イタリアでの冬季五輪が終わったと思ったら、今度は野球に釘付けだった。
2023年、ピッチャー大谷翔平が打者マイク・トラウトから三振を奪い、まるで漫画のようなクライマックスで侍ジャパンが3度目の世界一に輝いたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)からはや3年。
連覇を狙う日本は、いぶし銀の名プレーヤーだった井端弘和を監督に据えて、メジャーリーガー大谷翔平、鈴木誠也、吉田正尚に加えて、今年からメジャーでプレイすることになった村上宗隆、岡本和真も召集して、かつてない重量打線で大会に臨んだ。
しかし、回を追うごとに認知度が上がり、トップクラスのメジャーリーガーたちがこぞって参戦した今回のWBCは、これまでとはレベルの違う真の「世界一決定戦」となった。

東京ドームで行われた一次リーグ。
日本の初戦となった3月6日の台湾戦で、その自慢の重量打線が爆発した。
2回大谷がいきなり満塁ホームランで先制すると、吉田、村上もタイムリーヒットで続き、打者一巡して再び打席に立った大谷がまたタイムリーを放ち、この回一挙10点を奪う。
結果は、韓国と並ぶアジアの強豪とみなされていた台湾に対し、13−0の7回コールド勝ち。
格の違いを見せつけた試合だった。

ただ、今回のWBCは地上波での放送が一切なかった。
動画配信の巨人「ネットフリックス」が巨費を投じて日本での独占放送権を主催者であるメジャーリーグ機構から獲得したからだ。
仕方なく、私も開幕直前にネットフリックスに加入した。
私と同じようにWBC目当てにネットフリックスと契約した人は500万人ぐらいいたらしく、契約者数は前月に比べて36%も増えたという。
長年テレビ局で働いた私としては、これほど国民的関心の高いスポーツイベントが無料放送されないことに憤りも感じるけれど、関心が高ければ高いほど有料放送事業者としてはどうしても手に入れたいコンテンツということになり、放送権料が高騰してもはや総合デパートである地上波放送の事業スキームでは有料放送に太刀打ちできない時代となってしまったのだ。
何らかの法整備が行われない限り、今後も見たいスポーツイベントは地上波テレビでは見られないということになりそうである。

続く7日の韓国戦では、鈴木誠也が爆発する。
初回先発の菊池雄星が韓国打線につかまり3点を失ったものの、鈴木が2打席連続のホームラン、さらに大谷、吉田もホームランを放ち、8−6で韓国に打ち勝った。
まさに狙い通りの重量打線の活躍で、WBC第一回からの宿敵韓国を撃破してアメリカ行きの切符をほぼ手中に収めたのだが、その一方で、日本自慢の投手陣が今ひとつピリッとせず、一抹の不安を残した。

8日に行われたオーストラリアとの第3戦には、天皇一家が東京ドームに来られ、野球の国際試合としては実に60年ぶりとなる「天覧試合」となった。
そのせいか、この日自慢の重量打線が沈黙、オーストラリアに先制を許す重苦しい展開となってしまった。
0−1で迎えた7回、その重い空気を打ち破ったのが吉田だった。
2ランホームランで逆転すると、チームもなんとか4−3でオーストラリアに競り勝ち、予選首位通過を確定させる。
しかし、チェコとの最終戦でも格下の相手に対して7回まで無得点に抑えられる始末、前大会で活躍し今回も中軸を任された近藤健介に至っては4試合で12打数ノーヒットと絶不調で、大谷、鈴木、吉田が抜けた打線には大きな不安がつきまとった。

2006年にWBCが始まってからちょうど20年。
この間、日本野球の代名詞といえば「スモールベースボール」だった。
パワーでは叶わないアメリカやラテンの国々と戦うために、日本は投手力と守備力に磨きをかけ、盗塁やバントで少ないチャンスをものにする日本らしい野球で3度の優勝を手にしてきた。
ところが、今大会ではどうも様子が違う。
周東や牧原ら足の速い選手もベンチにはいるが、井端監督は重量打線にこだわり仕掛けることがほとんどない。
投手陣も先発投手ばかりで、リリーフ専門のピッチャーが手薄だった。
そのため、イニング途中での継投が少なく、全体に淡々とした試合展開が続いた。
つまり、見ていてあまり面白くない大味な試合が多かった気がする。

