🇬🇾 ガイアナ/ジョージタウン 2024年2月14日~15日
南米大陸北岸にある人口わずか80万人の小国ガイアナ。
「南米の最貧困」と呼ばれ国際社会から見向きもされなかったこの国で巨大油田が発見されたのは今から10年足らず前、2015年のことだった。
近い将来、人口一人当たりの石油産出量は世界一になると言われ、欧米も中国も隣国ベネズエラもにわかにガイアナに注目するようになる。

ガイアナ到着の翌朝、私はホテルの周りを少し歩いてみた。
海の近くだったので、とりあえず海に行ってみようと北に進むと驚くような豪邸が立ち並んでいる。
このあたりは新興住宅街のようで、真新しい大きな邸宅ばかりが立っていて、この敷地に入るためのゲートもあった。

その一方で、海への道路は全部行き止まりで、堤防と植林でアクセスできないようになっている。
仕方なくホテルに戻ろうと歩いていると何頭もの大きな牛が道を横切り、豪邸の前の草を食べているのだ。
なんだか変な国だ。

ジョージタウンの中心部から海岸沿いに東に進んだ「イーストコースト」と呼ばれるこの地区はおそらく最近急速に開発が進んだエリアだと推察される。
外資の石油企業に採掘権を与え、実際に5年前から原油の生産が始まった。
政府には莫大な富がもたらされたに違いない。
それがどのように使われ配分されるのか、そこが重要である。

私が宿泊した「グランド・コースタル・ホテル」はたまたまこのイーストコーストにあった。

ダウンタウンからは10キロほど離れてはいるが、施設は新しく、とてもモダンな作り。
内側のロビーに面して客室が作られている。

ホテルに到着した際、併設されたレストランがすごく賑わっていたため、私も釣られてここで夕食を食べることにした。
しかし、私はその賑わったレストランではなく、誰もいないホテルのロビーで食べるように言われ、しかも料理の値段も高かった。

私が注文した一番安い「クラブサンドイッチ」でも20USドル弱、およそ2900円もした。
味は悪くなかったけれど、こうした欧米並みの高いレストランが繁盛していることに少し驚いた。
この国にかなりの数の富裕層が生まれているということだろう。
それと同時に、チェックイン直後の夕食の経験で私のホテルに対する第一印象も悪くなってしまった。

部屋の鍵はカードキーではなくあらかじめ決められた4桁の暗証番号を押すという変わったスタイルだった。

室内も綺麗だったのだが、残念ながら窓がなくずっと部屋にいると息苦しくてまるで牢獄のような感じがした。
ガイアナにはホテルが少なく、おまけに市内のちゃんとしたホテルは高くて手が出なかったので郊外のこのホテルを選んだのだが、どうやら私向きではなかったようだ。
幸い朝散歩に出た時、ホテルの目の前の道路をミニバスが何台もぶっ飛ばしているのを目撃した。
あのミニバスに乗ってダウンタウンまで行ってみようと思い立った。

ホテルの前を走るミニバスには全部「44」という番号が付いている。
要するに44番のミニバスを見つければホテルまで戻ってこられるということだ。
私はホテルの前の道端に立ち、止まったミニバスに乗り込む。
セント・ビンセントで乗ったミニバスと違い、乗客の数は椅子の数と同じ1列3人、大半は女性だ。
車内に音楽が流れてかなりのスピードで走ることには変わりはないが、道路が広くてまっすぐなので、セントビンセントのように振り回されることもない。
ごくごく普通の庶民の足である。

運転手は乗客を乗せたままガソリンスタンドに入り、給油を始める。
これも途上国では時々見かけるあるあるの光景である。

途中、建設中のビルを見つけた。

あちらにも。
建設ラッシュというほどではないが、建設需要がこの街にあることは間違いなさそうだ。

問題はこのミニバスがどこに行くのか、どこで降りればいいのかがわからないことだ。
Googleマップで現在位置を把握しながら、ダウンタウン中心部にある「セント・ジョージズ・カセドラル」で降りることにした。
この大聖堂は1892年に建てられた英国国教会の教会だそうだ。

