前回マカオに行ったのは、1987年のことだった。
この年の4月、ポルトガルと中国がマカオ返還の共同声明に署名した。当時バンコク支局勤務だった私は、早速マカオに飛んだ。日本ではさほど大きなニュースではなかったが、この機会を逃すとマカオ取材の大義を見つけるのは至難の技だと思った。

当時、私が撮った写真を古いアルバムから取り出しスキャンしてみた。
狭い入り江を挟んで街と島が向き合う。高いビルはほとんどない。

マカオのシンボル「聖ポール天主堂跡」。
1582年、ポルトガル人の手によって建てられた。
マカオには香港から水中翼船に乗って行ったのだが、イギリスが支配する香港の活気と比べ、ポルトガル領だったマカオは人も少なく時が止まったような印象を受けた。

街全体を退廃が支配していた。
昼間から男たちは木陰にたむろし所在無げに時間を過ごしている。
それでもこの街の静けさは心地よかった。

そんな死んだような街も、夜になると煌びやかなカジノのネオンと共に一気に活気づいた。
その中心が、「葡京娯楽場 カジノ・リスボア」だった。
「リスボア」はマカオで最初でできた老舗カジノであり、その経営者スタンレー・ホー氏は40年に渡ってカジノの経営権を独占し「マカオのカジノ王」と呼ばれた。
昼間の取材を終え、寝る間を惜しんで私はこのカジノで夜通し過ごした。そこは、映画などで見ていた優雅な欧米のカジノとは全く違っていた。ドレスコードもなく、ヨレヨレの札束を握りしめた中国人たちが目を充血させながらディーラーたちと真剣勝負していた。
映画「ディア・ハンター」の登場するロシアンルーレットの賭博場のような異様な熱気が漂っていたリスボアのカジノ。私はその熱気に魅了された。
このリスボアのカジノこそが、30年前のマカオの記憶だった。マカオの記憶はどこの国の印象とも違う。退廃した熱狂の記憶である。

今回30数年ぶりにマカオを訪れるにあたり、迷わず「ホテル・リスボア」を予約した。
手前が私が訪れた1980年代そのままの姿を残す「ホテル・リスボア」本館。
その奥にそびえ立つ金ピカのビルが2008年にオープンした52階建ての別館「グランド・リスボア」だ。

ロビーに入ると、ちょっとダサいクリスマスツリーが飾られていた。
ホテルの開業は1970年代。それだけにインテリアは歴史を感じさせる。

決しておしゃれとは言えないが、ロビー天井のシャンデリアや大航海時代を描いた天井画など私の心に今も残る古き良きマカオの風情をしっかりと残しているのは、個人的に嬉しかった。

部屋もクラシックだ。
大きなベッド、重厚な印象の絨毯や家具の数々。年代は感じさせるが、掃除はきちんとされていてカビ臭い匂いもない。

さほど広くはないが、カジノにありがちなケバケバしさはない。
シンプルな内装に好感を持つ。落ち着いた、いい部屋だ。

中でも、この寄木細工のデスクは素敵だ。
こんな机に座って原稿を書けば、ちょっと非日常的な文章が書けるかもしれない。

バスルームもすごい。
こちらは最近リフォームされたもののようだ。真新しいバスタブとトイレ、そしれモダンなガラス張りの洗面台が据え付けれらている。
しかし一番目立つのは、床のタイル細工。渦巻きの文様にはどんな意味が込められているのだろう?

そして、カーテンを開け、窓の外を覗く。
カジノの屋根にネオンがともる。これからマカオの一番煌びやかな時間が始まる。
グランド・リスボアのド派手な高層ビルも、建物の陰に半分だけ見えていた。

Wi-fiに接続して妻に到着の連絡などをして外に出ると、すっかり日が暮れていた。
ホテル・リスボアは決して趣味が良いとは言えない派手なネオンで光り輝いていた。いや、ネオンではない。これはLEDの光だ。

正面玄関から少しグランド・リスボア側に回ると、あった!!
「カジノ・リスボア」だ。
30年前私が夜通し入り浸った時と少しデザインは変わったようだが、相変わらず人間の射幸心を煽る魅惑的なエントランスだ。

1泊2日の短いマカオ滞在だったが、ホテル・リスボアに宿を取ったことで時間を最大限活用できた。
夜のマカオ旧市街を歩き、カジノを覗き、翌日には博物館を訪ねて、巨大カジノホテルが立ち並ぶマカオの新名所コタイ地区にも足を伸ばした。
どこに行くにもホテル・リスボアは最高の立地だった。
年末料金で1泊19618円は決して高くない。レトロが嫌ではなければ絶対にオススメのホテルだ。
Booking.comの取り扱いなし、私の評価は9.3。(参考:Expedia評価4.2)

ついでにお隣の「グランド・リスボア」にも、入ってみた。
ここはマカオ半島側のシンボル的な大型カジノだ。

中に入ると、金色のロビーが広がる。
ロビー入ってすぐカジノの入口となっていて、2人の男が客のチェックをしている。
カジノの中は一切撮影禁止。バレるとちょっと厄介なことになると30年前にも脅されたので、ここは大人しく眺めるだけにして、エスカレーターで上に上がることにした。
2階もカジノ、3階もカジノ、4階もカジノ、5階もカジノだ。
昔に比べて、広く綺麗になっているが、当時のようなギラギラした殺気のようなものが感じられない。客層の違いか、それとも中国人が豊かになったためなのか?

さらにエスカレーターを上がると、飲食店があった。
ここは写真OKのようなので、とりあえずこの店で夕食を食べることにする。
高級中華料理店といった佇まいだが案内板にはコーヒーショップと書いてある。店名は「日夜珈琲室」。英語では「ラウンドザクロック・コーヒーショップ」と言うらしい。

モダンな店内。カジノ内だけに24時間営業だそうだ。
グランド・リスボア内には、フランス料理の巨匠ロビュションの店など三つ星レストランが2つと1つ星レストランが1つあると言うが、こちらのコーヒーショップはそれほど敷居が高くない。

メニューも写真付きなので、利用しやすいお店とも言える。

私が注文したのは、「柱候牛腩」付き「広東𢭐麺」(63パタカ)。
正確にはわからないが、牛バラ肉の煮込みと広東焼きそばといったところか?
味は期待したほどには美味くなかった。
これに「青島ビール」(40パタカ)をつけて、合計113パカタ、約1869円の夕食だった。やはり少し高い。まあ、場所代だから仕方ないか。

食事を済ませて1階に降りる。カジノを出たロビーの奥には、ホテル「グランド・リスボア・マカオ」のロビーがあった。
宿泊料も3倍以上とあって、私が泊まる旧館「ホテル・リスボア」に比べてはるかに豪華な作りだ。

ロビー中央の水槽にはガラスに入ったハスの花が浮かんでいる。

周囲には、精巧な金細工や・・・

翡翠細工など高価そうな工芸品が並び、さながら美術館のようだ。

そしてなぜか、お坊さんの像も・・・?
よく見ると、これも金でできているようだ。

そしてロビーにはこんな模型もあった。
グループがコタイ地区で開発を進める大型カジノ統合型リゾート「グランド・リスボア・パレス」だ。2018年中の完成を予定していたが、開業は今年にずれ込んだという。

マカオのカジノも30年前と比べて大きな変貌を遂げていた。
これも外国資本が入ってきたせいだろう。
昨年日本でもカジノ法が成立したが、安倍政権が目指す統合型リゾートとはどんなものなのか?
それを知るため、翌日私も巨大カジノホテルが林立するコタイ地区を訪ねることにした。
そのお話は、次回の投稿にて・・・。