今日は朝から気分が悪い。
全ては昨日フジテレビが行った記者会見のせいだ。
定例の社長会見を前倒したという口実で、テレビカメラも入れずにクローズドな形で行った17日の会見で各方面から一斉に批判を浴び、スポンサー企業の多くが次々にCMの差し替えを行うという非常事態に陥る中、捲土重来を狙って今度はフルオープンな形式での記者会見を行った。
しかし、フリージャーナリストやYouTuberが大挙して押し寄せた会見は大混乱。
午後4時に始まった記者会見は途中休憩を挟み、日付を跨いで午前2時半まで続いたのである。

会見の冒頭、フジテレビの代表取締役である嘉納修治会長と港浩一社長が一連の経緯を謝罪し、事態の責任をとって辞任することを発表した。
そしてフジテレビは、会見の模様を終了まで伝えるとして、前回とは一転、CMを全て飛ばして生放送するという対応を取ったのだ。
ただし被害女性に配慮するためとして、質疑応答については10分間のディレイ中継とし、個人が特定されるような発言があった時には音声を処理するという措置をとった上で異例の会見が始まった。

しかし、会場に集まったのは新聞やテレビなど既存のマスコミのほかに、雑誌やネットメディア、自称フリージャーナリストからYouTuberまでさまざまな「メディア」が大集結。
司会を務めるフジテレビの広報局長の指名に従って順番に質問する形式ではあったが、中には登壇者に怒声を浴びせたり、自説をとうとうと述べるだけの「紛い物」の記者たちも多く含まれていた。
テレビ局時代、私は記者クラブという日本独自のシステムが大嫌いだったけれど、これほど無秩序な会見はとても見ていられない。
次第に気分が悪くなってきた。
記者会見はニュースの終了する午後7時になっても終わらず、フジテレビはゴールデンタイムの番組も全部飛ばして最後の質問が終わるまでノーCMでの生中継を続けることとなり、とうとう10時間を超える前例のない記者会見の生中継となってしまったのだ。

一方、対するフジテレビ側の答弁も相変わらず的を得ず、一体何を準備してこの会見に臨んだのかと首を傾げたくなる体たらくだった。
タレントの中居正広氏と被害女性の間の出来事に関しては、双方の間で示談が成立していて守秘義務の壁があることも理解できるが、フジの幹部社員の関与という会社にとって一番肝心な部分についてほとんどちゃんとした調査が行われていないことが露呈してしまった。
この幹部社員の行動や関与については守秘義務の対象外であるにも関わらず、なぜか関連する質問には「わからない」を繰り返し、それでいて「事案発生の日に関しては幹部社員の関与はなかった」と断言するのは素人であっても納得できない。
当然、集まった記者たちの疑念を深めることとなり、お騒がせメディアの格好の標的となってしまった。
これほどまでに会社にダメージを与えている核心を握る人物から詳細な聞き取りをしないまま、どうして大事な記者会見に臨んだのか?
単にバラエティー畑出身の港社長の力量の問題ではないものも感じた。
通常こうした重大な記者会見の場合、社内の危機管理部門の専門家が想定問答集を作り弁護士のアドバイスも聞いて備えるものである。
おそらくフジテレビでもそうした準備はしたのだと思うが、逆に専門家の作った筋書きが社長たちの発言を縛り不自然なものにしてしまったようにも見える。

もう一つ会見の大きな障害となったのが、フジテレビの「天皇」と呼ばれる日枝久フジサンケイグループ代表が出席せず、進退についても明らかにならなかったことだ。
集まった記者からは「なぜ日枝さんがこの場にいないのか」「日枝さんは辞めないのか」と何度も同じような質問が飛んだ。
40年近くフジテレビのトップに君臨している日枝氏は、現在87歳。
今はフジテレビおよびホールディングスの「取締役相談役」という立場に退き、今回の案件にも直接関わっていないとの説明ではあったが、日枝氏が今なお人事権を握り、グループ内で絶大な権力を握っていることは誰の目にも明らかである。
日枝氏に関連する質問を受けた際、壇上に並ぶ5人の代表取締役たちは揃って「進退についてはご本人が判断されること」と述べるにとどまり、この後に及んでも毅然と日枝氏に辞任を迫る者がいなかったことが逆に日枝氏の権力の強さを印象づけただけだった。
これではいくら社長が変わってもフジテレビは変わらないと感じた視聴者は多かったはずだ。

今回の事案は、女性のプライバシーに配慮して港社長などごく数人だけで情報管理がなされ、コンプライアンス担当の遠藤副会長にすら報告されていなかったという。
そのため、5人の登壇者のうち、詳しい経緯を知るのは港社長ただ一人であり、その港社長が記者からのさまざまな質問にうまく答えられないために、質疑は何度も立ち往生してしまった。
マイクでの沈黙が続く中で、心無い記者たちの怒号だけが聞こえる。
実にシュールなショーであった。
テレビ史上、自社に関する問題でかくも長時間公共の電波で記者会見を垂れ流すということはなかったであろう。
ある意味、歴史に残る不思議な番組であった。
私が最後まで見てしまったように視聴者の関心は高く、番組の世帯視聴率は13.1%を記録、フジテレビの通常番組の倍を記録したという。
しかし、会見を見た視聴者からはフジテレビだけでなく取材する側のレベルの低さを批判する声が上がった。
当然である。
記者は糾弾者ではない。
明らかにされていない事実を聞き出すのが仕事である。
であれば、少なくともジャーナリストを名乗る者は最低限、明確で的確な質問をする技術が求められる。
その最低限の技術さえ持たないものが記者会見に参加することは誰の利益にもならず、質の悪いメディアが増えれば、オープンな記者会見を実施しようという企業は無くなるだろう。
まさに、メディアの自殺行為なのだ。
ネットメディアの力が増す中で、今後不祥事の際にはこうしたオープンな形での記者会見が求められることが増えると考えられるが、メディアの質の向上、記者会見の運営方法など新たな時代に即したルールづくりが急がれる。

折しも昨日は、中国のベンチャー企業が開発した生成AI「DeepSeek」のニュースが流れ、アメリカの半導体産業に激震が走った1日だった。
アメリカの「ChatGPT」並みの性能を持ち、はるかに格安だと言われる中国製AIはアメリカや日本の経済安全保障にも重大な影響を与えると見られ、エヌヴィディアの株価が暴落し、1日で93兆円が吹き飛んだと言われる。
アメリカのトランプ大統領は、外国からの半導体に関税をかけるとの発言もしていて、日本が進める先端半導体のプロジェクトにも多大な影響を及ぼすのは避けられないだろう。
中国製AIは中国政府の意向を反映した答えを出すように作られているとされ、これが安価を武器に世界に広がれば知らないうちに世論を操作されてしまうような事態も容易に想定される。
今後の情報社会を考える上で極めて重要なニュースであるが、日本ではフジテレビの会見によってほとんど注目を集めなかった。
それを考えても、フジテレビの今回の大失態は返す返すも罪深い。