示すデータが得られたという情報を初めて知った。

タバコの仲間である「ニコチアナ・ベンザミアナ」という植物を施設内で栽培し、この葉にワクチンの材料となるタンパク質を作ってもらうのだという。

このタンパク質を使うと、ウイルスに非常に形状が似ているが病原性がないという特徴を持つ植物由来のワクチンが作れるのだそうだ。

実現すれば、世界で初めての植物由来ワクチンとなる。

この研究を主導したのはダウスト博士で、すでにカナダ政府と最大7600万回分を供給する契約を結んでいて、ワクチンの製造も始まっている。

このワクチンは製造コストが比較的安く、2〜8度で管理できるため輸送コストも抑えられるというメリットを持つ。

カナダでは昨年12月、日本でも今春に承認申請をする予定で、このワクチンが日本で実用化される初の国産ワクチンになるかもしれない。

一方、コロナ治療薬の開発でも、あと一歩まで来ている創薬ベンチャーが紹介された。

新しい国産治療薬開発も!“伝説の男”が手がけるコロナ征圧の秘策とは?

新型コロナウイルスを無効化する・・・期待される国産治療薬を開発するのは、創薬ベンチャー・ペプチエイドだ。現場を統括する舛屋圭一さんは、スイスの大手製薬会社で抗がん剤の研究開発をしてきた第一人者。今後、変異株が出現しても「ペプチド」を使って対応できる画期的な技術を確立した。治験のスケジュールが視野に入る中、「ゲームチェンジ」の切り札になるのか?治療薬の分野でも奮闘を続けるニッポンの開発者を独占密着する。

引用:テレビ東京「ガイアの夜明け」

舛屋さんは、東京工業大学大学院を卒業後、国内の製薬メーカーを経てスイスの製薬大手ノバルティスにヘッドハンティングされた逸材。

彼が開発した肺がんの抗がん剤「ジカディア」は世界80ヵ国で承認され多くの命を救ってきた。

肺がん以外にもいくつもの抗がん剤を開発した舛屋さんは、2014年に日本の創薬ベンチャー「ペプチドリーム」からスカウトされ、副社長として帰国する。

現在開発している新型コロナ治療薬は、アミノ酸の化合物「ペプチド」をもとにして作られている。

このペプチドがウイルスのスパイクタンパク質に付着することで、ウイルスが細胞に侵入することを防ぐのだ。

大豆などに大量に含まれるペプチドを使った治療薬には、副作用が少なく、安く大量生産が可能というメリットがあるという。

この治療薬の開発のために、創薬とは関係のない竹中工務店など民間5社が出資し、「ペプチエイド」という会社が設立された。

昨年11月には有望な検査データも得られ、実用化に向けてラストスパートに入っている。

いよいよ「国産」ワクチンや治療薬が年内には登場しそうだが、世界的なパンデミックはそろそろ出口が見え始めているように感じる。

創薬の世界では、巨大企業による寡占が進み、巨額の資金を持つ多国籍企業の独壇場となりつつある。

さらにワクチンについては軍事予算との関わりが強く、ウイルス兵器や細菌兵器開発に巨額の予算を投じる米中と互角に戦うのは難しいのだろう。

カメラに写る国内メーカーの開発現場は、どこも驚くほど小規模である。

ただ番組を見て感じることは、日本人だけで作る「純国産」よりも、世界中の英知を集める「国産的」な取り組みの方が成果をあげているという事実だ。

日本人だけの発想で、国内市場だけを想定したビジネスでは、グローバルな課題解決に対しては競争力を持たないということだろう。

コロナ関連で見た番組の中で、閉鎖的な日本に風穴を開けるような学校の存在を知った。

ETV特集「サピエンスとパンデミック〜ユヴァル・ノア・ハラリ特別授業〜」。

世界的なベストセラー「サピエンス全史」の著者であるイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが、オンラインで高校生たちに特別授業を行うという企画だが、私の関心をひいたのは、授業を受ける高校生たち。

彼らは軽井沢にある「ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAK ジャパン」という学校の生徒たちだった。

