今夜また雨の予報なので、ブドウに農薬を散布しておこうと思った。
ブドウは病気や害虫の被害に遭いやすく、通常のブドウ農家はこの季節毎週のように様々な農薬を散布する。
しかし私は自分で食べるブドウになるべく農薬は使いたくないし、そもそも面倒なので5月と6月に1回ずつ農薬散布をすることにしている。
去年はそれで大きな被害もなくそれなりのブドウが収穫できたので、今年も年2回の農薬散布を踏襲することに決めていた。

ブドウにとって雨は天敵らしい。
雨によって土の中にいる病原菌がはね上げられるそうで、大雨の後には様々な病気が襲ってくるという。
だから、どうせ農薬散布を行うのなら今夜雨が降る前にやってしまおうと思ったわけだ。

6月に使用する農薬は「アフェット」という殺菌剤と「フェニックス」という殺虫剤。
これを水で2000倍とか4000倍とかに薄めて一緒にブドウに撒くのである。
「アフェット」は、灰色かび病、晩腐病、黒とう病、うどんこ病、褐斑病、さび病の予防に効果があり、「フェニックス」は、ハスモンヨトウ、ケムシ類、ハマキムシ類、スカシバ類、モンキクロノメイガ、ミノガ類、ホソオビツチイロノメイガといった害虫に効果があるそうだ。
こうして列挙すると、ブドウ栽培には超えるべきハードルがいかに多いかがわかる。
近所のおじさんが無農薬のブドウ栽培など考えられないと断言するのも少しわかる気がしてきた。

10リットルの噴霧器に水を充し、その中に2つの農薬の溶液を少量ずつ加える。
そのうえで、上下の雨ガッパにゴムの長手袋、頭は雨合羽のフードで多い、ゴーグルと高性能マスクを装着してブドウ畑に向かった。
今日は曇り時々晴れという天気だが、この格好だとさすがに暑い。

大きなブドウ畑はすべて解体撤去したので、残っているのは家の前にある200平米ほどの小さな畑だけである。
前日に長く伸びたブドウの新梢を摘心したり、副梢と呼ばれる脇芽を切ったりして最低限の管理は済ませた。
今日はブドウの葉や枝に農薬がまんべんなくかかるように噴霧器を操作しながら畑を順に回ればいいだけだ。
ところが作業を開始してすぐにゴーグルが曇ってブドウの枝がよく見えなくなる。
さらに空気を通さない安物の雨合羽はものすごく暑く、全身から汗が吹き出してくるのがわかる。
それでも頑張って農薬散布を続けていると、次第に息苦しくなりフラフラして気分が悪くなり始めた。
これは、ヤバい!
熱中症かもしれない。
そう思って噴霧器のタンクをその場に置いたまま、一旦家に逃げ帰り、板の間にゴロリと身を横たえた。
激しく息が切れる。
あのまま続けていたら畑で倒れていたかもしれない。
しばらく横になっていたら少し体調が落ち着いてきたので、扇風機を出してきてそれで体を冷やすことにした。
涼しい。
扇風機の風が汗を冷やし実に気持ちがいい。
15分ほどそうやって体を休めようやく落ち着いてきたので再び畑に行って農薬散布を再開した。
どうもこの高性能マスクが問題だ。
息ができなくて酸欠状態になっているようである。
それでも農薬が体にかかるのは嫌なので、マスクだけ通常の不織布マスクに変えて作業を始めると、長靴の中がチャポチャポし始めた。
下半身から出た汗が雨合羽によって発散を止められ、雨合羽の内部を伝うように長靴へと流れ込んでいるのだ。
上半身の汗もTシャツで吸収できる量をはるかに超えて、ゴム手袋の中に流れ込んでどんどん溜まっていく。
これは減量に苦しむ力石徹のようだと思う。

農薬散布が終わって履いていた長靴を脱いで逆さにすると、ジャーと相当量の水が流れ出した。
手袋を外すと、雨合羽の袖からも汗がポタポタとしたたり落ち、手袋の中からも水が流れ落ちた。
これはちょっと衝撃的な面白い経験だった。
これだけの水分が、短時間の間に私の体から流出したということなのである。
ある意味では、夏の農薬散布はダイエットにとてもいいと言えるかもしれない。

後片付けもそこそこに風呂場に飛び込みシャワーで汗を洗い流す。
ああ、生き返った。
テレビをつけるとちょうどメジャーリーグ中継が始まったところだった。
今日は大谷翔平が先発するマリナーズ戦。
投手大谷は3点を奪われて勝ち投手の権利を逃し、打者大谷も3安打を放つもまたもや惜しいところでサイクルヒットを逃した。
それでもエンゼルスは5連勝。
朝の農作業の後、大谷の試合を見るのも一つの習慣になりつつある。
今日の農薬散布で今月やるべき作業も峠を越えた。
あとはのんびり、遊びや旅行も交えて作物の成長を見守ればいい。
6月は大変ではないがトマトやキュウリの世話が毎日ちょこちょこあるので、もうしばらくは岡山に滞在することになりそうである。