ヒットやホームランが出ると、選手がみんなお茶を点てる「抹茶ポーズ」でチームの一体感を図る決めポーズは今回も見られた。
ただ、ヌートバーがいた前回のような高揚感はなく、見る方もついつい一発に期待してしまう、そんな試合が続いた。
選手が違えば、自ずとチームの形も変わる。
それは仕方のないことだけれど、メジャーでも活躍する大谷や山本由伸といった投打の柱に頼る個人プレーのチームに変わったように感じた。

その点、ライバルチームの方が昔の日本を見るようだった。
たとえば、日本にコールド負けを喫した台湾は、ダブルスチールを何度も成功させるなど闘志を前面に出したスモールベースボールが印象に残る。
オーストラリアにも敗れ後がなくなった台湾が起死回生を賭けて韓国と対戦した試合は実に面白かった。
逆転に次ぐ逆転で試合は延長戦に突入し、延長10回台湾が5−4で韓国に競り勝ち、準々決勝進出に微かな希望をつないだ。

今度は韓国が崖っぷちに立たされる。
マイアミで開催される準々決勝に進出できるのは上位2チームで、日本がすでに首位通過を決める中、1勝2敗となった韓国は、大逆転を狙って2勝1敗のオーストラリアとの最終戦に臨んだ。
韓国が準々決勝に進むための条件は、オーストラリアを2点以内に抑え5点以上の差をつけて勝利すること。
パワーのあるオーストラリアに対して極めて厳しい条件である。
しかし、韓国は序盤から試合を有利に進め4点のリードを奪う。
ここから一進一退の攻防が続き、私もタブレットの画面を食い入るように見つけた。
一旦は5点差をつけた韓国に対し、オーストラリアも反撃し8回を終わって再び4点差に押し戻す。
そして9回、韓国は安賢民の犠牲フライで貴重な1点を挙げ、7−2で粘るオーストラリアを突き放し勝利した。
これでオーストラリア、韓国、台湾が2勝2敗で並んだが、失点率で韓国が辛うじて2位に入り4大会ぶりの準々決勝進出を決めたのである。
WBC第1回大会では日本と何度も対戦し優勝を争った韓国だが、その後は日本と大きく差が広がっていたということらしい。

こうして日本と韓国が一次リーグを突破し、アジアの代表としてアメリカに渡った。
しかし、マイアミで待ち構えていたのは、WBC史上前例のないスター軍団。
メジャーリーグの超一流選手たちが、それぞれの出身国に分かれて「ドリームチーム」を編成していたのだ。

前回日本が決勝で対戦したアメリカは、ヤンキースの主砲ジャッジがキャプテンを務める文字通りのドリームチームだった。
ジャッジの他にも、昨年大谷翔平との熾烈な争いを制して本塁打と打点の2冠に輝いたフィリーズのカイル・シュワーバーやアメリカンリーグの本塁打王マリナーズのカル・ローリー、2度のMVPに輝くフィリーズの主砲ブライス・ハーパーら、文字通りメジャーを代表するビッグネームが名を連ねる。
投手陣も豪華で、両リーグのサイ・ヤング賞投手、タイガースのタリク・スクバルとパイレーツのポール・スキーンズが揃ってアメリカ代表に加わっているのだ。
ジャッジは前回のWBCで、アメリカ主将のトラウトが大谷の前に三振に倒れた瞬間をテレビで見て参戦を決めたという。
野球の母国であるアメリカに優勝トロフィーをもたらすことは彼らにとって至上命題なのである。

そんなアメリカ代表に勝るとも劣らないスター選手を揃えたのがドミニカ共和国。
「銀河軍団」と呼ばれるそのチームは、1番にパドレスのスーパースター、フェルナンド・タティス・ジュニア、2番はダイヤモンドバックスの中軸ケーテル・マルテ、3番は大谷を上回る史上最高額の契約で話題となったメッツのフアン・ソト、4番は昨年のワールドシリーズでドジャースと死闘を演じたブルージェイズの主砲ブラディミール・ゲレーロ・ジュニア、5番はこのチームでキャプテンを務めるパドレスの主砲マニー・マチャド・・・といった信じられないメンバーが並ぶ。
まさにメジャーを代表するスーパースターを揃えた文字通りの最強打線。
これまで日本がトップに君臨してきたWBCでは考えられなかったようなドリームチームが、今大会いくつも誕生したのである。

