観光という意味では、今回の旅最後の滞在地ジェッダは最悪だった。
ジェッダの街が最悪なのではなく、私の体調が最悪だったのだ。

2月9日、リヤドから直接ジェッダに入った私は、そのままタクシーでホテルに向かった。
予約していたホテルは、アコーホテルズ系列の老舗ホテル「モーベンピック・ホテル・ジェッダ」である。
「モーベンピック」は1940年代に生まれたスイスのホテルチェーンで、2018年にアコーホテルズが買収するまではサウジアラビアのキングダムグループが所有していた。

ロビーに入ると、植民地時代を彷彿とさせるコロニアル調の美が迎えてくれる。
ロビー中央にある吹き抜けを飾る装飾や柱、古き良きヨーロッパのデザインなのだろうか。
フロントも重厚で、珍しくアラブ男性が身につける頭巾「クーフィーヤ」を被ったスタッフがいる。
サウジの人なのだろうか。
多くのホテルでは接客はフィリピン人など海外からの出稼ぎ労働者が担当していてサウジの人はあまりこうした仕事はしないのだと思っていた。

ホテルに到着したのはまだ午前11時ということで、入室を断られるかと思ったが、すぐに入れる部屋を探してくれるという。
ソファーに腰かけてこのレトロなロビーを細部まで眺めまわす。
モダンなホテルもいいが、こうした昔の高級ホテルといった雰囲気も嫌いじゃない。

ロビーの一角には、遊牧民のテントをイメージしたくつろぎのスペースも用意されていた。
本当は腰掛けてみたかったが、誰もこのスペースを利用する人はおらず、結局私も最後までこの椅子に座ることはなかった。

こうしてロビーを楽しんでいる間に部屋が用意できたようで、クッフィーヤを被ったフロントスタッフは「広めの部屋を用意しました」と言って私に鍵を渡した。
ちょうど時間は11時、まさかこんな時間にアーリーチェックインができるとは思わなかった。
ありがたい。

エレベーターで3階に上がり、相当年季が入った廊下を通って部屋に入った。
確かに広い。
突き当たりにソファーが置かれているのが見える。

入り口脇のクローゼットも広く、収納が充実している。
リヤドで苦戦したセキュリティーボックスもオーソドックスなもので、私には使いやすかった。
昔、途上国で泊まった高級ホテルはどこもこんな感じだった。

部屋が広いため、家具の配置がゆったりしている。
ベッドもデスクも大きくて、配色も落ち着いている。

ジェッダでは体調不良のためほとんど出かけることもなく、大半の時間をこの部屋、このベッドで過ごすことになる。
そういう意味ではこの広さは良かったのだが、一点だけ不満な点があった。

それは窓が外ではなく、建物内の吹き抜けに面していたことだ。
吹き抜けの上には天窓があり、そこから明かりが入ると言えば入るのだが、さすがに暗い。
外向きの部屋には全てベランダが付いていたので、そちらに変えてもらおうかとも考えたが、どうせ寝ることも多いだろうと思いやめた。

水回りも広々として、嬉しいことにバスタブも付いていた。
さすが昔の高級ホテル。
だが残念なことに、この湯船に浸かることも一度もできなかった。

私がこのホテルを選んだ最大の理由は、大きなガーデンプールがあることだった。
2月とはいえ今回の旅行中、最も南に位置するジェッダの最高気温は30度を超え、十分水遊びが楽しめるはずで、最後はこのホテルでゆっくりして旅の疲れを癒してから帰国する計画だった。
プールの周辺には木の柵が置かれていて、何らかの理由で使用禁止なのかと思ったが、そういうわけではなく誤って子供が落ちないための対策で大人は柵を跨いで泳いでもいいらしい。

私は暗い部屋にいるのが嫌になると、プールサイドの日陰で時間を過ごしていたのだが、プールで遊ぶのはほとんどが子供で、大人で泳いでいたのはマッチョな男性客1人だけだった。
アラブの人はあまり泳がないと見え、子供をプールで遊ばせる母親は全身黒いニカブ姿。
そのギャップは見ていて面白い。

私は一度、このプールサイドでランチを食べた。
「フルーツサラダ with アイスクリーム」とミネラルウォーターで50リアル(1758円)。
ちょっと高いが、吹き抜ける風も心地よく、気持ちの良いランチだった。

