岡山に帰省するたび、母のマンションを訪ねてからどこかのお店で昼ごはんを食べるのがこのところの定番となっている。
もう直ぐ91歳になる母は、ほとんど外出もせず一人暮らしを続けているが、たまの外食を楽しみにしてくれているようだ。
「何か食べたいものはない?」と聞いてもいつも「ない」と答え、「あんたの食べたいものでいいよ」と言うのが口癖である。
さて、今度はどこに連れて行こうか?
ネットでいろいろ調べて、選んだお店は老舗の天ぷら専門店だった。

繁華街からは少し離れた人通りの少ない道沿い。
マンションの1階にひっそりとその店はあった。
「天麩羅たかはし」
創業70年の老舗で、現在の店主が3代目だという。
入り口には「予約のみ」という札が掲げられていて、中学生未満は入店お断りというちょっと敷居が高そうなお店である。

この日は冷たい雨が降ったり止んだりのあいにくの天気だったからか、カウンター席には「御予約席」の札が置いてあるものの、客は一人もいなかった。
店のホームページを拝見すると、なんとあの世界的なグルメガイド「ミシュラン」や「ゴーミョー」に掲載されているという岡山でも稀有な有名店らしいが、これは一体どうしたことだろう?
お料理は昼も夜もコースのみ。
昼は2種類のコースが用意されているが、電話で予約する際に、90歳のおばあさんを連れて行くので少なめの「華」コースでとお願いしておいた。
値段は3300円、案外良心的である。

テーブルの上には、春の七草が描かれた紙が敷かれていた。
お店の内装は何度かリフォームしたということで端正でモダンな印象だ。
客は私たちだけだったので、席につくとすぐに店主が天ぷらを揚げ始めた。
『四季の旬素材の滋味を活かす 薬膳天ぷら』がお店のコンセプトらしく、ホームページには素材ごとに効能などが細かく記されていた。

まず最初に登場したのは、エビとホタテ。
「活き車えび初揚げ」は、沖縄産などの生きた車エビを使っていて、「塩でどうぞ」と言われる。
『腎の働きを高める補陽食材で 脳機能や骨成長に有効だとされています。また身体を温め血行を良くし、スタミナをつける強壮効果があります。有効成分「アスタキサンチン」優れた抗酸化作用で老化予防 食欲を増進させる事で 気を補います。』
また、「北海ほたて旬魚揚げ」は、北海道小樽産のホタテを厳選しているそうだ。
『腎の働きを養う鹹味食材であり、水分代謝を補う滋陰食材でもあります。腎機能は生命力の根源であり、水分代謝さえも司るのです。寒い季節には能力が低下するので、血液も水分も共に積極的に補う必要があります。「ビタミンB2」が有効成分で、脂質や炭水化物等を効率的にエネルギー変換する為、カロリー制限時のタンパク質の摂取に効果的です。』
いろいろ蘊蓄がありそうだが、どちらも本当に新鮮で美味しい天ぷらである。

続いては、「胡麻豆腐揚げ出し」。
香り高い 高野山の胡麻豆腐を取り寄せて、それを素揚げして、ハマグリの出汁を葛で溶いた餡でいただくこだわりの一品だという。
『内臓全体を潤す作用があり 身体の調子を整える事で更年期障害や老化予防に有効だとされています。「セサミン」が有効成分で、血流を改善し心臓の働きを助ける他に 便秘を改善し動脈硬化を予防する効果が期待されています。』
永平寺でも胡麻豆腐を食べてきたばかりだが、この店の胡麻豆腐は全然違う。
味が濃厚で永平寺で食べたものより確かに美味しい。

続いて出てきたのは、「菊芋磯部揚げ」。
岡山の笠岡で採れた菊芋を、表面はカリカリ、中はホクホクに仕上げた天ぷらだ。
微かに味がついていてそのままでも食べられるが、天つゆにつけていただく。
『元々は ダイエット食材としてブレイクした菊芋ですが、現在では免疫力が驚異的に向上する食材としてコロナ社会で効果が期待されています。主成分はイヌリン、亜鉛、セレン、ポリフェノール等ですが、中でも多糖類イヌリンと呼ばれる「水溶性繊維質」が豊富であり、糖質やコレステロールの血中吸収を穏やかにしてくれ、腸内の余剰糖質を排出する事で 血糖値を下げ、腎機能の悪化を防止するとされています。また腸では善玉菌のエサとなり 排便のサポートをもしてくれます。』
1人2個出されたが、母が1個でいいというので、エビと菊芋を母の分までいただき、もうかなりお腹いっぱいになってくる。

次に登場したのはなんとハマグリの天ぷら。
「はまぐり包み揚げ」は、千葉・九十九里産のハマグリを殻のまま揚げるという珍しいもので、私は初めてお目にかかった。
『腎の働きを高める作用があり 身体に溜まった毒素を排出する事で むくみや のぼせを緩和するのに有効だとされています。「タウリン」が有効成分で、コレステロール値を下げる作用があり 生活習慣病予防のほか冷え性や便秘を改善する効果が期待されています。』
ちょっと天ぷらの概念を変える一品で、ハマグリはジューシーで独特の旨みが楽しめる。

もうそろそろお腹いっぱいと思い始めた時、「これが最後の天ぷらです」と声がかかる。
出てきたのは、「穴子南蛮揚げ」。
淡路島沖で釣れる「根付き」と呼ばれるアナゴを使い、カラッと揚がって実に美味しい。
『温性の性質を持つ穴子は胃腸を温め 血の巡りを良くする事で、下半身のむくみや目の疲れや肩こりに有効だとされています。「ビタミンAとE」が有効成分で、ビタミンEはレバーの6倍 ビタミンAは他魚の100倍も含まれ DHA EPAも豊富。抗酸化作用効果が期待されます。』

同時に提供されたのが、「早生そらまめ香り揚げ」と「小梅甘露留揚げ」。
梅やそら豆の天ぷらというのも食べたことがない。
鹿児島・指宿産のそら豆を使った天ぷらは、『脾と胃の働きを高め 胃に溜まった湿気を取ります。食欲不振や胃もたれを解消し、むくみを取る効果』があり、和歌山産の小梅を使った天ぷらは、『酸味が唾液の分泌を活性化し 発汗による喉の渇きを潤し、整腸作用で消化吸収を促進させる事で肉体疲労に効果的に作用』があるという。
そら豆の方は見た目通りの味と食感だが、小梅の方は甘酸っぱく漬け込んだものを使用していて、予想外の味が口の中に広がった。

最後に、ご飯の味噌汁、香の物、さらにデザートが出る。
ご飯も味噌汁もとても吟味された美味しさがある。
この厳選されたこだわりの天ぷらコースが3300円というのは、東京ではとても考えられない料金設定だと感じる。
今回は母が一緒だったので、少なめのコースを選んだが、お昼のメインコースとなる「旬」コースでも5500円、夜のコースも5500円〜1万1000円とリーズナブルである。
長い伝統とこだわりが詰まったお店ではあるが、当初想像したような敷居の高さは全くなく、ちょっと贅沢したい時に利用できる隠れ家のようなお店である。
食べログ評価3.53、私の評価は3.70。
「天麩羅たかはし」 電話:086-223-8452 営業時間:[月~土]12:00~13:30/18:00~21:00 [祝]18:00~21:00 定休日:日曜 https://www.tenpura-takahashi.com/