2011年3月11日午後2時46分。
日本観測史上最大となるM9を記録した東日本大震災が起きた時刻は、おそらく今生きる日本人が最も記憶している瞬間だっただろう。
あれから10年、昨日の午後2時46分、私はテレビで放送される政府主催の追悼会に合わせて1分間の黙祷をして過ごした。
10年という歳月を経て、私たちはあの日のことについて、「何をどのように伝えればいいのか?」
そんな問いを考えさせられた1日だった。
東京・国立劇場で開かれたこの式典に出席した天皇は、震災の被災者はもちろん、復興に携わる様々な人に想いを馳せたうえで、こんな話をした。
今後、困難な状況にある人々が、誰一人取り残されることなく、一日でも早く平穏な日常の暮らしを取り戻すことができるように、復興の歩みが着実に実を結んでいくよう、これからも私たち皆が心を合わせて、被災した地域の人々に末永く寄り添っていくことが大切であると思います。
私も、皇后と共に、今後とも被災地の方々の声に耳を傾け、心を寄せ続けていきたいと思います。
先月にはマグニチュード七を超える地震が福島県沖で発生しました。
被災された皆さんに心からのお見舞いを申し上げます。
この地震は東日本大震災の余震と考えられており、このことからも、震災を過去のこととしてではなく、現在も続いていることとして捉えていく必要があると感じます。
我が国の歴史を振り返ると、巨大な自然災害は何度も発生しています。
過去の災害に遭遇した人々が、その都度、後世の私たちに残した貴重な記録も各地に残されています。
この度の大震災の大きな犠牲の下に学んだ教訓も、今後決して忘れることなく次の世代に語り継いでいくこと、そして災害の経験と教訓を忘れず、常に災害に備えておくことは極めて大切なことだと考えます。
そして、その教訓がいかされ、災害に強い国が築かれていくことを心から願っています。
その前に挨拶をした菅総理の官僚が用意したようなスピーチとは違い、天皇の考えが率直に伝わるいい挨拶だったと思う。
教訓を後世に残す大切さ。
それはわかっていても、実際に語る伝えるのが難しいことは過去を振り返れば明かだ。
震災10年にあたり、テレビ各局は午後に特別番組を編成し、レギュラーの報道・情報番組でもたくさんの震災関連企画を放送した。
その多くは、震災を経験した東北の被災者の方々のその後を追ったストーリー。
確かに、一人一人に物語があり、そのたくましさだったり悲しさだったりが伝わってくるのだが、どれも同じようなトーンなので積極的に見ようという気になれない。
そう感じる視聴者は多いようで、「震災 うざい」というタイプの書き込みは震災直後からすでに相当数あった。
人類の歴史上、あれほどの規模で津波が映像に収められたことはない。
10年経っても終わりの見えない福島の廃炉作業、我々は原発をどうすべきなのか?
間違いなく、あの日の出来事には、後世に伝えていかなければならない教訓が間違いなくあるはずだ。
では、何を、どうやって?
どうしても、そこに立ち返ってくる。
各局が特番を編成した午後の時間帯、私が見ていたのは主にフジテレビだった。
『わ・す・れ・な・い 未来へ…10年目の総検証』
フジテレビは、震災のあった2011年から定期的に『わ・す・れ・な・い』というタイトルで震災関連のスペシャル番組を制作してきた。
その特徴は、大震災、なかでも津波の映像をたくさん集め、そこから教訓を引き出すように映像の分析を試みることだった。
今回も、たくさんの津波の映像が流れ、他局の特番とは一線を画していたと感じる。
他の局でも、日本テレビは福島原発が爆発した瞬間をとらえた独自映像をもとに、最新の映像処理を施して新たに検証し直すといった取り組みも見られた。
NHKの7時のニュースでも、津波映像の検証とともに、今後予想される巨大津波の可能性について伝えていた。
テレ朝の「報道ステーション」でも、津波の検証とともに、当時のテレビ報道の問題点についても検証していたのは目を引いた。
大津波警報よりも首都圏の被害映像を優先したこと、報道された避難所に援助が集中した問題、そして原発報道。
東日本大震災はテレビの災害報道のあり方を決定的に変えたと言っていい。
何を、どのように伝えていくのか?
今年の3.11で、私が一番いいと思ったのはTBSがゴールデンタイムで編成した『音楽の日』だった。
TBSでは2011年から毎年1回、大型音楽番組「音楽の日」を放送してきた。
もちろんきっかけは東日本大震災である。
音楽の力で被災地を元気づけたい、そんな多くのアーティストたちが歌でメッセージを発信してきた。
そして、10年目の3.11。
どんな美談や解説よりも、音楽を聴きながら日本中の人々が地震のことや被災地に想いを馳せる。
これは、素敵な番組編成だと感じたし、特にオープニングでミスチルの桜井さんが被災地の海で歌う静かなシーンから番組を始めた演出も素晴らしいと感じた。
私のような報道系にはない、テレビの幅広さを感じさせるスペシャル番組だったと思う。
しかし、「あの日をどう伝えるか」はテレビだけの課題ではない。
この10年で日本人の生活の中に広く浸透したインターネット。
日本の大手IT企業も、震災10年に合わせて様々なプロジェクトを展開している。
たとえば、震災の教訓をベースにサービスを構築した「LINE」。
今年合併した「ヤフージャパン」と一緒に『スマホ避難シミュレーション』なるサービスを展開した。
『スマホ避難シミュレーションとは、震度6強の地震発生を想定した避難体験コンテンツです。地震直後の家の中での行動やスマートフォンでの情報収集を擬似体験しながら学ぶことができます。』
スマホ利用者が実際に暮らすエリアでもし大地震が起きた際にどのように避難するかを考えてもらおうという取り組みだ。
テレビのような従来のマスメディアにはできない、利用者一人一人に応じたサービスは、きっと「減災」に大いに役立つだろう。
「ソフトバンク」は、若者の起業や学びをサポートしたり、募金活動を実施したり、傘下の「ヤフー」や「LINE」とも連携して未来につながる実際の支援に取り組んでいる。
一方、「楽天」は通販の強みを活かして、東北の物産を販売し応援するキャンペーンを行っている。
ただ情報を伝えるだけではなく、被災地にお金を届けたり、次の被災者を出さないためのツールを提供したり、防災の選択肢が確実に広がっていることはうれしい限りだ。
そして外国企業も例外ではない。
10年前のあの日。
絶対に忘れないだろうと思ったあの日の記憶も、時の経過とともに少しずつ薄まっていく。
津波や原発の映像はもう見たくないという人もいれば、あの時の記憶を持たない若い人たちも着実に増えている。
忘れることも、生きていくうえでは大切だが、こうした節目で思い出し、子孫に語り継ぎ、次の災害に備えることもとても重要なことだ。
昔の人が石碑に込めた想いを、私たちは何に込めればいいのか?
そんなことを考えた10年目の3.11だった。