<吉祥寺残日録>10万円の特別定額給付金 #200523

義母の退院に合わせての岡山帰省から、昨日戻ってきた。

東京はこのところ寒い日が続いているらしく、本当に寒い。

妻はかなり疲れたようで、お腹が痛いと言ってゴロゴロしている。

帰宅すると、武蔵野市役所から「特別定額給付金申請書類在中」と書かれた封筒が郵便受けに入っていた。

新型コロナ対策として二転三転して決まった10万円の一律給付である。

国民全員に現金を配るこの施策だが、実際の配布作業は各市町村に委ねられている。

全国でも最も裕福な自治体と言われる武蔵野市(財政力指数1.41)から届いた書類は・・・

白黒で印刷された質素なもので、いささか地味でわかりにくい印象だ。

むしろ申請手続きの説明書より目立つのは・・・

「給付金のサギに注意!」と書かれた注意書き。

こちらの方がレイアウトがわかりやすい。これもそれぞれの担当者のセンスなのだろう。

一方、財政難が指摘されていた岡山市(財政力指数0.78)でも、私の帰省中に申請書類が母や伯母の家に届いた。

こちらはカラーで、レイアウトもわかりやすい。

豊かな武蔵野市が質素で、財政が厳しい岡山市が豪華な書類。このあたりが、私としてはちょっと興味深い。

武蔵野市としては独自の財源を市内の中小業者の支援に当てることにしているので、こんな書類には金をかけないというのも大事な判断かもしれない。

岡山市の書類には、こんなものまで入っていた。

とてもわかりやすい記入例。これはお年寄りにも親切だ。

ただ両市の書類を見比べた時、それ以上に大きな違いに気づいた。

給付金を「受け取る」か「受け取らない」かを選択する欄の有無だった。

武蔵野市の方では、受給者一人一人について「希望する」「不要」のどちらかにチェックを入れるようになっている。間違って「不要」にチェックを入れてしまう人が続出しているとニュースにもなった。

それに対して、岡山市の申請書にははじめから「受け取らない」という選択肢は設けられていないのだ。

そもそもは、公明党の強硬な申し入れを受けて国民一律の現金給付を決めた後で、麻生蔵相の余計な一言から「受け取らない」という選択肢を設けることになった。

しかし、岡山市ではそれに従わなかったのだ。「もらえるものはもらいましょう」と、政府の不明確な方針を無視したような印象を受けるが、市民にとっては無用な混乱を招かない良い配慮だと思う。

この給付金の申請にあたって、母と伯母の手伝いをして思ったことがある。

お年寄りという存在は、簡単なことが障害となるんだと実感したことだ。

2人に共通し課題だったのは、コピー。

申請書類に添付して、本人確認書類と口座確認書類の写しを送る必要がある。この「写し」というのが、意外なハードルになるのだ。

母も伯母も自分でコピーというものを自分でしたことがない。やり方を知らないのだ。

母の方が伯母に比べてまだしっかりしているので、私に健康保険証とキャッシュカードを渡して、コンビニでコピーしてきてくれと頼んだ。私がすぐにコンビニに行こうとすると、やり方を覚えたいからと一緒にコンビニに着いてきた。いつもは、コピーが必要な時にはコンビニの店員さんに頼んでいるらしい。

でも、銀行の情報など他人に安易に知られるのは確かに危ないことだ。

一方、ずっと農業をしていて事務作業に縁のない伯母は、そもそも自分が給付金の対象となっていることを理解していなかった。

「おばちゃんも10万円もらえるんよ」と言っても・・・

「そんなもんもらえるわけないわ」と言って、しばし信用しなかった。家では新聞を取り、毎日欠かさずニュースを見ているにも関わらず、国民一律の現金給付が自分のことだとは思わなかったようだ。

そんな会話をした翌日に、申請書類が伯母の家にも届いた。

私がいる時でなかったら、伯母はきっと申請しないままその書類を放置していたと思う。

健康保険証と通帳が必要だと伝えると、伯母は引き出しをゴソゴソ探し始めた。農協の通帳はすぐに見つかったが、健康保険証がなかなか見つからない。

引き出しの中身を全部取り出して、私に見せる。なんだかわからないかなり昔の会員証やらチラシのようなものの中に、介護保険証など大切な書類が紛れ込んでいた。もし誰かが訪ねてきて、身分証明証を見せてくれと言われたら、こうして引き出しの中身を全部見せてしまうんだろうと思った。

まったく危ないもんだ。

振り込め詐欺の被害が一向になくならないのも、こうした高齢者の行動パターンがあるからなのだろう。

そうしてようやく健康保険証を見つけ、いざ伯母に書類の記入をさせようとすると、ペンを持つ手が震えてうまく書類が書けない。記入することなどごくわずかな簡単な書類なのに、である。

特に金融機関の番号を記入する欄など、何を書いていいのかわからず、仕方なく私が伯母に代わって記入して、コンビニで添付書類をコピーしてそのまま投函を済ませた。

これで母も伯母も無事に10万円をいただけるだろう。年金暮らしの2人にとっては、ありがたい収入ではあるが、無駄遣いはしない人たちなのでこのお金がただちに消費に回ることはなさそうだ。

我が家で起きたような騒動が、きっと全国で展開されているのだろう。

オンライン申請のためにマンナンバーカードのパスワードを再発行してもらうために、役所の窓口に人が殺到したとも伝えられている。あれほど難航していたマンナンバーカードを普及させる方法はいくらでもあるということを、今回の現金給付は証明した形だ。

誰だって、税金を取られるよりも、給付を受ける方が嬉しいに決まっている。

評判の悪い安倍政権のコロナ対策の中で、唯一好評なのがこの10万円の現金給付なのだ。

せっかくなら、このお金が単なる票目当てのバラマキに終わるのではなく、自粛で苦しむ国民の気持ちや生活を本当の意味で支えてくれることを願うばかりである。

1件のコメント 追加

  1. 白石鈴衣 より:

    いつも楽しく拝見させて頂いております。
    給付金の書類にお名前とご住所が写ってしまってます。
    心配でしたのでお知らせさせて頂きました。

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