オランダによって建設されその後イギリスが支配したジョージタウンにはたくさんの教会が残されている。
南米の最貧国という称号からもっと裏ぶれた街を想像していたが表通りは予想よりも綺麗だった。

立派な中国料理店があったので、久しぶりに中華でも食おうと思って勇んで店に入ると、テイクアウトだけで店舗営業はしていないという。
ガイアナはインド系の人が多いのでインド料理が美味しいらしいが、トリニダード・トバゴでカリブ風のインド料理を味わったばかりなのでどうも気が進まない。

結局スーパーを見つけ、ここで何か買ってホテルで食べることに。

店内は薄暗かったが品数は豊富で、フルーツジュースやビスケットなどを買った。
本当はバナナが買いたかったのだが、残念ながら黒ずんだ美味しくなさそうなバナナしかなくてやめた。
セントルシアではあんなに新鮮で美味しかったのに、同じカリブ海に面しているとはいえ、風土も文化もずいぶん違うと感じる。

スーパーのまわりは古く傷んだ建物も多くて、掘立て小屋が密集したスラムのような場所もある。
ジョージタウンには来てみたかったが特に何がみたいというわけでもないので、買い物した食べ物を持って早々に引き揚げるのが良さそうだと判断する。

ミニバスを降りた大聖堂のあたりに戻り、通りかかった44番のミニバスに手を挙げるが止まってくれない。
仕組みが分からず少し歩いていると、路地に44番が何台も止まっている場所を見つけた。
そうか、ここで乗るのか。
そう思って、運転手に「グランド・コースタル・ホテルまで行きたい」と伝えると、指で別の方向を指差しながら「あっちだ」というような仕草をする。
別の運転手に尋ねても同様の答えだった。

意味がわからないまま言われた方向に歩いていくと、また44番が何台も停まっている。
なるほど、同じ44番でも路地によって行き先が違うらしい。
この界隈は「ステーブロエック・マーケット」と呼ばれる港に近い市場で、ジョージタウンの中でも特に治安が悪い場所として注意が呼びかけられているエリアである。

用事もないのにウロウロしていてスマホでもひったくられると面倒だ。
私はすでに半分くらい乗客で埋まっていたミニバスに乗り込み、出発を待つ。
車掌らしき女性にホテル名を告げて値段を聞くと160ガイアナドルだと言う。
つまり110円ぐらいと妥当な金額だった。
街に来る時、金額が分からず200ガイアナドルを渡したのにお釣りをもらえなかった。
まあ、新参者はどこでもボラれるのだ。

ミニバスに乗ると、庶民の暮らしを垣間見ることができる。
ミニバスが出発するまでの間、前の席に座った女性が男から無理やり大きな荷物を押し付けられどこかまで運ぶように言われている。
知り合いのようでもあり、そうでないようにも見えた。
でも、キングスタウンのターミナルのような殺気だった雰囲気はない。
この市場といえ、どこにでもある途上国のマーケットであり、用心は必要だがさほどのヤバさは感じない。

ようやく乗客が揃いミニバスが出発する。
みんな静かに座っている。
比較的穏やかな国民性のようにも感じた。
ただ、最大のインド系住民とそれに次ぐアフリカ系住民にはそれぞれが支持する政党があって、政権交代が起きるたびに反対勢力の不満が高まるそうである。

現在はインド系のアリ大統領が2020年から実権を握っている。
そのため石油利権がインド系の企業に偏っているとアフリカ系の人たちの不満が高まっているとも伝えられている。
みんなが貧しかった時には表面化しなかった対立が、思わぬ金が転がり込んだことで一気に先鋭化する。
古今東西よく聞く話である。

ダウンタウンからイーストコーストに向かうに連れて街並みが変わる様子を眺めながら、私はこの街に確実に広がりつつある格差を感じていた。