この学校は、2014年に「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)」として設立された。

ISAKは、教育を通じて社会を変えることへの熱い想いをもつ創設者であり、現在代表理事をつとめる小林りんと、発起人代表の谷家衛が2007年に出会ったことから始まりました。二人は長い年月をかけて、100名のファウンダー(発起人)の支援によりISAKの夢を実現してきました。

引用:UWC ISAK Japan

そして2017年、国際的な民間教育機関である「ユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)」に加盟し、「UWC ISAK Japan」となった。

UWCは、世界各国から選抜された高校生を受入れ、教育を通じて国際感覚豊かな人材を養成することを目的とする国際的な民間教育機関で、本部があるイギリスのほか、カナダ、シンガポール、イタリア、アメリカ、香港、ノルウェー、インド、オランダ等にカレッジ(高校)が開校されているという。

私が見た番組はコロナ禍の2020年に制作されたものだが、この時点で軽井沢のこの学校にも世界84ヵ国から若者が集まり、世界をより良くするという目的のために互いに学び議論していた。

手厚い奨学金制度を設けることで、最貧国や紛争国からも優秀な生徒が集まってくる。

この特別授業には8人の生徒が参加したが、その国籍は日本人が3人、そのほかアメリカ、カナダ、ボリビア、タジキスタン、アフガニスタンという多彩さだ。

彼らはみんな流暢な英語を操り、自らの国の現状を踏まえてしっかりとした質問をハラリ氏にぶつけていく。

中でも特に優秀そうに見えたのが、タジキスタンとアフガニスタンの女子生徒。

タジキスタン出身のメリモさん(19)は、フィクションをみんなで信じることができるという人間の「認知革命」の例として宗教をあげるハラリ氏に対し、こんな質問を投げかけた。

『あなたの本を読んでいて、フィクションやストーリーなどの概念が途方もないものと感じました。正直に言って、それは私の考えや意見に異議を唱えるものでした。私の生い立ちについて少しお話ししたいと思います。私はとても信仰心の強い環境で育っています。私の国では、イスラム教が主な宗教です。宗教をフィクションとして捉えるあなたの考えについて読みましたが、そんなふうに意識したことがありませんでした。それについて両親と話し合うのもなかなか大変でした。両親は何ていうかとても信心深いからです。「フィクションとは何事だ!? それがウソだというのか? 私たちが信じる全能の神や預言者たちが皆フィクションだと言いたいのか?」という反応でした。中には伝統が全てと捉えている人もいて、そういう人との対話はとても難しいものがあります。そんな中で、これをフィクションとするあなたの考えを知り、考えさせられました。そこでお聞きしたいです。「宗教もフィクションである」という考えを信仰心のあつい人がどの程度受け入れることができれば、誰も排除しない平等、平穏な社会につながるでしょうか』

すごい、と感じた。

私が19歳の頃、こんなに論理的に社会の実態に即して物事を考えることができただろうか?

チャラチャラして全く社会のことを理解せず、社会を良い方向に向かわせるための具体策など考えもしなかった。

国が貧しく、社会に問題が山積していればいるほど、そこで育つ賢い若者たちは深い問題意識を抱くようになるということを感じる。

これに対して、ハラリ氏は次のように答えた。

『まず私たちが認識すべきことは、信心深い人にとって、自分が信じる宗教以外は全てフィクションに見えるということです。ユダヤ教徒はイスラム教をフィクションとみなし、ユダヤ教こそが真実だと言うでしょう。イスラム教徒はヒンズー教はフィクションで、わが宗教こそ真実であると言うでしょう。みんながみんな、私の解釈ことが正しい。それ以外は人間が勝手に作ったストーリーだと言うんです。でもね、敬虔なイスラム教徒なら同意するはずですが、人間はどんなに頑張っても神を本当には理解することができないんです。人間がその限られた知能で神を理解しようとしても、必ず失敗に終わります。そして神は長い顎髭を伸ばし雲の上に座った老人だみたいなフィクションやストーリーを生み出しているんです。宗教というのは答えを与えるものです。「このストーリーが答えだ、受け入れなさい、以上。」私は信仰心はあまりない方なんですが、精神性がのある人間だと思っています。精神性とは、自分は何者か、人生とは何か、何が善で何が悪かという問いを持つことです。一方、宗教は答えを与えるものです。イスラム教もユダヤ教も仏教も、全ての宗教にはその本質に精神性があります。私たちはまさにその精神性で繋がるべきなのです。「これを信じなければならない、話は終わり」というような答えを押しつけることは避けなければなりません。』