各地で行われた一次リーグが終わり、準々決勝の組み合わせが決まった。
幸いなことに、日本はアメリカやドミニカとは別の山、決勝までこの2チームとは当たらない。
なぜかといえば、アメリカが一次リーグでイタリアにまさかの敗戦を喫したからだ。
このニュースはまさに世界中を驚かせ、「WBC史上最大の番狂せ」と言われた。

しかし、イタリアはその後メキシコも大差で破って4戦全勝で一次リーグを突破。
一時はアメリカの予選敗退の可能性も囁かれた。
私もにわかにイタリアチームに興味を持ち調べてみると、主力選手のほとんどはアメリカ生まれのメジャーリーガーたちで、イタリアにルーツを持つ選手たちが集まった準アメリカチームだったのである。
なるほど、多民族国家アメリカにはさまざまなルーツを持つ野球選手がいるのだ。
イタリアのほか、カナダやイギリス、イスラエルなどの代表チームにも、アメリカ生まれの有名選手たちが加わっていた。
なるほど、野球はアメリカやカリブ海沿岸と東アジアに限定されたスポーツではあるが、そのルーツに従って選手を分けていくと強いチームがいくつも作れるというわけだ。
これはこれで、面白い発見である。

14日に始まった準々決勝。
マイアミでは、ドミニカが10−0と7回コールドゲームで韓国を圧倒する。
ドミニカは打線だけでなく投手陣も強力で、この日先発したフィリーズのエース、サンチェスの前に韓国打線は5回8奪三振と手も足も出なかった。
リリーフ陣も安定していて、コントロールが悪いラテン系というかつてのイメージは全くない。

一方、同じ日にヒューストンで行われたもう1試合は、アメリカがカナダの5−3で下し、順当に準決勝に駒を進めた。
この日の先発はジャイアンツのエース、ウェブ。
安定したピッチングで、マリナーズの主砲ジョシュ・ネイラーらを擁するカナダ打線を抑え込んだ。
打つ方ではカブスの若手クローアームストロングら下位打線の活躍で勝利したが、ジャッジやシュワーバーら主力には当たりが出ず、当初期待された圧倒的な破壊力は見られなかった。

そしていよいよ日本の登場、15日マイアミで行われた準々決勝の相手はベネズエラだった。
今年初め、アメリカ軍による電撃攻撃を受け、マドゥロ大統領が拘束されたあのベネズエラは、多くのメジャーリーガーを輩出している野球大国としても知られる。
予選ではドミニカに敗れはしたものの、3年連続で首位打者のタイトルを獲得した「安打製造機」ジャイアンツのルイス・アラエスや40本塁打70盗塁という前人未到の記録を打ち立てたブレーブスのロナルド・アクーニャ・ジュニアなど、メジャーでも有数のスター選手を擁する。
アメリカ、ドミニカに比べればまだ勝てる可能性があるとはいえ、いずれにせよ容易な相手ではないと思いながらライブ配信が始まるのを待った。

日本の先発はエース山本由伸。
山本をはじめ投手陣がベネズエラの強力打線をどこまで抑えられるか、それが勝敗の分かれ目だと思っていた。
ところが・・・
先頭打者のアクーニャJr.への2球目、甘く入った球をいきなりホームランを打たれる。
2回にも1点を失い、本調子とは言い難い山本は4回2失点でマウンドを降りた。
思わぬアクシデントもあった。
2塁盗塁を試みた鈴木誠也がスライディングの際に膝を強打し負傷退場してしまったのだ。

それでも見せ場はあった。
1回裏、1点を追う日本は大谷が先頭打者ホームランですぐさま追いつくと、この日不振の近藤に代わって先発出場した阪神の佐藤輝明のタイムリー二塁打で同点、さらに負傷した鈴木に代わって出場した阪神の森下翔太がレフトスタンドに3ランホームランを放ち、5−2と勝ち越しに成功する。
これまで出番のなかった国内組の活躍で序盤で3点差をつけ、これは勝てるかと思った。

