2021年のテーマとして掲げた「井の頭公園の植物」観察。
今日は、武蔵野の雑木林を代表する2つの樹木を取り上げる。
「イヌシデ」と「クヌギ」だ。
「イヌシデ(犬四手)」
井の頭公園の中でも最もかつての雑木林の風情を残しているのが、御殿山のあたりだろう。
葉が落ちた特徴のない冬の木々の中で、私が一番最初に見分けられるようになったのが樹皮にはっきりとした縞模様があるこの落葉高木だった。
『イヌシデ』。
私がまったく知らない名前がつけられていた。
「アカシデとくらべて、若葉に白い毛が多く、シロシデとも呼びます。雑木林に普通に見られる木です。(カバノキ科)」という説明が添えられている。
調べてみると、昭和のはじめまで広く分布していた武蔵野の雑木林の中で、「イヌシデ」もポピュラーな樹木だったことがわかった。
「アカシデ」「クマシデ」などある『シデ』の中でも、これといった特徴がないことから、「劣る」を意味するイヌを冠して「イヌシデ」となったという。
ちょっと犬がかわいそうにも思えるが、この樹皮にある縞模様を眺めていると、縄文土器のような生命力を感じる。
頭上を見上げると、複雑に捻れながら天に伸びる枝ぶりも美しく、この冬私にお気に入りの樹木となった。
2月末のこの季節、細い枝から一斉に新芽が吹き出しているのが見える。
春には開花し、雄花が垂れ下がるように咲くという。
そもそも『シデ』というのは、しめ縄や玉串に垂らす紙片のことで、この木の花穂がこの「シデ(紙垂)」に似ていることが名前の由来らしい。
ちなみに、こちらは同じく御殿山エリアにある「アカシデ」の木だ。
イヌシデに比べて葉が小さく赤みがかっているのが見分けるポイントだそうだが、私には樹皮の縞模様がイヌシデよりも薄いように感じる。
これといった効用もなく、「イヌ」と呼ばれた雑木だが、そんな『イヌシデ』が「井の頭自然文化園」の正門前にシンボルツリーとして植えられている。
「イヌ」という名前が動物園にふさわしいからかどうかはわからないが、「イヌシデ」推しの私としてはちょっと嬉しい気持ちになった。
「イヌシデ」 分類:カバノキ科クマシデ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4〜5月 実がなる時期:10月
井の頭公園の「イヌシデ」はここ!
「クヌギ(櫟)」
井の頭池の南側。
緑の常緑樹に囲まれながら、ポッカリと開いた空に向かってたくましく伸びている落葉樹があった。
『クヌギ』である。
ブナ科の落葉樹である「クヌギ」も、武蔵野を代表する樹木だったという。
「クヌギ」は『国の木』が語源とも言われ、昔から日本人の生活とは切っても切れない関係がある。
「古事記」や「万葉集」にもその名が登場し、漢字表記だけでも、椢、橡、椚、椡、栩、櫪、櫟、檞など実に数多い。
切り倒しても20年ほどで再生するため、薪や炭の材料として最適で、江戸の人口が増えて燃料のニーズが増えるに従い、武蔵野台地に積極的に植林された。
私たちがイメージする武蔵野の雑木林は、人が作り上げた人工林だったのだそうだ。
この季節、細枝に小さな芽が出てきているのが見える。
「ドングリ」とは本来、「クヌギ」の実のことだという。
現代ではブナ、カシ、コナラなど複数の木の実をドングリというが、本来ドングリ(団栗)は真ん丸の実を意味し、クヌギの実を意味していた。ドングリは直径2センチほどで、コナラ属の中では最も大きい。ドングリの半分は殻斗と呼ばれる帽子で覆われ、その鱗片は外側へ伸びて反り返り、独特の形状からオカメドングリとの通称がある。
出典:庭木図鑑 植木ペディア
「クヌギ」の樹皮は厚くひび割れている。
クヌギの樹皮や新芽を使って赤紫色に染めた衣服は「橡染め(つるばみぞめ)」といい、古代には身分の低い者や若年者が身にまとった。
出典:庭木図鑑 植木ペディア
さらに、シイタケの原木としてもクヌギは愛用された。
そして、「クヌギ」は人間の役に立つだけではない。
その樹液を求めて、多くのカブトムシやクワガタが集まる命の樹なのだ。
「クヌギ」 分類:ブナ科コナラ属 特徴:落葉広葉樹・高木 花が咲く時期:4〜5月 実がなる時期:9〜10月
24件のコメント 追加