さすがに見事な答えだ。

宗教という日本人が苦手なテーマにしっかりとした答えを返してくる。

複雑な宗教状況に置かれたイスラエル人ならではの明確な宗教観だと感心した。

もう一人、アフガニスタン出身の女学生アンジェラ(17)からの質問もしっかりとしたものだった。

『私が育った環境についてですが、女の子としてアフガニスタンのような戦争で荒廃した国で過ごすことは簡単ではありません。生活の中で、不確実なことがたくさんあります。学校に行けるかどうかも分かりません。家族や友人に会えるかどうかも分かりません。なぜなら自爆テロがいつでもどこでも起きうるからです。私がハラリ教授にお聞きしたいのは、世界的な問題が起きている時に、世界には発展途上国を助ける責任があるのか、どの程度責任があるのかということです。私は発展途上国出身のティーンエージャーとして未来がどうなるかを本当に心配しています。』

そして、こんな質問を発した。

『私は何十年も内戦に苦しむ戦争によって荒廃した国に育ちました。そこにパンデミックが起こりました。「私たちは皆同じ状況にある」と言いますが、実際には最も苦しんでいるのは発展途上国です。それでこの先どうなっていくのか将来が不安になりました。そこで質問です。発展途上国に対して責任が世界にあると思いますか。世界的な問題がいろいろ起きる中で、世界には発展途上国を助ける責任があると思いますか? それともそれぞれの国が個別に対処すべきですか?』

とても本質的であり、アフガニスタンの少女から突きつけられると何と答えればいいのか悩んでしまいそうな質問である。

この問いには、ハラリ氏も明確な答えを持っていなかった。

彼はこう答えた。

『新型コロナであれ、気候変動であれ、私たちは団結する必要があります。社会で最も弱い立場にある人を守るための地球規模のセーフティーネットが必要です。発展途上国が自分の力だけで問題を解決することはできません。そのために地球規模で団結できるのか、それは分かりません。私たちみんなにかかっています。特にあなたたち若い世代がその責任を担って、人類が直面する地球規模の問題に注目し、そこから取り残される人が一人もないように取り組んでもらいたいと心から願っています。この先、私たちはどこに向かうのか、誰にも分かりません。20年30年後に社会や政治がどうなっているのか見当がつかないのは歴史上初めてのことだからです。若いみなさんにとって困難な時代だと思います。年上の知恵があてにできないからです。2050年に世界がどうなっているか予想もつきません。逃げているわけではありません。「大人になればわかる」ということでもありません。私にも本当にわからないのです。だから私たちにはあなたたちの助けが必要です。誰かが教えてくれるということはもうないのです。これは私たちみんなのプロジェクトです。歳をとった人も若い人も、みんなが力を出し合って人類共通の問題を解決していくことを私は望んでいます。』

国と国の対立だけではなく、ほとんどの国々で社会の分断が深まっている時代。

「団結」という言葉の大切さと共に、それを実現することの難しさを誰もが身に染みて感じているのだ。

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東京オリンピックでスケートボード女子決勝で失敗した日本人選手を各国の仲間たちが慰め讃えたシーンは、国境を超えて世界中に感動と新たな時代の可能性を感じさせた。

パンデミックが人々を分断し不公平をますます拡大させた世界で、デジタルネーティブと呼ばれる若い世代が、国籍を超えてつながり合い、「団結」を生み出すことができるかどうか。

軽井沢で学ぶ世界の若者たちの言葉を聞きながら、かすかな希望を抱くことができた気がした。

タジキスタンやアフガニスタンから来た彼女たちの幸せと活躍を心から祈りたい。

<吉祥寺残日録>天安門事件31年 コロナで世界に広がる言論統制 #200604

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