ところが、日本自慢の投手陣が踏ん張れない。
5回、山本からマウンドを引き継いだ西武の隅田知一郎が2番ガルシアに2ランを許し1点差に迫られると・・・

続く6回、この回からマウンドに上がった日本ハムのエース伊藤大海が、7番アブレイユに痛恨の3ランホームランを打たれ逆転されてしまう。
伊藤大海といえば、昨年沢村賞も取った日本球界を代表するピッチャーであり、過去の国際大会でも実績を残している実力派だ。
だから、これは采配のミスではなく、日本の実力と見るのが正しいのかもしれない。
過去の大会では、コントロールのいい日本のピッチャーに対し、ラテン系の選手たちは強振してボール球に手を出して空振りしてくれたものだが、今回のベネズエラ選手たちは日本投手の低めの球をことごとく見送って高めの速球に狙いを定めてホームランを放った。
山本由伸もそうだが、低めの球は落ちるスプリットが多く、ストライクゾーンからボールになる球を振らせて三振を取るのだが、それに手を出してくれなくなると俄然攻め手が窮屈になる。
今大会、ベネズエラチームは日本の投手をよく研究して臨んだらしい。

その後、ベネズエラのリリーフ陣の前に日本の重量打線は沈黙。
最後のバッターとなったのは皮肉にも、前回大会で胴上げ投手となった大谷翔平だった。
大谷がショートフライに倒れた瞬間、ベネズエラの選手たちは一斉にベンチを飛び出し歓喜の輪が広がった。
今大会の大谷は、打率.462、3本塁打、7打点、出塁率.611と期待に違わぬ好成績を残しWBCのベストナイン(指名打者)にも選出されたけれど、ドジャースとの約束で投手としては投げることができず、それが前回のWBCと比べて日本チームの弱点となったことは否めない。
しかしそれ以上に、日本らしい「いやらしい攻撃」ができなかったことと投手陣が踏ん張れなかったことが、最大の敗因だったと言えるだろう。
日本の準々決勝敗退は、過去6大会で初めてとなるワースト記録となってしまった。

しかし、それも致し方ないとの思いをさせられたのが、16日に行われたドミニカvsアメリカの試合だった。
文字通り、ドリームチーム同士が激突する夢のような一戦。
まるでオールスターゲームのようなスター選手たちが繰り広げる真剣勝負であり、それはワールドシリーズをも超えるWBCでなければ実現しない世界の野球ファンを魅了する対戦なのである。
ところが、メジャーを代表する強力な打撃陣の対決となったこの試合、大方の予想に反して緊迫した投手戦となった。

この日、アメリカの先発を担ったのはサイ・ヤング賞投手のポール・スキーンズ。
野球の母国アメリカの威信を背負って登板した23歳の若きエースは、2回レイズのスター選手ジュニオール・カミネロに先制のソロホームランを許すものの、その後はドミニカの「銀河軍団」をしっかりと抑え、4回味方の2本のソロホームランに繋げアメリカが2−1と逆転した。
どんなに強打者が揃っていても、超一流のピッチャーを打ち崩すのは簡単ではない。
メジャーでも屈指の投手の証であるサイ・ヤング賞は伊達ではないのだ。
5回途中で降板したスキーンズの後を受けたリリーフ陣も踏ん張った。
全員、メジャーでドミニカ選手と対戦している経験豊富なピッチャーばかりである。
ドミニカの強打者たちの弱点も当然のことながらデータで把握している。

両チームとも、誰がホームランを打っても不思議ない強打者が並ぶ中、5回以降双方の投手陣が踏ん張りスコアボードにはゼロが並んでいく。
四死球はほとんどなく、ドミニカのセンター、マリナーズのフリオ・ロドリゲスがジャッジが放った大飛球を見事ホームランキャッチするなど、バックの盤石な守りで相手に点を許さない。
ヒリヒリするような緊迫した試合。
もう一瞬たりともテレビ画面から目が離せない。
結局、試合はそのまま2−1でアメリカの勝利に終わった。
一発出れば逆転というピンチを何度も切り抜け、世界一奪還を至上命題とするアメリカチームが、優勝候補の筆頭だったドミニカに競り勝ったのだ。
本当に素晴らしい試合、これでこそWBCだと心が震えた。