最初の夜には、メインダイニング「VIEWS RESTAURANT」に夕食を食べに行った。
宿泊客だけでなく外からも食事に訪れる人気店のようだ。

夜はアラカルトはなくディナービュッフェの一択で、宿泊客は25%引きで167リアル(5873円)だという。
これは思ったより高いと思ったがすでに席についていたため、この日は体調優先でちょっと贅沢なディナーにすることに。

日本で食べるビュッフェとは違い、並んでいる料理は見知らぬものが多い。
こちらは北アフリカの「Seafood Tagine」、シーフードのタジン(煮込み料理)。

これは「Grilled fish Harrah sauce」、中東でもよく食べられるチリソースを使った魚料理らしい。

こちらは同じ魚料理でもインド風にアレンジした「Tandoori Fish」だ。
さすが紅海に面する海洋都市、シーフードが料理の中心である。

これは「Shrimp Mukhiya」と書かれた謎の料理。

そしてこちらは「Seafood Soup」だそうだ。

そして中東の料理といえば、こちらの前菜類も外せない。
日本ではほとんど食べる機会がないアラブの料理がこんなにも美味しくてヘルシーだということを初めて知った。

こちらは私でも知っているレバノン料理の定番「フムス」。
何にでも合うひよこ豆のペーストである。

これはブドウの葉を使ったトルコ料理の定番「ドルマ」。
トルコに限らず中央アジアから北アフリカにかけ、ブドウの葉を使ったドルマは広く定着しているらしい。

こちらの「タッブーレ」はレバノン・シリア地方から中東全域に広がったサラダ。
細かく刻んだパセリを主体にさまざまな野菜などを加えて作る。

そしてこの「ババガヌーシュ」も同じ地方を発祥地とする焼き茄子を使った前菜である。
つまり、中東各地の代表的料理が一堂に会したビュッフェが目の前に並んでいるというわけだ。

どれも少量ずつ皿に取って味見をする。
これができるのもビュッフェの醍醐味だ。
中東の料理をこんなに食べるのは初めてだが、本当に上品で文明的な味がする。
中世までは世界の先進地域として文化を牽引してきた中東の奥深さを感じる。

私がこうして中東の定番料理を食べ比べしている脇で、隣に座ったオヤジたち4人組のテーブルには次々にグリルされたシーフードの皿が運ばれてくる。
確かにカウンターには近海で獲れたばかりの魚介類が並んでいて、客の好みの調理法で仕上げて食べさせてくれる。
これもビュッフェのうちなのだ。
どう見てもオヤジたちの方が単価の高い料理を大量に食っている。
このレストランのビュッフェが高い理由はどうやら新鮮な海の幸がいくらでも食べられることにあるらしい。

私のような食べ方では到底元が取れないことがわかったが、この時の体調では無理して食べると後が怖い。
最後にデザートをいただいて退散することにした。
デザートも西欧風のものよりもアラブ伝統のお菓子の方が美味しかった。

夕食を済ませて部屋に戻った直後、突然停電が起きた。
どうやらホテルの原因ではなく、その近隣一帯が何らかの理由で停電したようだ。

自家発電で最低限の電気は確保されていたが、私はプールサイドに出て電気の復旧を待った。
先ほどまで食事をしていたレストランだけが明るく照明が維持されていて、緊急時の対応はしっかり取られているようである。
でもたまにはこんな暗い夜もいい。
気持ちのいい夜風が体調の悪さを忘れさせてくれる。
ただ煌びやかなホテルよりも、このホテルはどこか落ち着く。

結局このホテルには3泊予約していたが、3日目の夕方チェックインして日本に緊急帰国した。
料金は3泊で1025.34リアル(3万6116円)だった。
できればもっと元気な時にこのホテルの外側に面した部屋に泊まり、プールサイドでゆっくりと過ごしたいものだ。
今回ジェッダの観光はほとんどできなかったので、いずれまたリベンジしたいと思っている。
「MOVENPICK HOTEL JEDDAH」 住所:Al Madinah Munawarah Road, Adjacent To Mohammed Al Taweel, Street 21451 ジェッダ、サウジアラビア 電話:+966 12 667 6655 MAIL:Hotel.Jeddah@movenpick.com