準決勝のもう1試合は、日本を破ったベネズエラが逆転で今大会旋風を巻き起こしてきたイタリアを下す。
この試合、イタリアは自慢の打線で早々と2点を先制すると、それを先発したフィリーズのエース、アーロン・ノラが守り、中盤までベネズエラは1−2とリードを許す苦しい展開となる。
しかし7回、ベネズエラが誇る上位打線がその実力を見せつけた。
2アウトから、1番アクーニャJr.、2番ガルシア、3番アラエスが連続タイムリーを放ち、4−2と一瞬で逆転して世界有数の攻撃力を見せたのだ。
リードを奪ったベネズエラは、この大会安定感抜群の「勝利の方程式」バザルド(マリナーズ)、マチャド(オリックス)、パレンシア(カブス)を送り出し、イタリア打線を完璧に封じて初の決勝進出を決めた。

こうして決勝の組み合わせは、共に一次リーグを2位で通過したアメリカとベネズエラの顔合わせとなった。
1月に起きた米軍のベネズエラ攻撃を誰もが想起する因縁の決勝戦である。
この試合でまず目についたのは、ベネズエラの先発投手を務めたダイヤモンドバックスのエース、エドゥアルド・ロドリゲスだ。
MLB中継でも大谷との対戦をよく見ていた実力派ピッチャーの前に強打のアメリカ打線は沈黙し、リリーフ陣もこれに続いた。
一方、アメリカの先発を託されたのは昨年メジャーデビューを飾ったばかりのメッツのノーラン・マクリーンだった。
名だたる強打者を揃えた打撃陣に対し、投手陣はやや層が薄い印象があり、ドミニカ戦に登板したスキーンズと共に選ばれたサイ・ヤング賞投手スクーバルは、球団との約束で一次リーグのイギリス戦に登板した後すでに代表チームを離れていた。

総力戦で勝利への執念を見せるベネズエラに対し、まもなく開幕を迎えるMLB優先が目立ったアメリカ。
それを象徴するかのように、3回ベネズエラが犠牲フライで先制すると、5回には日本戦で決勝の3ランを放ったアブレイユのソロホームランでアメリカを突き離す。
重い空気が漂うアメリカベンチが一気に沸き立ったのは8回裏、これまで打撃不振が続いていたハーパーに待望の2ランホームランが生まれた。
このまま一気にアメリカが劇的な逆転優勝を飾るのか?
そう思ったが、続くジャッジ、シュワーバーはあえなく三振、この日アメリカ打線はわずか3安打に抑え込まれたのだ。
大切な決勝戦で、アメリカ国民が期待を託したジャッジは4打数ノーヒット3三振、シュワーバーも3打数3三振に終わった。

同点に追いつかれて迎えた9回表、試合を決めたのはベネズエラの4番エウヘニオ・スアレスだった。
レッズの主砲スアレスは、ノーアウト2塁のチャンスに打席に入ると左中間に値千金のツーベースヒットを放つ。
これで3−2。
9回裏のアメリカの攻撃をベネズエラの守護神ダニエル・パレンシアが三者凡退で退け、これまでベスト4が最高だったベネズエラが悲願だった初の世界一のタイトルを手にしたのだ。
政治状況の善悪はともかく、武力によって最高指導者を拉致される屈辱を味わったベネズエラが、野球の場でアメリカに一矢を報いた優勝であった。
その意味で、今年ベネズエラが優勝したという事実は、日本の敗戦の悔しさを忘れさせ、心からおめでとうと祝福したい気持ちにさせられたのだ。
敗れたアメリカでは、同点に追いついた9回にドミニカ戦で登板した守護神ミラーではなく、ウィットロックをマウンドに送り決勝点を奪われたことに批判があがったが、これもミラーが所属するパドレスからの要求だったという。

6回目と迎えた今回のWBC。
これで優勝経験国は、日本、アメリカ、ドミニカ、ベネズエラの4カ国となった。
メジャーの主力選手が自ら望んで出場するようになった世界一決定戦は、ますますレベルが上がり、日本にとって難しい大会になったという印象を持った。
しかし、客観的に見れば、日本もまだ辛うじて世界の4強の中に入っていると思う。
パワーでは叶わない本場の国々と互角に戦うためには、日本はさらに投手力の充実を図り、日本らしい緻密な野球を磨いていくほかはない。
メジャーの主力選手が出場しなかった時代の「過去の栄光」にいつまでもすがるのではなく、未来に向けて世界を魅了するチームづくりを進めてもらいたい。
手に汗を握る数々の名勝負を目の当たりにして、侍ジャパンの進化を望まずにはいられなかった。